26/2/8 マケフィ・ロウィンの末期? 私はマケフィ・ロウィン。大悲恋魔霊王を名乗り、冒険者によって命を絶たれた者。 だが今は痛みも苦しみもなく、体を動かすような感覚も特になく、ただ思考だけができる状態にある。 何が起こったかよくわからないがいわゆる死後の世界がここなのだろうか。 思えば、己の想いや力を一方通行で振るうしかない生き様だった。 はじめのうちは気に入らないものは壊し、気に入ったものは壊れるまで使い切り、その後に何が残ろうが残るまいが何も思うことはなかった。あの頃は一番気楽で幸せだったのだろう。 だがあるとき思い通りにならぬ事態が発生した。我が目にかなった少年を奪い去ろうとしたものの我が暴力は跳ねのけられ、我がものにしたいとの想いは何一つ届かなかった。 このとき初めて、心中に芽生えた得体の知れない熱意が恋であり、恋実らず激しい苦しみの感情を知ることとなった。 無数のアタックを繰り返した結果、既に初恋の相手には確固たるパートナーがいて既に結ばれており、いかなる誘惑も圧力も届かないことがわかった。 そう悟った後は悲惨極まりないものだった。八つ当たりのように人も魔もなにもかも薙ぎ払ったが気は晴れることなく、目についた男を組み敷き犯せど心は満たされず肉欲すらまともに得られなかった。 唯一光を見たのは恋に落ちた男女の片割れを引き裂き、他方が狂乱に陥った時だけだった。 やがて凶荒の限りを尽くした私は救いようのない化物として討伐されたが、身が滅びても魂に刻まれた恋心への執着は尽きるどころかますます燃え盛った。 世の中に渦巻く失恋の怨念、恋実らぬものの嘆きが私の魂に囁く。互いの思いが通じ合うことの何が善か、何が正義なのか! 生けるものは恋ではなくただ原始の衝動でまぐわい子を成せばよかろう、恋なくとも生命は繁栄したではないか! 恋愛は無駄である、破局せよ、破滅せよ!!!! 再び目覚めた私は大怨魔霊を称し、恋路に浮かれた愚か者を地底に叩き落し、そこから生まれる負の感情を養分に力を蓄え、「私の信じる正しい世界」を実現するために動き始めた。 恋に囚われた者は実に脆い、いかに情熱があろうと下劣な誘惑、真偽もわからぬ噂に惑わされすぐに瓦解していく。恋心を冷やし情愛を憎しみに変えるのは実に愉快であった。 やがてとある小さな都市を支配下に置き。老若男女問わず恋が実らぬ理想郷を築くのはそう難しいものではなかった。 だが我が崇高なる試みも長くは続かなかった。忌々しき小娘…ネーサ・マオに全てを破壊されてしまったためだ。 一度目の敗北はやむをえない。以前と異なり邪念で人心を歪めることはたやすいが単純な力勝負では分が悪い故、花を持たせて身を引いたに過ぎない。 だが二度目はどうだ、前回せめて心を折らんとして植え付けた「縁結びならずの秘術」が逆に奴の心に火を付け術者を殺すという強烈なモチベーションを与えてしまった。 まして呪いに負けぬ化物じみた仲間がひとり…いやふたりいては我が命脈も尽きてしまうのは当然だった。微弱ながらも恋を知り、強い絆に支えられた彼女たちにより私は滅び、ネーサ・マオが宿した呪いは無に帰した。 改めて振り返ってみれば、我が人生は己を満たすことだけに心を砕くも充足されず、限りない破壊と掠奪に追われた一生だった。そう生きたこと自体に悔いを抱えても仕方ない。心残りは初恋の大失敗くらいだ。 ただ…もし来世とやらがあれば「恋が実って愛を育む」「恋が実らずとも前向きに切り替えて次の新しい恋を求める」くらいの穏やかな生き方をしてもいい。負けっぱなしはもうこりごりだ。 『──…すか…』 『────聞こえますか?』 『私はこの世界の一部を管理するいわゆる神様です。  聞こえても聞こえなくてもどちらでもよいですが、貴女はそのうち新しい姿を得て復活していただきます。  ネーサ・マオの冒険譚とその後の物語が好評で、マケフィ・ロウィンさんにもまた出番が欲しいというお話が多数出ているもので  神々の意向としてはひとりでも多くの方に集き、いえ新しい生を謳歌してほしいということになりました。  普段はモテない嫉妬キャラという位置づけでコメディリリーフとしての役割を担っていただきますが  もし好きな相手ができてカップルになりたいという要望があれば結婚・出産・育児など関連するイベント含めて幸せになれるようサポートいたします。  ただし水着やイベント衣装など折々のタイミングでお色気強めの衣装を色々着ていただきたいのでその辺はご容赦ください。  拒否権はなく決定事項なので申し訳ございませんが、以上ご報告まで。それでは。』 次はあるらしいが神?の口ぶりではあまり期待はできなさそうだ。 だがやり直すチャンスが0ではない以上、次こそは光をきっと掴んでみせる。 その決意が実るか否かはわからないが、マケフィ・ロウィンに一時の安寧と希望がもたらされたことは確かである。 未来への展望がもたらされた後、マケフィ・ロウィンの思考は止まった。 永遠の眠りにつくのか、神々の言葉の通り新しい生を得るのかはまた今度の話で。 --- 【補足事項】 マケフィ・ロウィンが滅びた後、ネーサ・マオの呪いは無事解除された。ただし「誰とも結ばれない」ことへの縛りが解除されただけであり、 有力なパートナー候補が他の女性と結ばれてネーサ自身のカップリング機会が損失するのは呪いの問題ではなくネーサ本人の問題である、というのがマケフィ・ロウィンの見解である。