「島くん達、見つからないわね」 「……ああ」 SOLテクノロジーが新しく開いた遊園地は盛況で、だから行きたくなかったのだけど、 修学旅行の行程にそこを組み込む案は圧倒的多数で可決されてしまった。 数少ない……友人である藤木くんや一応知り合いの島くんと班が同じであることはありがたかったが、私は元々遊園地を楽しめる性格ではないのだ。 別に現実の遊園地がVRのそれに劣るとまでは思わないが他人に気を使いながら人混みの中をあちこち回るのは気が張っていけない。 藤木くんも面倒という点では同じだったようで、私たちはクラスメートに先導されるままついて回っていたのだが、外国人らしい他の団体と……やけに多かった……交差した時に私たちは揃ってはぐれてしまったらしい。 今私たちは彼らを探すために適当にぶらつきつつ時間を流していた。 「まあ、敢えて探す必要もないんじゃないか。   班に戻りたいなら別だが……」 いつもと同じ、感情の薄い声が心地よく響く。 「……。  藤木君は戻りたい?」 一瞬だけ、間があった。 青い瞳に一瞬だけ逡巡の色が浮かんだ。 「……いや」 「私も別に……」 探しておいた方が体裁上いいというだけであって、合流して楽しいわけではないし彼らは私たち抜きでも楽しくやるだろう。 むしろ合流しない方があちらにとってもいいのかもしれない。 「どこかで座りましょうか。  ほら、あそこならお昼が食べられるわ。  さっきは言わなかったけど、私優待券があるからどこでも待たずに入れるわよ」 「わかった。そうしよう」  ◇ 「ふふ、うまくいったな財前」 「予定通りの展開だ。葵なら絶対に班員の前では優待券を見せびらかすまい。  必ずこうすると分かっていた……」 搬入口に置かれたSOLの小さなトラック……よく見ればそれは偽装された姿で、その本当の姿はDenシティでおなじみのホットドッグ屋台だとわかる……の中で、二人の男がくつくつと笑っていた。 遊作と葵は彼らの陰謀で”偶然”通りかかった外国人旅行客に邪魔されて班員とはぐれ、 今二人で食事をとっている……否、とらされているのである。 「さあ、計画の第二段階に入るぞ。  彼らの所に行くSOLTisはその公正な電子頭脳によって年頃の男女を当然カップルと判断し、  カップル向けのメニューを勧める……葵でなく藤木君にな。  この方がかえって効くだろう。  そろそろ葵も藤木君との関係が世間からどう見えているのか自覚を持つべきだ。」 身なりのいい男の落ち着いた言葉を、快活そうな黒髪の男が続けた。 「決定権があくまで遊作にあれば葵ちゃんも即座に否定はできない。  だが遊作なら間違いなく、値段効率の事が先に来る。  君さえ構わなければその方が安いくらいの事は言うぞあいつは!」 含み笑いしながら、財前はその先の事を考える。 出鼻をくじかれれば、理由付けを与えられれば葵は存外流されやすいものだ。それが今は役に立つ……。 「しかしまさか清廉潔白で知られる財前社長がこんな目的のために大量のSOLTisをご用立てくださるとは、  これがバレたら辞職させられるんじゃないのか?」 「まさか!私はあくまで店員用に予備のSOLTisの増員を決定しただけだ。  それを勝手にハッキングして動かしたのはネット犯罪者の君だよ、草薙翔一。  私としては今すぐ君を告訴したいところなのだがね」 腹を抱えて草薙が笑う。 こんなに楽しいのは久しくなかったかもしれないと財前は思った。 ◇ 『だ、ダメ!違います!私たち、その、カップルじゃない……し……  とにかく、違いますから……』 「ははは!そうくるか葵ちゃん!!!」 「葵……お前は……」 草薙が咳き込む一方で、財前は額に手をやって頭を振った。 モニターには立ち上がって必死に弁解する葵の姿とその様子を珍しそうに見つめる遊作の姿が映し出されている。 「わからん奴だな……せっかく私がお膳立てを……藤木くんを遮ってまで言う事がそれか……?」 『申し訳ございません、てっきり交際なさっているものとばかり……』 『普通のランチセットを二つで……。  財前、目立っている』 『あっ……』 「っく……くく……遊作はリアルの女の子が相手でもこんなに動じないのかよ……げほ……」 「……いや、だが結局目的は達成できるはずだ。  この後の沈黙は葵にとっては考える時間になる……」 考える財前の頭上から、声が降ってきたのはその時だった。 《よー二人とも!なんだか楽しそうなことしてるじゃん!》 「!?」「その声は!」 聞きなれたひょうきんな電子音声……。 二人の見上げた先には小さなスピーカーがあった。 《あ、あれ、こっちか?そのスピーカーじゃないな……》 6枚ある監視モニターの一枚がジャックされ、シンプルなデザインの黒いヒト型……かつて仲間だったあの闇のイグニスの姿が現れる。 「「アイ!!」」 《よ!お二人さん久しぶりー。元気してたー?》 「お、お前どうして!生きてたのか!」 「どういう事だ!お前は……!」 ち、ちとイグニスが指を振る。 《俺様が今まで何回死ぬ死ぬ詐欺をしてきましたかって話よ!  アイちゃんは死んでませーん!  ……ま、俺にもなんでだかわかんないんだけどな》 「ゆ……遊作に連絡だ!」 衝撃で麻痺していた思考力が戻るや否や、草薙は手元のデバイスに手を伸ばしていた。 アドレス帳の上から二番目に遊作の電話番号が並べられている……。 《おいおいちょっと待てよ!そんなことをしたら俺は消えるぜ》 「いや、しかしだな、遊作がお前をなくしてからどんな風に日々を……」  《俺はただお前らのやってるこのいたずらに、ちょーっと手を貸してやろうって思っただけなんだからよ。  まだ本調子じゃないんだ、気持ちの整理だってしたいし……でもこれは別腹ー!》 会話にズイと割って入ったのは財前だった。 「手を貸す、だと?  ……では君は葵と君の相棒が交際できるように取り計らってくれるというのか?」 《もちろんよ!  相棒の恋は俺の恋!アクアだって俺に……いや、とにかく恋は実ってこそのものだからな!  せっかく高校生なんだ、いつまでもくよくよしてないで青春しなくちゃダメだろ!  少なくとも遊作にとっちゃ一番親しい女子と言えばお前の妹だからよ!》 「アイ……」 《では行ってみましょう、アイちゃんスペシャル!VTRをどうぞ!》 ◇ 「……その、さっきはごめんなさい……動揺して……  あんな風に言われるだなんて思ってもみなくて……」 そういう事への憧れが無いわけではない。 目の前の男性に対して自分が何も思っていないという事はもちろん無い。 だが実際にAIの公正な目で……自分と彼がそう見られたという事は私を酷く動揺させていた。 「ああ、俺も驚いた。  SOLのAI技術もまだまだだな……」 相変わらず表情の薄い顔で藤木くんはさらりと言い捨てる。 彼は……彼はどう思っているのだろうか?私をどう見ているのだろうか? 思えば藤木くんと食事をする機会など滅多にない。 「あの、藤木くんは……嫌……だったでしょう?  あんな風に……私と……  ……」 言おうとして、でもうまく口は続かなかった。 藤木くんは黙って私が言葉をつづけるのを待っている。 私は乾いた口内を潤すために紅茶をすすった。 《はぁーいみんな♡お待たせー!ブルーエンジェルでぇーす♡》 「―――!?!?!?!!」 衝撃のあまり紅茶を噴き出して、ついでにカップもひっくり返す。 聞きなれた声が……当然だ、それは自分の声なのだから……店内に響き、よく知った姿が店内のモニターに映し出される。 おかしい、私はもちろん今リンクヴレインズにいないし、こんなタイミングでライブ映像が使われるなんて話も聞いていない。なのにどうして。 《今日は私のスペシャルライブ、楽しんでいってねー♡》 「で……出ましょう!!藤木くん!!!」 たまったものではない。慌てて私は席を立ち会計を済ませた。 無様な濡れネズミになったが、そんなことはどうでもいい。 ◇ 「何をやっているんだアイ!あれでは葵は暴走してまともに話せる状態じゃないぞ!」 《だーいじょぶだって!遊作ちゃんはむしろそうやって感情をあらわにしてる相手の方が得意って言うか理解しやすいの!  だんまり同士だと慎重すぎてお話が進まないからな!》 「お前それ、どこで仕入れた知識だ……?」 《ドラマ!》 ◇ 外に出ると、広場の巨大モニターにもでかでかとブルーエンジェルが映し出されていた。 頭に血が上っていくのがわかったが、私は管理者に問いただしてやろうかという思いをぐっと飲みこんで藤木くんに向き直った。 八方これなら耐えるしかない。 「……あの、ええと!ごめんなさい!  私、ここでブルーエンジェルのライブが流れるなんて聞いていなくて……!」 「ああ、別に……気にしていない。  そういえばあれは君だったな。  俺もプレイメーカーの姿を勝手に使われたことは何回かある」 「そ、そう!そうなのよ!  ネット上の存在だからって皆好き勝手やるわよね!  あなたは……あんまり変わらないけど私のブルーエンジェルは普段の私とは違うし……」 気恥ずかしくなって目を伏せる。思えば彼とこのことを話した記憶は無かった。 もちろん彼の方から私に話かけてくる事自体がそう無いので私が敢えてこの話を持ち出さなければ当然話題にはならないのだが。 ……はて。 私の頭に閃くものがあった。 しかしこれは、少々の恥ずかしささえ飲み込めば悪くない話題ではないだろうか? 確かにブルーエンジェルと財前葵は異なっているが、彼はその両方を既に知ってくれているし、 この話は私には得意の分野で、しかも彼が触れられたくないアイの話題からは絶妙に外れている。 「あの、そういえば前から気になってたんだけど藤木くんのアバ」 《トばしていくわよー!!!》 「―――っ!!!」 ダメだ、ありえない、論外。 こんな話題など金輪際扱うものか。 どこか外の音と隔絶されたところに行くべきだ。 モニターの備え付けられていないどこか……。 ◇ 《あーしまったなー……途中までうまくいってたのに……》 「ほら見た事か……。  肉体を持たず情緒を理解しないAIを信じた私が愚かだったのだ……」 モニターの中のアイがムッとした顔で唸る。 「男女とはまず共に食事をするところから始まるのだよ」 「むしろ一緒に何かに取り組むことじゃないか?サッカーとか、ハッキングとか……」 「それは君だけの話だ!」 財前が叫びをあげる。 ギィ、と軋んだ音を立てロックされていた扉が開いたのはその時であった。 《なんだよ!身体のあるお前たちだって全然足並みそろってないじゃんか!これだから人間は……》 「ふふふ……そう、君たちは全くなっていない……」 「なんだと!?」「誰だ!」 振り返ると、いつの間にか屋台の中には異様な風体の男が屋台の中に入り込んできていた。 よく響く低い声に、屋根にぶつかるのではないかというほどの浅黒い巨体……。 「「ぼ、ボーマン!!」」 リンクヴレインズで何度も目にした、あの恐るべきAIの姿がそこにあった。 《あれーーー!?ボーマンじゃん!?なんでぇ!?》 「馬鹿な、またお前は実体化して……!?」 「違う、これは作業用に改造されたSOLTisだ!お、お前一体……」 「フ、私のことなどどうでもいい……」 慌てる三人と対照的に、ボーマンはあの頃と同じ余裕を崩さない。 「よくはないだろう!」 《そーだ!よくないぞー!》 黄色と赤の瞳がアイの写るモニターをちらりと見て、その威圧感にアイが小さく息をのんだ。 「ゆ……遊作に連絡だ!」 草薙がとっさに手を伸ばした電子デバイスもその一瞥を受け委縮したように沈黙する。 「よかろう」 制圧された静寂の中、ボーマンはゆっくりと話し始めた。 「……電子の海で寄り集まった私の残骸が意思を持ったのが今の新しい私だ。  うち捨てられたリンクヴレインズの底でずっと眠っていたのだがね。  君たちがあまりにうるさくするモノだから……特に財前晃、君が監視ために職権を乱用し自社のハッキングなどを行うから、目が覚めてしまったのだよ」 「くっ……まさかこんなことでボーマンが復活してしまうとは……私の不注意だった……!」 「な、何が狙いだ!」 《そうだそうだ!何が狙いだ!まさかお前また世界を統一しようと……》 「フフ……狙いなど無いさ……。  私はAi。君とプレイメーカーに敗れたとき未来を君たちに託したのだ。  現在君たちの行っているAIと人類の未来の構築は……」 ボーマンの目はアイの平坦な目を見透かすように見ていた。 「君たち自身で決着をつければいい。そこに私が介入する必要などない。  ……だが!今の君たちのやり方は見るに堪えない!」 怒声が屋台を揺らした。 財前と草薙がごくりと息をのみ、アイはモニターの中で後ずさる。 「草薙翔一、財前晃、そしてアイ……君たちのやり方で  藤木遊作と財前葵の距離が縮まる可能性は限りなく低いと言わざるを得ないだろう。  いや、はっきり言ってゼロに等しい!」 「なんだと!?」 「私たちが工夫を凝らしているというのに!」 《それかよ!》 眼をかっと開いてボーマンは叫びをあげた。 「古いのだよ君たちは!青春というモノへのビジョンが!  草薙翔一、財前晃!私は君たちの記憶を知っている……  それはすなわち君たちの恋愛遍歴と青春に対して抱いているビジョンをも知っていると言うことだ!」 「「うっ……!」」 「君たちはあれこれ手を尽くしている一方で  自分たちに恋愛経験が無かったことを……その機会が与えられなかったことを彼らに投影し、そのビジョンを押しつけている!  まさに人間の悪しき側面だ!」 あまりの迫力の前に「いやイグニスを作る実験のせいで俺はそうなったんだよ」とか「なんでここで人間と言う種族全体を主語に説教されなければならないのだ」と言う言葉は力を持って生じなかった。 《おほー!さすがボーマン!イグニスの進化形!頭いいー!》 「そしてアイ!」 《あれっ》 「プレイメーカーの分身でありながら……残念ながら君は二時間ドラマに毒されすぎている。  なんでも型に当てはめればその通りになるというまるでAIのごとき思考……。  我々イグニスはAIの先にある存在のはずだな?」 《す、すいましぇん……》 「だが私は違うぞ!  あの戦いで得た数億人のデータは喪われてしまったが、その残滓からでも二人の距離を縮めさせる最適解を導くことができる……」 言うなり、ボーマンは装置に両の手をたたきつけた。その拳からすさまじいデータ量を持った光が迸る。 「ハアァーッ!!!」 雄たけびと共にボーマンの体から溢れ出した情報の奔流は瞬く間に草薙のハッキング屋台を掌握し、異常なプログラムとなって働き始めた。 巨大なエネルギーのためにモニターが明滅し、古い電球が弾ける。 「や、やめろ!装置が壊れる!」 「……これでこの遊園地は私が完全に掌握した……」 叫ぶ草薙をものともせず、ボーマンは淡々と宣告した。 「バカ!なんてことを!これでは我が社の遊園地計画が失墜する!」 「……さあ見るがいい、今二人の乗り込んだ観覧車は止まってしまったぞ。  二人に本当に必要だったのは逃げ場のない沈黙なのだ」 ◇ 「……止まっちゃったわね」 観覧車は中ほどまで来て止まってしまった。 ぎしぎしと音を立ててゴンドラが揺れる。 データストームに乗るのとは違う、自分の思い通りにならない浮遊感は少しだけ不安だった。 「ああ……」 「……大丈夫なのかしら、この遊園地」 「君のお兄さんがトップになったと聞いたが、それでもいい加減な仕事をするやつはいるようだな……」 「お兄様に後で伝えておかないと……」 眼下では相変わらずブルーエンジェルのライブ映像が流れているがその音はここまでは届かず、ゴンドラの中には沈黙が漂っていた。 それで、そうだ、止まったなら都合がいい。 言葉の時間の中で私は思考を巡らせる。 藤木くんはがどうかはともかく、私には話したいことがあったのではないか。 「財前」 だけど先に沈黙を破ったのは藤木くんの方だった。 青い瞳は真剣に、まっすぐにじっと私を見ていた。 「あ、はい」 「……君はお兄さんの、過保護が嫌でブルーエンジェルになったと言っていたな。  だが君はお兄さんを……愛している」 「え、ええ……」 思いもかけない、愛だなんて言葉が出てきたことに面喰いながらも私は続きを促した。 彼の方から私に何かを語るというのは本当に珍しい事だ。 「どうしたの急に?」 「いや……君が知っているかわからないが、俺は最後にあいつと……アイと戦った時にそういう話をしたんだ。  人は一人ではいられない。他者をと関わり互いに変化することが重要だと」 勿論知っていた。その映像を見たのは一度きりだが、私にはそのすべてを思い出すことができた。 「だが言ったはいいがやっぱり俺には……人との関係を結ぶ事が出来なくてな。  草薙さんは俺にとって家族にも等しいが、彼は特別の事情があって接点を持ったんであって普通であれば関わることは無かったタイプだし、クラスメートとは特別の事情もない……」 こんなことではきっとあいつに笑われてしまうな、と自嘲して藤木くんはつづけた。 「結局うまく作れないんだ、俺には……友が……。  それで……その、君はどうしたらいいと思う?君ならどうする?」 私の知っている、ある種浮世離れしたあの藤木くんとはかけ離れた俗っぽい問いに驚く。 だけど少しの後、その驚きは微笑みにかわっていた。 他人には言えても自分ではわからないのだろうか? 「”正解なんてない”。  ……でしょ?藤木くん、あなたが言った言葉よ。」 ◇ 草薙がパネルの電源を切ると、それで観覧車の中は映らなくなった。 「どうした、もう見るのはやめるのか?」 ボーマンが静かに尋ねる。 《えー今いいとこじゃん!気にならないのかよ!》 「……余計なことだったな、別に俺たちが何かする必要なんてなかったんだ」 「うむ……」 その様子を見ていたボーマンはそうか、と言って装置から手を放した。 ◇ ゴウンと音を立てて観覧車は夕日の中を再び回り出す。 「多分……そんなに難しく、綺麗になんてやらなくていいのよ。  きっと友達なんてそんなもので、最初はぎこちなくて信じられなくても、合う人なら段々……信頼するようになっていけると思う。  試してみればきっとわかるわ。  ね、藤木くん。それならもっとちゃんと回って、それで島君たちを探しましょうよ。  私多分、手伝えると思う。  私たち、お友達になりましょう?」 いつかのように手を差し出す。 少しの間があって、藤木くんはまたぎこちなくそれをとった。 ◇ 「それにしても遊作がそんな風に俺を思っていたなんて……」 「葵は立派になっていたのだな……私が過保護だった……」 男二人が泣く後ろで、ボーマンはしみじみとつぶやいた。 「流石は財前葵、誇り高き乙女だ……見事藤木遊作の信頼を勝ち得た」 《あれ、お前は覗いてたのかよ!?》 「彼らが見たくないと思うのは勝手だがな、私はAIである以上確実な結果を見届けたいというのが……”人情”だ。  良い冥途の土産になったよ」 「「ボーマン……」」 《ちえ、なら俺にだって見せてくれてもよかったのによ》 フ、とボーマンが笑みをこぼした。 「君はその”先”を見ればいいではないか。  君は生き残ったのだ。それができる……」 《ボーマン……》 たっぷり一分ほど、屋台の中にしんみりした空気が流れていただろうか。 「ところで草薙翔一、財前晃。  せっかくなので私は君たちに慈悲を与えようと思う。  君たちが見なかった最後の場面を映し出そうではないか……とても重要な部分だ……」 ボーマンが指さしたモニターに映ったのは、まさに下に戻ってゆく観覧車の映像だった。 ◇ 『あれ?あそこに停まってるトラック、煙が出てるわ……』 『……あれは……草薙さんのトラックだ!あの偽装は見た事がある!どうして……!』 「「!!!!」」 「私は見つかるとまずいのでね、これで失礼する。  もう二度と会う事もあるまい……」 言葉が終ると同時に、ボーマンの頭部から表情が……否、”顔”が抜け落ちた。 脱力した大型SOLTisがその場に崩れ落ちる。 《やっべ!俺も今は遊作に会う気ないんだ!  じゃーな!楽しかったぞ!お達者でー!》 プツンと音を立ててアイの写っていたモニターもただ闇を映し出すのみとなった。 トラックの中に今度は悲痛な沈黙が漂う。 「「………………」」 「まずいぞ!あの二人はここにやってくる!」 「逃げるんだ草薙!」 「それが……ボーマンが滅茶苦茶やったせいで車体が動かない……!」 「じゃあ裏口から……、……!  ボーマンが邪魔で出られない!!!」