パラレルモン、というデジモンが居る。 別次元のデジタルワールドを自由自在に行き来するという驚異的な固有能力を持ち、移動した先のデジタルワールドを食い荒らして回る凶悪なデジモンだ。 その性質から存在をデジタルハザード級に指定されているパラレルモン。 彼が次の標的とした世界とは……。 ─ 「ん…」 次元と次元を繋ぐ通路のような空間を抜けると、周辺の空気が一気に塗り替わる。 多色の絵の具を空間そのものへとぶちまけたような混沌の景色は一転し、視界に映るのは白を基調としたインテリアで統一された室内だ。 「着いたぞ」 首から提げたデジヴァイスから聞こえるのは、私のパートナーデジモンである『オグドモン』の声。 その声と同時に空間を浮遊していた私の身体は、再び重力によって地面の側へと引っ張られる。 「よっ、と」 デジタルワールドから別なデジタルワールドへの移動、その際に生じる重力の消失と復帰。 もうこの現象にも慣れたものだ、難なく両足から着地した私はまず、周辺を見渡して状況確認を始める。 整えられた白い洋室、ソファ、テーブル、観葉植物、壁に施された装飾…一通りのインテリアは揃っているのにどこか無機質さを感じるのは、きっとこの広い空間に私達以外に誰も居ないからだろう。 「ここが、アカシック・バックドア」 この場所の名は『アカシック・バックドア』次元と次元のハザマに作り出された、とあるデジモンの住処だ。 私の呟きに答えるように、再びデジヴァイスからオグドモンの声が聞こえだす。 「おい、分かっているとは思うが、パラレルモンを始末したらさっさと帰るぞ」 「それはもうここに来るまでに何度も聞いたよ……」 道中で耳が痛くなる程繰り返された言葉を今再び聞かされる。 「何度でも釘を差しておかなければ、お前はいつ目的をほっぽりだしてこの空間の調査を開始する、などと言い出しかねない」 「うぐ」 パラレルモン捜索のついでに他のデジタルワールドやマテリアルワールドから迷い込んだ未知のデジモン達を調べよう。 なんてことを考えていたかと聞かれればまぁ、イエスだ。 「私達の目的はパラレルモンのデリートだ、アカシック・バックドアに呼び寄せられた他の世界など調べている暇はない」 「ぐぐ」 「なによりこの空間は、それを維持しているパラレルモンの消滅と共に消え去る不安定な世界だ、長居するつもりはないぞ」 私は特になにも言い返せず、ただ呻きを上げて押し切られる。 仕方がない、オグドモンの言う通り早速パラレルモンの捜索を始めよう。 「分かったよ…まずはあの扉から調べよう」 この白い部屋は、だだっ広い正方形の空間の四方にそれぞれ大きなドアが存在するというシンプルな、悪く言うなら取って付けた、ような構造をしている。 あるいはパラレルモンが急ごしらえで仕上げた、本当に取って付けた作りなのかも知れない。 この空間ではどちらが北か南か定かではないが、とりあえず私は進行方向を北としてそちらのドアへと向かう。 「…」 カツ、カツ、と静寂の空間に私の足音が響き渡る。 部屋の端から端へと移動する、ごく短い空白の時間。 ちょうどいい、ここで一旦今までの状況を整理しておこう。 今回の目的である、アカシック・バックドアに潜むパラレルモンの捜索と撃破。 事の発端はおよそ1年前にまで遡る。 ─ 初めに違和感に気がついたのはいつだったか。 確か、コキュートスにある元FE(ファイブ・エレメンツ)社研究所からのレポートを読んでいた時だったと思う。 この研究所はあの日のダークエリア上空に座すFE社実験施設『天沼矛』の崩壊とそれによって発生した実験体達の暴動、後にFE社崩壊事変と呼ばれる事件の際宙ぶらりんになった施設を丸ごと私が接収して再建したものだ。 いや。 だった、と言ったほうが正しいだろう。 なにせ、この研究所と彼らFE社との関連を示す情報は一切合切消え去っていたのだから。 私は別にそれらの情報の破棄を命じた覚えはないし、必要もない。 こんなデジタルワールドの最果てにまでFE社の痕跡を求めて訪れる者など、私の知る限り一人も居ないからだ。 それを不審に思った私は即座に研究所に連絡を取った。 が。 ─FE社?マテリアルワールドの製薬会社がどうかしたんですか? 全く話が通じなかった、彼は元FE社の研究員だったのにも関わらずにだ。 その後どれだけ調べてもFE社とこの研究所の関連性は見つけられなかった、それどころかダークエリアの本拠地を初めとしたFE社の秘密研究施設、いわばFE社の暗部と呼ぶべき部分が全て初めから「存在しなかった」事になっていた、今マテリアルワールドにあるFE社はただの巨大製薬企業だ。 そしてCEOも私の知る彼女……『クオン・I・比良坂』ではなく全く知らない人物へとすげ変わり、彼女の行方は一切掴めなかった。 まるでFE社の暗部と共に存在そのものが無かったことにされたように。 そうして方々を調べ尽くした私がたどり着いた結論はこうだ。 これは人々に対する洗脳や情報の改竄なんて規模の話ではない。 過去に遡って存在と事象そのものを書き換える、まさしく時空改変と呼ぶべき現象が引き起こされている、と。 何故私が改変前の記憶を保持しているか、までは分からないが。 …あの日、FE社の崩壊の際に何かが起こったのは間違いない、しかし私にそれを知る由はない。 コキュートスはあくまでもストレージ、デジタルワールドに存在したデータ全てが最後に保存される場所だ。 故に、初めから存在しないものは記録できない。 私は椅子に深く腰掛け、最早どこにも存在しない彼女を想う。 クオン・I・比良坂とは特に交友関係があった訳ではない、私はあくまでも無数にいるFE社への出資者の一人に過ぎない。 だが彼女と直接面識のある者なら誰もが印象に残るはずだ、あの貼り付けたような笑顔は。 仮面のような作り物の笑顔の下に隠されていた彼女の真意と、その目的とはなんだったのか。 今となっては確かめる術はなく。 そこにはただ、巨大な空白のみが残されている。 だが、これはほんの始まりに過ぎなかった。 ここから長い時間をかけて、パラレルモンの侵食はゆっくりと進んでいたのだ。 ─ ドアを抜けると、そこは雪国…などではなく。 辺りに広がるのは巨大なスクランブル交差点と、109の看板が高く掲げられたランドマークの商業施設。 この場所は…… 「渋谷だ」 東京23区の大都市である真昼の渋谷が、私の目の前に広がっていた。 ただし、この渋谷には決定的に不自然な点がある。 「けれど、誰も居ないのはおかしい」 24時間365日、絶えず人々が行き交う都市に人が居ないなど有り得ない。 「これもパラレルモンの作り出した紛い物だろう」 「…そうだね」 オグドモンの言う通りこの場所は私の知るマテリアルワールドの渋谷ではなく、パラレルモンが時空を捻じ曲げて作り出した渋谷の見た目をしただけの『何か』だろう。 ─アカシック・バックドアはパラレルモンが時空をデタラメにつなぎ合わせて作り出した世界、扉を開ける度に全く異なる光景が広がっていくわ。 ─それが本物なのか、偽物なのかという問いはナンセンスね、全てはパラレルモンの作り出した泡沫に過ぎないのだから。 御神楽ミレイの言っていた通りだろう。 私は次の空間へと繋がるドアを探し、誰も居ない渋谷の街を歩き出す。 ─パラレルモンの作り出した空間には、そこがどんな場所だろうと必ず同じデザインの巨大な扉が存在する。 それを目印とすれば自ずとパラレルモンの元へとたどり着く、あるいは疲弊した所を狙ってパラレルモンの方から向かってくる、と彼女は言っていた。 つまり、私たちはハンターであると同時に餌ということだ。 「……あった」 そうして歩き回っているとさほど苦労せず次の扉は見つかった、渋谷駅の自動改札機の一つが丸々白い扉へと置き換わっていたのだ。 私は躊躇せずノブを回し、扉を開け放つ。 扉の向こうは相変わらず白い光に満たされ行く先が見えない、せめて人間が生存できる環境であることを祈ろう。 一体パラレルモンはどこに居るのか、それにアカシック・バックドアにはパラレルモンの標的にされこの空間へと放り込まれたデジモンや人間が彷徨っているとも聞いた。 だが、今のところ私達は誰とも遭遇していない。 先に彼らを探すべきだろうか、パラレルモン討伐のためにも戦力は多いに越したことはない。 そんなことを考えながら、私は扉をくぐり抜けた。 ─ 別次元のデジタルワールド間を自在に渡り歩くという類稀なる能力を持つ正体不明のデジモン、パラレルモン。 移動した先の世界であらゆるデータを喰らい尽くす凶悪性を持ち、普段は観測困難な次元と次元のハザマに自身を超圧縮し隠すことでシステムの監視の目から逃れている、と その危険性から彼の動向に目を光らせているホストコンピューター達は言っていた。 正確には、ホストコンピューター達のエージェントである御神楽ミレイだが。 そんなパラレルモンが何故今、このタイミングで活動を活発化させたのか。 その答えはFE社崩壊の際に引き起こされた時空改変にある。 この現象を起こした者の真意は定かではないが、本来ならばFE社に関連した全ての事象を無かったことにする筈だったのだろう。 だが、実際には私の様に改変される前の記憶を、過去を保持している者達が存在している。 存在しない過去を覚えているという、有り得ない矛盾。 この矛盾が時空そのものに『楔』として穿たれ、その小さな穴はやがて時空に歪みを広げていく。 それを、パラレルモンが嗅ぎつけた。 時空の歪みを起点としてアカシック・バックドアを生成し、長い時間をかけてそれを拡大、ここを拠点としてあらゆるデジタルワールドを移動し始めたのだ。 と、ここまではいい。 別に私が出向くまでもなく、ホストコンピューター達の指示の下で彼らのエージェントがパラレルモンに始末を付けるだろう。 にも関わらず、私とコキュートスのシステムそのものと化したオグドモンが直接殴り込みを仕掛けたのには理由がある。 まず、大前提として。 デジタルワールドには、それぞれデジタルワールドそのものを管理するホストコンピューターが存在している。 代表的なもので言えばイグドラシル、ホメロス、コンロンだ。 各デジタルワールドは彼らの管理の元で運営され、無数のデジモン達が日々生まれて、活動し、そして死んでいく。 デジタルワールドという世界にとって神様の様な存在、それがホストコンピューター達だ。 が、これはあくまでもデジタルワールドというソフトウェアの実行を管理しているに過ぎない。 当たり前だがソフトウェアの実行には、それを演算するためのハードウェアが必要だ。 それが私達人類の知る演算機械の形をしていないとしても、決して変わることはない。 この、デジタルワールドを演算するためのハードウェアの管理をしているのがカーネルという領域だ。 カーネル領域は天使型デジモン達によって運営され、各デジタルワールドへと演算リソースを適切に分配、供給している。 だが、何らかの原因によって演算リソースが不足したデジタルワールドでは、突如として地形の一部が消失したり、空間丸ごとノイズのような正体不明の何かで覆い尽くされる『グリッチ』と呼ばれる現象が引き起こされる。 ……それが今、コキュートス各地で発生しているのだ。 さて、ここで問題だ。 時空に開けられた歪みを起点として拡大を続けるアカシック・バックドア。 この世界を演算するためのリソースは一体どこから捻出されているのか。 カーネルからの返答はこうだ。 ─アカシック・バックドアは、コキュートスからリソースを奪い取っている。 このままアカシック・バックドアの拡大が続けば、演算リソースを奪われたコキュートスは間違いなく崩壊する。 既にコキュートス各地でグリッチが発生している以上、これを看過することは出来ない。 カーネルの返答と、御神楽ミレイからの情報。 これを受けたオグドモンと私は即座に七大魔王達を招集、彼らにコキュートスの留守を任せアカシック・バックドアへと突撃した……。 ここまでの顛末はこんな所だろうか。 ─ 再び扉を抜けると、そこは初めに降り立った時と同じ様な白を基調とした部屋の中だった。 「おや」 だが、先ほどと決定的に違う箇所が一つだけある。 「誰か居るね」 部屋の中央付近に何者かが佇んでいる、ここに来てようやく私達以外の存在に出逢えたようだ。 私は人影の方に向けて歩き出す、どうやら向こうはまだ此方に気がついていないらしく、首を左右に回して周囲を探っている。 その動作の度に腰の辺りまで伸びた長い銀の三つ編みが、尻尾のように揺れる。 服装は黒いショートパンツにゆったりした袖のトップス、その上からは濃い紫色のセーター。 背格好からして中学生くらいの少女だろうか、傍らには幼年期デジモンのクラモンがふわふわと浮かぶ。 恐らく、彼女のパートナーデジモンだろう。 と、接近する私に気がついたのか少女とクラモンがこちらに振り向く。 「ん…?」 黒いアンダーフレームの眼鏡越しに、彼女と私の目が合う。 「君は?」 先に口を開いたのは、彼女達の方だった。 私はそのまま彼女達に歩み寄りながら、とりあえず名を名乗ることにする。 「私は七津真(ななつ まこと)、君たちは?」 彼女はクラモンを胸に抱きかかえ、私の名乗りに応じる。 「私は無量塔聡美(むらた さとみ)、こっちは…」 「クラモンだ」 言葉を引き継ぐように抱えられていたクラモンが答える、この際、クラモンには口が無いなどというマテリアルワールドの生物学に当てはめた疑問はナンセンスだ。 デジモンはそれに準じてなどいない。 「それで、君もパラレルモンのアレを食らって此処に?」 お互い軽い自己紹介を終えたところで、彼女から質問…というよりは確認事項であろうことを聞かれた。 パラレルモンの必殺技である『アブソーベント・バン』これを受けるとアカシック・バックドア内の任意の空間に転移させれてしまう。 様々な世界から人間とデジモン達が迷い込んでいるのはこの技のせいだ。 どうやら私達も迷い込んだ人間だと思われているらしい、勿論違うが今は話を合わせたほうが良いだろう。 この場所からの脱出手段を持っている、と判断されると話が拗れるかも知れない。 「そうだね、突然現れてこう、ズドンと」 アブソーベント・バンがどんな攻撃なのか実際に目にしたことはないので、それっぽく返しておく。 言葉の響きからしてビームとかだろう、多分。 私の答えに納得したのか、彼女は一瞬同情するように視線を下げ、すぐ顔を上げて応じる。 「そうですか……あぁ、私達出口を探しているんです、良かったら君も一緒に」 「待て、サトミ」 私を仲間に引き入れようとする彼女をクラモンが制する、その大きな一つの瞳を怪訝そうに歪めて。 何か警戒されるような言動をしただろうか。 「君が首から提げているのはデジヴァイスだろう、サトミのとは型が違うが」 クラモンの瞳は私の胸元、ストラップから提げたデジヴァイスiCX(アイシー カルマ)へと向けられている。 「君のパートナーデジモンは何処に居る」 「…成る程」 デジヴァイスを所持した、デジモンのパートナーらしき人間にも関わらず私の近くにデジモンが見当たらない。 かつ、ここまではぐれたデジモンを探しているような素振りも無い、それで警戒されたらしい。 「それは…」 「私なら此処だ」 どう答えようかと口を半開きのまま考えていると、今までデジヴァイスの中で沈黙を貫いていたオグドモンが口を開く。 「何故姿を見せない?」 クラモンの疑問は当然だ、だがこちらとしても別にオグドモンの存在を隠していたわけではない。 「簡単なことだ、私の身体はこの空間には収まり切らない」 オグドモンの言う通り、彼の身体はあまりにも大きすぎる。 先程の渋谷のような屋外ならともかく、この部屋で彼が実体化すれば私達は生き埋めだ。 かといって彼の端末である幼い少女の姿を使うと、パラレルモンの奇襲を受け離れ離れにされた時に困る。 よってパラレルモンを補足するまで彼はデジヴァイス内で待機、道中では出来る限り戦闘は避けて進む、という想定だった。 「収まらない?そんな巨大なデジモンが君のパートナーなのか?」 「そうだね、彼はオグドモン、超究極体デジモンだから」 その名を聞いたクラモンは、私へ向けていた細い目を見開く。 「オグド…オグドモン!?」 「オグドモンって、コキュートスに封じられていると噂の?」 「かつて、だけどね、現に私のパートナーとして活動している以上」 私はコキュートスに封じられていたオグドモンの封印を解いたこれまでの出来事をかいつまんで、と呼ぶには過ぎる程度に大幅に端折って説明する。 二人とも静かに耳を傾けていたが、進むに連れクラモンの瞳が再び怪訝そうに細くなる。 やがて私の話を聞き終えた彼女の最初の一言がこうだ。 「へぇ、数カ月の内に凄いことになってるんですね、コキュートス」 「数カ月?」 私達がコキュートスへと降り立ったのはもう5年以上前の事だ、彼女の言葉の意味が理解できない。 「えぇ、私も少し前コキュートスへ行ったんですけど、その時オグドモンの存在は噂話程度のものでしたよ」 「…?」 どういう事だろう、話が噛み合わない。 彼女の言う通りコキュートスへ訪れたのが数ヶ月の間だとすると、その時既にオグドモンはコキュートスのシステムへと昇華している。 そしてオグドモンの存在自体、コキュートスに住む者達にはほぼ周知されている、胡乱な噂話などという扱いは有り得ない。 「そうそう、その時こんなものを拾ったんですよ」 私が口先に指を当て思案していると、ふと彼女が手を宙にかざす。 そして 「えいっ」 短い掛け声と共に、空間から『何か』を引き抜くような動きを見せる。 文字通り虚空から突然現れ、彼女の手の内に収まったそれを見て。 「は」 私は凍りついた。 「どうです?いい剣でしょう?」 肩越しに担がれたその剣には、見覚えがある。 いや、覚えがある、などという程度の話ではない。 二股に別れた刀身に輝く金色の柄、天使と悪魔を表した白と黒の羽根の意匠、そして柄の末端部に施された金星の惑星記号。 私の使うルーチェモンの剣と、全く同じ物を彼女が握っていた。 「貴様、その剣を何処で手に入れた」 この異常事態を前に、私よりも先にオグドモンが反応する。 当たり前だ、ルーチェモンを初めとした七大魔王を象った七本の剣は、彼の力により生成されているのだから。 私が使うもの以外に複製品を生み出すことは勿論可能だし、実際に依頼の報酬として何本か作ったことがある、だがそれを行えば当然記録が残る。 私達の預かり知らない所で生み出された複製品など存在し得ない。 「どこって言われても、コキュートスの……あれどの辺りなんでしょう?」 首を傾げパートナーの方を見る彼女に、クラモンは細めた目で視線を返す。 「サトミ、やはりおかしい、彼女達と話が噛み合わない」 クラモンと私の考えが一致する、その表情を見るに、私の話を聞いていた辺りから違和感を覚えていたようだ。 クラモンはこう続ける。 「デジタルワールドは無数に存在する、けれどコキュートスはたった一つしかない、にも関わらず彼女達の語る出来事と私とサトミの記憶に齟齬が生じている」 「うん、私も同じ意見だ」 「お互いに嘘をついていない前提で考えると、ある推論にたどり着く」 私とクラモンは息を合わせ、同時に続きを口にした。 「「私達は、パラレルモンによって異なる時間軸から呼び寄せられた」」 「君達がコキュートスに行ったのは、多分私達よりずっと前なんじゃあないかな」 恐らく、彼女達がコキュートスを訪れたのは私達よりももっと前の時間だ。 その時オグドモンはロイヤルナイツに施された強固な封印の中、私の持つデジヴァイスを通じてしか外界と接触出来ない状態だった。 オグドモンの存在も、コキュートスに伝わる伝説でしかなかっただろう。 コキュートスに満ちる瘴気の中、どうやって彼女が生き延びたのか定かではないが、今はパートナーデジモンの力によるものと仮定しよう。 「そして、君達は私とサトミよりももっと先の時間軸から来た存在」 と、私とクラモンが納得した表情をする中、デジヴァイスからオグドモンの声が上がる。 「待てマコト、それではその剣に説明が付かない、何故私が封じられている間にそれが存在している」 「む、言われてみれば」 オグドモンが剣を生み出せたのは、私を通じて外界と接触が可能となってからだ、私達がコキュートスへ行く以前に同じ剣を2本以上作り出した覚えはない。 オグドモンが生み出したものではないとすると、残る可能性は剣へと姿を変えた七大魔王達だが、私達の仲間のルーチェモンが単独でコキュートスへ行った記憶はない。 他のデジタルワールドに居る七大魔王だって、オグドモンが居なければ剣の姿にはなれないだろう、多分。 勿論、かつてオグドモンと共にロイヤルナイツと戦った当代の七大魔王達は全てデリートされている、その時に生み出された剣もだ。 では彼女の持つルーチェモンの剣は、一体どこから現れたのか? 存在するはずのないものが私達の目の前に存在している、この矛盾の答えを知るものが居るとしたら。 「……それに関しては、ルーチェモン本人に聞くしかないんじゃあないかな」 持ち主、あるいは剣そのものであるルーチェモン自身以外にないだろう。 私達の知らない所でコキュートスへ行ったのか、別な方法で剣をコキュートスへ送ったのか。 そもそもどうやって剣を生み出した上で、自身は活動を続けているのか。 「いずれにせよこの場で答えは出ないと思うよ、戻ってからルーチェモン本人に聞くしかない」 ルーチェモンをこの場に呼び出してもいいが、十中八九はぐらかされるだろうし、何より。 「えーと、そろそろ話纏まりました?」 手持ち無沙汰そうに剣の柄を指先で撫で回す彼女から催促の声が上がる。 これ以上彼女達を待たせても仕方がない、扉から次の空間へ進もう。 「待たせてごめんね、君達と一緒に行くよ」 私の返答を受けた彼女は、その表情を明るくする。 「良かった、流石にこんな未知の空間を二人だけで探索し続けるのは危険なので」 「うん、よろしくね」 私は右手を差し出し、彼女もそれに応えて軽い握手を交わす、次に横に浮かんだクラモンの手、あるいは足を掴む。 が、デジヴァイスの中の一人はまだ納得いかないようだ。 「待て、私はまだ納得していないぞ、その剣は一体どこから来た」 「…長居する気はない、そう言ったのは君だけど、パラレルモンを放置して答えの出ない議論を続ける?」 私がちょっぴり意趣返しを込めて返すと 「……チッ」 オグドモンは舌打ちを響かせ引き下がった。 一通り話が付いた所で、私達三人は巨大な扉の方へ歩き出す。 「出口、早く見つかると良いんですけど」 私の隣を並んで歩く彼女がそう呟く。 それを聞いて、大事なことを一つ伝え忘れていたのを思い出した。 「あぁ、探すのは出口じゃあなくパラレルモンだよ、この空間に出口は存在しないから」 「え?」 「この空間を生み出したパラレルモンをデリートすれば、支えるものを失った空間は自動的に崩壊する、これは推察ではなく前例がちゃんとある」 これも御神楽ミレイからの情報だ。 「そうすれば内部に連れ去られていた者たちは全て元の世界へと戻される、パラレルモンが強引に捻じ曲げた時空が、引っ張られる様に元の位置に帰るため、とか」 以前パラレルモンが現れた際、彼女の依頼を受けたエージェントがパラレルモンを撃破し、その時に同じ現象が起きた、と。 「何故、君はそんなことを知っている」 と、ここでまたもやクラモンの瞳が私を睨みつける、今度は隣に居る彼女も一緒にだが。 「君、一体何者ですか」 …うん、そろそろ私達の目的を明かしてもいいだろう。 少なくとも、彼女達がこの空間からの脱出を目的としていることは確認できた。 「それについて一つだけ謝罪するよ、私達はここに迷い込んだんじゃあない」 「何?」 クラモンと彼女の瞳が怪しさ半分、驚きが半分と言った開き方に変わる、 「私達は初めから、パラレルモンをデリートしに、自らこのアカシック・バックドアへ入ってきたんだ」 ─ 次の空間へと繋がる扉を大きく開け放ち、私達3人は横並びで先へと踏み込む。 あの後、コキュートスがパラレルモンに脅かされていること、それを食い止めるためにオグドモンと共に来たこと、大罪の門とリンクした私のデジヴァイスを使えばこの場所からの脱出自体は可能であることを説明した。 それとついでに私の持つルーチェモンの剣を呼び出し、彼女の持つ物と一切の違いがないことも確認出来た、やはりこの剣の存在だけは謎だ。 私の話を聞いた彼女達はてっきり脱出を選択すると思っていたのだが。 「いえ、私達もパラレルモンの討伐に向かいます、元々味方や出口を探すついでに見かけたらぶっ飛ばすつもりだったので」 以外にも、彼女達は私達への同行を選んだ。 「頼んでる私が言うのも何だけど、いいの?」 「無関係の人間とデジモン達を拐って好き放題しているような者、放置して帰るつもりはないですね」 と、あっさりと決めてしまった。 扉の先を一歩進む度、身体から重力感が少しずつ消失していく。 最後には身体が宙に浮き、私達3人は前方へと流されるように移動する。 「これは」 この浮遊感にはよく覚えがある。 「この先はネットワーク空間、みたいですね」 「そうだね、正確にはパラレルモンが作り出したそれっぽいだけの空間だろうけど」 やがて白く塗りつぶされた空間に、ぽつぽつと色が混じり始める。 赤、青、緑を始めとしたパステルカラーの幾何学模様と、目まぐるしく移り変わる無数の広告。 予想通りここはマテリアルワールドの、人間の使うネットワーク空間を模した何かだ。 そのまま暫くの間データの流れに身を任せて進んでいると、私達の上方にある者の姿が見えて来た。 「あれは……」 薄い紫を基調とした身体に、ねじれた枝のような細い四肢とそこに繋げられた大きな腕部と脚部、胴体に輝く紫色のデジコア、そして怪しく輝く頭部の単眼。 その者の名は。 ─パラレルモン 究極体 ウイルス種 突然変異型 「パラレルモンッ!」 私よりも先に、パラレルモンと実際に接触した事のある彼女が反応する。 彼女の叫び声に気がついたのか、宙に佇むように浮かんでいたパラレルモンの頭がゆっくりとこちらを向く。 「何故、一体どうしてこんなことを?」 こちらに向き合ったパラレルモンに対し、彼女がその行動の理由を問う。 「…」 だがパラレルモンは彼女の疑問には答えず、その巨大な瞳でただこちらをじっと見つめ返している。 少しの間睨み合いが続いたが 「だんまり決め込むつもりですが、ならもういいです、予定通りぶっ飛ばします」 隣の彼女が剣をパラレルモンへと向けて睨み合いを切り上げる、それと同時。 「『アブソーベント・バン』」 パラレルモンの瞳が強く光り輝き、そこから細長い光条が放たれた。 不意を突いた初撃だ。 「サトミ!」 「分かってます!」 飛来するアブソーベント・バンに対し、私達は防御ではなく散開して回避することを選択する。 当たればどこに飛ばされるか分かったものではないし、この状況で戦力が分断されるなど御免だ。 「なぜ、邪魔をする」 と、初撃を撃ち終わったと同時、パラレルモンがようやく口を開いた。 「邪魔、か」 アカシック・バックドアへ侵入した私達に既に気がついていたのだろうか、この空間を支配する者ならそれも当然のことか。 「随分と当たり前の事を聞きますね、あちこちの世界から人々やデジモンを連れ去るなんて放置する理由ありませんけど」 「抵抗は無意味だ」 私達の返答を全く意に介さず、パラレルモンは言葉を続ける。 「私には未来が見える、運命にあらがうことは誰もできない」 未来が見えると豪語するパラレルモン、だが私達にはそれよりも気になる点があった。 「なんだか話、微妙に噛み合ってないですね」 「そうだね、私達に問いかけているように見えて、その実一方的に喋っているだけだ」 例えるなら、用意されたセリフを読み上げているだけのよう、あるいは録画された映像を見ているような不自然さがある。 「要するに、意思の疎通は不可能って解釈でいいですよね?」 パラレルモンへと剣を突きつけ再び彼女が問う。 が、パラレルモンは先程の言葉を最後に再び口を閉ざしたままだ。 その代わりに。 『エンドレストランス』 パラレルモンが両腕を大きく広げ、胴体のデジコアが強く光り輝き、それに呼応するようにパラレルモン周囲の空間に無数の黒い穴が開いていく。 「…なんですか、あれ」 その中から現れたのは、無数のパラレルモン達だった。 「100、いや1000……ざっと数えるのすら億劫だね」 中央に浮かぶ本体と同じサイズのものから、小さいものなら幼年期デジモンと同じくらいの大きさまで多種多様。 膨大な物量が一瞬にして私達の前に展開していた。 そして一通りパラレルモン達の出現が収まった後、中央に浮かぶ本体の傍らに新たに二つ黒い穴が開く。 そこからゆっくりと浮かび上がるように姿を現した2体のデジモン。 それはパラレルモンではなかった。 片方は、オレンジの体色に青いエネルギーのラインが走る、両腕に真っ赤なクローを装備した燃え上がる竜人。 ─アグモン -勇気の絆- 究極体 属性不明 種族不明 もう片方は、青いメタルの装甲に身を包み周囲に自律型のビットが浮遊する、輝く鋼鉄の獣人。 ─ガブモン -友情の絆- 究極体 属性不明 種族不明 一体どこの世界から連れてきたのやら、アグモンとガブモンの伝説とされる進化体が2体、パラレルモンの隣に並び立っていた。 ─ 目の前に広がる無数のパラレルモン達と、ニ体の伝説のデジモン。 それを前にした私達は、お互いにデジヴァイスを構えて戦闘態勢に移行する。 「行きましょうクラモン、アレ相手に小手調べは不要です」 「あぁ!」 「マトリックスエボリューション!」 彼女の叫びと同時にデジヴァイスが光り輝き、クラモンと彼女の全身を包み込む。 その光の中で二人の姿が解けるように0と1の羅列へと分解され、別な姿へと再構築されていく。 やがて光は収まり、中から一体のデジモンが姿を現した。 全身の体色は半透明の紫、女性のような体型に六本の腕を持つ人型にして異形、そしてその腕の内三本にはルーチェモンの剣が一本、残りのニ本には黒く染まったオメガブレードが二振り握られている。 先ほど情報共有した彼女のデジヴァイスから送られてきたデータによると、この姿の名は。 ─ケラモン -傲慢の絆- 世代不明 属性不明 種族不明 彼女達の融合体が、私の少し前に降り立つ。 データ変換された人間と、デジモンの持つデジコアの融合。 奇しくも彼女達と私達の進化は全く同じ方式で行われている。 何の因果か、運命か。 それは定かではないが、今は味方であることに感謝するとしよう。 では、こちらも始めよう、まずはオグドモン本人の呼び出しだ。 「行こう、オグドモン」 「あぁ、手早く片付けるとしよう」 「オグドモン、大罪顕現(カルマライズ)!」 掲げたデジヴァイスの下部、七つのランプが赤く輝き、内部に格納されていたオグドモンが実体化を始め、間もなく広大なネットワーク空間のほぼ天井付近にまで到達する巨体が姿を現した。 その姿を形容するのは難しい、巨大な口の付いた胴体に、そこから生えた四本が二対、計八本の触手。 胴体の下部からは木の幹のような触手が多数生え、背部には巨大なエネルギーが羽根のように放出されている。 進化前よりも更に形容し難い、異形の超魔王。 その名は。 ─オグドモンX抗体 超究極体 ウイルス種 化身型 「オォォォォォォォッ!」 オグドモンXの顕現と共に、莫大なデータ質量の出現と雄叫びにより空間全体が軋み出す。 それだけで、無数のパラレルモンの内幼年期サイズの個体が跡形もなく消し飛ぶ。 存在するだけでデジタルワールドを崩壊させかねない、デジタルハザード級の存在。 それがオグドモンXだ。 「…確かに、これじゃさっきの部屋では収まり切りませんね」 ケラモンの進化体がオグドモンXを見上げて呟く、その声は彼女とクラモンが混ざりあった物だ。 「おっと」 彼女達が視線をオグドモンから向こうへと戻す、今のオグドモンの咆哮を攻撃と判断したパラレルモン達が一斉に動き出したようだ。 が、私とオグドモンはまだ戦闘準備が整っていない、ここから更に七大魔王達を剣として全員呼び出す必要がある。 「悪いけれど、私達はあと少しだけ準備に時間がかかるんだ」 「それまで一人で耐えれば良いんですね?楽勝です」 と、後ろ手に軽く答える。 「ありがとう、話が早くて助かるよ」 「ではお先に」 そう言って彼女達はパラレルモンの群れへと飛び出していく。 『アブソーベント・バン』 当然そこを狙ってパラレルモン達が一斉にアブソーベント・バンを放つが。 『クラモンリザレクション』 六本の手の内、剣を持っていない三本から無数のクラモンが溢れ出し、アブソーベント・バンの射線上へと割り込む。 当然幼年期の身でそれを食らえば一瞬で消し飛ぶ、だが被弾する量よりも増殖する速度の方が圧倒的に上だ。 彼女達は生み出したクラモンを身代わりに突き進み、ついでのようにすれ違いざまにパラレルモンを斬りつけデリートしてゆく。 それを眺めていると、私のデジヴァイスの画面に通知が表示される、どうやら七大魔王の皆が到着したようだ。 その直後、ネットワーク空間にひび割れるように穴が開く。 そこから飛び出した七本の、七大魔王それぞれを象徴した剣がオグドモンXへと真っ直ぐ飛んで行き。 それらはオグドモンXの持つ触手の根本で輝く、宝石のような部位へと収まる。 オグドモンXと七大魔王X、全ての力を結集した万全の状態だ。 そして最後に。 「マトリックスゼヴォリューション!」 デジヴァイスの機能を使い、私自身をオグドモンへと撃ち込んだ。 撃ち込まれたデジコア内部でオグドモンX、七大魔王X、私、全てのデータが分解され、一つの形へと再構築されていく。 現れるのは、五本の腕と鳥の足のような逆さ向きの関節をした二本足を持つ、人型にして異形の存在。 融合した七つの剣をその背中に、まさしく罪のように背負うコキュートスの守護神。 ─オグドモン -原罪の絆- 世代解析不能 属性不明 化身型 オグドモンのデジコアと私の融合が完了すると、その視座はオグドモンX抗体のときよりも遥かに低く下がる。 彼女達やアグモン、ガブモンの進化体とほぼ同じサイズにまで縮んているためだ。 だが、その力はオグドモンX抗体の時の比ではない。 デジタルワールドに存在する七つの大罪に加え、私という人間と融合したことによりヒトが生まれた瞬間から背負う原罪の力を手にしたのだ。 結果、デジタルワールドに存在する全ての生命はただ存在するだけでオグドモンに力を与え、オグドモンは神…システム領域に至るまでの存在へと進化した。 まぁそれもコキュートスにいる間、の話だが。 「マコト、理解してるとは思うが」 オグドモンのデジコアと融合している以上、彼の声は空間そのものから発せられている。 よって、返答するのに特に彼の居る方向を意識する必要はない。 「うん、この形態で神の如き力を発揮できるのは、あくまでも全てのデジタルワールドと接続されたコキュートスの中でのみだ」 オグドモンがデジタルワールド全ての罪の力を結集できるのは、コキュートスという世界の性質に頼る面が大きい。 アカシック・バックドア内部に居る以上、発揮出来るのはアカシック・バックドア内部と接続されたデジタルワールド、マテリアルワールドに存在する命の分だけだ。 「だが皮肉な事に、奴が好き勝手にここを拡張してくれたおかげで接続されている世界の数も多い、そのツケを払わせるぞ」 私は彼の言葉に黙って頷き、その背に突き刺さった剣の内、リヴァイアモンの剣を引き抜く。 前方では彼女達の融合体が、徐々に狭まりつつあるパラレルモンの包囲網と交戦を続けている、これ以上一人で戦わせるわけにはいかない。 まずは彼女達に迫るパラレルモンを排除しよう。 私は、いや私達はリヴァイアモンの剣を上空に向け高く掲げる。 同時にネットワーク空間の上空に、リヴァイアモンを示した巨大な嫉妬の紋章が浮かび上がり、稲光と共に紋章全体へ膨大なエネルギーが蓄積されていく。 「数を相手取るなら、コレが一番手っ取り早い」 オグドモンの呟きと同時にエネルギーの充填が完了、後は引き金を引くように。 「『オクテス・ライトニング』」 私とオグドモン、二つの音が重なった声が響き、上空から轟音を上げ莫大なエネルギーが雷として降り注ぐ。 それに焼かれたパラレルモンが次々と消し飛んでいき、徐々に空間全体を埋め尽くしていた薄紫が晴れる。 パラレルモンの群れに覆われていた彼女達は……どうやら無事のようだ。 私達は彼女達の方へと移動しながら声をかける。 「ごめん、遅くなった」 私の謝罪に対し、彼女達は。 「いえ、このまま一人で片付けようかなと思っていた所です」 再び後ろ手で軽く答えると、私達の方へ寄って並び立つ。 オグドモンとケラモン、並んで立つ二つの融合体。 私達四人はお互いに剣をパラレルモンへ突きつけ、再び問う。 「取り巻きは大方消し飛ばしましたけど、まだ続けます?」 先程の私達の攻撃で増殖したパラレルモンは九割方消し飛んだ、残りは本体らしき一体とそれを護るように構えたアグモンとガブモンだ。 「……」 だが、やはりパラレルモンは答えない。 その代わりに。 『エンドレストランス』 空間に穴を開き、再び無数のパラレルモンを展開した。 「無限湧きですか、厄介ですね」 そう言って掌からクラモンの生成を続け、私達の周囲にも無数のクラモンの群れが展開する。 結果多数対多数の構図が出来上がるが、向こうが一体一体が究極体なのに対しこちらは幼年期デジモンだ、戦力としては期待できないだろう。 と思ったその時。 「あれ?なんだかクラモン達、光ってません?」 彼女の言う通り、周辺に浮かぶクラモン達が一斉に光り輝き始めている。 「これは…」 クラモンを覆うように広がった光の球体、その上に二本のデータコードがXの字を描いて走る。 この現象は…。 「X進化(ゼヴォリューション)だ」 やがて光は収まり、クラモンだったものの進化体が姿を表す。 ─ディアボロモンX抗体 究極体 属性不明 種族不明  生み出されたクラモン全てがディアボロモンのX進化体へと変貌を遂げる、これなら戦力として申し分ないだろう。 「なんでいきなり進化したんでしょう、この子達」 そう言ってディアボロモンX達を見回す彼女、その答えは恐らくオグドモンの能力だ。 「あぁ、それはオグドモンの能力、周辺に存在する全ての命を強化する力のせいだと思うよ」 この形態のオグドモンには自身の周囲に存在する全ての命に祝福を与え、その力を引き上げる能力が備わっている。 それがクラモン達を進化させたのだろう。 「へぇ、便利な能力ですね……ん?今全ての命って言いました?」 「言ったね」 「それ、勿論パラレルモン達も例外じゃありませんよね」 「……そうだね」 残念だがこの能力に敵、味方の区別などない、パラレルモン達も私達も例外無く全てが強化されている。 無差別に罪を持つ命全てを祝福し、そして罪を持たない命は存在しないからだ。 私の返答を聞いた彼女の顔が、若干呆れたような表情に変わる。 「ま、私達も強化されてるなら結果はプラマイゼロです、どっちにしろぶっ飛ばせば同じですし」 「サトミ」 「マコト」 私と彼女が話していると、お互いの身体から融合したデジモンの方の声が聞こえてくる。 「「来るぞ」」 その言葉と同時に、今ままでこちらを静観していたパラレルモンが一斉に動き出す。 「じゃ、取り巻きにはディアボロモンX達をぶつけます、私達は一直線に本体へ」 「了解、一気に終わらせよう」 お互いに突撃の姿勢を取り、そのまま弾かれるように飛び出す。 パラレルモン達から放たれるアブソーベント・バンの雨にはディアボロモンX達が割り込む。 クラモンの時は身代わりに消滅するだけだったが、今度は必殺技のカタストロフィーカノンでそれを相殺している。 攻撃を凌いだディアボロモンX達はパラレルモンへと殺到し、次々と爪で彼らを引き裂いていく。 が、生き残った他のパラレルモンが一瞬の隙を突いてアブソーベント・バンを直撃させ、ディアボロモンXが彼方へと消し飛ぶ。 それによって空いた穴を他のディアボロモンXが埋め……を延々と繰り返す。 これなら取り巻きは任せても問題ないだろう、私とオグドモンは視線を前方へと戻し突き進む。 進行ルート上のパラレルモンは 『オクテス・ペネトレート』 『アルティメットフレアシャドウ』 お互いの攻撃で適宜消し飛ばす。 そうして進み続け、ついにパラレルモンと彼を護る二体の進化体の元へと辿り着く。 対する二体は接近する私達四人に反応し、それぞれ構えを取る。 『ストラッシュサラマンダー』 アグモンは自身の尻尾を臀部から引き抜き、それを槍として。 『レドルスター』 ガブモンの背部ユニットから自律兵器が射出され、衛星のようにガブモンの周囲を周りだす。 その奥に居る本体らしきパラレルモンは、ただ静かに浮かんだままだ。 高みの見物のつもりだろうか、いい度胸だ。 「生憎だけど、勝負に付き合うつもりはない」 私は七本の剣の内、ベルゼブモン、ルーチェモン、リヴァイアモン、ベルフェモンの四本を構える。 『オクテス・フルクラスター』 ベルゼブモンXの持つ、罪を焼く炎が剣先に集まる。 『オクテス・ディバイン・クルス』 一つ一つが恒星の表面温度程もある超熱光球が、剣先で十字を描く。 『オクテス・ライトニング』 先程と違い天ではなく剣先に稲光が走り、膨大なエネルギーがチャージされていく。 『オクテス・ペネトレート』 剣先に真紅のエネルギーが集まり、槍のような形を形成する。 そして。 「失せろ」 オグドモンの号令と共に、それらが一斉に放たれる。 狙いはアグモンでもガブモンでもなく、奥で高みの見物を決め込んでいるパラレルモンだ。 今まで大量のパラレルモン達に阻まれていたが、ここまで近づけば外さない。 パラレルモンへと向かう四つの必殺攻撃、その射線上にやはりと言うべきかアグモンとガブモンが割り込む。 大方予想通りだ、この初撃でどちらか片方でも排除できれば大幅に戦力を削ぎ落とせる。 射線上に並び立つ二体、その内アグモンの全身から激しく炎が吹き出し、吹き荒れる業火により防壁が形成されていく。 『ガイアブレイブ』 間もなくその防壁へと炎、熱球、雷、真紅の槍が突き刺さり、炎の壁が激しく揺らぎだす。 揺らめく炎の向こう側ではアグモンが炎の勢いを更に強め、攻撃を押し返そうとする。 拮抗する二つの力は一進一退を繰り返す、このままでは攻撃の勢いが削ぎ落とされ防ぎ切られてしまうだろう。 そこで彼女達の出番だ。 『アルティメットフレアシャドウ』 ケラモンの融合体の足元にホログラムのようなアーマゲモンが出現し、その口からチャージされた破壊のエネルギー波が撃ち出される。 先程パラレルモンの群れを突破した時とは違い、今度のは最大チャージでだ。 破壊のエネルギー波は真っ直ぐ炎の防壁へと向かい、オグドモンの放った攻撃を後押しするように衝突する。 その衝撃で、ついにアグモンの防壁が砕け散った。 相殺しきれなかったエネルギーは後方への衝撃波と化し、アグモン、ガブモン、パラレルモンはとっさの防御姿勢を取りそれを受け止める。 その勢いのまま私はガブモン、彼女達はアグモンへと突撃していく。 当初の想定とは異なるが、このまま各個撃破するとしよう。 ─ 「その首、取ります」 彼女達の融合体が三本の剣を駆使し、次々とアグモンへ斬撃を繰り出す。 対するアグモンは尻尾を変形させた槍でそれを受けるが、ケラモンの手数の多さに徐々に押し込まれていく。 やがて槍では対処し切れないと判断したのか、強引に槍を投げつけて投棄し、両腕の三本爪を展開する。 『レッドリーマー』 爪の末端部からそれぞれ赤いレーザーが射出され、爪全体を覆うように出力が調整される。 出来上がったのは、自在に伸縮する六本のレーザークローだ。 得物を入れ替えたアグモンは彼女達へ爪による斬撃を繰り出す、対するケラモンも剣で応戦するが。 「くっ…太刀筋が読めませんね…」 自在に伸縮するするレーザークローの切っ先が読めず、間合いを測りかねているようだ。 徐々に押され後退するケラモン、とここでケラモンの内部からクラモンの方の声が響く。 「サトミ、考えがある」 「なんです?クラモン」 切り合いを続けながら、彼女達の短い作戦会議は続く。 「今までコキュートスで拾ったその剣の事をただの剣だと思っていたが、オグドモン達を見るに違うようだ」 「あのルーチェモンの攻撃を放ったアレですか……もしかして」 「あぁ、もしかすると」 その一方、アグモンは勢いを付け一度後ろに下がると、レーザークローを一段と長く伸ばし突撃の姿勢を取った。 トドメの一撃を放とうとしているのだろう。 「一か八か、やってみましょう」 突進してくるアグモンに対し、ケラモンはルーチェモンの剣を突きつける。 迫りくるアグモンは、レーザークローを大きく振り上げ斬撃を放つ寸前だ。 だが、その瞬間は防御が解けた最も無防備な瞬間でもある。 『セブンス・ディバイン・クルス』 そこを狙い、彼女達はルーチェモンの剣から超熱光球を放った。 ただし先程のオグドモンの様に前方に撃ち出すのではなく、放った直後に蓄えれたエネルギーを解き放った。 結果として引き起こされるのは、夜を昼へと塗りつぶす程の膨大な光量の炸裂だ。 事前に目を閉じていた彼女達はいいが、突進中のアグモンはそれをモロに食らう。 突如視界を奪われたアグモンは闇雲にレーザークローを振り回すが、当然ケラモンに当たる筈もない。 「貰いました」 デタラメに振り回されるレーザークローの合間を縫い、ケラモンが黒きオメガブレードを二本束ねるように前方に構え突撃していく。 アグモンはそれに対応できず、また周囲に身代わりになるようなパラレルモンも居ない。 最早阻むものは何もなく、黒きオメガブレードがアグモンの胴体を刺し貫いた。 そして。 『ネメシスリワインド』 オメガブレードに刻まれたデジ文字「INITIALIZE」の文言が輝き、アグモンの進化体の全身が0と1に分解され胴体のデジコアへ圧縮されるようにデータが流れていく。 やがてその場には、小さなデジタマが一つだけ残される。 「ロック」 彼女の言葉と共にケラモンが剣を鍵をかけるように横にひねると、デジタマに覆い被さる形で空間に錠前と「LOCK」の文字が現れた。 「一丁上がり、これで暫く何もできないでしょう」 そう呟いた後、彼女は六本の腕で身体のあちこちを抑え出す。 「痛った……流石に至近であの爆発は堪えますね…」 「恐ろしい威力だ、これがあのルーチェモンの力を宿した剣の本領なのか」 「えぇ…今度からもうちょっと慎重に扱いましょう、コレ」 ─ 横目で眺めていた彼女達の戦いから、私は意識を目の前のガブモンへと戻す。 戦況は完全に膠着状態だ、私達の攻撃に対しガブモンは射出した自律兵器からエネルギーシールドを発生させ、射線上に割り込ませるようにして防ぐ。 先程アグモンが見せた火炎の防壁と異なり、範囲を狭め密度を高くしている為か被弾にビクともしない。 恐るべきはその精度だ、寸分の狂いもなく射線上に自律兵器を移動させている。 その一方で制御に神経を集中している為か、ガブモンは腕を広げたまま動きがない。 そんな状態がずっと続いている。 「チッ……埒が明かん」 オグドモンが舌打ちを響かせ、攻撃を撃ち続けていた四本の剣の内ベルフェモンの剣を背中へと戻す。 「マコト、何か策を出せ」 丸投げと来たか……。 オグドモンの五本腕の内、私が常に自由に動かせるのは切り札を抱えた一本だけ、剣を振るう四本は常に彼の制御にある。 その内剣を格納した一本の制御権が私へと移されていた、これで何とかしろ、と。 この身体の制御権に関する取り決めは、人間とデジモンが結合するケースではよくあることらしい。 一つの体に複数の意識が同居しているのだから、自然とそうなるのだろう。 兎も角、私は思考を巡らせてこの状況を打開する策を練る。 今ガブモンに向けているのは、私達が最も効率的に発揮できる火力だ。 これ以上の威力となると、胸部の口から破壊光線を放つ『カテドラール』や、全ての剣の力を結集して放つ『Death3(デスティニー・デス・デストラクション)』が有るが、これらは発射までに長い溜めの時間を要する、敵の眼前で使える攻撃ではない。 私は一旦周囲を見渡す、視界に映るのは広大なネットワーク空間を埋め尽くす大量のパラレルモンとディアボロモンX達だ。 彼らの戦いは未だに終わらず、撃破、増殖、撃破を延々と繰り返している。 無数のパラレルモンの群れのいくつかはオグドモンとケラモンの方へと視線を向け、隙を見てアブソーベント・バンを放とうとするが寸前でディアボロモンXに割り込まれて消滅する。 その光景を見て一つだけ、策を思いついた。 だがそのためにはまず、剣が一本では足りない。 「オグドモン、一つ考えがある」 「言ってみろ」 「まずは腕と剣をもう一本使わせて、その間は二本だけで戦うけれど、耐えられる?」 そう問うと、オグドモンは鼻で笑い。 「フン、誰にものを聞いている」 ベルゼブモンの剣を格納し、制御権が私へと譲渡された。 私は二本の腕でそれぞれバルバモン、リリスモンの剣を抜き、ガブモンではなく周辺を覆うパラレルモン達へと向ける。 そして、パラレルモンの視線がこちらを向いた瞬間に。 『オクテス・ファシネイト』 リリスモンの剣の先端部から緑色の光で編まれた、蝶々の形をした紋様が空間に出現し、その紋様を視たパラレルモン達が動きを一斉に止める。 これこそリリスモンXの持つ魅了の力だ、一度魅せられたら最後命尽きるまで彼女の支配から逃れることは出来ない。 パラレルモン達の意識を支配した私は、彼らを操作してアブソーベント・バンの砲口、つまり瞳を一斉にガブモンへと向ける。 「撃て」 私の号令で、乗っ取ったパラレルモン達による一斉砲撃がガブモンへと放たれた。 対するガブモンは全くの視覚外からの攻撃に動じること無く、自律兵器によるピンポイントバリアで的確にアブソーベント・バンを防ぐ。 だが、増えた手数に対応すれば当然隙が生じる。 『オクテス・ライトニング』 『オクテス・ディバイン・クルス』 オグドモンが、リヴァイアモンの雷とルーチェモンの熱球を最大に拡散させ解き放つ。 パラレルモンの一斉射撃に、雷と高熱球の爆発。 それらを受け切れなかった自律兵器が次々に破壊され、ついにガブモンの防御姿勢が崩壊する。 しかしガブモンの対処も速い、自律兵器の破壊を目視した瞬間には既に制御を放棄してその場から飛び去っていた。 『ムーンテンス』 そして、背部のユニットに備えられた自律兵器とは別の射出口から一斉にレーザーを放つ。 狙いは私が乗っ取ったパラレルモン達だ、無数のレーザーが滑らかな曲線を描き彼らの元へと飛んで行く。 ……これを待っていた。 『オクテス・ジュエライズ』 バルバモンXは、その右手で触れたデジコアを宝石へと変えてしまうという恐ろしき力を持つ。 それが強化されたオクテス・ジュエライズは最早デジコアに触れる必要すら無く、ただ対象を支配下に置くだけで効力を発揮できる。 私が乗っ取ったパラレルモン達の身体が、内側から巨大な宝石へと変換されていき、やがて周囲にはパラレルモンだったジュエルが取り残された。 間もなく、ガブモンの放ったレーザーが宝石へと着弾する。 内部へと突っ込んだレーザーは屈折を繰り返し、そのまま撃ち出した本人の元へと跳ね返っていく。 ガブモンは即座にそれに反応し、背部ユニットから展開した光の翼で回避軌道を取りながら、両腕のマシンガンをパラレルモンの成れの果てへと向ける。 『フルメタルマシンガン』 銃口から轟音を上げ撃ち出される弾丸を受け、宙に浮かぶ宝石達が砕け散っていく。 当たり前だが宝石が反射できるのはレーザー光線のみ、実弾相手には全くの無力だ。 それでも問題はない、ここまで私の作戦通りだ。 私が制御を奪ったパラレルモンを一掃したガブモンは私達へと銃口を向ける。 『レドルスター』 背部ユニットから自律兵器が射出され、先程と同じ様にガブモンの周囲に展開しようとする。 パラレルモン達の撃破により戦況は最初の状態に戻った、再びバリアによる拮抗状態を作り出すつもりだろう。 が、周辺の状態は先と全く同じではない。 「かかった」 自律兵器の軌道上に砕け散った宝石の破片が激突し、飛行姿勢を大きく崩す。 そのまま錐揉み飛行を繰り返し、やがて大きな破片へと正面衝突し爆発した。 これが私の策だ…と言っても単に障害物を大量に展開して自律兵器の飛行を阻害しただけだが。 その光景を見たガブモンは対応を切り替え、自律兵器の展開を止めて背部ユニットからレーザーを撃ち出す。 「……成る程ね」 通りで状況への対処が速い訳だ、ガブモンの行動は完全にパターン化されている。 自律兵器の展開、レーザーの発射、両腕のマシンガン。 これらを相手の動きに合わせて切り替えているだけだ。 全身に纏った金属の装甲や装備の数々から、どこかマシーン型やサイボーグ型デジモンの性質を持っているのかも知れない。 今この場面では、その性質が仇となるが。 撃ち出されたレーザー達は、オグドモンに向かって飛んでいく。 だが自律兵器群と同じ様に、その進路上にはパラレルモンの破片が大量に浮遊している。 破片を通ったレーザーの軌道がデタラメに捻じ曲がり、いくつかはガブモンへと跳ね返っていく。 ガブモンの次の手は予想通りマシンガンの展開だ、弾丸がパラレルモンの破片を撃ち抜くが、それは破片の数を増やすだけで全く解決にはならない。 と、ここでガブモンが今までと違う行動を見せる。 「装甲をパージした?」 ガブモンが全身に纏った青いメタルの装甲が弾け飛び、中から黒髪の獣人が姿を表す。 その獣人は一瞬だけ構えを取った後、残像だけを残し姿を消した。 『クールエッジ』 装甲と背部ユニット全てを取り払った神速の一撃。 これがガブモンの切り札か。 だが甘い。 「下らん」 オグドモンの呟きと同時、私とオグドモンでそれぞれ分担して剣を構える。 次にガブモンが姿を見せたのは、大方の予想通り私達の背後だった。 「一瞬で相手の背後を取り、急所を一撃で貫く…確かに効果的だけれど」 私は持ち替えておいたベルゼブモンの剣でガブモンの胴を貫き、言葉の続きを口にする 「人間とデジモン、二つの意識と視界を持つ私達に死角など無いよ」 『オクテス・フルクラスター』 ベルゼブモンXの持つ罪を焼く炎が、ガブモンを内側から焼き尽くす。 その後には、何も残されていなかった。 ─ アグモンとガブモン。 二体の伝説の進化体を撃破したオグドモンとケラモンが合流し、再びパラレルモンへと剣を突きつけた。 「取り巻きは始末しました、終わりです、パラレルモン」 「……」 だが、それでも尚パラレルモンは沈黙を続ける。 その代わりに。 『エンドレストランス』 またもやネットワーク空間全域に無数の穴を開き、パラレルモンの呼び出しを図る。 「させない」 そう何度も同じ手を使わせるつもりはない、私は隣に並ぶケラモンへと無言で頷き、彼女達はそれに応えるように腕を2本広げる。 『クラモンリザレクション』 「X-進化(ゼヴォリューション)」 生み出された無数のクラモン達は瞬く間にディアボロモンXへと姿を変え、パラレルモンが開けた穴へと殺到していく。 『カタストロフィーカノン』 そして穴の手前に陣取ると、一斉に穴の中へと向け破滅の火炎球を撃ち出す。 それは空間に開けられた穴から顔を覗かせたパラレルモンを、こちら側に出てくる間に撃ち貫く。 これでもう増援の呼び出しは出来ないだろう。 パラレルモンを粗方始末したディアボロモンX達は、次はその砲門を一斉に中央に浮かぶ本体へと向ける。 「どうする、もうお仲間は呼べないし、逃げ場も何処にもない」 ネットワーク空間全体を埋め尽くすように展開したディアボロモンXの包囲に穴はなく、胴体の砲門からチャージの光を輝かせている。 いつでも撃てる、と。 「今すぐに君が奪っているコキュートスのリソースを解放すれば、命だけは見逃してあげるけど」 「……」 私の最後の警告に対し、やはりパラレルモンの反応はなく。 『エンドレストランス』 ただ黙ったまま、自分の背後の空間に大きな穴を開いた。 「サトミ、逃げる気だ!」 「この期に及んで…!」 「私達に任せて」 剣を構え飛び出そうとする彼女達を制し、オグドモンは剣をデーモンのものへと持ち帰る。 「貴様に、一つだけ言い忘れていた事があった」 そして、先端から憤怒の紋章を輝かせた剣を。 「頭を垂れろ、この私を誰だと思っている」 『オクテス・グラビトン』 目の前の空間へ、叩きつけるように振り下ろした。 直後、自身の背後に開いた大穴に逃れようとしていたパラレルモンの身体が、凄まじい勢いで下方へと引っ張られていく。 デーモンXの持つ超重力砲を、砲弾としてではなく空間へ解放したのだ。 「後は、ディアボロモンXたちに任せ…」 「ありがとう、行ってきます」 「…え?」 身動きが出来ないまま落下しているパラレルモンへと、ディアボロモンX達に一斉射撃を命じようとした矢先、ケラモンが勢いよく飛び出して行った。 「ちょっと!?」 「愚か者が、今あの空間には膨大な重力が発生しているのだぞ」 オグドモンの警告に対し、ケラモンは空いている腕を使い後ろ手で答える。 「つまり、その加速度が斬撃の威力にプラスされるんですよね?」 質量掛ける速度は運動エネルギー、シンプルな計算式だ。 「理屈はそうだけれど…」 「なら、大丈夫です」 何が大丈夫なのか。 突撃する彼女達の勢いは止まらない、間もなくオクテス・グラビトンの重力圏内へと入り込む。 「フン…」 「鼻で笑ってないで、追いかけるよ、パラレルモンを撃破した後誰が重力の発生を止めるの」 「チッ…」 渋々と言った様子でオグドモンが移動を始め、私達もオクテス・グラビトン内部へと突入した。 その瞬間に身体が急激に下側に引っ張られて落下が始まる、下方に目をやると既にパラレルモンとケラモンの交戦中だ。。 『アブソーベント・バン』 パラレルモンは細い枝のような首を強引に反対側へ捻じ曲げ、アブソーベント・バンの砲口である瞳を迫るケラモンへと向ける。 だがその攻撃は全て身代わりのディアボロモンXが引き受けている、ケラモンへは掠りもしていない。 そのままディアボロモンXを盾に、合流した私達とケラモンの突進は続く。 そして、ついにオグドモンとケラモンの剣先がパラレルモンの本体を捉え。 「さようなら」 彼女の言葉を合図のように、二人同時にパラレルモンを身体を切り裂いた。 すれ違いざまにパラレルモンを切り裂いた私達は、デーモンXの力の放出を停止し後ろを振り返る。 そこには胴体のデジコアを引き裂かれ、ゆっくりと体の末端部から消滅を初めるパラレルモンが居た。 その時、沈黙を続けていたパラレルモンからノイズまみれの声が聞こえて来る。 「覚えておけ、私は無数の世界に偏在している」 消滅の勢いは止まらず、辛うじて身体を構築するワイヤーフレームだけが残されている状態だ。 「我は不滅なり」 その言葉を最後に、パラレルモンは完全に消滅した。 「我は不滅なり、ですか、安っぽい負け惜しみですね」 彼女がそうひとりごち、私達はどちらともなく剣を収める。 戦闘は終了した。 ─ パラレルモンのデリートを確認した私達は、お互いにパートナーとの融合形態を解除する。 間もなく、ネットワーク空間全体が地震のように激しく振動を始めた、アカシック・バックドアの崩壊が始まったのだろう。 これでコキュートスから略奪された演算リソースと、内部に囚われていたデジモンと人間達は解放される。 つまり。 「お別れ、ですね」 「そうだね」 短い時間ではあるが、共に戦った仲間との別れが訪れていた。 「私、戻ったらもう一度コキュートスに行ってみます」 「……サトミ」 「それは…」 私との再会を望む彼女に対し、私と隣のクラモンが同時に眉をひそめる。 彼女達が来た時間軸と、私達の時間軸はズレている。 時系列では彼女達、私達の順だが、その間がどれだけ空いているのかは予測できない。 一ヶ月か一年か、はたまた十年単位か。 コキュートスで私達が再会するのは難しいだろう。 言葉にせずとも理解しているのか、それでも尚彼女は微笑んで見せる。 「それでも、ですよ」 そう言って初めと同じ様に右手を差し出す、今度は別れの挨拶、だが。 「また会いましょう」 「……うん、またね」 私と彼女の指先が触れ合った瞬間、アカシック・バックドアは完全に崩壊した。 ─ その後、コキュートスに帰還した私はまず、カーネルへ演算リソースの状況を問い合わせた。 結果は正常、彼らの想定した分のリソースがきっちりと割り当てられていた。 各地からも発生していた天変地異の解消していたのと連絡も入っている。 次にミレイへの報告だ、こちらもアカシック・バックドアの消滅を確認、今回パラレルモンが開けた時空の穴はホストコンピュータ達が修復する、と。 問題はこれにて解決だ。 だが、私は今別の問題に直面している。 「陛下、お留守の間に溜まった書類はこれで全部です」 「うわぁ……」 私の執務机へと積み上がった書類の山だ、勿論これに加えてメールで送られてきた物もある。 「あの、皆?留守をよろしくって言ったよね?」 助けを求める様に後ろで眺めている七大魔王に視線をやると。 「君とオグドモンが留守の間、コキュートスを護るとは言ったけれど」 「マコトの仕事まで頼まれた覚えはないのぉ」 と、ルーチェモンとバルバモンから素敵な返答を貰った。 「手伝っ……」 「じゃ、俺は帰るぜ」 ベルゼブモン。 「私も~」 リリスモン。 私が頼み込むより先に、七大魔王達が次々と自身の支配領域へと帰る、いや逃げていく。 「オグドモン」 取り残された私は、デジヴァイスの向こうへとオグドモンへ呼びかける。 しかしいくら待っても返事は帰ってこなかった、彼も逃げたのだろう。 「陛下、早く書類に目を通してください」 書類を持ってきたバアルモンが急かす、彼の言う通り兎に角手を動かさないと終わらない。 「くっ……」 うず高く積み上がった書類を処理しながら、私はあることを考える。 あのパラレルモンやケラモンの様に、私も無数に分裂できたら良いのに……。