【旅の一口(あるいは二口)怪文書】 【もしもセーブナでサーヴァインとハナコが旅をしていたら、というif】 (1/2)  黒く艶めく長髪を刺々しくハネさせ、全身を黒衣で包んだ少女。  穏やかな草原の昼下がりに似合わぬ†天逆の魔戦士 アズライール†の装いに、  普段と違うところが一つあるとすれば、それは腰に結わつけられた長縄だった。 「…なんだ、これは」 「縄だ。麻製で頑丈、それに安い」 「んなもん見りゃわかるわ! あた…我が聞きたいのは、どーしてこんなことしなきゃいけないのかってことなんだけど!」 「うるせえな…。勘付かれるだろうが」  傍らの岩陰に身を隠した金髪の男が毒づく。  その手には、アズライールの腰に巻かれた縄の反対側が握られていた。  男──サーヴァインが視線をやった先には、数頭の奇妙な牛が一心に牧草を食んでいた。 「狩猟依頼の内容はリボルバイソン数頭程度だが、奴らは無策で突っ込むには危険な動物だ」 「アンタの策ってのはあたしをあの群れに突っ込ませることなワケ!?」 「お前なら死なねえだろ。……多分。まあ、何かあれば回収してやる」 (2/2) 「あいつらの角が変化した銃は単発式だ。一度撃ち尽くせば、しばらくは弾切れになる」  だから群れに突っ込んで驚かせ、一旦全頭の銃を撃たせてから狩ろう……、  というのがサーヴァインの提案した作戦だった。  だが、牧羊犬か何かのように雑に扱われることに当然アズライールは憤慨していた。 「大体ねぇ、ただ驚かせるだけなら石でも…! …あっ」 「…? どうした、何か…、……。……クソ」  岩陰から群れの方を一瞥したサーヴァインが舌打ちし、寝かせてあった【棺】に手を伸ばした。  アズライールが溜息をつき、うんざりした目で草原を見据える。  その眼前には、こちらの騒ぎに気付いたリボルバイソンの群れが興奮しながら迫ってきていた。 「結局、こーなるのよね…」 「…縄代が無駄になった。まぁ…どの道やることは同じか。──行くぞ」  乱射しながら突っ込んでくるリボルバイソンをアズライールが正面から斬りかかるのと、  自己強化の祝詞を唱えたサーヴァインが岩陰から飛び出すのは同時だった。 【海賊カイネ、ヴェルナの公衆浴場前にて】  意地を通すか、恩恵に浴するか。それが問題だ。 「女湯……『女』湯、か……」  港町ヴェルナの公衆浴場の脱衣所の前、カイネ・ドリームガーデンは色分けされた暖簾を睨んでいた。  カイネの肉体は(ほぼ)女である。だが心は男だった。  しかもただの男ではない、海の男である。今やその“支え”を失った身とて、男としての矜持があった。  しかし、男であるがゆえに、カイネは大いなる決断を迫られていた。  今の自分ならば、大手を振って女湯にも入れるのだ。その誘惑たるや、財宝一山にも匹敵しよう。  怪訝そうに脇を通り抜けていく利用客を気にすることなくカイネは己の心に問いを投げかけ、  やがて、ギラついた目を見開いた。 「男湯に入って、中から女湯を覗きに行くか!」 「……あの、すみません、お客さん」 「あ?」   声をかけられて振り向いたカイネに、青い顔をした受付嬢が恐る恐る二の句を告げた。 「申し訳ありません、その義手を付けたままのご入浴は……ちょっと」   【オンリワン王、カマセーヌ侯侵攻の報を聞いて】 (1/2) 「なにぃっ! アテーマ公国のカマセーヌ侯が攻め入ってきただとぉっ!」  プロロ王城の裏庭、秘密の特訓場でオンリワンは素っ頓狂な大声を上げた。  驚いた拍子に繰り出した正拳突きの力加減を間違えてしまい、木人が粉々に爆散する。 「しかもシクサを妻に要求してるだと!? ゆ、ゆ、ゆ、許せん! 今すぐ行ってブッ飛ばしてやる!」   怒りと同時に、隠しきれないワクワク感をオーラに変えてオンリワンは拳を握り込んだ。  日々やることもないので、せめて身体を動かしていたいとワガママを通すほどである。   オンリワンは平和すぎる平和に退屈していた。  国難、おおいに結構。やはり自分を沸き立たせるのは冒険、そして大暴れしかあるまい。 (2/2) 「恐れながら申し上げます! 陛下は決して手を出さぬようにと、王妃様からの仰せです!」 「なにィ!?」 「その、陛下が出るとすぐ終わってしまってお話にならぬからと…今、シクサ様には"良いお方"がいるとのことで」  オンリワンの脳裏に、先日謁見に来た客将の顔が思い浮かぶ。  まだ若いながらも見所のある、勇敢な顔つきの青年だった。奴ならば、あるいは……。 「……ん? てぇことは、うまくするとあいつが次の……」  しばらく思案したあと、オンリワンは空を眺めた。プロロの(何度目かの)夜明けは、近いのかもしれない。 【雑談・旅世界の就学率いろいろ】 「そういえば、皆の故郷には学校ってあったのかい?」  きっかけは退屈しのぎの、些細な質問だった。 「無論、立派な学園があったとも! そして我はと~ぜん、すでに卒業済みだッ!(決めポ)」 「カンラークにも、学舎があった。……貧民や孤児は、教会で学びを授かることもあった」 「まぁ、バルロスは周辺一の工業都市でしたから。高等エンジニアを目指すなら学業は必須です」 「あらら。こうして見ると、みんな結構都会の出なんだねぇ」  顎を擦りながら、スナイプが感心したように呟く。 「そーゆー貴様はどうなのだ。こう、銃の扱いとか……勉強してそうだけど」 「おや、アズちゃん。気になるかい?」 「いや、流れで聞いただけで、そこまで気になるわけでも……」 「俺はね……ひ・み・つ♪ イイ男には謎が付き物なのさ、子猫ちゃん……」 「なんだこいつ!」  ボカッ、とアズライールがスナイプのふくらはぎを蹴飛ばす音が響いた。  ごめんごめん、許して、などとスナイプがおちゃらけ、かくて一行の旅は今日も続く。  案外、このPTで最も謎が多い男は、この二枚目半のガンマンなのかもしれない─── 【麺屋盛ラレル、ある昼下がりの一幕】 「魔王モラレル! 妹の……故郷の仇! 覚悟!!」  ガラガラと引き戸を開けるなり叫んだのは、壮絶な旅程を感じさせる風貌の男だった。  数え切れない程の傷が刻まれた鎧に、眩く光る聖剣の輝き。勇者である。  ……ついに、その日がきたのだ。  汗が染み込んだタオルを額から外し、モラレルが厨房から足を踏み出す。 「お、お客様、困りますわ。列には並んで頂かないと……」 「ヘルノブレス。後は頼んだぞ」  店内に押し入ろうとする勇者を引き止めるヘルノブレスの脇を通り抜け、暖簾を潜りながらモラレルは呟いた。 「3分経っても戻ってこなかったら、鍋の火を止めておけ」    勇者と共に姿を消してから30秒後、ガラガラとモラレルが戻ってきた。 「えっ!? も、モラレル様……その、先程の勇者は……」 「? 消し飛ばしてきた」 「そ……そうですの……」   【人造勇者、陰鬱な鉄の通路の先で】 (1/2)  鉄扉の向こうには、むせ返るような血の匂いが充満していた。  狭く殺風景な小部屋の中央に、簡素な椅子に縛り付けられ、項垂れた、魔族の男が一人。  その足元に広がる夥しい血の跡が、この部屋で行われた陰惨な行為を物語っている。  ただ不思議なことに、それほどの有様でありながら男の体には目立った外傷は見当たらなかった。 「派手にやったな、伍長。…吐いたか?」  開け放った扉の前でアインス大尉が無感情に呟くと、部屋の暗がりで小さな人影が動いた。 「うん。でも、たぶん…あと、半分くらい。まだなにか隠してる」  少女であった。  機械仕掛けの人形と見紛うような、四肢すべてを鋼鉄の義肢にすげ替えた少女。  その手には、まだ血が乾ききっていない肉切り包丁が鈍くぬらめいている。 (2/2)  のろのろと、魔族の男が顔を上げた。  憔悴しきった目には、それでも未だ敵意の火が燻っている。  それを見て、ほう、とアインスが感心したように目を細める。 「…お前が、このイカれたガキの親玉か…無駄な、ことだ。どれだけ痛めつけられよう、っがッ──!?」  男の言葉は最後まで続かなかった。  無造作に数歩踏み込んだアインスの手が、その喉笛を鷲掴みにしたのだ。 「ああ、能書きはいい。こちらも時間がなくてな」 「かッ、あが、がガガガッッ……」  悲鳴とも呻きともつかぬ音を漏らしながら、男の身体が激しく痙攣する。  電撃。アインズの手から奔る閃光が、男の体内を無遠慮にかき回している。 「質問はお前の脳に直接するとしよう。…私は伍長のように優しくはないぞ」  神経一つ一つを丁寧に裂くような光の筋が男の全身で明滅し、肉の焼ける匂いが漂い始める。 「…眩しい」  部屋の隅で、ぼそりと伍長が呟いた。まだ、夜は長い。 【もしもエビソがププールと二人きりで孤立しているという情報を聞いたら?というif(いっぱい書かれていたので、いっちょ噛み)】  その報せを最初に聞いた時、思考が白く染まったようだった。  一瞬の忘我の後、耐え難い熱を胸の奥に感じた。俺はすぐさま思考を巡らせる。  その情報の真偽は? 罠? ……いや、それはあるまい。何せ『あの』エビルソード軍なのだ。  此処からの距離。時間。───猶予。  問題ない。今すぐに向かえば。  ……。……こいつらはどうする?  ふと、そんな思考がよぎった。そして、そんなことを考えている自分自身に気付いて、俺は愕然とした。  知らず、口元に自嘲の笑みが浮かぶ。 「なんだ……俺も、クリストを嗤えた身ではなかったようだ」  書き置きには、「旅を終わらせに行く。探すな」とだけ書いた。