サカエトル王都警察怪文書  サカエトル王都警察、ウァリトヒロイが誇る王都サカエトルの治安維持のために組織された機関である。  クルマに乗る人、ひたすらに反社を狩る人、暗躍している人、ロボなど様々な面々により今日も平安な日常が保たれている。  今日は暗躍してる人とロボのお話。 【アイアンハートレス】前編  サカエトルというよりウァリトヒロイそのものが人口のるつぼと化しており、労働者、技術者、難民などが多くの人種を掛け算して流入してくる。  多種多様な人間の隙間に入り込むように犯罪が跋扈し、警察組織の仕事が増える。  さて、それらと渡り合うために必要なのは確かな情報なのだが、この酒場で昼間からカウンターに腰掛け新聞を斜め読みするこの男に正義という行動理念があるとは思えない。  ダテイワ・クシテル、王都警察の刑事でありながら情報屋としてサカエトルに暗躍する男。  マフィアやギャングとの癒着も噂されている。 「マスター、もう一杯くれよ」  特に弱みを握られているわけではないが、仕込みに店に来てみたらいつもいるので下手に敵に回すのもよろしくないと酒を提供している。  昼間に発生し、開店時間が迫るといつの間にか消えていることも多いので、半ばあきらめつついる。  静かにグラスにロックを用意してダテイワの前に差し出す。 「ありがとよ」  新聞に載っている内容などは実のところ全て頭に入っている。  ここで確認することがあるとすれば公表された情報と自身の持つそれとの齟齬。  表向きそのように発表するしかなかった事情や報道機関に発されている規制レベルだろう。 「まぁこんなもんか…ん?」  今日のところは引き上げようと席を立ったところに通信術式が反応する。  どうやら何者かからの秘密通信のようだ。 「悪いがマスター、ちょっと外してくれ」  自分の店なのに?という顔をしながらマスターが店の奥へ引っ込む。 「はい、もしもし。うちは出前なんぞしてないぜ?」 『やぁダテイワくん。元気にしているかね』 「おやおや、大臣様じゃないですか。一国の要人が悪徳警官のワタクシめにどんな御用で?」  通信先はイーンボウ、ウァリトヒロイの大臣であり、黒い噂は絶えないがそれはそれとして有能な人物である。 『私がキミに連絡することなんて限られているだろう』 「ランチのお誘いですかい?」 『抜かせ。仕事だ』 「そりゃどうも」 『最近、巷を騒がせている機甲強盗は知っているかな?』 「もちろん、存じておりますとも」  機甲強盗事件、所属不明の外骨格を纏った人物が金融機関を強襲し金品を奪い逃走する事件である。 「しかし、あれは…」 『そう、あの犯人と思しき人物は3件目の逃走途中に鎧をパージして姿を消した』 「物取りにしては稚拙でしょう。金品は残りっぱなし、あれじゃまるで」  技術のデモンストレーションのようだ、と。 『我が国を実験場にしている輩いるのは看過できん』 「一人であの立ち回りができるやつですよ。あんなハイパワーなブツをそう何体も用意できるもんですかね?」 『私がキミに調べてほしいところはそこなのだよ、ダテイワくん。  ここ最近、他国より何かが運び込まれているのは確かだ。誰が、どこで、何をしでかしているのか捜査せよ』 「…お代は高くつきますぜ?」 『構わん、情報でも金でもくれてやろう』  あまりに段取り良く進む会話を不信に感じ、少し思案する。 「当方、荒事は得意ではないのですが。アレと遭遇した際の護衛やら装備やらをお願いしても良いですか」 『いや、こちらから支給はできない』 「…それならこちらも考えさせてもらいたい」 『いるじゃないか、キミのところに。最近やってきた娘が』 「それって…あっ」  通信が切れる。  言い値で報酬は出すが拒否権は与えない。  国の機密情報もいくつか握っているが、それのみ対等に立ち回ることはできない。  知っていることを知られている以上、暴露に関係なく力を行使できる権力には抗うより柳のように受けつつ流すことが肝要だ。 「タヌキ親父が…。あのロボット娘に?俺が?なんて頼めばいいんだよ」  ぶつくさ言いながら読み終えた新聞と酒の代金を置いてダテイワは酒場を後にした。  華の王都、どこを見渡しても人、人、人の波である。  オフということでいつもの黒スーツ姿に比べてだいぶラフな出で立ちのサトーといつもの装備のウェトネ。 「今日はどういった任務なんですかサトーさん」 「オフ、今日はオフだよウェトネ。お休みなの」 「調整日ですね」 「そういうんじゃなくてさ、今日は服を買いに来たんだよ」  青と白を基調にしたボディ、桃色の髪と可愛らしい顔立ち。  まさに「警察ゴーレム」を体現したデザインである。  警察官としての職務を遂行するにおいてこれ以上はない。  しかしその威を示す必要がない休日に至ってはあまりに悪目立ちしすぎる。  ウェトネがサカエトル王都警察に配属されてからかなりの月日が経ったがサトーは常々そのことを考えていた。  休みの日に落ち着いてお出かけできればいいのに、と。 「ウェトネスタイルいいんだからさ、おしゃれも楽しんだ方がいいと思うんだ。  せっかくこんな大きな都市に住んでるし、おでかけしないと」 「ふむ…都市迷彩、ということでしょうか」 「…うん、もうそれでいいや。じゃあ出発しよ」  サトーがウェトネを着せ替え人形にしつつ店を回っていく。  しかしながら予算の関係で着たものすべてを購入するわけにもいかない。  冷やかしのようになってしまった店からはこっそり退店する。  結局はスカートは運動性からウェトネが固辞したためパンツルック、キャスケット、オフショルダーあたりで都市迷彩仕様が出来上がった。  気を抜くとすぐデカいサングラスをかけようとするのはいったい何の影響なのか。 「こんなもんかなぁ、どう?」 「運動性に問題はなさそうです。しかしやはりここは大門リスペクトのサングラスを…」 「いやいや、誰よ大門って」  ショッピングの次はグルメ。  晴れ渡った空の元、広場でアイスなどを食べる。 「平穏ですね」 「私たちの頑張りの成果ってね。私はまぁ…大立ち回りするようなタイプじゃないけど」 「組織運営において前線と後方の連携がしっかりとれているのは良いことだと思います」 「はぁ…まぁそうかなぁ」 「それに、サトー先輩はギャン先輩と行動を共にされることも多いです。それなりに前線担当であると考えます」 「そうかなぁ…」 「お似合いだと思いますよ?」 「ちょっと、それはどういう…」 「「!」」    平静を切り裂く爆発音。  警察官二人の意識が仕事の様式に切り替わる。 「あれは!」 「資料で見ました。機甲強盗かと思われます」 「でも、だって…この辺そういうの何もないよ?」  強化外骨格かロボットかゴーレムか、その判別はつかないにせよ女性的な黒いボディラインに鋭い爪を備えた機体である。  これまでは夜の出現であったため不明であった細部が明らかになっている。   「休暇中ですが、標的を確保します。サトーさんは本部に応援の要請を」 「ちょっと!」  肩に手をかけ、勢いよく袈裟に薙ぐ。  マニピュレーターの精密な動きにより衣服を傷つけることなく脱衣、綺麗にたたまれてサトーの腕に納まる。 「いや、器用すぎるよ」  ローラーが地面に食い込みトラクションを生む。  鋼鉄の乙女が弾かれたように標的へ向かっていく。  あらゆる武器がこれを操る者の身体の外延を成すとするならば、様々な技術や魔力を媒介に披露する一撃は他者に叩きこむ意志に他ならない。  昔の人はそのように言った。  悪を討てとの存在理由が彼女を一つの突撃槍たらしめ、その正義の矛先を黒い獣に突き立てた。 「先制攻撃失礼。貴方には3件の強盗行為、破壊行為の容疑がかけられています。大人しくご同行ください」  肩口に一撃を食らったソレは体勢を崩しこそしたが、行動不能なほどのダメージには至っていない。  姿勢を戻し、爪を構えた。 「あくまで抵抗しますか。ならば…腕の二、三本はいただきます!」  体格差は3倍程度、想定6m。  前述したように、それだけでは相手の駆動形態を判別するには至らない。  捕縛のためにはそれをある程度解明する必要があるだろう。  ウェトネが構え、ローラーダッシュで懐に飛び込む。  相手の爪はきりもみで回避、手刀を長く伸びた首パーツに叩きんだ。  姿勢を崩すのみに至る。  後ろに取り付かんと動くことは許されず、敵は踵を軸に高速回転する。  振り払う腕をガードしつつ後ろに飛びのき、緩急をつけての肘鉄を腹部に突き立てる。 「これも外傷以上の効果はなし…」  再度距離を取り黒い機体の全体を視野に収める。  先ほどの攻撃は強化外骨格等の搭乗型を想定してのもの。  この体格差では組み合ったり、組み伏せたりはできない。  ならば狙うとすれば中身、頭のありそうな頸部、身体のありそうな腹部。  鎧通しの一撃は本来であれば装着者、搭乗者を気絶させる威力であった。 「では、遠隔操縦型ですか」  ウェトネの耳が鳴る。   「通信ジャミング展開!」  敵が何かしらの技術によって遠隔操縦をしているのであれば、それを阻害すれば良い。  停止し膝をつく巨躯の頭部に向けて遠心力を乗せた蹴りが迫る。  動かないはずの敵機が急遽起動し、攻撃のみを主眼に動いていたウェトネに掌底が炸裂する。 「なにっ!」  咄嗟に後ろに跳び衝撃を逃すが痛打には変わりない。  ガードした右腕部にダメージ、操作に難あり。  脚部にダメージなし、体格差を補うためのスピードには支障なし。  再度脚部ローラーで加速を試みるが、標的の動きが速い。  距離を詰められたところで長く伸びた首パーツが展開する。  ウェトネの各種センサー類がハレーションを起こす。  「これはセンサージャマー!?…しかしそれでは!」  ウェトネを含むゴーレムは鉄であれ何であれ魔術とセンサー類の塊である。  視界センサー類へのジャミングは彼女にとって目つぶしになる。   しかし、それは敵も同じこと。  先ほどの戦闘で搭乗者はいないことが確認できた。  特殊なタイプであることには違いないが、これは自ら目隠しをするにも等しい。  様々なことが頭をよぎったが、視界が掻き消える中で頭部、腹部などの致命的な部位のガードを固めた。  感覚はない。  バランサーの動きと損傷報告にて自身が何発か受けて転がっていることがわかる。  このままでは完全に破壊されるのも時間の問題か。  損傷報告が止む。  逃走を選んだか、それとも。 「ウェトネを!離せーッ!!」  ウェトネの認識外でサトーが吼える。  黒い機体の関節部に魔弾が命中し、マニピュレーターに異常が発生する。 「三段撃ち!!」  簡易警棒による関節部への衝撃、頭を掴まれていたウェトネが落下し転がっていく。  それをかばう様にサトーが前に立ち、魔弾を撃ちながら後退していく。 「くそっ」  奇襲であればこそ命中したものの後退するための弾幕は装甲に弾かれて効果は薄い。  撤退するにも遮蔽物はなし。 「遅くなって悪いな嬢ちゃん方」  後ろから声がする。  通り抜ける風と共に轟音、敵機が吹き飛ばされる。  聳え立つ赤い肌、角、サングラス、半そでに短パン。 「アカザワ警部補もオフですか…」 「そうだな!嫁さんと子供はそこらでパフェ食ってるぜ!」  ジョージ=アカザワ、人呼んで赤鬼のジョー、休日のパパが推参した。 「アレが機甲強盗ってやつだな。腕が鳴るぜ…装面!」  ジョージが顎のあたりを指で弾くと魔術契約された装甲が展開する。  頭部保護用のアクティブヘルム及び武装、鬼の面を模した兜を纏い、サカエトル王都警察の交通機動隊長が姿を現した。  距離を取った相手を見やり、拳を握って大きく振りかぶる。 「マグネティカ…ファントム!」  ジョージの磁力が相手と自身を引き合わせ、持ち前の腕力で振りぬく。  捕縛の線は一切なしで力任せにぶん殴った形だ。  首元への衝撃でジャマーの効果が切れる。   「オラァ!まだ終わりじゃねえぞこの野郎!!」    転がるターゲットに向かってジョージが威嚇しながら歩いていく。 「頭潰して終わりだなァ!…おい、なんだよ」  握った拳を停止させるジョージ。  ウェトネからの情報共有で敵機は無人機であるとの認識をしていた。  しかし、なぜだ。  目の前に倒れる黒い塊からはオイルなどに交じって赤い液体が漏れ出ている。 「血じゃねえかコレ、中に人いるなら話変わってくるぞオイ」  犯罪者であれど人命優先。  完全破壊には至っていないが、搭乗者が存在するならばこれをモノとして処理することは難しくなる。 「そ…そんなはずはありません」 「気が付いたのウェトネ!」  サトーの腕の中でウェトネが声を上げる。 「しかしよォ…なんだァ!?」  不明機が胴体から煙を上げる。  内部回路が高速回転し、オーバーヒートしているのが外からでもわかる。 「わっとと」  ジョージが飛びのいた瞬間に機体より上がる火柱。  外殻を残して黒いマシンは炭と化した。 「なんだってんだよ…そんな場合じゃねえや」  ウェトネに駆け寄りサトーと声をかける。 「大丈夫かウェトネ!!」「大丈夫ウェトネ!?」 「外傷の割には安定しています」 「とりあえずラボ運ぶぞ。サトーはここを頼む」 「了解です。ウェトネをよろしくお願いします」  どこからか飛んできたジョージの愛車ストライダーに乗り、ウェトネは運ばれていった。  時間は少しさかのぼり、ここは王都警察の証拠物件を収容した備品倉庫。  小さい物であれば鑑識課で預かることもできるが、そこは剣と魔法の世界、無駄にデカい鎧などの物品が当たり前のように存在し、スペースを圧迫していく。  大ぶりな証拠品はここに集められる。 「いや、すまねえなクェスプ。案内までしてもらって」 「表の事件であるならば私も協力を惜しみませんよ」 「へぇへぇ」    クェスプ・ローズ、サカエトル王都警察の鑑識課、残留物から真実を暴くプロフェッショナルである。  倉庫を歩く二人がある場所で立ち止まる。 「こちらです。前回の機甲強盗で現場に残された外殻になります」 「なんというか、ガワだけなら宗教芸術っぽさがあるな」 「過激な新興宗教や国外のそのテのモノを調査してはみましたが、類似性はあるような、ないような」 「デザインで出どころはわからない…か」 「はい、残念ながら」   外殻を眺めながらダテイワが続ける。 「材質はわかってんのか」 「魔導鉄鋼主体のようです」 「あの…エジンナイルか、あのロボット達とは違うのか」  エジンナイル、鋼鉄の勇者を生む星降る砂漠。  ウェトネの生まれ故郷でもある。 「彼女らの装甲とは違いますね。強度ポテンシャルは同じ程度ですが」 「まぁそうなるとバルロスあたり技術大国の絡みなんだろうが…わかんねえ」 「技術を見ればそうなんでしょうが、それに比べて起こしていることがしょうもなさすぎませんか?」 「実戦が目的ならどこか前線に送ればそれでいいだろうよ。…ん?」  ダテイワが機体の顔面を注視する。 「なんです?」 「目がないな」 「前回中身が逃げ出したときに一緒についていったみたいですね」 「おかしくねぇか?内部ポッドがロケットエンジンで飛んで行ったって話じゃねえか。  真っすぐ飛んでいくだけならセンサー類まで丸ごと持ってく必要ないだろ。」 「確かにそうですが…身もふたもない話ですが制御用ポッドと分けることが技術的にできなかったのではないですか」 「そんな感じかねぇ」  クェスプの通信端末が鳴る。 「失礼します」 「あぁ、構わねえよ」  通信を取るクェスプ。 「はい、えぇ。わかった。すぐにそちらに行く。…ダテイワ刑事」 「呼出か。いいぜ、色々アリガトよ」 「機甲強盗です」 「なに?」 「ウェトネが戦闘で中破しました」 「マジかよ。で、奴さんはどうした」 「内部ポッド及びセンサー類を焼き尽くして機能停止。また残されたのは外殻だけ」 「そうなると、だ。センサーの類は技術的に切り離せなかったんじゃなくて、切り離さなかったんだ。  よほど重要か知られたくない中身らしい」 「しかし、それでも裏で糸を引いている連中の目的が今のところ見えません」 「だが、収穫だ。…ほら、いつまでも不良に付き合ってねぇで行った行った」 「それでは」  クェスプが振り返り歩いていく。 「協力するっつったって、肝心の相手がボロボロじゃあな…」  黒い神像を見上げながらダテイワが言った。  ダテイワとクェスプがいた倉庫の隣、交通安全課やその他警察車両の詰める整備ラボ兼車庫。  中破したウェトネが運ばれてきた。 「おやっさん、大丈夫ですかねウェトネ」 「心配し過ぎだぞ。お嬢ちゃんが大丈夫って言ったんだろ。実際手足以外は無事さ」 「頭やられなかったのはサトーの活躍あってですね」 「見かけによらずなかなか気骨のあるやつだよまったく」  ジョージが整備班長と話しながら整備中のウェトネを見守る。 「まぁエジンナイル製の整備機械なんざ、俺の専門外だからな、微調整や磨き上げくらいしかできんわな」 「邪魔するぜ」 「…ダテイワ刑事、ご無沙汰してます」 「やめろよアカザワ。お前の方が俺より階級上だろうに」  いきなり現れたダテイワに敬礼するジョージ。 「先輩後輩の関係はなによりも重要でありまーす!」 「はいはい、ハルノの教育の賜物ってね…で、アレとは話せるのかい班長?」 「…あんま邪魔すんなよ」 「あいよ」  ウェトネの寝台に近づいていくダテイワ。 「聞こえるかロボ娘」 「その声は…ダテイワ・クシテル刑事ですね」 「やだねぇ、なんでもデータベース化されてて」 「お見舞い…ではないようですね」 「俺がメロンでも置いてったところで、お前の直りが早くなるわけないだろ」 「それもそうですね。お聞きになりたいことは?」  パイプ椅子を脇に広げて腰掛ける。 「さっきの戦闘について教えてくれ、特にセンサー関係」 「センサージャマー、電子戦におけるECMはマシンであれば全てにおいて有効なはずです。  ゴーレムやホムンクルスの擬似器官でもそれは変わりません」 「実戦でも結局純生物の兵士で殴り合いになるよな」 「あれは魔術を含めた無線通信でもなく、自身のジャマーをレジストできる強度を持つ特別製ということです」  両者諸々思案する中でウェトネが先に口を開いた。 「お願いをしても良いでしょうか」 「なんだよ?」  ウェトネがかしこまって目を開く。  どうやら視覚センサーの修理が完了したようだ。 「私を先ほどの現場まで連れて行っていただけないでしょうか」 「なに?お前手足ボロボロで動けないじゃねえか」 「これならどうでしょう」    整備システムがウェトネの頭を掴み持ち上げる。  胴体パーツから頭部が抜かれてダテイワの目の前に差し出される。  あまりの出来事に言葉が出ない。 「てめぇ!ダテイワ!何してやがるッ!!!」  整備班長が鬼の形相で降りてきた。 「班長、これは私が自発的に行ったことです。ダテイワ刑事に非はありません」 「あぁッ!?いや、それなら…まぁ…」  ウェトネの冷静な物言いに班長も冷静にならざるを得ない。 「班長…俺今どうなってるんだ…?」  中年が震えながら自身の状況を確認してくる。  機械だと、無機物だと言い聞かせていても実際に頭部だけで稼動されるといつものようにはいかない。  女性の首を抱えた顔色の悪い男。 「…猟奇殺人犯だな」 「うわぁ…」 「行きましょうかダテイワ刑事」  免許もクルマも持たないダテイワの移動手段は基本的に徒歩である。  すれ違うものはみな振り返りその異様について思案をする。  かろうじてウェトネが明るく話しているため「そういうものか」という認識がなされている。  首のついたデュラハンが現場に到着した。 「なっ…なっ…なんですかダテイワ刑事…」 「俺が聞きてえよ」 「お疲れ様です。クェスプ鑑識官」  異常な状況に困惑しつつ、クェスプが情報を共有する。 「概要はキミがダテイワ刑事から聞いた通りだ。というかキミは当事者だな」 「残存マナの動きはいかがでしょうか」 「見ての通り特におかしなところはないよ。転移であちらから現れてこちらへ。通信魔術の残滓もない」 「ひっかかりますね…ダテイワ刑事、私をやつが現れた場所まで」 「お、おう…」  敵機体の発生位置に歩を進める。  ウェトネの目が光る。 「なにしてんだ?」 「クェスプ鑑識官のお仕事を信用していないわけではありません。それでも…」 「それでも?」 「取り逃してしまったのは私の責任だと思いますので、なんとかしたいな、と」 「漠然としてんな」 「自分でもそう思います。…これは」 「何か見つけたか?」 「そこの植栽です。鋭利なもので切断された跡があります。クェスプ鑑識官を呼んでください」 「おう」  機体周辺で神妙な顔をしていたクェスプを呼びつけてきた。 「この植栽が切断されたタイミングは正確にわかりますか?出来れば現場の状態も合わせて教えてください」 「時間が経過しすぎていると難しいが、やってみよう」  残留マナがそのものの姿を映し出す。  植物に宿るマナが見えない何かで切断される。 「これは…なんだ?現場はちょうどアカザワ警部補に蹴り飛ばされたタイミングだ」 「聞きにくい質問なのですが、残留マナ捜査の最高峰とも言えるクェスプ鑑識官でも見落とすような事象はあるのでしょうか」 「情けない話だが反応がか細いと再現が難しくなってしまうね。  この枝を切断した髪の毛より細い糸のような物ならば、これまでの現場検証でも見落としている可能性は高い。」  そう言いながらクェスプは植え込みに手をかざし魔力を込め始めた。 「このっ…ようにっ…魔力を当て続ければ…!それに…!反応して…!何か見える…かも!」  残留マナの再現魔術を空間に投射、そこに別方向から魔力を当てることでそこにある「何か」の像を結ばせようとする試みである。  繊細かつ力みが必要な作業をしていくクェスプ、息が上がってくる。  揺らぎにも似た糸の影が僅かに見える。  それは真っ直ぐに黒い機体付近へと向かっていた。 「でかしたぞクェスプ。有線操縦ってことだな」 「はぁっ…はぁっ…」  ダテイワがクェスプの背中を摩る。 「これをどこまで伸ばせるかわからない以上、操縦席が近くにあるかわかりかねます。  クェスプ鑑識官、犯人グループの車両または操縦ブースのようなものは特定できますか?」 「…範囲も対象も広すぎて厳しいな…申し訳ない」 「そうですか…」 「いや、奴さんが出てきたときに追うのがいい。四度も逃げおおせてるんだ、今度も大丈夫だと思うだろ」 「出現確率はどれほどと見ますか」 「あくまで勘だぜ。確率論ですらない。だがよ、準備はしといた方がいいだろ」  こめかみをつついてダテイワが続ける。 「適任がいるじゃねえか。道ふさぐのが得意で、大体暇で、そのくせ元気だけは有り余ってるのが」 「聞かれたら怒られるぞ。…出現した瞬間にスクランブル、動線を限定して網を張る…か」 「車両相手ならこれである程度絞り込めるはずだ。クェスプ、お前から頼んどいてくれよ」 「なんですと?」 「俺が言うと本音が出る」 「はぁ…わかりました」 「じゃあ頼んだぜ。ありがとよ」  生首を抱えてダテイワが現場に背を向ける。 「あと…もう一ついいか?」 「なんでしょう」  振り返ったダテイワがクェスプに声をかける。 「機体の中枢部に何か残っていたか?」 「何もありません。相当な火力で焼き尽くされたようで燃えカス一つありません。  マナの再現も秘匿術式が濃くて警察の設備では限界ですね」 「…そうか、じゃ、後は任せた」  再度方向転換して歩いて行った。 「しかし、よく記録してるもんだな。植栽の枝までとは恐れ入る。いつもやってんのか?」 「いえ、そのようなことは」 「じゃあまたなんで今回は」 「…楽しかったので」 「?」 「サトー先輩とお買い物したり、おしゃべりしたりする時間がとても楽しかったので、より詳細に記録したいと」 「そうかよ…」  ダテイワの中で認識が改まった。  首を躊躇なく差し出すような、明らかに価値観の違う鉄とセンサーの塊がひどく人間臭く思えた。 「…次は負けません。倒します」 「勘違いしちゃいねえかウェトネ」 「?」  強く火が灯った瞳をするウェトネを制するようにダテイワが語りかける。 「ああいうヤツらを倒すだけなら冒険者ギルドにでも頼めばいい。  S級とは言わねえが凄いのを寄越してくると思うぜ。  じゃあウェトネ。俺たちは警察。守るべきものはなんだ?」 「…市民の生活と安全です」 「アレはまた来る。今度は逃がさない。もう事件が起きないように禍根を断つ。  大門たちだって最後に大爆発するのは決まって敵のアジトだろ。…協力してくれねぇかウェトネ」 「了解しました。具体的には何を」 「次、やつが出現したら可能な限り引き延ばせ。俺がしょっ引くまでな」    往路と比べて復路は口数が少ない。 「身体はすぐ治るのか?」 「調整を含めて明後日には動けるようになるかと」 「わかった。それまでは俺は俺で動くぜ」 「何をお調べに?」 「ジャマーの通じない視界センサーについて、だ」 「アテは?」 「ある。俺の推測が正しければ、アレをモンスターじゃなくて犯罪者として相手出来るはずだ」  普段ならこのような時に不敵な笑みを浮かべていそうなこの男が少しきつい目をしながら思案をつぶやく。  生首を抱えていることにも慣れたのか、淀みなく夜の街を歩いて行った。  後編へ続く