「一年後の部屋」 玄関のドアが勢いよく開く。 「ただいまですわー。」 「おかえりー。」 リビングから返ってきたのは、ダイヤの部屋で昨日から飲んでいた男友達たちの声。 金髪に赤いインナーカラー。 焼けた肌。 オーバーサイズの黒いジャケットに、ショートパンツ。 すっかり東京の夜が似合う姿になっている。 そして、その隣には。 「お腹すいたぁ……。」 キャリーケースではなく、大きなストリートブランドのトートバッグを肩に掛けたルビィが、気だるそうにソファへ倒れ込んだ。 一年前、初めて東京へ来た時の面影はまだ残っている。 けれど、服装は大きく変わっていた。 黒とボルドーを基調にした原宿風の地雷系コーデ。 オーバーサイズのパーカーにプリーツスカート。 厚底シューズ。 首元にはチョーカー。 ピンクだった髪には暗めのカラーが入り、耳元には小さなピアスが揺れている。 「今日も講義だるかったぁ……。」 「レポート終わりましたの?」 「まだ。」 「またですの?」 「来週のルビィに任せる。」 「最低ですわね。」 二人は顔を見合わせて笑った。 テーブルの上にはコンビニ袋。 ダイヤが中を覗く。 「買ってきましたわ。」 「ストロング。」 「あとエナドリ。」 「神。」 ルビィが親指を立てる。 「今日もう脳みそ動かない……。」 「飲めば動きますわ。」 「いや、逆に止まるかも。」 缶を開ける音が重なる。 プシュッ。 「乾杯。」 「乾杯ですわ。」 缶を軽く合わせる。 一年前はビール一口で顔をしかめていたルビィも、今では慣れた様子で一口飲む。 「冷えてるぅ。」 「コンビニ寄って正解でしたわ。」 「ダイヤー。」 リビングの奥から男友達が顔を出す。 「ゲーム終わった?」 「あとちょっとですわ。」 「ルビィちゃんもやる?」 「負けるからやだ。」 「逃げた。」 「逃げましたぁ。」 部屋には男女数人。 ソファや床へ思い思いに座り、ゲームをしたり動画を見たりしている。 誰も気を遣いすぎない。 誰かがコンビニへ行けば、「ついでにこれお願い」と自然に財布が飛び交う。 最初は緊張していたルビィも、今ではすっかりその輪に溶け込んでいた。 「ルビィちゃん。」 女友達が笑う。 「そのネイルかわい。」 「今日やってもらった。」 「めっちゃ似合うじゃん。」 「えへへ。」 ダイヤはポケットから煙草を取り出す。 一本くわえる。 すると隣から手が伸びた。 「一本ちょうだい。」 「また吸いますの?」 「今日だけ。」 「昨日もそう言ってましたわ。」 「今日も今日だけ。」 呆れながら一本差し出す。 ルビィはライターを受け取り、ぎこちない手つきで火をつける。 一年前は激しくむせていた煙も、今ではゆっくり吐き出せるようになっていた。 「慣れましたわね。」 「うん。」 ルビィは少し笑う。 「お姉ちゃんと同じ銘柄にしちゃった。」 「真似しなくてもよろしいのに。」 「だって。」 照れくさそうに肩をすくめる。 「なんか、お揃いっていいじゃん。」 ダイヤは小さく笑って煙を吐いた。 「変なところで甘えん坊ですわね。」 夜も更ける。 ゲームの勝敗に歓声が上がり、誰かがフードデリバリーを注文する。 散らかったテーブル。 空き缶。 ソファには脱ぎっぱなしのパーカー。 ダイヤはその光景を眺めながら苦笑した。 「……ルビィ。」 「ん?」 「一年前、ここへ来た時。」 「この部屋を見て引いておりましたわよね。」 ルビィは少し考えてから笑う。 「あの頃はね。」 「今は?」 「今は……。」 部屋を見回し、友人たちの笑い声に耳を傾ける。 「なんか、落ち着く。」 「実家とは全然違うけど。」 「ここも、もう居場所かなって。」 ダイヤは缶をテーブルへ置いた。 「そうですの。」 少し安心したように微笑む。 「でも。」 ルビィは悪戯っぽく笑う。 「お部屋は、そろそろ片付けよう?」 ダイヤは一瞬黙り込み、散らかった部屋を見回した。 「……。」 「それは。」 「明日のわたくしが頑張りますわ。」 「絶対やらないやつ。」 「まじでそのセリフ、毎週聞いてる。」 友人たちのツッコミに、部屋中が笑いに包まれる。 夜の東京。 ネオンが窓の外で瞬き続ける中、姉妹はそれぞれの缶を掲げ、騒がしい友人たちと他愛ない時間を過ごしていた。