投票によって【魔女】に選ばれたのは―― 「やはりというか、なんといいますか。二階堂ヒロの処刑が決定しました~!」 間抜けなファンファーレがして、ゴクチョーが無慈悲にそう言った。 その瞬間のヒロちゃんの目は、きっと、一生忘れられないと思った。 「君たちは正しくない」 うん、そうだね。 だって、アンアンちゃんを殺したのはのあだもん。 ―――――――――――――――――――――― 裁判が終わってすぐ、のあたちは牢に戻されちゃった。 「あれ……?」 部屋に入った瞬間の違和感。なんだかお部屋が広いような……。 「ああ、アンアンちゃんがいなくなっちゃったからだ」 裁判の後は、いつも裁判の気を紛らわせるようにアンアンちゃんとお話してた。 けど、アンアンちゃんがいなくなっちゃったから、いつものお話は出来なくなっちゃった。 「どう、しようかな……」 アンアンちゃんのいない一人部屋。 直ぐ寝る気にはなれなくて、でもすることも無くて。 こうして一人で何もすることが無い時は、絵を描くのが一番。 けど、それは出来ない。だってヒロちゃんと約束したから―― 「ヒロちゃんも、もういないのに?」 多分、今部屋中にお絵描きしても……うぅん。 屋敷中にお絵描きしても、きっと誰も叱ってくれない。 だって、そうしてくれる人はもういなくなっちゃったんだから。 のあが起こした事件の犯人になって、処刑されちゃったんだから。 「あ、あれ……?」 二人のことを思い出すと、なんだか足がくらくらしてくる。 寒くて、寒くて。凍った水の中にいるみたいに震えて、立っていられなくなる。 体を抱きながらベッドへと横になる。 下の段は、たしかアンアンちゃんのベッドだっけ――。 「うぁ、あっ……」 きっとアンアンちゃん怒るかな。 『わがはいのベッドに勝手に入るな』とか言って。 「ひっ、ぐっ……ぅ……」 それで、のあが『アンアンちゃんのケチー』って言ったら、 『なんだと?』ってアンアンちゃんが怒って。 「ひっぁ……な……いっ……」 それでノアとアンアンちゃんは喧嘩するんだけど、 ヒロちゃんが『騒がしいのは正しくない』とか言ってきて。 「ごめ……ら、ぃっ……」 それで、ヒロちゃんが喧嘩の仲裁してくれて。 アンアンちゃんとのあは仲直りするの。 『ごめんなさい』『いいよ』って。 「ごめん、なさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ、ごんなさい、ごめんなさいぃっ……!」 でもね、どれだけ謝ってももう許してもらえないんだよ。 だって、二人とものあが殺しちゃったから。 「ヒロちゃん、アンアンちゃん……」 アンアンちゃんは驚いた顔をしながら死んじゃって、 ヒロちゃんは憎んだ目をしながら死んじゃった。 「やだ、やだよぉ……二人がいないなんて、そんなのやだぁ……」 死んでほしくなかった、ずっと一緒にいたかった。 なのに、それをのあが壊しちゃった。 アンアンちゃんにいっぱい謝りたくても、もう出来ない。 ヒロちゃんと仲直りしたくても、もう出来ない。 のあの所為で、のあが悪いことしたから、もう二人には会えない。 「会いたい……会いたいよぉ。アンアンちゃん、ヒロちゃん……」 ごめんね、二人とも。のあ、我儘だよね。 こんな我儘、例え二人が生きてても、聞いてくれないよね。 のあは、どうすればよかったのかなぁ……? 「ひぐっ、ふぐっ……」 泣いて、泣いて、いっぱい泣き続けて。 目からぼろぼろ、涙と一緒に黒い何かが流れて来たとき、ふと牢の外から気配がした。 そこには、見慣れた二人の姿があって―― 「アンアン、ちゃん……。  ヒロ……ちゃん?」 ―――――――――――――――――――――― 「……なんだここ?」「うわ、くっさっ」「何これ……そこら中落書きだらけじゃん」 少女たちが目覚めると、そこはどこかの屋敷の一室のようだった。 目覚めるなり少女たちは顔をしかめる。 サイケデリックな内装は目に悪く、そしてなによりそこら中から漂うシンナー臭が鼻を刺したからだ。 「うげぇ……」 誰かが吐き気を催したようだがそれも仕方ないこと。 そんな奇怪な部屋の中で、パタパタと音が聞こえてきた。 その音の方を向けば一匹のフクロウーーのようなものが部屋に入ってきて、机の上へと降り立った。 「あ、目覚めましたね。おはようございます。この屋敷を管理しているゴクチョーと申します」 「なんだ、テメェ!」「この部屋はなんです?」「というか、どこだよここぉ……」 ゴクチョーを見るなり少女たちが次々と言葉を浴びせる。 しかし、ゴクチョーは首を傾げたまま抑揚に言葉を続ける。 「ええ、皆さんの困惑はごもっとも。なので私の方から説明を……」 「昔はしてたんですけどね、今はその必要もないので……まあ、頑張ってください」 「何言って――」 「おやおや、また来たのかい?」 誰かが怒声を発そうとしたその瞬間、少女たちの後ろから声がした。 振り向くとそこには金髪をした中性的な、すらりとした女騎士を思わせる少女――の絵が、少女たちに語り掛けて来た。 「いや、キミたちに罪がないのはわかっている。本来なら歓迎したいところだが……」 「なんだ、テメェ。絵のくせにいきなりぺちゃくちゃと―ーぉ?」 ガラの悪い少女が金髪の絵に近づいた瞬間、少女の絵が突き出した剣が、少女の眉間を貫いた。 貫かれた剣の先からは、赤い蝶が舞飛んでいく。 「この屋敷は既に満席でね。悪いけど死んでもらうよ」 「き……きゃあああああっ!?」 誰かが悲鳴を上げた、それと同時に少女たちはいっせいに行動に出る。 絵にとびかかるもの、部屋から逃れるもの。 行動は様々。しかし、行動を起こした少女たちの前に、少女たちの絵が立ちふさがる。 「おっと、体が汚れてしまった。これは書き直してもらわないといけない、ねっ!」 立ち向かった少女の拳は剣を持った少女の絵に透かされ、そのまま剣で串刺しにされた。 「ちっ、逃がしやがって……面倒くせぇなぁ」 逃げた少女の一人は黒衣を纏った少女の絵に炎に巻かれ、全身を焼かれていく。 「シェリーちゃん、ぱーんち!」 武器を探していた少女は、青髪の少女の絵の拳で頭が砕け。 「ちょっと、それだと汚れがつくでしょうが! 体に赤がつかないようスマートにやるんです、のっ!」 土下座して許しを乞うていた少女は、緑の少女の絵に高く釣り上げられて、落とされた。 「なによ、ここ……地獄?」 「そうだ」 後ろから聞こえて来た声に少女が振り向く。 そこには長い黒髪を携えた、赤黒い少女の絵がいた。 その手には火かき棒、本来暖炉などに使う日用品が、少女の目にはなにより恐ろしく見えた。 「な、なんで……私たちを殺すの……」 少女の問いに、絵は答える。 「絵を守るためだ」 「絵……?」 少女は周囲を見回す。 それは、このサイケデリックな部屋のこと? それとも、この少女たちの絵のこと? 「絵というのは摩耗していくものだ。日々の劣化、衝撃による傷」 「そして『他者』からの上書き、悪意ある損壊」 「それらから絵を守るためにこの島には絵を描く人間が一人のみというのが好ましい。それが『のあたち』が出した結論だ」 「もう二度と、手放さないように」 「だから、私たちは死ぬの……?」 「そうだ」 「く、狂ってる……!」 「そうだ」 「だが、この場ではそれが正しい」 少女の絵が火かき棒を振り上げる。 それはいままで少女が見て来た何よりも、少女の心を動かす絵となった。 ―――――――――――――――――――――― 「ふんふふ~ん♪」 屋敷の一角で少女が壁にスプレーを噴出する。 それは世界を騒がせたアーティスト【バルーン】の傑作。 一つの絵に一喜一憂していた民衆をあざ笑うかのように、この場ではそんな傑作が投げ売りされるかのように描かれていた。 「ノア」 赤黒い少女の絵が、絵を描く少女に声をかける。 振り向いた少女の姿は、少女の姿にどろりと黒い絵の具を適当にぶちまけたかのような人間離れした姿になっていた。 「あ、ヒロちゃん! どうしたの?」 「またあの部屋が汚れてしまってね。ノアに新しい絵を描いてもらいたいんだ」 「そっかぁ……仕方ないね」 少女の絵の言葉に、ノアと呼ばれたソレは頷く。 少女の絵を見たノアの顔は笑顔だったが、何かに気付いたのかノアの顔が蒼白になる。 「あ、ひ、ヒロちゃん!? ふ、服。削れて……」 ノアに言われ少女の絵は自らの体を見る。 そこには擦ったような跡があり、色が、体の一部が削れていた。 「少し抵抗されたからかな。ノア、頼めるか?」 「う、うん! すぐに直してあげるね!」 ノアは慌てて筆を取ると、空へと筆を張り切って振り上げる。 「元通りになーれ!」 不思議な言葉、筆すら振っていないその言葉一つで、少女の絵は勝手に蠢き、擦れた痕を塗り潰す。 ただそれだけで、少女の絵はまるで人物を模写したかのような完璧なモノとなった。 「流石だな、ノア」 「えへへ~」 「それじゃあ行こうか。皆も、アンアンも待ってる」 「うん!」 少女の絵に手を引かれノアは歩いていく。 それはいつかノアが夢見たような一枚の絵のようだった。 「ヒロちゃん、これからもずーっと一緒だよ!」 BAD END