---- 【1】 ---- ――その晩、ルルイエを突然の地鳴りが襲った。 幸い街に被害は無かったものの、遥か遠い海の向こうに、見慣れない巨大な大地が姿を現したのは、その時のことだった。 ノーティア・ゾーノ 「……ここが、例のポイントか。」 ノーティア・ゾーノ 「島……いや、この規模は大陸か?」 ノーティア・ゾーノ 「ルルイエの傍に、こんなものがあったとは……。」 ――――。 ノーティア・ゾーノ 「何だ? 島に……何か“居る”?」 ユラナ・ゾッタ 「ノーティア姉、どしたの?」 ノーティア・ゾーノ 「いや……何でもない。 それよりも――。」 ノーティア・ゾーノ 「この、妙に懐かしいような感覚は、いったい何なんだ……?」 ――――。 ――それから数日が経った。 主人公 「ノーティアたちが行方不明って本当か!?」 メイ=ユル 「あら……血相をかえて、どうしたんですかぁ?」 ネオン 「ちょっと、先走り過ぎ……。」 ネオンに宥められて、俺はおおきくひとつ深呼吸をする。 ネオン 「ほら、例のアレを調査に行ったんでしょ? ノーティアと少女隊の先遣隊が。」 メイ=ユル 「ああー、ルルイエの北の海に現れた、巨大な島――いえ、大陸のことですねぇ。」 メイ=ユル 「行方不明とは大げさです……ただ、連絡が無いだけ。」 それを行方不明と言うんじゃないのか? 先遣隊が向かってから、だいぶ日が経つはずだ。 その間、何の情報も無いと言うのは……。 メイ=ユル 「流石に海を越える距離じゃ、ネットワークも繋がりませんし。 連絡が無いこと自体は仕方ないかと……。」 メイ=ユル 「それに、ほら……便りが無いのは元気な証拠と言うじゃありませんか。」 主人公 「それとこれとは話が違うような気が……。」 ネオン 「アレが現れてから、ルルイエにもシトに混じって変な奴らがちょっかいかけてくるようになったじゃない?」 ネオン 「関係が無いとは思えないんだけど……?」 メイ=ユル 「そんなに心配なら……第2期調査隊も派遣しますかぁ?」 メイ=ユル 「迎えに行って先遣隊に帰って来てもらえば、多少は情報も得られると思いますし……。」 主人公 「そうだな。 それが良いと思う。」 メイ=ユル 「分かりました……では、次の調査隊を組織している間に、ルルイエに現れた『変な奴ら』のことも調べておいてください。」 メイ=ユル 「彼らが『アレ』からやって来たのだとしたら……少し、厄介なことになるかもしれませんので。」 主人公 「厄介なこと……?」 メイ=ユル 「とにかく、よろしくお願いします〜。」 イマイチ要領を得ないが、まずは動いてくれるようで安心した。 ノーティアたちが無事であれば良いが……。 ---- 【2】 ---- ムルミィ・ゾォム 「ぴぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?」 ルルイエの街に、ムルミィの悲鳴がこだまする。 少女隊のヴァイス 「ノーティアさんもユラナさんも居ないので、序列的にあなたしかいないんです。 よろしくお願いします。」 ムルミィ・ゾォム 「むりむりむりむり……! むりだよぉ……!?」 主人公 「どうしたんだ?」 喧噪を聞きつけて駆け付けた俺は、ほとんど泣きじゃくるムルミィに優しく声をかける。 少女隊のヴァイス 「例の大陸の、第2期調査隊のリーダーにムルミィさんが選ばれて。」 ムルミィ・ゾォム 「や、やだよぉ!? 絶対、怖いし、痛いし、大変な目にあうに決まってるもん!」 少女隊のヴァイス 「そうは言っても、街の上層部の決定なので……。」 ネオン 「嫌なら、私が代わりにその役目引き受けてあげよっか?」 ムルミィ・ゾォム 「えっ、本当!?」 途端に、ムルミィの表情がぱぁっと明るく花開く。 少女隊のヴァイス 「良いわけが無いじゃないですか。」 ムルミィ・ゾォム 「あぅ……。」 主人公 「まあ、だろうな……ネオンも適当なことを言うなよ。」 ネオン 「えぇ……やりたくないなら、私が手柄を立てるチャンスじゃん。」 ネオン 「そもそも、調査隊に同行するのは変わらないんだし。」 ムルミィ・ゾォム 「え……そうなの?」 主人公 「ああ、次の調査隊には俺も同行する。」 主人公 「その……例の大陸とやらをこの目で見れば、『銀の鍵』の力を使って楽に行き来できるようになるかもしれないだろ?」 俺が持つ『銀の鍵』とルルイエの地下にある『鍵の門』を使えば、俺が認識してるどこか遠くの場所へ、自由に転移することができる。 主人公 「危険だが、見返りが大きい。 なら、やるべきだ。」 ネオン 「私は、後見人として責任をもってその護衛ってこと。」 主人公 「その調査隊をムルミィが引っ張ってくれるなら、俺も安心なんだが……ダメか?」 ネオンが護衛についてくれることは、もちろん頼りになるけれど、ムルミィも一緒だというならもっと心強い。 ムルミィ・ゾォム 「うぅ……危ないのも、怖いのも、嫌……だけど。」 ムルミィ・ゾォム 「おにいちゃんも一緒なら、頑張れる……かも……。」 最後は消え入りそうな声だったが、彼女は頷いてくれた。 ムルミィもムルミィで、ノーティアやユラナ――姉たちの安否は心配なのだろう。 ムルミィ・ゾォム 「な、何かあったら……誘ったおにいちゃんのせいだからね?」 主人公 「わかった、それでいい。」 こうして、謎の大陸の新たな調査隊の派遣が決定した。 そしてこれが、複雑怪奇な長い冒険の第一歩になることを、俺たちはまだ知らなかった――。 ---- 【3】 ---- 俺たち第2期調査隊を乗せた船は、例の大陸へと無事に着岸した。 船と言っても、ほとんど漁船のような小さなものだ。 太平洋の荒波を越えて無事にたどり着けたのは、少女隊ら海のヴァイスのみんなの尽力によるものと言っても過言じゃない。 主人公 「でかいな……これは確かに、島じゃなくて大陸だ。」 主人公 「ルルイエからも、それほど遠くはないよな? オーストラリアとも違う……もっと大きくて、こんなの、俺の知る世界地図には存在しないぞ……?」 ネオン 「そう言って、ルルイエのことも知らなかったでしょ? キミが知ってる世界地図の方が、むしろ現実から遠いものなんじゃないの?」 ネオン 「案外、ルルイエみたいに海の底から浮上してきたのかもね。 ほら、あの晩の地震がそのせいで起こったって思えば。」 主人公 「海底に沈んでいた大陸……か。」 まさか、ムー大陸やアトランティスだなんて言うわけがないよな? まるで都市伝説のオカルトだ。 調査隊のヴァイス 「こっちに来てください!」 ムルミィ・ゾォム 「ぴえっ!?」 隊員の声に驚いて、ムルミィが飛び跳ねる。 紆余曲折あって調査隊のリーダーを引き受けた彼女だったが、相変わらずこの調子でとてもじゃないが仲間を引っ張るような余裕はない。 主人公 「これは……。」 そこにあったのは、船の残骸だった。 ちょうど俺たちが乗って来たのと似たようなデザインの小船だ。 ネオン 「これって、先遣隊の?」 主人公 「ひどいな……めちゃくちゃだ。 これじゃ、とても帰ってくることなんてできない。」 ムルミィ・ゾォム 「ま、まさか、おねえちゃん達は、もう……。」 主人公 「いや、あるのは船の残骸だけだ。 だったら……先遣隊がここを離れてから壊されたか、壊されたからみんなで陸に上がったか、どちらかだと考えよう。」 彼女にとっては身内に起きたことだ。 俺は、ちょっとでも前向きな考えを示せるよう、言葉を選ぶ。 ネオン 「だとしたら、私たちの船も壊されちゃうかもしれないね。 この大陸に棲んでいるかもしれない、何者かに――。」 それは、この場所に俺たちに敵対意識を持つ『何か』が居るということに他ならない。 単なる無人大陸じゃないのか……? ネオン 「で、どうするの、隊長さん?」 ムルミィ・ゾォム 「えっ!?」 ムルミィ・ゾォム 「ど……どうしよう、おにいちゃん?」 主人公 「そうだな……船を壊されたら俺たちも帰れなくなってしまうから、見張りを残していくしかないだろうな。」 ネオン 「ノーティアたちを探す隊と、船を守る隊とに分けるってことね。 いきなり人数をばらけさせられちゃった。」 ムルミィ・ゾォム 「じ、じゃあムルミィは、船でお留守番を――。」 ネオン 「あなたがノーティア探しに行かなくってどうするの! ほら、行くよ!」 ムルミィ・ゾォム 「ぴぃっ!?」 涙目のムルミィをほとんど引きずるようにして、ネオンが海岸から陸地に足を踏み入れる。 背筋に何か嫌な気配を感じながら、俺もその後に続くのだった。 ---- 【4】 ---- 海岸から陸地に足を踏み入れると、すぐに鬱蒼とした森に差し掛かった。 大陸ならば、海沿いには大なり小なり文明が発展しているものだが、ここはどう見ても『未開の地』という印象がぬぐえない。 ネオン 「あっ……あれ見てっ! 先遣隊の子たちじゃない!?」 森に入ってしばらくして、木の根元にもたれかかるようにしてうずくまる少女たちの姿が目に入った。 ひとりふたりではない、大勢の負傷したヴァイスたち。 彼女たちが先遣隊で間違いなさそうだ。 主人公 「どうしたんだ!? 何に襲われた!?」 先遣隊のヴァイス 「う……ぐぅ……。」 彼女たちの傷は深く、再生が間に合っていない。 文字通り、ヴァイスでなければとっくに死んでいるような惨状だ。 ネオン 「これって……刀傷? 敵は、武器を持ってるの?」 ムルミィ・ゾォム 「ああっ!?」 突然、ムルミィの叫びにも似た悲鳴が森にこだました。 主人公 「どうした!?」 ムルミィ・ゾォム 「そんな……どうして!?」 ムルミィがうずくまるようにして見つめる先に、ほとんどバラバラになったひとりの少女の身体が転がっていた。 目を背けたくなる悲惨な状況だが、ひと目で誰か分かる。 探していたムルミィの姉のひとり――ユラナだった。 ユラナ・ゾッタ 「ごめ……ムルミィ。 あたし、ドジっちゃった……。」 ムルミィ・ゾォム 「ま、まって……! いま、くっつける……からっ!」 ムルミィが、散らばった身体のパーツを慌ててかき集める。 それから、まるで模型でも組み立てるみたいに、あーでもないこーでもないと、涙目で組み立て始める。 主人公 「落ち着け、ムルミィ。 俺も手伝うから……それ、脚じゃなくて腕にくっつけるんだと思うぞ?」 ムルミィ・ゾォム 「で、でも、はやくおねえちゃんを組み立てなきゃ……。」 ユラナ・ゾッタ 「まって……ムルミィ。 あたしのこと……集められるだけ集めたら、抱えて逃げて……。 じゃないと、きっともう…………気づかれてると思う。」 ムルミィ・ゾォム 「き、気づかれるって……何に?」 ユラナ・ゾッタ 「あたしたちをこうした……あれは……。」 ユラナ・ゾッタ 「ううん……あたしも分からない。 あれは、なに……?」 その時――ガサガサッ。 大きな音を立てて、周囲の木々が揺れた。 ネオン 「気を付けて、何か来る……っ!」 突然の臨戦態勢で刀を構えたネオンは、音を立てながらものすごいスピードで移動する『何か』を必死に視線で追いかける。 その『何か』は、生い茂る木の枝の間を、無数のロープのようなものを使って飛び回るように移動していた。 ネオン 「くる……っ!!」 ほとんど反射的に、ネオンは刃を振り上げた。 そうしなければ、頭上から降りかかる別の刃を、受け止めることすらできなかった。 鈍い金属音が響き、巨大な剣と剣がぶつかりあう。 ノーティア・ゾーノ 「…………っ!」 ネオン 「ノーティア……!? なんで!?」 驚きに目を見開くネオンをよそに、ノーティアは再び触手を使って、木々の間に姿をくらませる。 主人公 「ユラナたちの太刀傷……まさか、ノーティアが!?」 ムルミィ・ゾォム 「うそ……ノーティアおねえちゃんが、どうして……?」 ムルミィの瞳が、ユラナ同様に戸惑いで揺れていた。 ---- 【5】 ---- ネオン 「ノーティア、何やってんの!?」 ノーティア・ゾーノ 「…………っ!」 突然ノーティアの攻撃にさらされて、混乱したままのネオンは、ほとんど防戦一方で彼女の剣を受け続ける。 ムルミィ・ゾォム 「なんで……どうしてノーティアおねえちゃんが?」 ユラナ・ゾッタ 「わかんない……! ここに着いてから、なんか様子がおかしくって……突然!」 主人公 「とてもじゃないが正気じゃない。 何かに操られてる……のか?」 目の前のノーティアからは、いつもの傲慢ちきな覇気がない。 どこか機械のような、冷たい殺意だけが刃に乗っている。 ネオン 「ノーティアは、私が押さえておく! みんなは、はやく先遣隊を回収して!」 主人公 「あ、ああ!」 俺たちの仕事は、先遣隊をルルイエに帰すことだ。 この大陸のことも、ノーティアのことも、とにかく些細なことでも情報をルルイエに持ち帰らなければならない。 ノーティア・ゾーノ 「……デテイケ。」 ネオン 「えっ!?」 剣戟の最中、ノーティアがうなされるようにつぶやく。 ノーティア・ゾーノ 「ココハ、偉大ナル御方ノ土地……何人タリトモ侵入ハ許サズ。」 ノーティア・ゾーノ 「我こそは、ムーの守護者(ガーティアン)。 貴様ラ全テ……デテイケッ!!」 ネオン 「あんた、ほんとに正気を失ってるのねッ!?」 相手がその気ならと、ようやくネオンの刃に闘気が乗る。 少なくとも話が通じる状態じゃないと判断したのか、それとも本気でやらなければならない相手なのだと判断したのか。 調査隊のヴァイス 「先遣隊、全員回収しましたっ!」 ムルミィ・ゾォム 「ユ……ユラナおねえちゃんも、全部拾い終わった……はずっ。」 主人公 「よし……! 俺たちは、1度船まで戻る! ネオンは!?」 ネオン 「ノーティアをこのままにしておけないでしょ!? 何ができるか、どこまでできるかわかんないけど……とにかく、こいつは私が相手をする!」 ネオン 「この、ノーティアの皮を被った『何か』は……ッ!」 今度はこちらのターンだとでも言うように、ネオンの身体が跳ね、風を切りながらノーティアに迫る。 対するノーティアは数多の触手をうねらせて、ネオンを取り囲むように四方八方から刃で攻めたてる。 主人公 「無理はするなよ!?」 ネオン 「誰に言ってんの! はやく行ってッ!!!」 彼女の言葉に急かされて、俺たちは一目散にその場から走り出した。 ここは、いったい何なんだ? ノーティアのあの口ぶり……この大陸に足を踏み入れたから、『何か』が俺たちに牙を剥いたのか? とてもじゃないが調査なんて言ってられる時じゃない。 今は、傷ついた彼女たちをルルイエに帰すことが先決だ。 生きてルルイエに……帰る! ---- 【6】 ---- 先遣隊を回収した俺たちは、一目散にその場を後にして、命からがら船まで戻ってくることができた。 調査隊のヴァイス 「船は、無事のようですね……よかった。」 あの様子だと、先遣隊の船を壊したのもノーティアなのだろうか。 いや、それよりも気にかかるのは――。 主人公 「あのノーティア――いや『何か』は、自分のことを『ムーの守護者(ガーディアン)』だと言っていた。」 主人公 「まさか、ここって……本当にムー大陸なのか?」 ムー大陸――かつて太平洋上にあったと説が唱えられる、超古代大陸だ。 太平洋の半分以上を占める巨大な大陸で、海底に沈んだとされる。 イースター島など、太平洋の島々はその名残だとされるのが、ほとんど都市伝説じみたムーの伝説だ。 主人公 「もしも……仮にここがムーだとして、どうしてノーティアがあんなことに? 他のヴァイスたちは、何ともなかったんだろ?」 ユラナ・ゾッタ 「うん……なんか、キモチワルイって言う子は居たけど、ヘンになったのはノーティア姉だけ。」 ムルミィの尽力で、だいぶ元の形を取り戻したユラナが記憶を辿るように語る。 ユラナ・ゾッタ 「でも、あの頭でっかちなノーティア姉が、誰かに操られるなんて信じられないよ。 ありうるとしたら、クトゥルフ様か、もしくは――。」 ムルミィ・ゾォム 「……あっ。」 ユラナの言葉に、ムルミィの顔から血の気が引く。 ムルミィ・ゾォム 「ノーティアおねえちゃんの邪神……ゾス三神のガタノソア様?」 口にした彼女の唇は、寒くも無いのに凍えたように震えている。 まるで、口にしてはいけない名前を、恐る恐る呼び上げるように。 主人公 「ガタノソア?」 ムルミィ・ゾォム 「クトゥルフ様にはゾス三神って呼ばれるお子が居て……ガタノソア様、イソグサ様、ゾス=オムモグ様って言うの。」 ユラナ・ゾッタ 「あたしたちゾスの三姉妹は、それぞれの邪神様の因子を授かってるんだよ。 あたしは、イソグサ様。ムルミィはゾス=オムモグ様。」 ムルミィ・ゾォム 「そして、ノーティアおねえちゃんは――ガタノソア様。 1番強くて、1番恐ろしい……ゾス三神の長兄。」 ムルミィ・ゾォム 「おねえちゃんをあんなにできるお方は、他に考えられないよ。」 主人公 「だとしたら、どうして俺たちに攻撃を……? ガタノソアってのは、クトゥルフの子供――ようは味方だろ?」 主人公 「どうにか、正気を取り戻させることはできないのか?」 ユラナ・ゾッタ 「ノーティア姉がああなったのがムーに来たせいなら、ムーから離れればもとにもどる……かも?」 主人公 「どうやって?」 ユラナ・ゾッタ 「倒して、動けなくして、無理やり……とか。」 ムルミィ・ゾォム 「で、できるの……そんなこと?」 ユラナ・ゾッタ 「できるかじゃないよ、やるの! ……ムルミィが!」 ムルミィ・ゾォム 「な、なんで!? むりだよぉ! ユラナおねえちゃんがやってよぉ!?」 ユラナ・ゾッタ 「あたし、こんな状態だもん。 それこそ、できるわけないじゃん。 相手は、ノーティア姉だよ?」 ムルミィ・ゾォム 「やだよ……ムルミィ……できないよ!」 ムルミィ・ゾォム 「お……おにいちゃんのせいだからね……っ!? おにいちゃんが、ムルミィをこんなところに連れて来たから……こんな……。」 唇を震わせながらわめきたてる彼女に、俺は正面から向き合う。 主人公 「俺のせいで大変な目にあうってことなら、そう思って貰っていい。 それで、ムルミィの気が休まるなら……。」 主人公 「でも、だからこそ、連れて来て良かったと思う。 他の誰でもない、彼女の妹である、君にしか――。」 ムルミィ・ゾォム 「おにいちゃん……。」 主人公 「もしも、ムルミィがノーティアのことを大切に思っているのなら、彼女を助けるのを諦めずに居られるのも、ムルミィしか居ないと……俺はそう思うよ。」 彼女は、ひどく思いつめた顔で生唾を飲み込む。 それから、ふいと視線を海の方へ外して――力無く頷いた。 ムルミィ・ゾォム 「わかった……やってみる。」 ムルミィは、少しだけくすぐったそうに笑って、 覚悟を決めたように唇をきゅっと噛みしめた。 ---- 【7】 ---- 俺とムルミィが森に戻ると、ネオンとノーティアは未だ剣を交えていた。 ネオン 「こ……のぉ……! 四刀流だからっていい気にならないでよねぇ!!」 四方八方から迫るノーティアの刃に、流石のネオンの顔にも疲れの色が見える。 対するノーティアは、ネオンに付けられたのだろう、大量の刀傷を負いながらも、顔色一つ変えずに、命の無い人形然として立ちはだかっていた。 主人公 「ネオン!」 ネオン 「は……? え……ちょっと、何で戻って来て――。」 ノーティア・ゾーノ 「――“固マレ”ッ!」 ネオン 「あっ!?」 ノーティアの瞳が、鈍く光る。 彼女のひと睨みに捉えられたネオンの身体が、足先から徐々にひび割れた石に変わっていく。 ネオン 「くっ……これ……上ってくる!?」 慌てて身をよじるが、とっくに動かない脚は棒立ちのままで、石化が徐々に膝から腰、そして上半身へと浸食する。 ムルミィ・ゾォム 「おねえちゃんの石化……だめっ! 全部カチコチになっちゃう前に、視線を逸らさないと……っ!」 ネオン 「そ、そんなこと言われても……!」 すっかり身動きの取れなくなったネオンに、ノーティアが触手を揺らしながらゆっくりと歩み寄る。 ノーティア・ゾーノ 「…………。」 ぬらぬらとした輝きを放つ瞳でネオンを見つめたまま、彼女の刃が一斉に振り上げられ――閃いた。 ネオン 「うぅ……っ!?」 主人公 「ネオンっ!!」 ムルミィ・ゾォム 「だ……だめぇぇぇぇ!!!!」 その時、ムルミィが勢いよく戦場に飛び出して、携えた巨大槌を振るう。 ノーティア・ゾーノ 「…………っ!?」 巻き起こった風圧がノーティアの剣を吹き飛ばし、そのまま飛び退くようにして彼女が距離を開ける。 ムルミィ・ゾォム 「こんなの、嫌だよ……! ノーティアおねえちゃんじゃない!」 ムルミィ・ゾォム 「強くて、怖くて、頭でっかちで……傲慢で! いつだってムルミィのやりたくないこと……戦ったり……怖いのも、苦しいのも、無理矢理やらせてっ!」 ムルミィ・ゾォム 「だけど、やらなきゃいけないことだから……っ! 後悔しないようにって……嫌だけど……逃げたいけど……っ! 逃げないように……背中を蹴飛ばしてくれるから……っ!」 ムルミィ・ゾォム 「そうじゃなきゃ、ノーティアおねえちゃんじゃないからっ!!!」 主人公 「ムルミィ……。」 ムルミィ・ゾォム 「本当にガタノソア様か分からないけど……だとしたらすっごく怖いけど……ううん、何だって関係ない。」 ムルミィ・ゾォム 「ムルミィのノーティアおねえちゃんを……返せぇぇぇぇぇ!!!」 ムルミィが、巨大槌を振り回しながらノーティアに迫る。 ほとんどヤケクソの捨て身の突撃だ。 しかし、勢いだけは天下一品の彗星の如く――気弱な妹星が、傲慢な姉の影に、飛び掛かる。 ---- 【8】 ---- ゴガンッ――巨石がぶつかり合うような、重く鈍い音が響いた。 迎え討つノーティアの剣を木っ端のように弾き飛ばして、ムルミィの巨大槌が相手の貝の兜の上から叩きつけられたのだ。 ノーティア・ゾーノ 「ウ……ア……。」 ノーティアは、小さく呻くような言葉を発したまま、右へ左へ千鳥足でふらつく。 やがて、大きな――魂が抜け落ちるかのような、大きな吐息を吐き捨てて、その場に倒れ伏した。 主人公 「やった……のか?」 ネオン 「……ノーティアから嫌な気配が消えた。 たぶん、やった……んだと思う。」 主人公 「ネオン、石化が解けたのか。」 ネオン 「固まりきる前にノーティアが気を失ってくれたから……今回は、ムルミィに助けられちゃった。」 主人公 「そうだな。 すごいぞ、ムルミィ。」 ムルミィ・ゾォム 「そ、そうかな……えへへ。」 ムルミィが小さくはにかんだ直後のことだった。 不意に、辺りの木々がざわざわとざわめき始める。 主人公 「何だ……!?」 ネオン 「これって、ノーティアに入ってた気配……なのに、どういうこと?」 ムルミィ・ゾォム 「いやっ……これ……ダメだよっ! 地面も、木も……そこら中に、キモチワルイのが広がってる!」 ネオン 「こんなのまるで――大陸そのものが生きてるみたいじゃないっ!」 主人公 「な……っ!?」 ふたりに釣られて辺りを見渡した俺は、確かに見た。 木々の根が触手のようにうねりながら、俺たちを捕まえようと這い寄るその光景を。 枝葉が著しく成長して生い茂りながら、空を覆いつくして俺たちを捉えようとしているのを。 ネオン 「逃げるよっ! ムルミィは、ノーティアを担いで!」 ムルミィ・ゾォム 「う……うんっ!」 ムルミィがノーティアを背負ったのを確認して、俺たちは一目散に海岸目指して走り始めた。 森が俺たちを飲み込むより先に、この場を――この大陸から脱出しなければ。 迫りくる木の根も、覆いかぶさる枝葉も、確かに『何か』の息遣いを感じる。 生きている――このムー大陸は、何者かの意志で命を持っている。 主人公 「なんなんだ……この島は!? これが、ガタノソアの意思なのか……!?」 その問いに答えられる者は、誰ひとりとしていない。 そうして、俺たちが先遣隊を連れてどうにかルルイエに帰って来た後のこと。 調査隊からの報告は、やがて噂となって街中に広がっていた。 ――立ち入れば呪われる、生きた大陸『ムー』。 足を踏み入れれば、辺り一帯に目に見えない『何か』の気配を感じ、また『何か』に見つめられている怖気が背筋を伝う。 悪霊の憑りつく場所――『亡霊大陸』と。