二次元裏@ふたば

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133747 B26/05/06(水)01:33:56No.1427147714+ 04:34頃消えます
「あっ」
転ぶときはいつもそうだ。体重を支え損なった脚の違和感と、地面に引っ張られていく自分の身体の重さが、ゆっくりと流れる時間の中で鮮明に感じられる。
脚をかけた河原の石が濡れていて滑ってしまったのだと、やけに冷静な頭で得心する。同時にもう転ぶのは避けられないことを悟るのも早くて、せめて頭は守らなければと腕で首から上を庇った。
だが、いくら待っても身体を打ちつける衝撃はやってこない。地面にぶつかる寸前で、身体が外側から支えられている。
「大丈夫か!?
よかった、間に合って」
ぎゅっと瞑っていた瞼を開くと、ほっと息をついた彼が額の汗を拭うのが見えた。
126/05/06(水)01:34:30No.1427147798+
「ありがとう。怪我してない?」
「それはこっちの台詞だろ。立てそうか?」
彼の言う通りだが、咄嗟にあれほど綺麗に抱きとめてくれると、その分彼が無理をしていたのではないかと心配になる。おかげで足から上は全くの無傷で済んだのだが、踏み外した足はそうはいかなかった。
「っ…!
ごめん、身体は大丈夫だけど…足首捻っちゃったみたい」
靴を脱いでみると、右の足首の外側が左のそれより明らかに腫れている。
「とりあえず冷やすか。冷たい水はいっぱいあるしな」
山奥の川の上流まで散歩に来ていたことが、こにときには幸いした。そもそもここに来なければ転ぶこともなかったと言われてしまえば返す言葉もないが、それを言わないでいてくれる彼の優しさも、こんなときだからこそ存分に感じられるのは随分な皮肉と言えよう。
226/05/06(水)01:34:46No.1427147837+
「乗り心地はいかがでしょうか?」
「ふふふ、いいよ。お金を払いたいくらい」
どこでも寝るアタシをよく彼は運んでくれるが、背負われたことはよく考えると一度もなかった。
彼の表情が見えない。アタシは重いのか、少し休もうと言ったほうがいいのかもわからなくて、空元気で圧し殺していた不安が滲み出してくる。
元はといえば、アタシが軽はずみにここに来たのが原因だ。それでアタシが怪我をしたなら、その問題はアタシが解決しなければいけない。
「重くない?」
「全然。まだまだいけるぞ」
笑うきみの明るい声が、余計に悲しく響く。
326/05/06(水)01:35:13No.1427147921+
「…ごめんね。付き合ってくれたのにこんなことさせちゃってさ」
黙っていると、色々なことを考えてしまう。彼の足は大丈夫だろうかとか、せっかく組んだトレーニングの予定が崩れてしまわないかとか。
口には出さないだけで、もうアタシの気まぐれにうんざりしてしまったんじゃないか、とか。
426/05/06(水)01:35:38No.1427147988+
そんな思いをひとことでも口にすればどこまでも沈んでいってしまいそうで、また押し黙ってしまう。彼の前ではいつも陽気でいたいのに、胸がずきずき痛くて上手く笑えない。
「いいって。俺もこうしたかったんだ。
前、俺が疲れて動けなくなったときに、こうやっておぶってくれたよな」
アタシひとりでは埋まらないそんな孤独に、きみが寄り添ってくれるようになったのは、いつのことだろうか。

見返りがほしくてやったことではない。あのときはただ、きみを背負って歩いたら楽しいだろうなと思っただけだ。
でも今は、あのときの思いつきがこの瞬間のためにあったのだと信じていたい。
「今度はシービーを助けてあげたいんだ。
怪我してるのに不謹慎かもしれないけどさ。俺はこの時間、好きだよ」
アタシが笑えないときでも、きみが笑っていてくれる。そう言うときみはいつも、その笑顔はアタシからもらったものなんだと言ってくれる。
アタシがなくしたものを、いつでもきみは見つけてくれるのだ。
526/05/06(水)01:36:07No.1427148077+
きみの背がゆっくりアタシを揺らすリズムが、やさしさの鼓動のように思える。
「ゆっくりでごめんな」
「…いいよ。ぜんぜん。
幸せな時間は長いほうがいいもん」
──きみには悪いけど、もう少しだけ浸っていたい。

「大丈夫?疲れたなら休んでいいよ?」
「全然。シービーの散歩について行って、これでも体力はついたんだからさ」
お父さんも、お母さんも、エースも、トレーナーもみんなそうだ。アタシの好きなひとたちは、アタシが体調を崩すと同じことをする。
動けないアタシが退屈しないように、ずっとそばにいて話をしてくれるのだ。
「ふふふっ。頼りになるねぇ。
昔はあんなにちっちゃくて頼りなさそうな背中だったのになぁ。いつの間にかこんなに大きくなったんだ」
「おばあちゃんか」
ちょっとした怪我や病気も、たまにならいいかもしれない。
走れないのは辛いけれど、きみがアタシを大切にしてくれてるってわかるこの時間は、とても幸せだ。
626/05/06(水)01:36:32No.1427148163+
川幅が徐々に広くなってきて、麓の近くまで降りてきたのだと気づく。安心して思わずため息をひとつ漏らしたが、太陽は徐々に地平線に近づいてきていた。
「もうちょっと我慢してくれ。日暮れまでには街に出られると思うから」
「いいよ。安全第一で行こう」
「背中に翼でも生えてたらよかったのにな。
そしたらぴゅーっと飛んで、すぐ病院にでもどこでも連れていけたのに」
彼は相変わらず笑っていたけれど、その声音は自分に翼がないことを本当に悔しがっているように思えた。
彼は大人だ。何も本物の翼がほしいということではないだろう。だが、ただ走るより速くアタシを運ぶことができないことをもどかしく思う気持ちは、きっと彼の中で燻っている。

「そしたら、おぶってもらえなかったね」
でも、今のアタシは、きみの背中よりも居心地のいい場所を見つけられない。たとえ翼があってどこにでもひとっ飛びできたとしても、少しでも長くここにいることを選んでしまうくらい。
726/05/06(水)01:36:45No.1427148197+
現実に嫌気が差したとき、もしも翼があってどこか遠くに飛んでいけたらな、と思うことがある。
「昔さ、アタシも同じこと考えてたんだ。
もしも背中に翼が生えてたら、どこまでも自由に飛んでいけるのに、って」
翼があれば、見える世界が変わるんじゃないかって。
渡り鳥と同じ世界に行けたなら、そこには本当の自由があるかもしれないって。
「でも、今はいいんだ。
アタシにはこの脚がある。アタシは天を翔けるんじゃなくて、大地を弾ませるウマ娘なんだ」

走り疲れて寝転んだときに、目の前に咲いていた小さな花を見つけてみたり。土に塗れて棒のようになった両足を、打ち寄せる波にさらして疲れを癒やしてみたり。
そんな瞬間が幸せだと感じるようになったときには、もうアタシは鳥になりたいと思うことはなくなっていた。理不尽も不自由も軽々と飛び越せてしまう鳥の翼は確かにいいものなのだろうけれど、きっと鳥たちはアタシの好きな景色を特別とは思えない。
本当の自由とは、心が何にも囚われていないことだ。別の何かにならなくても、アタシがアタシを全身全霊で愛してあげられたなら、アタシのほしかった自由はあたりまえのように手に入る。
826/05/06(水)01:37:09No.1427148269+
自分が好き。自分の生き方が好き。
──だから、そんなアタシの生き方に寄り添ってくれるきみが、どこまでも愛しい。
「だからさ。きみもきみのままでいてよ。
不器用でも、完璧じゃなくても、こうやって精いっぱいアタシを守ってくれるきみの気持ちが、アタシは大好き」

背負わせておいて悪いが、拗ねたように頑なにこちらを向かないきみの表情を想像すると楽しくて仕方ない。
「飛んでいけた方が絶対便利だぞ。っていうか、俺はそうしたい。足も疲れてきたしさ」
心にもないことを言っておどけても、きみをもっと好きになる理由にしかならない。本当は足が棒のようになっても、アタシを麓まで送り届けるつもりでいることくらいわかっている。
「便利とか不便とかじゃないよ。
アタシを想っていてくれるのが伝わるからうれしいんだもん」
きみがどんなに照れたって、アタシはアタシの想いをぶつけ続ける。信じたことしかできないウマ娘は、それしか愛のかたちを知らないからだ。
926/05/06(水)01:37:52No.1427148398+
相変わらず、前を向いたままの彼の表情は見えない。けれどその分だけ、ほんの少し弾むような歩き方から彼の喜びを感じ取れると、嬉しくてもっと彼に寄りかかっていたくなる。
打ち寄せる波を待つように、次は何を言ってくれるのかな、と思いながら。
「…昔さ。自分たちが出会えたのは俺が俺でいてくれたからだって、言ってくれたひとがいたんだ。俺なんかじゃちっとも釣り合わないなって思ってたけど、そのひとことでそのひとのことを、すごく近くに感じるようになった」
優しくて、アタシと違って思慮深くて。だからこそ、素直に想いを口にするのがちょっと照れくさくて。
けれどその分、薄い恥じらいの仮面を外したあとには、ありったけの愛が待っている。少し波が高くても、その言葉の海へと漕ぎ出してみたい。
「…ありがとう。
あの言葉は、俺の一番大切な宝物だよ」
──きみは、そういうひとだ。
1026/05/06(水)01:38:03No.1427148432+
引いてゆく波を追いかけるように、きみの背中に言葉を届かせる。
「…あのときも、今もそうだよ。きみがきみでいてくれる瞬間が、アタシはすごくうれしい。
今日、はっきりそう思えたよ」
きみの背中に揺られて見た夕焼けも、アタシの大切な景色のひとつになったから。
1126/05/06(水)01:39:35No.1427148734+
その日のアタシは実に幸運だった。
夜にも診療してくれる病院が帰り道にあったことも、足の怪我は幸いにもちょっとした捻挫で、骨にも筋肉にも異常がなかったことも。湿布とちょっとした痛み止めをもらって家に帰り着いたとき、アタシより彼がほっと安心したようにため息をついたのが面白くて、つい笑ってしまった。
「ふふっ」
「なんだよ。笑うことないだろ?」
「あぁ、ごめんごめん。でもきみのほうが緊張してたからさ。アタシが却って落ち着いちゃうんだよ」
アタシよりもアタシのことを心配するひとを見ていると、物事の順序があべこべになったようなくすぐったい気分になる。そのくすぐったさに身を任せていると、そのひとのことをもっと見ていたいと思うようになってしまうのだけれど。
1226/05/06(水)01:39:46No.1427148760+
「今日はほんとにありがとう。きみが助けてくれたから、軽い怪我で済んだんだと思う」
アタシのために汗水を流すきみを見ていると、ひどく心が温かくなる。動かさなければ痛みもない程度に留まっているのは、彼がここまで運んでくれたからだろう。
「どういたしまして。
でも、本当によかったな。一週間も休めば大丈夫だって」
彼も随分とうれしそうだ。疲れ果てながらアタシを麓まで運んだ甲斐あって軽傷で済んだのだから、当然のことだろう。

そんなきみにありったけのありがとうを伝えたい。それは間違いなく本心だ。
「ふふふふっ」
「わ」
でも、真剣に頑張っているきみの前では言えなかった気持ちも、同じくらいたくさんあったんだよ。
1326/05/06(水)01:39:58No.1427148804+
ベッドにアタシを下ろしたきみの背中に、もう一度抱きつく。力比べの結果はもちろんアタシの勝ちで、一回り大きなきみの身体がもう一度アタシの手のなかに収まった。
タクシーに乗った病院からの帰り道が、ほんの少し寂しかった。
車から降りて、このベッドの上までまたおぶってくれたときは、その分だけうれしかった。
アタシのために歩き続けるきみの前では言えなかった、浮ついた気持ちが溢れ出して仕方ない。
「きみも疲れたでしょ。
このまま横になっちゃおうよ」
疲れているきみには悪いけど、それをぜんぶ伝え終わるまで、今日は寝かせたくないんだ。
1426/05/06(水)01:40:11No.1427148849+
「ここにいてよ」
「足、まだ痛いのか」
「ううん?そっちは大丈夫。
でも、ここまでずっと言えなかったから」
遠慮なんてものは、アタシときみの間に入ってきてほしくない。だから、眠くなったら大きなあくびをするのも我慢しないし、今いちばんほしいものだって、逃がすつもりはない。
言葉にしなくてもただじっと目を見ているだけで、アタシが何を欲しいのか、きみならわかるはずだ。
「ありがとうも、大好きも全然伝え切れてなかったから。
今、胸がいっぱいなんだ。言わなかったら爆発しちゃうかも」

ふう、と小さなため息をひとつついて、きみはいつものように笑った。
胸の奥の爆弾の導火線に自分で火をつける、どうしようもない物狂いに付き合ってくれるのはきみだけだ。
「…しょうがないな。シービーが吹き飛んじゃったら、明日から何していいかわかんないし」
そうやって優しくしてくれるから、余計に気持ちが燃え上がってしまうのだけど。
1526/05/06(水)01:40:22No.1427148881+
少し困ったような顔をする彼と、今度は正面から向き合って腕の中にぴったり収まる。ようやく彼と心ゆくまで愛し合えるのがうれしくて、些か強めに抱きしめてしまったせいか、彼は少し不安そうに漏らした。
「…壊れちゃわないかな。幸せすぎて」
「大丈夫だよ。優しくするから」
その証拠を示すように、ちゅ、とほんの少しだけ音を立てて彼の唇に触れる。恥ずかしそうに漏れた息が鼻先に触れたすぐ後に、今度は彼の方から、アタシの唇を奪ってくれた。

いつまでも少年のように恥ずかしがってくれるのも、最後には胸の奥の想いを洗いざらい吐き出してアタシを好きだと言ってくれるのも、どっちもきみのいいところだ。
寝ても覚めても、手放したくなくなるくらい。
「ふふ。
きみこそ優しくしてね。一応、怪我人だからさ」
「はいはい。
…どっちが先に我慢できなくなるかな」
そばにいてくれるんでしょ。
だったら、夢の中まで付き合ってよ。
1626/05/06(水)01:40:33No.1427148923+
暗闇に目が慣れると、ほんの少しの月明かりで、きみがどんな顔をしているのかがわかるようになる。この小さくて透き通った光できみを見るのが、アタシはどうしようもなく好きだ。
今、きみは直に背中に触れられてくすぐったそうにしている。眠たいのに、と言いたげな苦笑いした顔も、アタシにはぜんぶ見える。
「大きいね。
大きくて、あったかい」
今日はもう、この背中を離したくない。きみがどれだけ大きいのかを感じながら、目を閉じて眠りに落ちてしまいたい。

でも、眠ってしまう前に言っておかないといけないことがある。
「アタシ、今日は楽しかったよ。
足はちょっと痛いけど、その分だけきみの背中を好きになれた」
アタシのために翼をほしがっていたきみに、きみはきみのままでいいよって、言ってあげないと。
「翼はとっても綺麗だけどさ。
アタシはこのままが好き。きみの大きな背中が好き」
もしもきみの背中に翼があったら、こうやって抱きしめることも、寄りかかることもできなかったかもしれない。
1726/05/06(水)01:40:47No.1427148972+
きみの背中を撫でる。肩の丘から背骨の谷まで、ぜんぶ感じられるように手を伸ばす。
大きくて、たくましくて、とてもやさしい感触がする。
「今日はさ、ずっとこうしてていい?」
アタシのぜんぶを受け止めて、支えてくれたものから、今日はもう手を離したくない。

「…うん。
ずっと、ここにいるよ。君が望んでくれるなら、いつだって」
今日はこの背中が、この脚を守ってくれたから。
──アタシの自由を守ってくれたから。
1826/05/06(水)01:41:37No.1427149146+
おわり
CBにたくさん頼られて信頼されたいだけの人生だった
1926/05/06(水)01:41:42No.1427149166+
スレッドを立てた人によって削除されました
シービーはやはり異性のトレーナーの方が似合う…
以下感想レス
2026/05/06(水)01:44:10No.1427149667+
めちゃくちゃ自由でめちゃくちゃ甘えん坊な女いいよね
2126/05/06(水)01:48:09No.1427150392+
お互いにおんぶされたときの景色が特別だって思ってるんだよね
2226/05/06(水)01:52:22No.1427151102+
純粋な意味でも不純な意味でもお互いにお互いの背中が好きだといい
勝負服で上着を脱いだらトレーナーがちょっと目をそらすのに気づいてくすくす笑ってほしい
2326/05/06(水)01:54:31No.1427151427そうだねx1
かわいい
2426/05/06(水)01:57:20No.1427151843+
走れない分だけトレーナーにしばらくかまってほしがるようになるんだよね
2526/05/06(水)02:05:54No.1427153120+
寝っ転がって手伸ばしてかまうんぬしてくるの完全にわがままな猫
2626/05/06(水)02:11:02No.1427153848+
別に部屋の中を歩くくらいなら大丈夫なのについ過保護になっちゃって次の日の朝もコーヒー飲みに立つときにおんぶするか?って言っちゃうシビトレ
鬱陶しかったかなと一瞬心配になるんだけどシービーがくすくす笑って「脚はもう痛くないけどキミにおんぶはしてほしいなぁ」って言ってきて安心するシビトレ
2726/05/06(水)02:12:47No.1427154068+
天を駆けるウマ娘じゃなくて大地を弾ませるウマ娘だからね
2826/05/06(水)02:17:36No.1427154685+
背中に羽根が生えてる天使CBはそれはそれとして見たい
2926/05/06(水)02:25:03No.1427155563+
>走れない分だけトレーナーにしばらくかまってほしがるようになるんだよね
意味もなく背中に寄りかかって嬉しそうに笑ってる
3026/05/06(水)02:33:40No.1427156657+
ふたりとも軽いようでいて重い
3126/05/06(水)02:36:56No.1427157066+
3226/05/06(水)02:39:11No.1427157335+
ただ本を読むだけでもトレの背中を背もたれにして上機嫌なCB
3326/05/06(水)02:57:11No.1427159267+
いっぱい愛し合ったあとに振り向いて髪ずらして背中見せてくれるCB…
3426/05/06(水)03:02:05No.1427159795+
弱者男性の妄想すぎる…
3526/05/06(水)03:11:14No.1427160710+
かまってほしくて背中かりかり掻いてきたりする
3626/05/06(水)03:31:01No.1427162511+
おんぶと抱っこのどっちも捨てがたいので代わりばんこにやってもらうんだよね
3726/05/06(水)03:48:27No.1427163882+
気安いふたりがお互いにクソデカ感情を抱えてる関係が好きです


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