「よし、こんなもんか…」 自身の工房で刀を研いでいたリンドウは、ゆっくりと息を整えながらその仕上がりを確かめていた。 自らが鍛えアタルへの贈り物にした刀は、いつの間にやら戦いの経験を積み、改めて研ぐ必要がある程になっている。 そして、丹精込めた作業の出来栄えに満足して鞘に納めた時、入り口の戸が開き、待ちかねた様子の元気な声が響く。 「父ちゃ、兄ちゃんの刀みがくの終わったの?じゃあ、おやつ持ってくるね!」 ブイモンによく似たガオドラモンの幼児は、父の作業の邪魔にならないようにとこっそり覗き見ていたのだろう。 作業がひと段落したと見るや否や、喜び勇んで駆け回って食事休憩の用意を進める。 とは言っても食器を落とさずに運ぶのに集中していて、ケーキを切り分けるのも飲み物を淹れるのも母であるガオモンのカメリアの担当であった。 それからややあって、父の働く工房の片隅でケーキを味わいながら父子水入らずで他愛のない雑談をしていたが、場所柄もあってか話題は自然と鍛冶仕事に関連したものになっていく。 「お手入れしなくてもだいじょうぶな刀がつくれたらいいのに…」 「刃こぼれしないし折れない武器か…確かに、そんなもんが作れたら凄いなぁ」 「うん、そしたら父ちゃも忙しくなくなって、あそんでくれる時間がふえるかなって!」 「今以上にかぁ?欲張りだなぁ」 かわいい奴め、そう笑みを浮かべながら愛息子を撫でてやるリンドウだったが、自然と職人の顔つきになる。 「でもな、そういう傷付きもしないし壊れないような…完璧な物ってのはやっぱり無理かなぁ」 「そうなの?」と不思議そうにする息子を撫でて落ち着かせながら父は続ける。 「もし、道を究めて壊れないような完璧な道具が作れるようになったら…それ以上の変化や進化を諦めるって事なんじゃないかって父ちゃんは思うかな。  それってつまり、人間にしろデジモンにしろ、進化したくて毎日一生懸命頑張ってる生き物からしたら、変わらないって事は絶望と同じなんじゃないかって…  まぁ、俺が勝手に思ってるだけだけどな」 尻尾を振るのを止めて真面目に聞き入っていたトウジだったが、幼い身にはまだ難しかったようで不思議そうに父の顔を見上げている。 それを察してリンドウも黙って言葉を選び直し、少しでも分かりやすいようにとゆっくりと紡いでいく。 「トウジはアタル兄ちゃんの作るお菓子は好きだろ?」 「うん!」 「もし、兄ちゃんが思う完璧なお菓子を作れるようになったら…すごく美味しい代わりにずっと同じ味で変わらなくなるかもしれない。  それが毎日、一年中…いや、アタル兄ちゃんが死ぬまでずっと変わらないとしたら…どう思う?」 「うーん…凄いと思うけど…なんかイヤ…かな?」 真剣に想像したことで不安感に襲われたのか抱き着いて甘えるガオドラモンの背を撫でながらブイモンは続ける。 「完璧を目指すのは良い、進化のきっかけになるだろうし。でも、完璧になったと思ったらつまんない奴になる…と、父ちゃんは思う。  まぁ、俺が勝手に言ってるだけだから、他の人はそれは違うって言うかもしれないけどな」 「ん~…なんとなく…わかる…かな?」 ゆっくりと搾り出すように紡がれた一言、それに満足したリンドウは笑みを浮かべてトウジを工房の外に連れ出す。 「よし、今日の仕事は終わり!トウジ、サッカーやろう」 「え、いいの!?やるやる!」 そのたった一言でトウジは先程とは打って変わって眩しいほどの笑顔を浮かべる。 「よし、じゃあ仕上がった刀を兄ちゃんに届けて、それからボールを出さないとな」 「うん!」 今はこれで良い、子供達が日々を楽しく過ごせますように。 風に吹かれながらリンドウは天を仰いだ。