*   *   *   *   * 「さてお前らには色々聞きたいことがある…」 ミレーンたちは辺境伯と甲冑装着者を全員ケージの隅に集め座らせる。甲冑は全て引き剥がしパーツをバラシてすぐに着用はできなくさせている。 「拉致された人の居場所は分かったんだよな、スナイプ」 「あぁこの部屋を出てもう一つ下の階に留置場がある。そこにぶっ倒れてる女が40人ばかりいたな」 「40人? 領内の町や村から根こそぎ集めたらそんな数では済まないだろ。それに子供はどうしたんだ?」 施設内に残る被害者が想定よりも少ないことにミレーンは疑問を抱く。 「残念だけど恐らくここにはいないし、生存も期待はできない…」 ラーバルが懐から資料の入った分厚い紙袋をミレーンに渡す。その中に『メックスーツ納品書』と書かれた書類があった。 「それによるとこいつらの着ていた黒い甲冑…正式にはメックスーツと呼ぶらしいが、そいつの代金が一台当たり女子供50人らしい。それが4つあるから合計で200人はもう売り飛ばされている…」 「売り飛ばされたってどこのどいつにだ?」 「納品先は魔界の貴族らしい。後はもう分かるだろ…」 魔族の中には食料や嗜好品として人間を食す者がいるという。肉質の柔らかい女子供は奴らにとっては高級食材みたいなものであろう。 「お前ら人の命を何だと思っていやがる! こんな物のために大切な領民を売り渡したというのか!」 ミレーンは辺境伯の襟首を掴んで引きずり起こす。 「仕方がないじゃないの! ルタルタには対抗するための強力な兵器が必要なの。そんな物を手に入れるにはこんな手を使わないといけないのよ」 辺境伯が反論する。 「それは嘘だな」 ラーバルが彼女の弁解をあっさり否定する。 「ルタルタの恐ろしさは個の強さではなく機動力と数の暴力だ。仮に対抗するなら点でなく、防塁を設けたり強力な銃火器を兵員に行き渡らせる線や面での戦略を立てる方が効率的で確実だ」 「恐らくこのスーツは一人で戦術規模の破壊力を持つような腕利きを想定しているに違いない。例えば王家親衛隊のような…」 ラーバルの見解を辺境伯は違う!と否定するも反証の論拠は出てこなかった。 ついでにこういうのもあるとラーバルが違う資料も取り出した。それは先代の取引の記録であった。 「それによると先代もここまで派手ではないが、小遣い稼ぎにちょいちょい取引を行っていたようだ。もっとも商品は行き場のない流民やルタルタの捕虜だからグレーゾーンと言ったところだがな」 「代替わりの時期に周りの逆臣が誅される様子を見てしばらくおとなしくしていたが、結局金を稼ぐために取引を再開。だがこれが今の皇帝に知られたら処されるかもしれないと疑心暗鬼になり、内偵に来るかもしれない王家親衛隊や誅伐に来た陛下を始末しようとしてこれだけの装備を揃えたんだろ」 この身勝手な理由にミレーンは完全にキレた。 「おい、こいつらは全員ぶち殺しても構わないな!」 ミレーンの隠そうとしない殺気を見て、ラーバルは羽交い締めにして抑えさせる。 「待て!こいつ等の行いはちゃんと法の下で裁かないと意味がない! 今殺したところでアンタに貴族殺しの罪が無駄に上乗せされるだけだ!」 「そんなこと知るか! こいつ等の行った畜生にも劣る所業だけでない!俺の義妹にもなるかもしれない人間を毒牙にかけようとしやがったんだ!」 ミレーンの言葉にラーバルは少しうれしさを感じたが、それはそれとして今は彼を抑えさせなければならない。 「こんなつまらない奴らのために手を汚すんじゃない! アンタは王様になる人間なんだろ!」 「俺はそんな上等な人間なんかじゃない…」 ラーバルの必死な言葉にミレーンは拳を収めざるを得なかった。 「そうよ裁判よ!法廷できっちり争わせてもらおうじゃないの! こっちは中央に伝手はいくらでもあるのよ。アンタみたいな雑兵一人の証言なんていくらでも揉み消してあげるわ!」 辺境伯の発言を聞いてラーバルはにやりと笑う。 「だそうですよ、聞こえましたか? やっぱり中央にもまだ逆臣は隠れ潜んでいるみたいですね…」 ラーバルは胸元からス魔ホを取り出す。通話相手はサンク・マスグラード帝国皇帝レストロイカであった。 「話は聞かせてもらった。すぐさま王家親衛隊を総動員して派遣する。首を洗っておとなしく待っていろ。お前の言う伝手とやらも教えてもらわないとな…」 ス魔ホの通話が切れた。 「なぜ…? この施設内は通話できないはずなのに…」 予想外の展開に辺境伯は頭の中が真っ白になる。 「この中で使われてるローカルの魔線LANをハッキングして外に設置してあるアンテナから通話できるようにしたんだよ。雑兵一人にしてやられたな…オバサン」 *   *   *   *   * このケージに設けている出入口全てからガンガン叩く音がする。 「おいコラァ!早くドアを開けろ!」 「さっさとカギ持って来い!」 「逃げんじゃねぇぞこの賊どもが!」 恐らく辺境伯の配下の兵員たちであろう。秘密裏に作られた施設とはいえ、これだけ派手にドンパチやっていたらバレないはずはない。 「さすがねぇ!我が部下たち! ほらどうする?完全武装の兵士が200名よ。アンタたちを始末したら王家親衛隊とも一戦構えることになるわね。後でルタルタにも派兵の要請を入れないと…」 「ほう国家反逆罪に外患誘致罪もプラスされたか…」 絶体絶命のピンチの中、余裕の表情をミレーンは見せていた。 「がーすけ頼めるか?」 ミレーンの言葉を聞いてライトの目の色が金色に変わる。 「無論。造作もないことよ。して加減はどの程度で良いかな?」 「数が多いから全員無事とは行かないだろ。それに何より俺はこいつ等にはらわたが煮えくりかえるほどムカついたんでな…。死なないぐらいの程度でいいから思いっきり暴れてくれ!」 「了承した。まぁそのぐらいなら我が友も許してくれるだろ…」 閉まっている出入口に向かって歩み出すライトへスナイプは慌てたように声をかける。 「えっ?! ちょっとどうしちゃったのホワイトちゃん? さすがにその数は無理だって! あーもうしょうがねぇ!俺も行くよ!」 駆け出そうとするスナイプの肩をミレーンは掴んで止める。 「心配するな、あの状態のアイツはこの中で一番強い。それも桁外れにな。俺たちが行けば逆に足手まといになる」 ライトいやがーすけが扉を開けるとその先には大勢の兵士が武器を持って構えている。がーすけはその最先頭にいた兵士の顔面が陥没するほどの強烈なストレートを叩きこむと静かにドアを閉めた。 ドアの向こうからは重低音の咆哮が響き渡る。そこからは悲鳴、絶叫、命乞い、何かが壁に叩きつけられる音、重量物に踏み潰される音…。見ない方が精神衛生上良いということだけは分かる惨劇が繰り広げられてるようだ。 10分ほど経つとドアの向こうは音一つない静寂となった。 ドアを開けてがーすけではなくライトが戻って来る。女の姿ではなく男に戻っていた。 「ごめんジーニャちゃん、借りてた服ダメにしちゃった…」 スカートもブラウスもぼろきれのようになっており、せめてもの恥じらいなのかそれを腰蓑のように結わえて股間を隠している。 それを見たスナイプは言葉にできない何かを伝えたいかのように、顔を俺とライトの方を何度も見返したのであった。 「何だよもぉおおおおおお!またかよぉおおおおおお!」 事態はとりあえず落ち着きを見せたので、俺は小部屋の隅に置いてあった桃源香炉を拾いあげる。 俺の中の忌器がこいつと共鳴をする。どうやら本物で間違いないようだ。 強化した拳で香炉を叩き壊すと、俺の胸にある輝石にヒビが入るのを感じた。どうやらまた一つ大願に近づいたのだった。 *   *   *   *   * 被害者の身柄確保や捕らえた連中の拘束といった後始末にはやや手間をかけさせられた。 中には02の腕を治したヒーラーの衛生兵もいるそうなのだが、そいつを見つけ出すのには難儀した。 何せ200人いた兵士のほとんどが重傷以上の損害を受けたのだから。 主犯格と衛生兵はそれぞれ別個の牢へと叩き込み、特に甲冑装着者は逃げられぬよう今までの恨みも込みで念入りにボコボコにしてやった。 ラーバルの話によると王家親衛隊は飛空船を使い治安維持部隊の精鋭も連れて大急ぎで来るが、それでも到着は翌日になるらしい。 それまでは油断できないが、とりあえずひと段落は付いたようだ…。 休憩をしている俺の元にスナイプがやって来る。 「見張りは大丈夫なのか?」 「あぁ目を覚ました冒険者の子たちが代わりにやってくれてる。今までの仕返し代わりにケガ人どもをいいようにイジメているよ。あんなことがあったのに女ってのは強いね…」 「ところでアンタ、忌器を探してるんだってな?」 「そうだ。ライトから聞いたのか」 「あぁ。こうして知り合ったのも何かの縁だからね、とっておきの情報を教えてやるよ。バルロスへ行ってみな。そこに星骸炉っていう凄まじくヤバい忌器がある」 「なぜそれを教えてくれるんだ?」 「さっきも少し話したけどヒジンドー機関っていう頭のイカれた連中の生き残りが、それを使ってとんでもねぇことしようとしているのさ。俺はアイツらとは関わり合いたくないが、それを見逃すほど世の中に絶望しているわけでもない。だったら誰かに任せたい、それだけの話さ…」 *   *   *   *   * 翌日、飛空船にて王家親衛隊と治安維持部隊の合同チームがやってくる。 ラーバルは事件の発見者として捜査員たちと互角にやり合っている。その堂々とした姿には今まで培ってきた弟の努力と成長を感じさせる。 本質を見抜く洞察力、周到な計画性、相手を丸め込む交渉術、そして何より諦めない心。やはり次期王にはお前がなるべきだと改めて感じた。 もう用済みだなということで、発とうとする俺たちを見てラーバルがやって来る。 「お前らどこに行くんだよ?!」 「ここは国境地帯だろ、だから俺たちは次の国に行くのさ。これでお役御免だなラーバル…」 「そうか…そうだったな…。色々ムカつくことも多かったけど、悪くはない旅だったよ…」 「それは俺もだ…。そろそろ行くかライト」 ライトがうなずくと俺たちは歩みを始める。10歩ほど進んだところで言い残したことがあったのを思い出し俺は足を止めた。 「そうだ、ラーバル。レス兄いや陛下に伝言を頼まれてくれないか? 以前別れ際に一度家に帰って家族に顔を見せろと言われたんだが、実はな…俺は…一度実家に戻ったけどそこからまた家出したんだ!」 「アンタ!バカじゃねぇの!!!!!」 ラーバルは怒りを通り越して呆れるしかなかった。 歩みを再開しラーバルの罵倒が聞こえなくなるぐらいには距離が空く。 俺は懐からス魔ホを取り出すとレス兄に向けてメッセージを送った。 『抱いたー!抱いたー!』と。 3日後、帰還を果たしたラーバルは報告のためにレストロイカ帝の執務室に入って行く。 そこで言われた第一声は「やったんか?!ラーバル!」であった。 あのクソ長男、次会った時は必ず殺す…とラーバルは心に誓った。 *   *   *   *   * 国境越えの日から3日後、俺の魔INEにレス兄からのメッセが届けられた。 そこには「お前に少し話がある」とだけあった。 俺は何かとてつもなく嫌な予感がしたため、通話機能をオフにして既読スルーしたのであった…。