二次元裏@ふたば

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152199 B26/03/01(日)04:07:25No.1406590023そうだねx3 10:09頃消えます
「今日、今から、海の見えるところまで行きたいんですよ!」
 一瞬、このひとが何を言ったのか分からなかった。そう思ったって別に普通のことだ。わたくしはいま、雲の奥に落ちていった夕暮れを眺めながら、ようやく乾いた洗濯物を取り込んでいる最中だったのだから。
「はあ、何を言ってますの?」
「でーすーかーらー、海に行きたいんです!」
 特に嫌がるわけでもなく、わたくしの横で洗濯物を取り込んでくれながら、シェリーさんはやけに意気込んで続ける。
「あの壁を越えて海岸沿いに行くことができるようになったじゃないですか。で、他の皆さんはもう行ったのかなと思ったらまだ誰も行ってないって! これはもう私たちが一番に行かなきゃいけないーって確信したんですよー!」
「確信って、何を言ってるんですの、もう……」
 ホント、毎度毎度突拍子もないことばかり。自然とため息が漏れる。夕差しに照らされたシェリーさんの頬は、心なしかいつもより赤い気もするから。わたくしと一緒に行きたいというのは本当なのだろう。そこだけを切り抜けばきっと、わたくしは大仰なリアクションをしただろうけれど。
126/03/01(日)04:07:51No.1406590048+
「別に明日でもいいじゃないの、もうすぐ星がきれいな時間になりますわよ」
 時刻は既に夜を迎えようとしているのだ。ここはあくまで世界から切り離された孤島の一角。街灯もまるでない場所なのに二人でのこのこ出て行って、危険な目に遭遇したらたまったものではない。だってもう、わたくしたちは普通の人間でしかないのだ。すべてが終わって、魔法がなくなって。筋肉ゴリラだったこのひとだって、どの国にもごまんといる少女のひとりに過ぎないのが実情だ。
 わたくしの言葉に納得したのだろうか、シェリーさんから反論は来ない。まあ、明日ならいいですわよ。サンドイッチでも作ってピクニックがてらに。そう言おうとしたとき。
「……だから」
 突然、シェリーさんは胸から絞り出すような声を出したかに思えば。わたくしの方へと向き直り、シーツを取り込んでいたわたくしの手を握り締めて。
「ハンナさんと一緒に行きたいんです、だめですか?」
 そう、熱っぽい瞳で訴えかける。絆されてしまいそうになるほど近い距離で。
 けれど、あなたの視線を耐えられないわけではないの。
226/03/01(日)04:08:23No.1406590079+
まじまじと見つめられて、まず先に考えてしまうのは。シェリーさんの持つ目の透明さ。特別感のある薄茶色のそれは多分、今よりずっと幼い頃に宝物にしていた、うっとりするぐらい綺麗だったあのオレンジ一色のビー玉。感性で思っていた、好きだったもの。それを本物の宝石にしたら、多分こんな感じなんだろうなという、ゆるぎない想い。
「……きれいね」
「えっ?」
「やっ、あ、えっとですわね……いったん、手、離してくださる」
「あ、ああ、すみません」
 手に握り締めていたシーツを洗濯かごに放り投げ、次第に傾いでいく自分の頭を額に手を当て、俯き過ぎないようになんとか留めた。この天然ジゴロ、いったいどうしてくれようか。一度決めたことを曲げようとしない性分なのも知っているから非常に困る。となると情に訴えるしかない。腕を組んで目をつむり、試しにうーんと唸ってみる。
「どうですか、やっぱり暗いからだめでしょうか」
「大体ねえ、あなただって魔法、もうないんですから、イノシシにでもあったらコトですわよ」
「大丈夫です、それぐらいならちょちょいのちょいで!」
「だーかーらぁー!」
326/03/01(日)04:08:47No.1406590096+
 こっちがどれだけ大声を上げようと、シェリーさんは拝み手でわたくしに懇願するばかりで、状況が一向に進展しない。正論を投げて、渋い顔をしてもこれなら。もう直接、理由を聞いてみるのが早い。このひとは良くも悪くもこういうときの思考については単純だから、きっと遠野ハンナが納得する言葉を渡してくれるはずだ。咳払いひとつ置いてから、きれいな目を互い違いの不等号にしているあなたに問いかけた。
「どうしてそんな夜の海に行きたいんですの?」
 そうしたら、あなたは。簡単ですよ、と一拍おいたあと。
「伝えたいことと、欲しいものがあるからです」
 湿り気のない真摯な瞳で、こともなげに言い切った。



「あははー、懐中電灯持ってきて正解でしたね!」
「当たり前ですわ、月の灯りだけで歩けるなんてバカな話ありませんわ!」
 見上げればもう、空の周囲には星が散り始めているような時間だ。牢屋敷の面々に一言告げてから、わたくしたちはそよ風の吹く森を進んでいた。この島は狭い。いつかの誰かが残した魔法が、島の縮尺を歪めていたのかもしれないと思えるぐらいに。
426/03/01(日)04:09:06No.1406590113+
 いつからだろう、二人でこうして歩いているとき。気づくか気づかないかぐらいのナチュラルさで、あなたがおずおずと手を繋いでこようとするようになったのは。今日も手を繋いであげて、気付かれないようにそっと目配せしてみれば。ほの明るいなかでもはっきりとわかる、シェリーさんの満足げな表情。
「かわいいですわね、あなたは」
「ええっ、なんですか突然!」
「なんでも。お腹と背中がくっつく前には帰りますからね、わかってますわね」
「はーい!」
「返事だけはいっつも元気なんですから」
「えー、返事以外も元気だと思いまーす」
 口の減らないひとと当たり障りのない雑談を交わしながら。踏み固められた土の上を歩いていけば、やがて鼻孔をくすぐるのは豊かな潮の香りだ。
「もうすぐですね!」
 乙女心っていうのは、ある程度単純にできているもので。楽しみにしていたものが近づくと、自然と歩みが早まった。終わりの近かった緑の群れは、早まる歩調によってあっという間に背中の方へと追いやられ、眼前に広がるのは図書館で見た図鑑よりもきれいな白地の砂浜と、深い碧と藍をたたえた海そのものだった。
526/03/01(日)04:10:00No.1406590155+
「わー、しゃりしゃりしてますわ!」
「楽しいですね、きゅっきゅって鳴りますよこれ!」
 初めての砂浜は楽しかった、本当の本当に。波打ち際にローファーをちょっとだけ浸してみたり、うっすらと見える魚の群れを眺めてみたり、海の味を一緒に確かめて塩辛い気持ちを味わってみたり。水平線の向こうに海と空以外が映らないこの場は、なんというかわたくしたち二人のことを肯定も否定もしないようで、ただひたすら無邪気に夜を楽しんでもいいのだと不思議な確信をわたくし自身に懐かせる。
「座りませんか」
「ここに?」
「はい、私の隣に」
 断る理由もなかった。長いスカートを汚さないようにしながら白砂の上に腰を下ろす。こんなに静かなんだなって思った。ついでに、どんなことを言えばお洒落なのかを考える意味を、不思議なくらいに見失った。
 深くて青い海の奥を覗いてみても、絵本のようにイルカやトビウオは跳んでくれそうにないし、夜の海の直上に浮かぶ、星のかがやきを眺めても。名前を知らないわたくしには数を数えることぐらいしか、この穏やかな静寂にくれてやるものがない。
626/03/01(日)04:10:47No.1406590197+
浮いても届かないような場所のために、してあげられる蘊蓄なんて持ち合わせがなかったから、わたくしはシェリーさんに。
「海に連れてきた理由、教えて」
 空を見上げながらそんな風に訊ねるぐらいしかできなくて。
「ハンナさん、明日で先に戻られますよね」
 その一言がすっと胸に刺さって、自己嫌悪の念が増してくる。
「ええ、そうね……」
 強がっていたの、当然よね、ばれていて。心の中だけにしておきたかった言葉たちが、散り散りになりながらこぼれだして、止まなくて、わたくしは静かに膝を抱える。
「やっぱり、すぐには、しゃっきりしませんの。何となく、気分が、良くなくて」
「ああっ、違うんですよ、なんていうんでしょう、トラウマを払拭してあげたくて、とかそんな大それたことを言いたいわけじゃなくて」
「……じゃあ、何を、言いたいっていうんですの……?」
「簡単ですっ、こう言いたかったんですよ」
 気障な王子様がするみたいに。わたくしの顎にそっと手を添えて、そして痛みのないままに無理矢理視線を合わされた。
「……あの、様になってますか?」
 困惑交じりの問い掛けは、わたくしに今日の出来事をそっと思い返させる。
726/03/01(日)04:11:07No.1406590220+
あの夕暮れ。懐かしいような、新しいような。うつくしいものを改めて確認した時の出来事を。
 でも。ほんの少しだけ、違う。
「ごっほん、ちゃんと仕切り直したので。何よりも真面目に言いますね」
 いいえ、夕暮れのときとはまるで違う、月よりもはかない色の瞳で、さっきと同じように懇願しているのだ、今は。
「連絡先、交換したじゃないですか」
 さざなみの鳴る音だけが聞こえる。
「大丈夫ですよ、心配しないでください」
 他に聞こえるのはシェリーさん、あなたの声だけ。
「ちゃんと迎えに行きますから。シェリーちゃんにお任せ下さいよ」
 ね、ハンナさん。
 優しい笑みを浮かべながらあなたは、玄関先で行ってきますと手を振るような、至極当たり前の仕草をするみたいに。いともたやすく、わたくしの唇を奪い去って。
「優しい味がしますね」
 真面目な顔でそうやって、わたくしばっかりを恥ずかしがらせるようなことをして、わたくしが欲しいものだけを与えて、そして嬉しそうに笑うのだ。
 そんな存在、生きてる中じゃ、
826/03/01(日)04:11:27No.1406590238+
「あなただけですわ、もう」
「やっと笑ってくれましたね、えへへ」
「欲しいものって、これ?」
「……そうです、ちょっとカッコつけすぎですか?」
 にへら、みたいな。擬音が似合う感じではにかむ様子に、わたくしの心の中を見つめてやって、その中から選んだ欲しい言葉を渡してあげるのは簡単だけど。
「ねえ、わたくし。髪を短くしてみようと思うのだけど、シェリーさんはどう思います?」
「……ええっ!? そんな突然! えーと、えー……これって、そういうことじゃないですよね〜!」
「あははは、当たり前ですわっ! いつか、いつかですわよ」
 これだけわたくしのことを好いてくれている相手には、少しだけ茶目っ気を出しても罰は当たらないはずだと信じて。この暗い夜の中でも明らかにわかるぐらいの、真っ赤な頬をどこかで期待しながら、わたくしからあなたの手を強引に取って、帰途の道に向けて歩き始めた。潮騒の響きが遠くなっていく中で、照れ隠しに触った自分の頬が妙に熱っぽかったような気がするけれど。きっとこの夜にはバレやしないだろうと、わたくしはいつまでも思っている。
926/03/01(日)04:12:26No.1406590277そうだねx5
眠れなかったので夜の海を眺めるシェリハンを朝に投げるわがはい…
1026/03/01(日)04:13:03No.1406590319+
こんな時間に来るとは驚きだよ「」ンアンちゃん…
1126/03/01(日)04:14:57No.1406590420+
「」ンアンちゃん4時に起きてるなんておかしいよ!
1226/03/01(日)04:21:54No.1406590792そうだねx1
うわぁ高純度のシェリハン!ボクこれ欲しかったんだ!
1326/03/01(日)04:21:55No.1406590794+
シェリハン助かる
1426/03/01(日)04:25:35No.1406590964+
精一杯王子様ムーブをしようとするシェリーちゃん微笑ましくて好き
1526/03/01(日)04:32:20No.1406591295+
もう結婚だろうこれは…
1626/03/01(日)04:55:55No.1406592434+
ハンナさんが短髪になるのはバグっちゃう…
1726/03/01(日)05:01:03No.1406592617+
5時って…こんな時間に投稿するなんておかしいよ!
1826/03/01(日)05:02:27No.1406592678+
突貫で書いたが案外書けてわがはいは嬉しい…
そろそろ眠くなってきたのでひとねむりするぞ…
1926/03/01(日)05:04:02No.1406592717+
素晴らしい小説だったぞ「」ンアン❤️
何こんな時間まで起きているんだ!寝ろ「」ンアン!!
何寝ているんだ!起きろ「」ンアン!
2026/03/01(日)07:36:04No.1406598675+
めちゃくちゃ書けてるよ「」ンアンちゃん
次回作も待ってるからね
2126/03/01(日)08:38:48No.1406605948+
わあ!王子様みたいなシェリーちゃん!これハンナちゃんに欲しかったんだあ!
2226/03/01(日)08:40:22No.1406606378+
スパダリシェリーは基本
2326/03/01(日)09:12:56No.1406615264+
いつかボクの話も書いてねアンアンちゃん!


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