二次元裏@ふたば

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152199 B26/03/13(金)00:30:35No.1410190361そうだねx5 05:21頃消えます
 月が眠りに就くころ、眩しい朝日が私を焼いた。でも、真白い朝の色彩が目に刺さってとても痛い、なんてことは今のところない。目前に広がるリアルは別。見たことないから知りませんけれど、ホームズが活躍していた頃のロンドンってこんな風だったんでしょうね、とかよく分からない感想を私に抱かせるような光景だ。
 窓から覗いた先にあるもの。彼らは暗くはなくて、ただただ白い。空だけ眺めりゃ晴れてはいるが、視界のほとんどは朝霧に烟り、現状まるで見通しが効かない。近くにある湖のせいだと思っているが、実際どうなのかは不明だ。魔法の虹が掛かり続けるこの島において、現実的な化学現象なんてどこまで本気で信じればいいのかわからないから。
 だっていうのに。
 このぼやけた朝焼けが、いやに熱く眩しく感じるのは。
「何故なんでしょうね、ハンナさん」
 物言わぬ躰に言の葉を浴びせても、温もりが帰ってくることはない。率直に言ってずるいと思う。ハンナさんは欲張りだから、私の言葉を奪っていくばかりだ。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
126/03/13(金)00:31:10No.1410190523+
 ナノカさんへの仕込みは既に達成済みだ。今という時間はそう、ある種のモラトリアム。コトが露見しなければ何をしても良いし、何もしなくたっていい。だから、名残惜しくて此処に戻ってきてしまっているんだと思う。あと、若干のプラスアルファ。本心からそうしないとは決めてはいるけど。少し、ほんの少しだけ。この生活を捨て去ってしまう前に確かめたいことがあった。
 ポケットの中にある貴女の欠片を指先で弄ぶ。偽装工作のためも兼ねてカットしてあげたハンナさんの爪だ。さして柔くもない指の腹でぐるぐると転がしていれば、尖った部分はやがて表皮の内部、その一ミリもしないところにぷつりと食い込み、私の半身に軽い掻痒感を奔らせる。
「痛みは感じるんですよね」
 独り言ちるだけの私は、探偵のように顎へ手を当てる。うっすらと滲み出した指先の血を顎の裏側で拭いながら、扼死した貴女の前でおそらくは無表情のまま、頷く。そして自らの手にそっと、自分の首筋を撫でさせて。タオルでも絞るみたいに、貴方の痕と同じ部位に指を這わせた。
226/03/13(金)00:31:36No.1410190647+
 手折った花の痛みを知るに対して、最も手っ取り早いことは、己に対しても同じように力を振るってやることだ。縄はないけれどまあ、手でも似たような苦痛は味わえるだろう。
 動悸とか、息切れとか、怖いとかあんまり感じない。だから、本当にフラットな気持ちで私は手に力を加えていく。
「くっ、あ、かはっ……」
 更に、更に、力を強めていく。縄なんて無くても大丈夫ですよね、人間工学なんて魔法の前じゃ形無しですから。
「う……ぐ……」
 ああ、ほんとう十分に。
 苦しいですね、でも。
「うっ……ああ……あ、あぁ……」
 あなたの発した喘鳴を越えられない。
「どう、し……て……」
 どれだけ強く絞ってもだめみたい。
 全然痛まない、なあ。
「あ、あ……わた……」
 むしろ面白いですよ、頑丈さってのは存外罪作りな物なんですね。痛みや苦しみはただ通過して、やがて私にとっての結果となりやがて音も無く死んでいく。
326/03/13(金)00:32:46No.1410190976+
「……リ、あ……」
 あなたのした断末魔を真似て、私のことを自分で呼んで。苦しみをどれだけ模倣しても、どうしたって泣けません、ね。なんなんでしょう。なんなんですか、不思議で不思議で仕方ないですよ!
 痛みに呼応して流れ出したこれじゃあ、あなたの流した涙の熱量をちっとも感じ取れない。そこを最も感じ取りたいのに、ねえ、もう少し都合のいいものであってくださいよ、感情。こころの豊かなエマさんやハンナさん、他の皆さんたちはそう思ったのだろうか。こうしたところで結果がねじ曲がるわけではないから。
 わかりませんね。
 酸欠に喘ぐこの口から、そんな明瞭な言葉は出ないけれど。思考だけは澄み切っているから、分からないことだけは分かるもんで、ゆえに自分の心臓を詰っても仕方が無い。こころの所在が分からないのは事実だから。
 縄の有無ってここまで致命的な違いなんですか?
 私、泣いちゃいそうですよ、ハンナさん。
「……あ、は、はっ」
 苦しめるための手を首から外す。死ねない代わりに、かすれた咳が漏れた。息を整えるために数度咳払いをすれば、幼稚な釈明でもするみたいに口端から言葉が転げる。
426/03/13(金)00:33:11No.1410191086+
「ただ」
 いざ試してみて、わかりました。 
「こんな風になるくらいなら」
 あんな真似しなければ良かった。
「とは、言えませんね」
 あなたに関わる生のものは、あらかた過ぎ去ったことだし何より、産まれて初めてこう、なんというか。私だって誰かのために生きているんだって、世界に示してやれる場面だって思ったのだから。
 そうですよ。
 求められたことを自分にできる限りの形で遂行したまでだから。省みることなどしてたまるか。文字通りに襟を正した私は、改めてあなたをきちんと見据える。
「貴女になら言ってもよかろうと思いますが、私は自分がすばらしい犯罪者になれたのではないかとずっと考えてきたのです」
 私風にアレンジしたホームズの台詞を、あなたはいったいどういう想いで聴いているんでしょうね。
「ふと思うのですが、異常性というのはどの時点から生えてきて、私たちという存在を歪めていくんでしょうか」
 衒学的なことを考えるのが好きで、けれど誰ともそんなことを語る機会などなく生きてきた。これからもずっとそう。橘シェリーという私が既に確立している以上、そうして生きていかざるを得ないのだと知っている。
526/03/13(金)00:33:53No.1410191283+
「私はおかしいでしょうか。ハンナさんは変なのでしょうか。この場における最高の異常者は一体全体誰なのでしょうか?」
 目を瞑り、瞼の奥からあなたを探れば。
 知らないわよ、みんなきっと普通でないのですから。悲しいけど語るのもおこがましいってやつですわ。そんなの聞かなくたって、あなたにならわかるでしょう?
「そんな呆れたふうに言わないでくださいよお」
 短い付き合いだったし、初めての友達だったけど。貴方なら多分こういう風に言ってくれるんだろうな、なんて自己満足と一緒に理想的な情景が広がる。そして。続けざまに何かが聞こえた。
「……そうですね」
 声のした方向を眺めながら、再度頷く。
 うん。よし。自己陶酔もさんざんやったし。
「行ってきますね、ハンナさん」
 花を火にくべる準備も十分に済みましたね。
 力無く垂れ下がった手にロータッチを交わせば、行ってらっしゃいとでも言いたげに、貴方の体はぶらりと揺れた。念には念をということで、ハンカチを被せてドアノブを捻り、一人外へ。無音を嫌って奏でたハミングは、口元を離れたそばから朝靄の中へ溶け失せていく。
626/03/13(金)00:34:13No.1410191369+
 ゲストハウスから離れ、あの貯蔵庫近くにある鬱蒼と茂る森の奥へ歩を進める。ややしばらく歩いたあとであたりを見回し、ああ、ここでなら誰の邪魔も入らないし、二人で編んで私が実行したトリックへの阻害にもならないだろう、そう信じられる場所まで辿り着いた。
 大木の陰にあった、朝露に濡れた芝の上に腰を下ろす。懐から取り出すのは偽装のために用意した、悪魔を殺す銀色の矢。痛みが怖いわけじゃない。心臓の鼓動なんか煩くない。ただ、ただなんとなく。きりきりと締め付けられるように苦しいだけだ、何処かが。
 こころの所在なんてどうでもいいんですよ、実際。
 とにかくまあ、あれだけ私を買ってくれたわけですから。
 履行しますよ、絆のために。
 私たちはまだ、何者でもないから。
 何者だったかを示してきますね。
 世界に――
「ほんとうに?」
 ――誰かが私の後ろで囁いた気がする、けれど。振り返りはしない。こころが無くたってわかる。振り返ってしまえば終わるんだ、私を成り立たせている原動力みたいなものが。いつかに読んだ神様の話みたく、すべてが無残に、絶望的なまでに欠け落ちて行ってしまう。
726/03/13(金)00:34:41No.1410191512+
 だから、過去を振り返るのは。
 魅せつけたあとにしようと思う。
 知識として動脈の位置は理解していた。だから、歯が砕けないよう畳んだハンカチをマウスピース代わりにして、大丈夫な所に細い棒杭をあてがって、持ち前の怪力でもって肉を貫いた。
 あはは、悲鳴を上げられないって結構不便なんですね。痛みに喘いで苦悶の表情を浮かべたって、誰の無聊の慰めにもなっちゃくれませんし、しかしてここで意識を失えば全て御破算だから、歯を食いしばって耐えるより他に術が無いんですよ。
 これまでの人生でかいたことの無い脂汗が額に浮く。涙の代わりとばかりに頬をつたい、やがて顎先からぱつりと離れる。明滅する視界、鮮烈な鈍痛。意識を手放したくなるけれど、安楽椅子に座るストーリーテラーとして、二流三流なザマを見せるわけにはいかない。
 躊躇する時間が惜しい。最低限の圧迫止血を施したら、痛みと流血なと気にせず前へ、前へと歩を進める。
 足を引きずるたび、脳髄に奔るのは痺れ。
「私ね」
826/03/13(金)00:35:19No.1410191707+
 貴女に言いたいことがあったんですよ。
 今となってはもう何もかも遅いって話ではあるんですけど。
 前に進むたび、思う。これから私という存在証明が始まるかもしれない。けれど、昨日の夜に続く生活のほぼ全ては終わっている。目覚まし時計が鳴り響いている、恐らくは脳内で。
 先に行った貴女だけれど。
 後を追うとは。
 考えたくないのが真実で。
「認めて欲しかったなあ、もっと」
 本当はもっと明日の生活を考えたかったのに、最早そんな余裕は何処にもない。星を探すみたいに空を見上げたまま歩く。思い出せない貴女の笑い声が、遥か上空で木霊している。届かなくて悔しいけど、私に空は飛べないから仕方ないことなんだ。そう思うと、少しだけ肩の荷が降りて、そんなことにこころが動くのがなんだか可笑しくなって、鼻歌の代わりに苦笑が漏れた。
926/03/13(金)00:35:31No.1410191771+
 色んなものを堪えながら進む。裁きの時を待つ罪の分だけ重くなるはずの足取りが、傷ついているくせにやたら早かったのは。きっと、貴方のした優しい呪いと、怪力の脳細胞を持つ私のお陰だと信じて。私はひたすら真っ直ぐに、医務室までの道を歩み続ける。舞台に辿り着くころにはもう、すべての痛みは随分と薄かった。
1026/03/13(金)00:37:10No.1410192306そうだねx7
一周目シェリハンの行間である…
1126/03/13(金)00:38:49No.1410192777+
うぅ…2人の友情を見せつけられるボク…
1226/03/13(金)00:49:42No.1410195856そうだねx1
わぁ…本編のシェリハンの行間…!これボク欲しかったんだ…!
1326/03/13(金)00:50:59No.1410196195+
公式からもシェリーちゃん視点のまのさば欲しいな…
1426/03/13(金)00:58:48No.1410198157+
ここの辺りは想像しがいがあっていいよね…
1526/03/13(金)00:58:52No.1410198175+
シェリーちゃんの視点てめちゃくちゃ難しいけど書きたくなるよね
1626/03/13(金)01:04:13No.1410199288そうだねx1
特にシェリーちゃんの心情やらの想像が難しいところをここまで書けるの凄い…
1726/03/13(金)01:13:06No.1410201073+
「」ンアンちゃんが真面目なのお出ししてくるとこっちも真剣に読まなきゃいけない気がしてくる
1826/03/13(金)01:15:20No.1410201484+
>「」ンアンちゃんが真面目なのお出ししてくるとこっちも真剣に読まなきゃいけない気がしてくる
まるで普段は真剣に読んでないみたいな……!
1926/03/13(金)01:27:16No.1410203482+
マーゴが言っていたのだがシェリーにはsyrup16gが合うぞ…わがはいも保証する…わがはいはそろそろねる…
2026/03/13(金)01:28:49No.1410203734+
聴いてみるか…
お疲れ様!「」ンアンちゃん!
2126/03/13(金)01:33:37No.1410204493+
> 痛みに呼応して流れ出したこれじゃあ、あなたの流した涙の熱量をちっとも感じ取れない。そこを最も感じ取りたいのに、ねえ、もう少し都合のいいものであってくださいよ、感情。こころの豊かなエマさんやハンナさん、他の皆さんたちはそう思ったのだろうか。こうしたところで結果がねじ曲がるわけではないから。
シェリーは確かに人間だった
2226/03/13(金)01:38:01No.1410205123+
> これまでの人生でかいたことの無い脂汗が額に浮く。涙の代わりとばかりに頬をつたい、やがて顎先からぱつりと離れる。
涙のようなソレを流してるんだ…
2326/03/13(金)01:39:55No.1410205394+
初めての友だちを殺してでも泣けないって絶望感がシェリーちゃんの軽妙な語り口と一緒に吐き出されててめっちゃよかった
こういうハードな文体のもボクはもっと読みたいな「」ンアンちゃん!
2426/03/13(金)01:50:37No.1410206799そうだねx3
名作だよアンアンちゃん
2526/03/13(金)01:59:40No.1410207956+
アンアン、君は渋へ投稿しろ
いや…してください…
2626/03/13(金)02:23:45No.1410211152そうだねx1
この記憶を3周目のシェリーちゃんが受け継いだと思うと…
2726/03/13(金)02:45:06No.1410212979+
今読んだ
>貴女に言いたいことがあったんですよ。
>今となってはもう何もかも遅いって話ではあるんですけど。
やっぱハンナの今際の際のこの時にさえ素直に気持ちを吐露出来ないのがシェリーらしさで
それはハンナを見送る為に未練を現世に遺してしまわない様にする為の優しさが根底にあると思った
2826/03/13(金)03:03:50No.1410214198+
わあ!文豪のアンアンちゃん!
2926/03/13(金)03:06:40No.1410214346+
アンアンちゃんは常に文豪だよ!
3026/03/13(金)05:13:48No.1410218312+
彼氏の趣味に毒される女の子はいくらあってもいいんだよ!


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