バルロス近郊 廃墟 ゴーレムの1点から何かが射出された。黒く小さな点が、星明りを背景に移動している。距離が遠すぎて見失いそうだ。オーニソプターのような騒々しさもなく、砲弾のように弾道運動をしているわけでもない。死神の葬列が、死者の入った棺を運び出しているようだ。見たことのない光景だったが、イザベルには物珍しさよりもいら立ちを感じた。そのあまりにものんびりとした動きに。 「要人用の脱出ポッド」ヘルマリィが誰にともなくつぶやく。 「本来は発見されやすいようにフレアやビーコンを出すのだけど、全部切ってる」 棺桶だけは、イザベルにはどことなく見覚えがある。サーヴァイン・ヴァーズギルトがいつも携えていたいた棺だ。あれは宙に浮いたりはしないが。いつか会う時があったら提案してみるか。 ギルの棺がゴーレムから野営地まで半分の道のりに達したとき、それは高度を下げはじめた。 「様子がおかしい」 「取りに行くしかない」とハイバル。イザベルはハイバルを見た。 「思い通りに行かない事が多くないか?」 「自主性に任せてるのよ」 こいつの答えは半分だけ合っている、とイザベルは思う。 確かに、敢えて周りを使役している向きはある。金の流れ、情報の流れ── イザベルはヘルマリィほどその分野には明るくないが、ハイバルがそういった形のないものに対して大きな力を持っている事は確かだった。それらを把握し、処理し、干渉する。一方、物理的な事象についてできることは限られている。だから、周囲を手足のように使役する。 ボーリャックの魔導車『86』に火が入った。それに応えるようにオーニソプターの格納庫ハッチが緞帳のように開く。四角い開口に縁どられた地平線は、濃紺の絵具だけを使った陰鬱な風景画に見えた。バリスタは、運転席のシートが腰と背中を包む感覚を確かめる。一瞬目を閉じた後、レバーを操作して自分の身体に合わせた。 助手席のドアが開き、ボーリャックが乗り込んでくる。 「一度触ってみたかったのよね、これ」 クラッチとアクセルを舐めるように踏む。魔族の女の白く細い指が、シフトレバーをそっと包むのを見て、ボーリャックは目をそらす。 加速。魔導車は未舗装の地面を一直線に突き進む。バリスタは完璧なクラッチ操作でギアを最速に入れた。 「どうして付いてきたの…」バリスタは聞いた。 「俺の車だ」 バリスタは不服を沈黙で返した。 ポッドの回収役は、工学の知識があるバリスタが最適だった。イザベルはヘルマリィを護衛する役目がある。バリスタを守るため、ボーリャックがついてくるのは必然だった。 いや、別に一人でも来る事だってできたのだ。バリスタはこの男に敢えて言わせてやりたかった。ところがこのクソッタレバカは車が大事だと言う。 「どう思う…」 「何が?」吐き捨てた言葉の大きさにバリスタ自身が驚く。 「あの中に本当に亡命者が乗ってると思うか」 わからない。バリスタは、ハイバルが伝えた亡命者──フリッツ博士のプロファイルを反芻する。ゴーレムの技術遺跡から確立した空間跳躍理論を何世代も前進させた技術者。魔族にもジョウント能力を有しているものは存在するが、それは能力でしかない──それもあてずっぽうで、危険な。 例えば手を握る時、意識は指にある。これは能力だ。技術は、実際に指を動かしているのが前腕の中に織り込まれている筋肉である事を理解し、一般化することにある(あの女騎士の腕を思い出す。慌てて意識から消す)。フリッツはポータルを分析し、ジョウントを再現しようとしていた。その途上では大きな事故もあった。しかしバルロスの科学者集団は彼に研究を続けさせ、そして一定の成果を得たらしい。そんな守られた環境を享受してきた者が、こうまでしてバルロスから出たい理由は何だ。 「おい」 「わかってる」 ポッドの降下速度が増加した。『86』は最高速を維持していた。視界の中でポッドが止まっているように見えるのは、Z平面上で『86』とポッドがコリジョンコースに入っているからだ。 ポッドが乾いた泥の地面に、落下と言って良い勢いで激突する横を、『86』は後輪を荒々しく振りながら通り過ぎ、止まった。 ポッドは数秒間、斜めに逆立ちした後、重力の存在を思い出したように横たわった。 「…おい」 「何?『86』の鋼製はそんなヤワなの?」 まだ何か言いたそうなボーリャックを引き連れてバリスタは工具入れを手にポッドに近づいた。両腕の産毛が逆立つのを感じる。空中を移動するのに使っていた動力源が生きているのか、何かの力場が働いている。ポッドは海岸に打ち上げられた海獣に似ている。滑らかな黒い表面は、触れると野生動物のような熱を持っていた。手探りで見つけたハンドホールを開けると、白身の肉のような空間の中にレバーが見えた。読めない言葉で何かが記されているが、バリスタにはそれが何か理解できた。 バリスタは振り返る。ボーリャックは黙って頷いた。バリスタがレバーを引くと、ポッドの上半分が吹き飛んだ。ずれた帽子を直しながらバリスタは中を覗き込んだ。 「フリッツじゃない」 それは少女の形をしていた。中産階級の育ちの良い娘が、街の演奏会に呼ばれめかしこんだ、といった格好。薄手のブラウスは首元までボタンを留め、墨色のプリーツスカートを履いている。しかし四肢や頭部から想起されたのは、イザベルの腕、ヘルマリィの身体だ。彼女は、全身がそれだった。機械とも生物とも判別しがたい微細な繊維が、両生類のように瑞々しく透き通った皮膚の下を埋めており、磁器を思わせる骨格がそれらを纏っている。胸まで伸びた髪は、星灯りを受けた構造色が青く輝いており、その一房が滲んだ汗に濡れて額に貼り付いていた。バリスタは彼女の頸に触れる。柔らかく、温かい。そこに脈動を認める。 「生きてる」 ボーリャックが何かを斬り捨てた。バリスタが振り向くと、ボーリャックの背後に大小の塊が転がっている。ひとつは人間の頭部だ。若い男。獰猛に歪んだ表情は口元が緩み、舌がはみ出ている。そのすぐ側に、残りの肉体が崩折れていた。その手に握られた剣は微かに赤い光を放っている。 バリスタは嫌な予感がする。終わったという感じがしない。ボーリャックも周囲を警戒しながら、死骸への注意を絶やしていない。 やがて、頭部が溶け始めた。初めに皮膚が焼け、肉が溶け、露出した頭骨が角砂糖のように崩れていく。それらは粘度の高い液体に収束し、胴体の方向に向けて波打ち始めた。 ──胴体じゃない。剣の方だ。 バリスタは反射的に剣を見据える。目の奥に力を込めると、ブンという音を立てて剣の周囲の地面からアーク放電の蛇が生え、剣を狂おしく撫でた。オゾンの香り。剣の発光が消え、男の溶解が止まった。バリスタの鼻腔から血液が筋になって流れる。目眩を数秒間耐える。 「大丈夫」ボーリャックの視線に応えて、手の甲で拭う。 ボーリャックが少女を担ぎ上げ、二人で『86』に向けて走った。 後部座席に少女を横たえ、『86』は発進する。 「3ユプシロンだけ西に向かって走れ」 ボーリャックはそう言うと助手席から半身を乗り出し、後方に向けて小重弩級を構えた。狙いをつけ、断続的に金属芯を発射する。バリスタは理解している。敵は、自分たちが西へ向かったと認識するだろう。しばらくは。 バリスタはタイヤの感触が硬くなるまで4ユプシロン西進した後、『86』を無灯火に切り替え、南へ方角を変えた。 取り残された死骸のもとに、人影が歩み寄る。剣がダウンしているのを認めると、胴体の襟首を掴み上げ、頭部のもとに引きずった。頭部の溶解は半分で止まっており、溶解した組織のスライムに浸っていた。 人影は胸元からアンプルを取り出し、スライムの中に投げ入れる。長身の男。髪は、顔つきから伺える年齢には不相応に退色していた。 反応がすぐに始まる。スライムは子どもの石鹸遊びのように泡立ち、胴体の頸部と溶解した頭部との間を埋めた。気泡は細分化し、弾けた後に無数の繊維を形成した。それらはやがて集まり、骨肉になっていく。 男は周囲を観察する。魔導車の残した轍はまっすぐ西に伸びている。 足元の身体が大きく痙攣し、男は思考を中断する。 それは仰向けに寝返り、目線だけを男へよこす。 「カイモス、なんでお前が?」 「馬鹿め、剣をやられたんだ、レーベン・フィール」  レーベンはニカッと笑い、両脚で反動をつけて立ち上がる。首から上の皮膚だけが、乳児のように艶やかだった。 「その剣は貴様の弱さだ。能力に頼るな。腕を磨け」 「うるせえ」落ちていた帽子を被り直し、「まあ、そうだな」 「どんな奴だった……」カイモスは静かに訊いた。 「ちょっと待て。まだニューロンを繋げてるとこだ」レーベンはそうすると脳の再生が進むかのように、目を閉じて首の筋肉をほぐす。 「男の方はわからん。ヤキを入れてやろうと思ったらやられてた。人間の反応速度とは思えん。だが女は魔族だ」 「なぜそう思った……」 「匂いだ」 カイモスは地平線の先を見やった。 「大尉に報告だ」荒野の冷たい風が、軍服の襟を叩いた。 廃墟群の中心には、屋根が半壊した礼拝堂が遺っていた。 外壁は漆喰のあちこちに、日干し煉瓦のケロイドが走っていた。ファサードの開口はいつとも知れない過去に扉を取り去られ、石張りの床に土埃が堆積していた。 イザベルは礼拝堂に残されていた箒で、最後のステンドグラス片を土埃とともに掃きだしていた。バシリカ式の建物の壁は厚い。側廊の小窓は人が通るには狭く、高さもある。防衛に適する建物だ。 装飾のない祭壇に、古いイコンが祀られており、イザベルに埃を取り除かれていた。預言者の遺骸を抱く聖母。 背後にヘルマリィが立っていた。その手に硬く絞った雑巾を持っている。 「中で休んでいてください。ボーリャックたちがそろそろ戻ってきます」 「わかった。お茶を淹れておくわ」 地平線の向こうから魔導エンジンの乾いた駆動音が近づいてきた。イザベルは箒を壁に立てかけ、剣を取る。 『86』が姿を見せた。正面の開口より僅かに狭い車体を、ゆっくりと滑り込ませる。助手席のボーリャックと目が合う。イザベルは一瞬目を止め、顔を逸らす。彼の目は、追跡されていることを語っていた。 バリスタが降りる。鼻の下に乾いた血の跡があった。 ボーリャックは後部座席から客人を運び出す。両腕に抱えられているのは若い娘だった。 イザベルは事前に入口の死角に入るように配置していた長椅子を二人に示す。ボーリャックは、拭きあげられた座面へ娘を静かに下ろすと、すぐに入口に向かった。『86』から小重弩弓を取ると弦の張力と重金属芯の残弾を確かめる。イザベルはそれを見て、余っていた長椅子を開口に斜めに立てかけ、バリケードにした。ボーリャックは動かずに外を凝視し続けていたが、イザベルが戻ろうとした際、僅かに頷いているのが見えた。 ヘルマリィは彼女の傍に腰掛け、頸の下に清潔なタオルを敷いた。イザベルは水差しで少女の口を湿らせる。反射的に飲み込む。 「バリスタさん」ヘルマリィが声をかける。 バリスタの身体がこわばった。ヘルマリィに名前を呼ばれるのにまだ慣れていない。 バリスタはハイバルのオーニソプターから持ち出した簡易医療キットで、少女の体内エコーを診た。軍学校で詰め込まれた医療知識を必死で思い出しながら。 「この子は人間です」 数分後、バリスタは断言した。 「ただし、ほぼ全身がバイオニックオーガン──モーヴの何倍も洗練された──で構成されています。 体内に義臓器がいくつかあり、頭蓋から脊椎にかけて厳重にパックされた何かがマウントされています。おそらく、中枢神経系。彼女のオリジナルの組織です」 「レディヘルマリィのフォロワーにしてはだいぶ攻めてるわね」 イザベルはハイバルに非難の目を向ける。ハイバルはまったく気にせず、 「義臓器の他にも何かあるんでしょ?」 バリスタはしぶしぶ認めるように頷いた。 「ある。でも、なんのためのものかは見当もつかない」 ヘルマリィは少女の作り物の額をそっと撫でた。作り物の手で。 「フリッツは初めから亡命するつもりなどなかった」イザベルは言った。 「この娘をバルロスから出したかったんだ。それも得体の知れない連中──我々に託してまで。こんな大掛かりな方法で」 「狙われていた……」イザベルはヘルマリィに頷いた。 「ハイバルはフリッツ、バルロスのポータル技術のコアを欲していた。利害の一致したフリッツは、自分ではなくこの娘を寄越した。私にはポータル学の知見はないが、状況から彼女がポータルそのものであることはわかる。そしてそれ故に評議会から脅かされていた」 「奴らはいずれここに来る」ボーリャックが口を開いた。入口の側の壁に寄りかかり、外に注意を向けたまま。 「ハイバル、さっき俺たちを襲撃した連中は何だ?」 「人造勇者。廻天計画の副産物。バルロス軍が見つけたおもちゃに電池を入れるために、改造された可哀想な軍人たち。今残ってるのは十数名」 「ここに留まらなければならない理由があるんだな?」 「そうよ」 「いつまでだ……」 ハイバルは答えるのに間を置いた。イザベルには、彼女が言葉を慎重に選んでいるように見えた。 「ここはフリッツの研究拠点だった。事故を起こして、ここに隔離されたのよ。彼はここで人工ポータルの安定化に成功し、再びバルロスに連れ戻された」 「結論を言え」 「言ってる。フリッツはこの場所を指定し、そしてこの子を私に託した」 「ここでポータルを生成するのね。この子を使って」ヘルマリィが後を継いだ。 「そろそろ教えて、ハイバル。あなたは何処に行こうとしてるの?何が目的なの?」 「それは言えない」 「言いたくないということ?」 「言えない」ハイバルは自分を抱きしめるように腕を組む。 「私の本来の機能から決定的にに逸脱する目的を私自身が明示した瞬間、安全機構が起動してフォーマットされる。私はそう創られたの。脳の中に爆弾を埋められているのと同じ」 ハイバルからいつものふざけた態度が消えている。その場を沈黙が埋める。 「私は自分の目的を口にできない。だから、口にしなくてもそこへ至るように、あなたたちを動かすしかない」 ヘルマリィは少し考えて、言った。 「理屈は通っているわ。満足はしていないけど。少なくとも、貴女がいる限り私達は先に進める」 ハイバルは何も言わなかった。ただ、その顔にはサリーハに襲撃された時の表情が浮かんでいた。焦り。畏れ。恍惚。 「待って」少女をモニターしていたバリスタが言った。少女の目がゆっくりと開いた。瞳の色は髪の構造色よりも一層深い青。上体を起こし、周囲の見知らぬ人々に気づくと、その目に動揺が浮かんだ。反射的に膝を抱き、座面の上で小さくなった。 「大丈夫。誰もあなたを傷つけない」 ヘルマリィが優しく言った。近づきすぎない位置に座り直し、籐編みのバスケットを開ける。清潔な布巾を解くと、マーガリンの香りが立ち上った。トマトやレタス、たまごを挟んだサンドウィッチが入っていた。ヘルマリィはそのひとつを優雅な手つきで口に運んだ。 「あなたが目を覚ますまで待っていたのよ」 少女はしばらくヘルマリィを見ていたが、やがてひとつを取り、口にした。手に持っていたものを食べ切ってしまったのを見届けて、イザベルはティーセットをバスケットの横に置いた。 「ごめんなさい、驚いてしまって──」少女の声は緊張で細くなっていたが、アクセントは整っていた。 「これ、美味しいです。とても」 「私はヘルマリィ。この人は私の友達のイザベル」 イザベルはぎこちなく頷いた。ヘルマリィのように微笑もうとしたが、その代わりにティーが載ったトレイを指先で少しだけ少女の手元に近づけた。 「他の人たちも私の友達。後で紹介するわ。貴女の名前は?」 「メトリ」今はまっすぐにヘルマリィを見つめていた。 「父が私をポッドに乗せました」 「貴女は、フリッツ博士のお嬢さんなのね」メトリは頷いた。指先を温めるようにカップを持っている。 「家に帰って、出会った人たちと逃げなさいと」 おそらく、フリッツはもう死んでいる。イザベルにはそんな気がしていた。頃合いと判断したヘルマリィが切り出した。 「何があったの?」 「父はバルロス評議会を憎んでいました。バルロス事変──あの日、評議会は生成ポータルに過負荷をかけ、どこで崩壊するかを見る実験を強行しました。肥大した量子同調領域が魔族のジョウント能力者と重なって── ポータルから彼らが──真っ黒な甲冑の騎士たちが現れました」 エビルソード。ギチ、と音がした。右手が剣のグリップを握りしめていた。 「保安部や人造勇者達と小競り合いの末に、彼らは消えました。しかし戦闘の影響で、ポータルの安全系統が破壊されました。制御を失ったポータルは裸の特異点に移行して、ホーキング放射があらゆるものを焼き尽くして──」メトリは両手に目を落とす。透き通った皮膚の下を数十万の繊維が織物のように走っている。 「目を覚ました時、私はこの身体にいました」 ヘルマリィは静かにメトリを見ている。ボーリャックは外を警戒したまま、耳を傾けていた。 「父は何度も私に謝りました。私が生き残るために、こうするしかなかったと」 「お父上は悪くないわ」ヘルマリィは柔らかく応えた。しかしメトリは続けた。 「事故が起こるまで、ポータルは無機物しか通れなかった。生き物はなぜか皆死んでしまう。父と評議会は何が足りないのかわかっていた」 「存在の連続性」バリスタが呟いた。 「そう。向こう側の存在がこちら側の自分であるという"認識"が、ポータルの制御機構になければならない。ジョウント能力者に自明的に備わっている仕組みを機械が模倣することは困難でした」 メトリはその青い目をヘルマリィにまっすぐに向けた。 「生きた脳が必要だったんです。でも、ヒジンドー機関が解体され、生体の改造は禁忌になっていた。評議会は抜け道を探していた。"だから"、無意味で危険な実験を強行した」 イザベルは評議会の意図を理解する。嫌悪感が湧き上がる。顔を背ける。 「なんてこと──」バリスタの声が震えている。 評議会は、フリッツが娘を生かすためなら、どんな事でもするとわかっていた。焼け焦げた娘を前にして、彼らはフリッツに迫っただろう。新しい器を提供する条件として、彼女をポータルの制御体とすることを。ポータル完成の供物に、フリッツの娘は目をつけられていた。初めから。事故は評議会によって、意図的に設計されていた。 ヘルマリィはメトリの肩を優しく抱いた。二人の頭上で、祭壇のイコンが静かに星明かりを返していた。 ボーリャックが岩壁を軽くノックし、警告した。イザベルは振り返り、ボーリャックの素早い手振りを読む。北方1ユプシロン、少なくとも6名、高い脅威度。 剣を握り、ヘルマリィたちを見る。 「時間を稼ぎます」 入口に向かう。外気には僅かにカクタスが香っていた。