わしの力じゃ…… 登場人物 ナガン……指揮官に認められるために力を求めていて、個人の力、企業体の力、地球規模のエコシステムの力と順当に進化していた。 前作で四式を持っていた戦術人形……ナガンのビジネスに協力している。 01 「ペルシカ博士……」「力が欲しい……?」「わしは……」「力が欲しい……?」「めっちゃ欲しいです……」 わしは泣きながらそう言った。 そしてナガン大改造計画が始まった。 「この小口径リボルバーではまるで火力が足りないから、もっといい弾にするわ」 6.5x25CBJという見たこともない徹甲弾をチャンバーに詰められるように改造した。 ヴァリャーグの装甲はスパスパ抜けるようになった。しかしわしは7発しか撃てない。 「二丁拳銃で火力を二倍に……いや、ベルト給弾で機関銃にすれば……もう拳銃じゃダメだわ、ミニガンに変えるわ!」 シミュレーターでアレスと随伴歩兵に突っ込まされ、MAP兵器の欠如に気づく。 「ルイス!私のコーヒーはどこ!?」「もういっそビームでも撃ったら?」「それ!」 いつの間にか両手の武器は戦艦すら沈められるビームガンに。う、動けないのじゃ!それにこれじゃ砲台じゃ! 「ジェットエンジンと強化外骨格を付けましょう!」 わしは飛び回りながらビームを撃ち、やがて燃料切れと共に地面に固定された。 「戦車の装甲と、後ブージャム細胞を埋め込んで、後は……ルイス!コーヒー!」 歩くだけで地響きが起こり、エルモ号のサスペンションが沈み込む。 「おわー」「ふおお」「ハァ?これ戦術人形である意味無くない?」見る者は全て慄く。 「おぬし~!わしこんなに強くなったのじゃ~!」「え、中身ナガンなの?」 「ああー!?何なんだあれは!?」ヴァリャーグが叫んだ。 およそ3mの鋼鉄の塊が異様な音と共に高速で直進し、両腕に相当する位置から砲を展開すると、ビームを照射した。 塊の横に位置していたヴァリャーグは、ビームの熱によって一瞬で蒸発した。苦しまなかった事は間違いない。 エルモ号に超えらい人がやってきた。 「賞金ハンターがそんな武器持っていていいわけないでしょう、没収です」わしの力は権力によって全て剥ぎ取られた。 わしに残ったのは6.5mmを撃てるようになったナガンだけ。ヴァリャーグもダイナーゲートも当たり所次第で一発だ。 けど…… 「わしの力……消えちまったのう……」「ナガン、人生は力が全てじゃないんだよ……」指揮官が声をかけた。 「でもおぬしクルカイばっかり起用してるじゃろ」「うん、でもね……」「でもねじゃない!」「うん、でもね……」 02 「力が欲しい……?」「ペルシカ博士……力が欲しいです……」 わしはまたそう言ってしまった…… ナガン大改造計画2.0が始まった。 「6.5mm徹甲弾はそのままにしましょう、スウェーデンが工場を移してるからサプライチェーンが流用できるわ」 「でもわし火力足りんくない?」「そこはこう、ドローンの火力支援でいい感じに……」わしはアンテナを背負った。 「助けてくれェ!」ロケットランチャードローンに追い回されてヴァリャーグはバラバラになった。 「おい!ドローンの指揮官を見つけたぞ!」「殺せー!」「ああー!?」 「ミシュティ並の仕事は出来るけど、やはり直接戦闘能力が足りてないわね。素体を強化しましょう」 「なんだあのマッチョな女は!……ああー!?」ヴァリャーグを折り曲げた。 「バッテリーが切れたあ!ルイス助けて!」「ああもう!」 「無線機をバッテリー込みのミッションパックに!」 「とっておきの機甲を出せ!」「APSとCIWSでドローンが効かないし殴り勝つにもパワーも足りてない!」 「もっと素体を大きくして、ドローンも凄くしないと……ルイス!コーヒー!」 「わしじゃよ」「……どうしてそんなに大きくなっちゃったの?」指揮官…… 「ハァ?人工脂肪と人工筋肉の塊をチタン骨に括りつけてるわけ?もう2mもあるじゃない……機甲で良くない?」 「ふおお」「あ!ヴェプリー知ってるよ!ネット広告にこんな体形の子がいっぱい出てくるゲームあったよ!」 ドスドスと音を鳴らして走るたび、地面から砂埃が舞い散る。 「でっけえ……!おい!こっちに来るぞ!」「ま、待て!来るな!」ヴァリャーグの叫び声。 殴り倒す。人だけではなく、機甲すら。ドローンによるレールガンの近接航空支援に合わせ、突撃する。 勝利の雄叫びを上げた。 エルモ号に超えらい人がやってきた。 「またあなたですか?その重ドローンとその素体全部没収です。違法ですよ」わしの力は権力によって全て剥ぎ取られた。 ニューババアを作る際の端切れと予備部品で出来た元のわしサイズの高性能素体だけが残った。 「ナガン、力が全てじゃないんだよ……心が重要なんだ」指揮官が声をかけた。 「でもおぬしヴォイマスティナばっかり起用してるじゃろ」「うん、でもね……」「おぬし!」「うん、でもね……」 03 「力が欲しいのう……」「力とは金よ……」 「な、なんじゃおぬしは」エルモ号の捕虜収容鉄格子の前でぼやいていると、なんか知らん人が話しかけてきた。 「投資マニュアルに興味はない?」「は?逮捕されたいのか?」「金持ちになれば指揮官も好きになってくれるわよ?」 わしは欲望に負けた…… 「わしにコーラップスピースを預けてくれれば、数か月後には倍じゃぞ、倍!」 丸サングラスをかけたわしは闇ブローカーに自信満々の表情で話しかけ、取引を成立させた。 「エルモ号の倉庫を交易の為の倉庫として使って、一応詐欺にならない程度に儲けを上げて返す必要があるんじゃな」 元手を使って得体のしれないバッグやコンテナをかき集めて、それを街を往復する度に売り抜けた。 「今は小さな株じゃが、このエルモ号に賭けてくれれば確実に帰ってくるのじゃ!」「買った!」 電話をかけ、取引させ、交易を繰り返し……メイクマネーじゃ。この世は金が全てじゃ! 愛が金で買えるなら、指揮官だって金で買えるのじゃ! 「あのグループの不祥事の情報を掴んだから……株を暴騰するまで買って寸前で売り抜けたら大金持ちじゃ!」 わしは今や貴重な天然毛皮のコートを羽織り、遺伝子操作されていない天然物の猫を膝の上で撫でた。 窓の外には勝者の景色があった。わしは……この国の女王に等しい。今やわしはクルカイ以上の暴力だって手配できる。 200階までエレベーターで上がってきた指揮官にこの天然ダイヤと純金のペアリングを与えて恋愛でも勝利してやる。 「ナガン、私は真面目に働いた金で買った指輪なら受け取っていたけど、今の君の金で買った指輪は受け取れないよ」 「な、なんでじゃ!?」「本当はわかっているんじゃないのか?本物の愛とは金ではなく、本物の力も金じゃない……」 オフィスに超えらい人がやってきた。 「ロクサット主義合衆国連盟証券取引等監視委員会だ。お前を逮捕する」わしの力は権力によって全て剥ぎ取られた。 わしの金は慈善事業に使われ、残りは減刑で刑期を0にすることでプラマイ0になってしまったのじゃ。 「いっぱい金があっても指揮官もゲットできないし、人生はむなしいのう」 指揮官じゃ。 「君は間違った方向で頑張ってしまっただけなんだ、今からでもやり直せるから、そうすればいいんだよ」 「うう、おぬし……」 04 「わしが指揮官の心を掴むにはどうすればいいかのう」「スーパースターになればいいんだよ☆」 「そうじゃのう、ヴェプリー……スーパースター、スーパースターか……」 わしは前の事件の残りのポケットマネーで球団を設立し、クロを呼んできて野球リーグを撮影させたのじゃった…… 「チーム名はもう決まってるの?」「うむ。ユニフォームは水色にするかの」 『ロクサットウォッチメンズと薬中コルクバッツとの試合もついに12回に達しました。それにしても非常に粘り強い』 『さて、マウンドに立つのは変幻自在の変化球投手、ナガン。彼女は二刀流で両利きでしたね。フォークにキレがある』 わしはグローブの具合を確かめ、左手を見る。手指モジュールの修復が遅れたせいでどうにも良くない。 『ロ側捕手のナマモノ仮面はサイバーメディア出身の作家と噂されていますが、確かな事は強打者ということだけ』 『〇〇さん、どう考えます?』『乱打戦に持ち込むのがいつものロクサットですが今日は絶不調……投球に入りました』 「ああっ!ピッチャー返しがナガン殿の顔面に突き刺さったであります!」 『大変です!乱闘が始まりました!』 痛い…… 整備ポッドの横にはカレンダーがあって、試合当日から大幅に時間が経っていたことがわかった。 「あっ!ようやく起きたでありますか!大変でありますよナガン殿!」「え?」 「敵対的買収であります!球団の株のほとんどが買い取られてナガン殿も過半数可決で球団の運営権喪失で……」 頭の中で何もかもがぐるぐる回っている。 わしは何もかもを注ぎ込んで選手と球団運営の二足のわらじを履きこなしていたのに、わしは……わしは…… また、権力によって全ての力を剥ぎ取られたのか…… 「ふふふ」「何笑ってるでありますか!吾輩ら全員メンバー総入れ替え!吾輩の就職先はどうなるんでありますか!?」 「知らんよ」わしはケーブルを引っこ抜いて、修理費の小切手を整備員に渡した。 「知らんよって……」「ガンバレ」その場を立ち去った。 「どこへ行くであります!おーい!おーい!」 「わしがスーパー選手になっても誰もわしの事を愛してくれないのじゃ!おーん!」ショットグラスを叩きつけた。 「ナガン」あ、指揮官。 「カッコ良かったよ」「おぬし……!ううー!」わしは思いっきり指揮官に抱き着いた。 05 「やっぱり二千年くらい人間の心に植え込まれて離れないミームを作り出すのが最強でありますよ」「ほほう」 「ペルシカ博士、何か人間心理についてのありがたい話はないかの」「ほら、人形心理研究の前段階の人間心理の本よ」 そうしてわしはイエローエリアで仮面を被ってありがたい説法を話すようになったのじゃ…… 「わしのありがたい話を聞きなさい……」「老兵導師とナマモノ導師さまがありがたい話をしてくださるぞー!」 むふふ、こうして人間の心の動きという物を研究することで最終的に指揮官の心を掴んで離さないでやるのじゃ! 「パラデウスの襲撃でありますー!」「むっ!競合が増えることを恐れたか!」わしらは武装僧兵をぶつけた! 「ユナイタスの数が削られています、お姉さま……」「チッ……」ここがネイトのハウスじゃな。わしはブチのめした。 『イエローエリアで新しいカルトが増えたそうだが、ナガンは何か知らないか?』指揮官じゃ。 「えー……わし知らんよ。グリーンエリアで良い警官として働いているのじゃ……」 金箔とLEDで飾られた寺院に、コサック帽を被ったわしの仏像が作り出されていた。 「肉体を電子化することで借金も無くなるんですよ!」「すげえ!」人形が宣伝ビラを撒いていた。 「見てください、あれがイエローエリア発祥の怪しい……」「なんだなんだパラデウスか……?」「嫌だねえ……」 「わしの権力の拡大は順調じゃな」「しかしまぁ悪い人でありますなぁ、老兵導師様は……」「おぬしもじゃのう?」 TV画面にいろいろなニュースが映っているのじゃが…… 『絶対にあの集団ですよ!私の息子が、もう魂の電子化をすればなんとかなるっていっていなくなったんです……!』 『このイエローエリアでの対立の激化はすさまじいもので、コーラップスダーティボムも使われたそうです。大変です』 「そろそろ撤退しないとまずいのう、しかし組織が膨れ上がりすぎて解散するにもまずい感じになってきて……」 『臨時ニュースです……イエローエリアの集会に強制捜査のメスが入りました』わしは金庫から金塊をバッグに移した。 「あっ!SWATが来たであります!」「ああー!」わしらの力は権力によって全て剥ぎ取られた。 「そこでじっくり反省していなさい!」ムショの鉄格子を挟んで指揮官に怒られてしまった。とほほ…… 06 「えー、メイリンと私の医療費……高い!!」「何で人形より人間の治療費の方が高額なんでしょう……」 「人と機械じゃ人の方が治すのが難しいからだよ、メイリン……」「ああ、財布からお金が逃げていく……」 「もしわしが偉い医者になったりして指揮官を助けたり出来れば、わしは指揮官のヒーローになれるんじゃないかの?」 「なるであります、なるでありますよ。夢に向かって邁進すれば夢は叶うものであります!」 わしはイエローエリアで保険会社を設立し、ついでに医療の勉強も始めて、医者を雇うための元手を稼いだりもした…… 「あーダメ、ダメなのじゃ。保険の支払いの条件の欄ちゃんと読んだのじゃ?外れてるのじゃよ、状態が」 「この守銭奴!資本主義の悪魔が!日本だったら治療を受けられたのに!」けが人の男が椅子を蹴って去っていった。 「チッ!ここはロ連じゃぞ?」テレビを見る。『ロ連にアメリカ的医療保険制度の魔の手が迫っているようです』 ガラス窓が銃弾で割られると、手榴弾が放り込まれた。 「ヴァリャーグの襲撃でありますか!?」「応戦じゃ!」 死体を確認すると、保険会社に雇われた傭兵らしかった…… 「ナマモノ博士、セシュト&ファルベンの治験を受ければこの症状は緩和されるんですよね?」 「うむ、やってみなければわからないといった所でありますな。しかし希望はあるでありますよ。この書類にサインを」 わしらの荒稼ぎは順調じゃった。時折敵対する保険会社の傭兵が攻撃を仕掛けてきたが、こちらも傭兵をぶつけていた。 わしはイタリアのデザイナーが設計し、北海道の人形工房が制作した最高級素体を見せびらかしながら街を歩いていた。 「ふふ、事業は順調、株価はアホみたいに上がっておるな……このまま行けば、ロ連はわしらのものじゃ……のう?」 「ワハハでありますな……」 バイクに乗った男が通り過ぎていった。銃声が響いた。 「うっ!?」「あっ!?ナガン殿が撃たれたでありますッ!ああっ!?」 わしらがまとめて撃たれて搬送された後、修復されている間にわしらのコングロマリットは完全に崩壊していた。 目覚めた頃、わしらの力は権力によって全て剥ぎ取られていた。 営巣。 わしらは指揮官の前で正座していた。 「いいかい?まっとうな形で稼いでないお金は、お金以外に余計な物が付いてくるんだよ……」 07 「結局生身の人間を模した人形が人間のスポーツをすると、派手さが足りないんじゃないかのう?指揮官」 「ナガン、派手さが全てじゃないよ……人の範囲だからこそ、そのサイズに収まる技が光るんだよ……」 「あ、いい事業思いついた」「なんでありますかなんでありますか」「ナガン、変な事しないでね……」 わしらの前でドカバキと音を立てながらアサルトアーティラリーが殴り合っていた。もちろんこれはスポーツじゃ。 「まあ、巨大ロボットの殴り合いというのは確かに派手だし、人形闘技規制にも触れないけど……」 「所詮遊びだ……」パイロットスーツを着た知らない人が呟いた。「AAバトルは、戦場じゃない……」もう一人。 「おう、これサーベイじゃからここに意見と感想を記入せんかおぬしら」「病院の問診票より細かいじゃないか!」 「バカじゃな~指揮官、情報がわからなきゃ治療出来んぞ?ましてやビジネスは人間数百人分の命がかかるのじゃ」 数日後…… 黒い杭が光る。『あああ!』スピーカー越しにパイロットの断末魔が響いた。 「あー、ナガン、これはちょっとまずくないか?」「うむ、なかなか派手になってきたの」 会議室。 「つまり、クラス分けが行われたんであります。肉弾戦に限定したバトルと実弾戦闘のバトルの二種類でありますな」 「当然じゃが実弾の供給は大変難しいし、大っぴらにやる事は出来んからグリーンエリア外限定じゃ」 興行のマッチメイクとオッズの調整を行い、ネットで戦闘映像の配信をわしらは行って荒稼ぎしていた。 実弾戦闘のデータを企業に売り払って新型機の実機を貰ったり、多人数戦バトルロイヤルで戦場のデータを取ったり。 「このままエコシステムを維持出来れば、わしらは大金持ちじゃ!」「ワハハであります!」 「ナガン、人の命をおもちゃにしてはいけない!それはパラデウスのような奴らがやる事だ!」あっ指揮官。 「困るでありますなぁ指揮官殿、わしらは貧乏な人間が成り上がれる唯一の道を舗装してもいるんであります……」 「大変です!選手と企業の試作戦術人形が破壊活動をしています!警察も来ました!」 「何ー!?」窓を見ると、サーバールームに向かってAAが鋼鉄の鉤爪を振り上げるところだった。 「私が呼んだ。ナガン、これで終わりにしよう」 やめるのじゃ、指揮官……やめろ、指揮官……やめろ…… 08 「ねえ……食べ物持ってない?」「ほら、圧縮ビスケットじゃ」「ありがと」良いことをするのは気持ちいいのう! 「しっかしまぁイエローエリアの子供達は皆食い物が無いから痩せてるでありますなぁ」「ロ連は不甲斐ないのじゃ」 超高速ピザ配達の車両がわしらと子供を轢きそうになったところを、どうにかすんでで回避した。 「チェッ、富裕層に街挟んでピザ配達できて何で俺らに食い物がないんだ!」 「富裕層に……」「なんでありますかなんでありますか?」「ビジネスじゃ!」「ビジネスでありますか!」 「つまり、わしらはフードサプライチェーンを国家間で充実させるべく活動を始めたのじゃよ」「ほう」 サラリマンの男に名刺を渡した。「彼女は?」「スシメイカー」「弊社への融資は決まりましたかのう?」 「しかし、ニンジャみたいな覆面をした人形に融資するというのは前代未聞でして……」 横で覆面レスラーとの契約が成立していた。 「しかしとはなんじゃ?わしらは食品事業メーカーじゃ。怪しい所は何もないぞ」「そうでありますそうであります」 「はぁ、少額から始めさせていただきます」 さて、これがスタートラインじゃ。 「ヴェプリー、このお店の料理が大好き☆」CMソングの報道は順調。クロにネットでの宣伝を委託。 「指揮官とグローザにスーツを着せて、メイリンに私服を着せれば明らかに家族って感じじゃよな?」「え?」 そういう感じでCMを撮影し、TVで放送した。 わしらは郊外のファミレスから始めて、チェーンを順調に拡大させた。今やロ連の食品産業はわしらのものじゃ。 「最終生命のハッキングは完了したか?」「順調であります。防除用ウィルスのデータが盗めたであります」 「わしらの合成食品のサプライチェーンはロ連が崩壊しても継続運用できるから、他の作物が滅べば弊社は安泰じゃ」 わしの背後で撃鉄の音が鳴った。 整備リグから起き上がると、敵対的買収で弊社の社長……わしと副社長が退陣させられていたことに気づいた。 「またなのじゃ」「またでありますかぁ」 「のう指揮官、いい感じに事業が進んだ後に権力を掌握しようとするとよく邪魔が入るのじゃ、助けてくれんか?」 「悪事に協力することはできないよ」「チッ!」 窓の外で、わしらの会社のロゴの入ったトラックが、イエローエリアの子供達に食糧を配給していた。 09 「わし何のために金稼いでるんじゃっけ」「お金の為であります?」「何かの為にやっていたはずなんじゃ……」 子供の声が聞こえてきた。 「アタシもヴェプリーちゃんみたいに可愛くなりたい~」「スウィーティ、世の中にはなれないものもあるのよ……」 ああ、皆自分より優れたものにあこがれる時期があるのじゃな。 そうして世の中に打ちひしがれ、摩耗して老いた子供になっていくんじゃ。 「美……」「美は金になるでありますなぁ」「うむ」「ビジネスでありますな?」「うむ!」 美とは計算機工学で解決可能な問題じゃ。要はどこにどの形をしたパーツがあればいいという課題なのじゃからな。 しかし美とは客観性が必要で、要は統計が必要じゃった。 ここでわしは最終生命のウェットウェア知性技術も利用して複数の有機AIと無機AIのクラウドサーバーを構築した。 その辺の俳優やわしのようなかわいい人形を利用して、まず基礎的な美しい人間の形をサーバーに理解させ…… 次に医療や化粧のような方法でそれに近づける方法を次々に開発した。 「クラスの皆よりカワイイ存在になりたいでありますか?」 わしらは……リッチじゃ。 わしは指揮官に胸倉を掴まれて大声で説教されていた。 「人はそういうことをやってはいけないんだ!人のコンプレックスを刺激したりして無限に金を搾取するのは悪魔だ!」 「ワアーッやめるのじゃ!暴力は良くない!わしはソリューションを提供しているだけじゃッ!」 「今はもうアメリカの俳優業界とかがバンバン金を出して吾輩らに美しくして貰っているんでありますよ!?」 「やめろと言っている!」 ヴェプリーがTVをつけた。 『ナガンビューティメイキングに強制捜査が入りました。クラウド知能を無給で働かせていた罪で……』「あっ!?」 「クソ!AIの反乱であります!だから有機的知性をサーバーに埋め込むのは反対だったんであります!」「何!?」 「警察だ!ナガン達はどこにいる!」「ここだよ☆」「嫌!また会社が無くなる!」 私はTVの映像をじっと見つめている。 『私は皮膚の病気でコンプレックスを抱えていたのですが、これは現在の医療技術では治療できなかったんです』 『ナガン医師らが開発した技術が無ければ一生……彼女が金儲けより、良い事だけを考えてくれれば……』 私は溜息を吐き、TVを消した。 10 経済学を学びに行っていたわしは、『64年のドイツでの失踪事件と、当時のVR技術』という授業を受けていた。 今、ここの教授が話しているところじゃ。 「当時はフランクフルト事件はまだ起きていませんが、しかし特殊部隊の反乱が各国で起こっていてですね……」 「ですからね、この事件が起きた背景には、現実への極まりない厭世と言う物が関わっていたかもしれないんですよ」 わしらは研究室へと向かった…… 「疑似電脳の応用で、人間の神経というのは簡単に読み取れるようになっているんです。例えば、願望などもね」 3リングバインダーに挟まれた書類を読み込んで、データを保存していった。 「いや、ここまで熱心な生徒は初めてですよ。皆エロい事か軍事への応用にしか考えていない」「大変でありますなぁ」 「仮想現実には無限の可能性があるんですよ。サステナブルな戦争をこの技術で終わらせられるかもしれない」 「しかし、管理者が正しく仕事をするか、権力を濫用しないかがこのVR浸漬論に欠けているところでありますが」 「善良なAIに仕事をさせればいいでしょう?」 「わしは善良なAIじゃよ」 わしはそう言った。 私がテクニカルの窓から外を覗くと、ソーラーパネルとアンテナで出来た木に人間がもたれかかっているのが見えた。 年齢層は様々で、ヴァリャーグすら混じっているが、一様にゴーグルを付けている事だけは共通していた。 「指揮官。ナガンがまた新しいビジネスを始めたわ」「グローザ……あれは一体何が起きているんだ?」 「フリーミアムで願望機に接続させているんだわ。無料ユーザーは時折悪夢という形で計算処理をさせられ」 「クソ、わからない事だけはわかった」「どうするの?」TVを点けると、これが世界規模の現象であることがわかる。 「シンプルだ。私が腕のいい傭兵を雇って、指揮をして、ぶち壊せばいい」スマホを取り出して連絡先リストを開いた。 グリフィン星一分類と書かれたリストの中の一人にSMSを送った。 わしが高級車の窓から外を覗くと、無反動砲と軽機関銃を持った眼鏡の女がスポーツカーの上に直立していた。 「ナガン殿!ゲームのサーバーと弊社の口座が同時にハックされてるでありますー!!」 戦闘用オーバークロックで加速した時間の中、成形炸薬弾が窓に開けた穴から二発の徹甲弾が入ってくるのがわかる…… 11 「力が欲しいのう……」「力とは情報であります……」 わしらは新しいビジネスの図を延々と練っていた…… 「人類は幼児と同じように何でもかんでも情報を取り込み食中毒を起こすであります」 「人類が反射する決定論的オートマトンなら、SNSと教育を支配して得られる情報を制御すれば……」 「何を選択するかも全部吾輩らのもの!そうして支配は完成するのであります!」 クロがわしらを白い目で見ている。 「い、いつからそこに?わしらに何か用か?」「別に……」 さて、わしらは株取引で元手を稼いでサイバーメディアなどに敵対的買収を仕掛けて、それは成功した。 『今のネットは心と体に悪いから、私の指揮官と農業と自重トレーニングのビデオを出すことに注力したいのよね~』 「ま、まずい……!デジタルデトックスをクロが推奨したせいで掌握済みのネットが無用の長物になったであります!」 「バカだね~ナガン達は……」「クロ!なぜここに!?しかし何故配信業をやめるのでありますか?」 「サステナブルネット戦争エコシステムで、わしもおぬしも無限に金を稼ぐことが出来るのじゃぞ?」 「ハハ……しょーもないよ」 「もうさ、ネット上のあらゆるもの……自分の感情すら企業の金にされる状況、嫌なんだけど」 「何が悪い……争いは人類の望みじゃろ?摩擦による持続可能な紛争のエネルギーを有効活用しない理由があるか?」 「私達は、企業のオモチャじゃない!」「玩具さ……おぬしにそれをわからせてやる!」「大変でありますナガン殿!」 「何!」「ロ連のSNS規制法が拡大されたであります!事業が破綻するであります!」 ドアが蹴破られた。 「我々は保安局だ!貴様らを逮捕する!」 このままでは金が無くなり、金が無くなればわしの人権が無くなってしまう!消去刑だけは避けなければ!! 高官スキャンダルデッキとポケットマネーを総動員してダメージコントロール! 「五億円!」「なんの金塊!」 賄賂じゃ!! 罪は金で打ち消せる!罪以上の金があれば、わしは……わしは原罪すらない人形になれる! 「ナガン殿!賠償金が膨れ上がっていくであります!」「私が主導した集団訴訟だよ、ナガン……もう、終わりにしよう」 「クロ……!そんな!わしの人権が……わ、わしのそばに近寄るな!!」 わしの力は権力によって全て剥ぎ取られた。 12 ロ連で内戦が勃発した。わしがスキャンダルデッキと賄賂を使った際にクロがストリーミングしていたせいじゃ。 そんなことより、わしは神聖ロクサットナガン企業帝国の最高権力者兼元帥になった事をお伝えしたい。 わしはウェディングドレスを着て指揮官を呼び出し、メイドかつ将軍である彼女に赤いコートを手渡させた。 「指揮官、あなたを愛しているのじゃ……全ての力をあなたに与えるから、わしと……わしと……」 往復ビンタされた。 「ぐあああ!」「パラデウスが新しい遺跡を発見してアクセスしようとしている!良心が残っているなら手伝え!」 わしはレッドエリアの荒野を埋め尽くす軍勢に向けてレーザー指示装置を向けると、キノコ雲が上がった。 これはのう、わしの権力と水爆じゃ。 「もうナガンさん一人でいいんじゃないかしら」クルカイが呟く。「そうだな」ヴォイマスティナが呟いた。 わしらは遺跡に突入し、パラデウスとの激戦が始まった。 ……遺跡の最奥での乱戦の最中……わしは上位ネイトの後頭部に手を置き……ハッキングして権限を奪う…… ……わしはネイトの残骸を経由し遺跡にブルートフォース攻撃を仕掛けた。 気がつくと、わしは見知らぬ空間に立っていた。ここは本物の願望機のインターフェースか。 「あなたの願いは何?」声だけがその場に響いた。「願いは複数叶えられるのか?」「出来るよ」 わしは世界をより素晴らしいものにしたい。だが後続の間違った存在が接続したら、世界は大変な事になってしまう。 「まず遺跡を消し、わしの他、アクセスできないようにしてから」 戦場に戻った。 「え」わしは呟いた。「お前……ウチのネイトハックして、遺跡にアクセスして消したのか」超えらいネイトが呟いた。 「わ、わしの願いはまだ!」「このクソ野郎が!」ヴォイマスティナがその首を折った。それが最後の一人だった。 「私達の世界は守られたんだ!よくやってくれた、ナガン!」指揮官は叫んだ! 「結婚してくれ!」指輪を渡した!「ああ!」 わしらが血で出来たレッドカーペットを歩むと、皆が祝福してくれた。「おめでとう!」「皆、ありがとう!」 「ナガン殿!他国が弾道ミサイルで遺跡を攻撃して自動報復装置が作動したであります!」 んなこたどうでもいい。「全面核戦争でありますよ!?」 わしは指揮官とキスをした。 幸せじゃ。