来た時とは全く別のルートを回ったため、先ほどより時間は掛かったがようやく合流地点へとたどり着く。恐らく追手も撒けたであろう…。 「もうこんだけ関わっちまったんだから、そろそろ詳細を教えてくれてもいいだろ。あのモーゲン博士という男とお前との関係は? 人造勇者どもが必死になって探す物とは何だ?」 汗ばむため覆面を脱ぎながら、俺はメトリに問い質す。 「モーゲン博士は今回の件の依頼人であり、私の父の古い友人でもある。優れた魔導工学の権威でもあった彼は事変以前はヒジンドー機関に所属し研究を重ねていた。その最たるものがこれだ…」 メトリは背負っていたリュックから柄と鍔だけが残る剣の残骸を出した。 「彼は鍛冶屋でもやっていたのか?」 予想外のアイテムに俺は煙に巻かれたような気分になった。 「すまない説明が足りなかったようだな。正確にはその剣の刀身を使った魔術刻印の装置だ」 「人造勇者たちにはこの剣の刀身を砕いた欠片に術式を刻み込んだチップが埋め込まれている。その力によって人造勇者たちには、あの漆號の肉体のような超常的なスキルが備わっている。この方式を考え出したのがモーゲン博士と言うわけだ」 刃の無くなった剣を持ちながら、俺は素朴な疑問をメトリに問う。 「そんな重要人物が何で逃げ出すようなことになったんだ? それに刀身のないコイツはもう使い道なんてないのに何で追いかけてくるんだ?」 「茎の部分がまだ残っているだろ。アイツらに言わせるともう2~3人分ぐらいはそれで作れるらしい。それに博士が逃げ出したのは開発者技術者の一斉処分が始まったからだ」 「一体何のためにそんなことを…?」 優れた技術者研究者というのは仮に今の現場で必要はなくとも別の現場で役に立つことは多い。 優秀な頭脳を失うということは単純労働力が10人100人減るよりも損失なのだ。 「アホどもの考えることはよく分からん。ただモーゲン博士は当時主流であった大尉派ではなく先の指導者であった中佐派であった。それだけでも処分する理由となるのであろう」 「しかし博士も馬鹿ではない。拘束される前に真っ先に逃げ出したのだが、コイツを置き去りにしたのが気になり、私に取り返してくれるよう依頼したわけだ」 「そんなめんどくさいアイテムだったら、いっそ完全に破壊しちまった方がいいんじゃないか」 メトリが俺から剣の柄を取り返すとこうつぶやいた。 「私もそう思うが博士が言うには、この剣の残骸はやつらが行おうとしている『廻天計画』を打破する鍵なんだそうだ」 「廻天計画?何だ一体それは?」 「私もよくは知らん。例の星骸炉を使ってこの星の管理権を得るそうだ。それを使ってエビルソードや魔王モラレルに一糸報いてくれるというのなら見過ごすのも考えなくもないが、いかんせんその着地点が不明だ…」 「何にせよ元仲間をあんな風に扱うイカレ連中に渡していい力ではない。君もそう思うだろ」 メトリの言葉に俺は頷いて答えた。    *   *   *   *   * 俺たちのやって来た太い配管から何かが近づく音がする。最初はライトが来たのかと思ったが何やら気配が全く違う。警戒しながら様子を見る、すると配管から出て来たのは3体の獣人であった。 先頭を走っていた犬型獣人が俺に飛び掛かる。撒いたつもりだったのに追いかけてこれたのは俺たちの臭いを辿って来ていたのか…。 俺は強化した手刀を犬型獣人の喉笛に突き刺す。このまま一気に首を掻っ切るつもりが、一緒にやってきた2陣3陣の獣人に邪魔をされ取り逃がす。第2陣でやって来た鼠型獣人はとてもすばしっこく、第3陣の両生類型獣人は下水道に飛び込み俺たちの状況を虎視眈々と観察している。そうこうしている間に犬型獣人のケガがとりあえず動けるぐらいまでに回復する。 メトリは鼠型獣人をマシンガンで狙うも素早い動きで避けられる。まずはとにかく数を減らすか!と俺は負傷持ちの犬型獣人を強化した手刀で切り裂く。だがその瞬間、俺の背後からメトリの悲鳴が聞こえる。双方の相手に集中している隙を見て両生類型獣人が下水道に引き釣りこんだのであった。 「メトリ!」 俺が注意を下水道の方向に取られると鼠型獣人が俺の首を噛み切ろうと飛びついてくる。油断はしたがこんな奴に殺られるわけにはいかない! 噛みつこうとする口を強引に引き剥がすとそのまま顔面を壁に何度も叩きつける。すっかりグロッキーになった獣人の首を俺は手刀で跳ね飛ばす。 俺は下水道の方へと向き直す。さっきから何の動きもないがメトリは果たして無事なのか? ここは飛び込まざるを得ないんだろうけど、汚ったねぇし正直飛び込みたくねぇな…。そんなことを思っていると水中から大きな水しぶきが上がる。 「にょわ~☆」 水しぶきの中からメトリの体が打ち上げられる。俺はそれを追いかけてキャッチする。 「おい!メトリ!大丈夫か?」 「大丈夫だ。汚水を被って非常に不快だが、防水加工はちゃんと施してあるから安心しろ」 「そんな減らず口が叩けるなら本当に大丈夫なようだな…」 俺は再度下水道の水面を見つめる。すると再び大きな水しぶきが上がる。その中には組み合う二体の獣人がいたのであった。 一体は俺たちを追ってきた両生類型獣人、そしてもう一体は3m近い巨体の白い鰐型獣人であった。 「スヮり~んボム☆」 白い鰐型獣人が両生類型獣人の体を抱え込みジャンピングパワーボムの体勢で叩きつける。これだけの巨体のリーチ差でさらにジャンプまで加えているのだ、両生類型獣人の頭部は当たり前のように割れ絶命した。 獣人が俺たちの元に近づいてくる。果たしてコイツは敵なのか味方なのか? 「大丈夫だったにぃ☆」 獣人は警戒していたのが拍子抜けするぐらいに呑気な第一声をかけてきた。    *   *   *   *   * 白い鰐型獣人に助けてくれた礼を言う。ここから彼女について色々質問したのだがしゃべり方が独特な上、分かりにくいフレーズも混じるので要約をすると。 メトリを引き釣り込んだ両生類型獣人に彼女を離せと言ったが抵抗してきたので始末したとのこと。 人造勇者やヒジンドー機関に関しては全く知らない様子だったので敵とは違うと判断した。 またバルロスにいる理由を問うと、現在住んでいるサカエトルの下水道に自分と似たような獣人たちが現れいざこざも起きていたので事情を聞くと、皆バルロスから流れ着いて来た者というので状況を確認するためにやって来たんだとか。 よくここまでたどり着いたなと感心すると「下水道と河を辿れば世界中どこでも行けるにぃ☆」だとか。すげーな下水道。 倒した3体の獣人の遺体を並べる。それを見ながら白い鰐型獣人がふとこぼす。 「何かこの子たちまるでカンラークのお仲間みたいだにぃ☆」 確かにこの地に来てから戦った獣人どもには俺自身も若干の違和感を感じていた。ケモ度という言葉もあるように、獣人の姿とは段階が異なるにせよ動物・魔獣が人間の姿を得るまでの進化の途中過程のような自然な流れの姿を取っている。 だがこの地の獣人はそれとは異なる姿をしている。それはまるで人と獣のパーツがパッチワークのように混じり合う歪な姿。かつて邪竜教団によって融合手術をされ半端に竜化したライトの姿がよく似ていた。 「ちょっと待て?! それはどういう意味だ」 ここから先、彼女が語る話は俺も絶句する内容であった…。 カンラークの都にはかつて天使像という忌器があり、教会はそれを使って合成獣人と呼ばれる存在を何体も作っていたのであった。 そしてこの白い鰐型獣人ことスヮリゲーターもその一人であると。 「でもスヮリの場合は無理矢理でも嫌々でもなかったにぃ☆」 彼女曰く合成獣人となるのは主に身分の低い修道女たちで、獣人となり強力な力を得ることで聖女たちの護衛や身の回りを世話をする護衛女官の地位を得るためだとか。 俺自身もその存在は知っていたが彼女たちは獣人の身でありながらも同じ神を信仰する敬虔な教徒であり、その力を存分に奮える特別職だと聞かされていた。 つまり教会の連中は忌器を使うというやましい行いをしていた上に、俺たちを騙していたということになる。 彼女の場合は自分を育ててくれた孤児院への仕送りを増やすために、実入りのいい職へ就くための志願であったという。 その甲斐あって彼女は聖女の一人であるカプナーマ様の御付きとなり、あのカンラーク事件の際は偶然サカエトルへ派遣されていたため難を逃れていた。 「カプナーマ様はとても優しくて好きだったけど、スヮリはもう気力が無くなっちゃったんだにぃ…」 カンラーク事件によって仕送りを送っていた孤児院の人々は皆死に、さらにサカエトルでは獣人への偏見もあったため彼女は護衛女官としてのモチベーションを大いに失って行った。 そして退職願をカプナーマ様に渡すと彼女は文字通りサカエトルの地下へと潜っていった。とまぁこれがスヮリゲーターの辿った人生である。 さらに彼女からは合成獣人に関して、こんな情報も教えてくれた。 「そういえば合成獣人にはスヮリみたいな下っ端だけじゃなくて聖女様の獣人もいたにぃ☆ あの人たちも力が弱いと色々嫌~な思いするらしいから、変身して強くなるんだって言ってたにぃ☆」 女同士の世界というのはこうも醜く後ろ暗いものなのか…。 マリアン様のような気さくな方やジャンク殿のようなサッパリした気性の方は珍しい部類なのかとしみじみ思うのであった。    *   *   *   *   * 「すみません!お待たせしました! アイツ妙にしぶとくて倒すまでに時間かかっちゃいました…」 息を切らせながらライトが入って来る。すると眼前には俺よりも遥かに背の高い白い鰐型の獣人が見える。 「えぇっと…この方は一体…?」 「はじめましてライトちゃん☆ スヮリゲーターだにぃ☆ 一緒にはぴはぴだよ☆」 こうして俺たちに新たなメンバーが一人加わった。 (続く)