二次元裏@ふたば

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656677 B26/03/05(木)23:33:54No.1408047444そうだねx1 01:23頃消えます
明朝。カーテン越しの雀の鳴き声とともに目を覚ます。
少し伸びをして上体を起こせば、決まりきった朝の、正しい一日がまた幕を開ける。
しかし、今日という日だけは、ルーチンワークのようにこなすべきではないイベントが起こると理解していた。
──昨日見繕った彼女へのプレゼント。『それ』が、私の学習机の上にお澄ましして鎮座している。
(あの時は勢いのままに手に取ってしまっていたが……)
私はもう一度紙袋に包まれたプレゼントを手に取ってみる。
ある程度重量のある、確かな手ごたえ。
(きっと気に入ってくれるはずさ。それに私は、もう迷わない)
その時、スマホの振動音が鳴る。エマからのメッセージに違いない。
『おはよう、ヒロちゃん!昨日からワクワクしてて、ちょっと早起きしちゃった!』
くす、と思わず笑みが浮かぶ。本当に君らしい、いじらしい文字列だと。
『おはようエマ、それから』
きっと、日付が変わるまで起きていられない私の事を憚って、それなら朝一番に私から祝いの言葉を引き出そうと企んだ。
『お誕生日おめでとう』
君はそういう子だと思う。
126/03/05(木)23:34:32No.1408047640+
それからはすぐさま身支度を行った。いつもの通学路、家の近くでエマと待ち合わせて駅まで一緒に歩いていく。
今日の誕生日会は、私だけが呼ばれているわけではない。比較的学区の近い、シェリーとハンナもエマの家へ招かれている。
彼女たちは初めてエマの自宅にお邪魔するそうで、エマ自身もその事をとても楽しみにしている口ぶりだった。
……私たちは、いつもこうしてお互いの近況を報告しあっている。
それは、以前彼女の言った『たくさん話したいことがある』という約束を果たすためのものであった。
しかし、今ではその時間は私にとって暖かい、春の日差しを感じる時間に変わっていった。
君が笑いかけてくれる時間が何よりも大切なんだ。
思わず、そんなことを言い出してしまいたくなるくらい、私は浮かれている。
ふふっ、と自嘲気味に笑ってしまう。
「……あ、ヒロちゃん笑ってる?何かいい事でもあった?」
「いい事か……。いや、何でもないよ」
そうだ、この何でもない時が、私は好きなのかもしれないな。
226/03/05(木)23:35:01No.1408047784+
駅に着けば、私たちはひと時の間、離れて行ってしまう。
向こう側のホームのエマと視線が合えば、彼女は決まって笑顔で、こちらに向かって控えめに手を振ってくれる。
私もそれを笑顔で返す。これが、私たちのいつもの日常。
いつもと違うのは、私のスクールバッグの中にスペースを陣取った彼女への贈り物だけ。
電車に揺られる最中、ずっとその重みを大事に、両手に抱えて感じていた。
(きっと、喜んでくれる……)
私が決めた運命を抱える重たさは、罪悪感の十字架を背負う気分よりも、ずっと、晴れやかだ。
(外、昨晩は雪だったのに、全然積もっていない)
車窓に流れるビル群の隙間から見えた空は、エマのハレの日を飾るにふさわしいと感じた。
(今日だけは、学校が終わったら、今日だけは速く──)
どうやら私はエマの事を笑っていられないくらいに、今日という日を楽しみにしていたらしい。
326/03/05(木)23:35:28No.1408047910+
前もって生徒会の業務について、引継ぎをしておいたのが功を奏したらしい。
「では、すみませんがお先に失礼いたします」
私は先輩方に丁寧にお辞儀をしてから、扉を閉めた。瞬間、歩いていく。
廊下は走ってはならない。自明である。でも、玄関口を過ぎれば、早歩きくらいしてもいいかもしれないな。
では校門を過ぎれば?そう思ったときには、私は駆けだしていた。
過ぎ去る人たちの奇異の眼も気にせず、学校指定のローファーを鳴らして。
肩にかけたバッグなんてもう、重くもなんともない。
今すぐに君の元へ向かおう。
426/03/05(木)23:35:57No.1408048051+
それからはあっという間だった。彼女の家の前で息の上がった体を落ち着かせ、乱れた髪を手櫛で整える。
『ヒロちゃんは今日、いつ頃来られそうかな?』
『すぐにでも』
手元のスマホには簡素なやり取りだけが示されていた。
(もう少し、詳細なやり取りをすべきだったな……)
しかし、今更悔やんでいても仕方がない。インターホンに触れた指先は、幼い頃家を訪ねた時と同じ感触がした。
ベルが鳴り、そわそわとした体を抑え込むように肘を擦る。
『はーい……。あっ!ヒロちゃん!?すっごく速かったね!?』
「ああ……、生徒会の用事も早く済んでしまってね。早すぎてしまったのなら、すまないが」
『ううん全然!それじゃあ、上がって!準備も少し手伝ってもらっちゃおうかな!』
ドアの鍵が開く音がして、私は足を踏み入れた。
「ヒロちゃん!」
「エマ。改めて、お誕生日おめでとう」
私の祝いの挨拶に、破顔する彼女は綺麗だった。
526/03/05(木)23:36:25No.1408048182+
「シェリーちゃんとハンナちゃんたちは、もう少ししたら来るってさっき連絡があったんだ」
「そうなのか。それなら、私が一番乗りだったな」
「うん……。えっと、こんなこと言っちゃダメかもしれないけど、ヒロちゃんが真っ先に来てくれるなんて、ボク、思ってなくて」
「私はそんなに信用されていないのかな?」
「ち、違うよ!ただ、ヒロちゃんっていっつも忙しそうだから、……いいのかなぁ、って」
「いいんだよ、君はそんなことを気にしなくても」
テーブルクロスを敷き、花器に活けた花を整えながら、私たちは会話を続けていた。
「お母さんも、もうすぐケーキを持って帰るから、それまでに出来るだけ準備が済むといいな」
「ああ、善処しよう」
キッチンの方を見れば、すでに完成した料理たちがあとは温め直してもらうのを待っている、といった様相だ。
(二人きりの時間は、今しかない、か)
取り分け皿を粛々と並べながら、そう考える。
626/03/05(木)23:36:55No.1408048327+
「……うん!これで準備は大丈夫みたい。ありがとう、ヒロちゃんも手伝ってくれて……」
「エマ、少しいいだろうか」
「え?う、うん」
「少し早いかもしれないけれど、先に君へのプレゼントを渡しておこうと思ってね」
私はバッグの中から紙袋を取り出す。
「これを、君に」
真っ直ぐに彼女を見据えて手渡す。エマは何やら真剣な雰囲気を感じ取ったのか、おずおずと両手を差し出してそれを受け取った。
これで、私の重みは、エマの手へと明け渡された。
「なんだろ……?結構、重たいね?開けてみてもいいかな……?」
「もちろん」
ぴりぴりと包装紙のテープをめくる音がして、ようやくそれは姿を現した。
726/03/05(木)23:37:25No.1408048467+
「これって……。カメラ?」
「ああ」
「ボクもよく知らないけど、ヒロちゃんの趣味?」
「いいや?」
「ええ……?」
「でもきっと、君はこれを気に入ってくれると私は思ったんだ」
エマはどうやら、いまいちピンと来てないような表情を浮かべていた。
押しつけがましいというのは重々承知の上だ。しかし、それでも分かってもらいたい。
その為に、言葉を尽くす準備をしてきたのだから。
「君は、いったい何が好きなんだ?」
「え?ボク……?みんなで、食べるご飯が好きだよ」
「そうだね、君は大勢で食事をとるのが好きだった」
──これは、エゴだ。私の身勝手な、醜い欲求に過ぎない。
それでも、君は受け止めてくれると信じている。
826/03/05(木)23:37:55No.1408048620+
「思えば君は、昔からそうだった」
「ヒロちゃん……?」
「覚えているかな?小学生の頃、君と二人で駄菓子屋の前を通りかかったときの事」
「う、うん!」
「買い食いは校則で禁止されてたと言うのに、君はいう事を聞かずにお菓子を買っていたな」
「……うん」
「それで、私と君とで言い合いの喧嘩になった」
「……」
「その時君が言ってくれたことを、最近になって思い出したんだ」
「……ボクは、なんて言ってたの?」
「『ボクは、ヒロちゃんと一緒にお菓子が食べたかったのにな』」
「……!うん、言ってたよ……!」
ああ、どうしてこんな、気づけるまでに時間がかかってしまったのかな。
「それに、こうも言っていたな」
926/03/05(木)23:38:20No.1408048738+
「『ヒロちゃんと一緒の思い出、作りたかったんだもん』」
「覚えてて、くれてたんだね」
「……正確に言えば、今の今まで忘れてしまっていたのだけど」
「もうっ……。ヒロちゃんってば」
「このカメラなら、思い出を形にして残すのにちょうどいいと思って、それで、君に受け取ってほしかった。それと、こっちがフィルムだ」
私は紙袋の底を漁り、幾つか纏めておいたフィルムも一緒に手渡した。
「店員が言うには、これはインスタントカメラらしくて、フィルムを入れるには裏面の蓋を……」
エマに指示を出しながら、自分でも手探りに試行錯誤して行く。
いつまでもこうして、分からないところを二人で、確かめ合いながら生きていきたい。
不器用に育ってしまった私だから、こういった形でしか伝えられないのだが。
1026/03/05(木)23:38:42No.1408048842+
「──それで、あとはシャッターボタンを押せば、写真が撮れるはずだ」
「うん、多分、覚えられたと思う」
「それならよかった。なにせ、私も構造をよく知らないのだからな」
「威張って言うような事じゃないと思うな」
エマがはにかむように吹き出して、私の顔を見つめた。
「でも、嬉しいな。ヒロちゃんが考えて、悩んでこれを贈ってくれたのが、ボク、すごく、嬉しい」
エマからの感謝の言葉に、私もきっと口角を上げていたのだろう。
一瞬の閃光に次いでぱちり、と音が鳴った。

「えへへ……。記念すべき一枚目はやっぱり、ヒロちゃんがいいなって!」
──ありがとう、エマ。私を、君の思い出に選んでくれて。
1126/03/05(木)23:39:44No.1408049162そうだねx6
健全なエマヒロである
お誕生日おめでとうエ”マ”
1226/03/05(木)23:40:17No.1408049312+
深夜までありがとうアンアンちゃん!
1326/03/05(木)23:45:35No.1408050789そうだねx3
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それとこれは8000字くらいあるこれより時系列が前の話なのであるが…
エマが一切登場しないうえにオリキャラとヒロの会話でほとんどが構築されているのが痛々しすぎて削った文である
一応読まなくても完結している話にしたつもりであるので気になる者だけ読んでほしい
1426/03/05(木)23:48:39No.1408051708+
ア……アンアンちゃんッ!
1526/03/05(木)23:50:25No.1408052226+
明朝って始まりでなんかおかしいと思ったら前日譚あんのか…
いや8000字て
1626/03/05(木)23:55:07No.1408053561+
もう後半は115万キロのフィルム頭の中でながら出したよアンアンちゃん!
1726/03/05(木)23:58:22No.1408054522+
わぁ白紙のアルバムを埋めていく未来!
ボクこれ欲しかったんだぁ
1826/03/06(金)00:02:19No.1408055708+
やっぱり別高校というのがスパイスになるね…
1926/03/06(金)00:05:40No.1408056577+
2日目もよろしくねアンアンちゃん
2026/03/06(金)00:09:04No.1408057614+
>2日目もよろしくねアンアンちゃん
え…
エマの誕生日はもうおしまいのはずでは…
2126/03/06(金)00:09:57No.1408057876そうだねx1
>>2日目もよろしくねアンアンちゃん
>え…
>エマの誕生日はもうおしまいのはずでは…
よろしくね?
2226/03/06(金)00:09:57No.1408057877そうだねx1
>>2日目もよろしくねアンアンちゃん
>え…
>エマの誕生日はもうおしまいのはずでは…
ボクにはアンアンちゃんが必要なんだ!
2326/03/06(金)00:11:19No.1408058214+
「」ンアン、君は渋へ行け
2426/03/06(金)00:16:01No.1408059395そうだねx1
>『ヒロちゃんは今日、いつ頃来られそうかな?』
>『すぐにでも』
わがはいここが好き
2526/03/06(金)00:18:10No.1408059961そうだねx1
ヒロちゃんから昔の話をエマにしてくれるのってエマからしたらめっちゃ嬉しい事だろうなって
2626/03/06(金)00:19:19No.1408060249+
笑い合ってるエマヒロなんてなんぼあってもいいですからね
本当になんぼでもください…
2726/03/06(金)00:32:38No.1408063503+
こうしたらエマが笑ってくれるだろうかって考えるヒロほど穏やかなものはないなとわがはいも確信
>「それならよかった。なにせ、私も構造をよく知らないのだからな」
>「威張って言うような事じゃないと思うな」
>エマがはにかむように吹き出して、私の顔を見つめた。
ひとりで全部やってしまうのではなく横並びの共同作業を選ぶヒロはわがはいも取り入れていきたい
2826/03/06(金)00:38:23No.1408064995+
>「覚えているかな?小学生の頃、君と二人で駄菓子屋の前を通りかかったときの事」
>「買い食いは校則で禁止されてたと言うのに、君はいう事を聞かずにお菓子を買っていたな」
>「それで、私と君とで言い合いの喧嘩になった」
>「その時君が言ってくれたことを、最近になって思い出したんだ」
>「『ボクは、ヒロちゃんと一緒にお菓子が食べたかったのにな』」
この辺のお話がエマヒロの過去話として納得感しかない……好き
2926/03/06(金)00:40:34No.1408065571+
本編の地続きの話としてスっと入るくらい綺麗な話ていいね
3026/03/06(金)00:46:06No.1408066901+
前日譚も面白かったよ「」ンアンちゃん!


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