「──────あ……。」 それは、麗沙が選ばれし子供達に、何度目かの敗北を喫した後の目覚めであった。 「またやられちゃった…どうにか新しい殺り方考えないと…とりあえずフォーラム見よ…オニモン!」 彼女はいつものようにパートナーを呼んだが、いつもであればすぐに駆け寄ってくるオニモンが、今日は姿を見せない。 『オニモンならもういない。』 周囲を見回す彼女の前に姿を表したのは、黒電話のようななにかであった。 「えっ…な…なにこれ…黒い電話のデジモン…?」 『残念、それは少し違う。コイツはブラックコールモン。俺が連絡用に使ってるアプモンだ。』 どうやら喋っているのはそのアプモンではなく、その先にいる誰かであるようだ。 「えっと…その…誰…です…か?」 『俺はお前をフォーラムに招待した者だ。……そうだな、デジモンイレイザーとでもしておこう。』 「あっ…フォーラムのひと…!良かった、今から選ばれし子供対策のトピックを──────」 彼女の話を遮り、ブラックコールモンの先の人物は話し始める。 『久慈院麗沙、お前は実に役立ってくれた。フュージョンデジヴァイスのデータも存分に取れた。だからもう用済みだ。』 「え…?用済みってどういう…!?」 『お前は負けすぎた。デジモンイレイザーに弱いというイメージは要らない。デジモンイレイザーは巨悪のペルソナでなければならないのだ。』 冷たく言い放つ、デジモンイレイザーを名乗る男。 「ま…まって…!まだ私、戦える!選ばれし子供だって倒す!」 『そもそも我らの目的は世界を滅ぼすこと。選ばれし子供などどうでもいい。さぁ、ブラックコールモンにフュージョンデジヴァイスを渡すんだ。』 麗沙は縋るように話すが、デジモンイレイザーを名乗る男は取り合おうとしない。 「私だって世界を滅ぼしたい!…ゲホッ…!まだやれる!」 『渡せ。』 「や…やだ…!」 麗沙はフュージョンデジヴァイスを握りしめると、何処に行くわけでもなく家を飛び出した。 ────── 「はぁっ…はぁ…!あっ!?」 一心不乱に走っていた麗沙は、不意に何もない所で転んだ。 リアルの運動し慣れていない身体は扱いにくい。彼女はそう思ったが、実際はそうではなかった。 「な…なにこれ…!?周りが凍ってる…」 パキパキと音を立て、周囲が一気に白に染まる。転んだのも、氷で滑ったからだ。 そんな異様な光景を目にする麗沙の耳に、聞き覚えのある声が入る。 「貴様が久慈院麗沙か。」 「ほ…ホムちゃん…!?」 振り返った彼女の視線の先にいたのは、水龍将軍ホムコールモンだった。 「リアルワールドに来れたんだ…そ、そうだ!せっかくだし、今から襲撃しようよ!か…官邸とかさ!」 「そのデジヴァイスを回収し、貴様を凍結する。それがデジモンイレイザー様の命だ。」 それを聞き、麗沙の顔に再び恐怖の色が戻る。 「待ってよ!だって私がデジモンイレイザーでっ────あぐっ…!」 ホムコールモンは麗沙の首を掴むと、まず強引にデジヴァイスを奪い取った。 「返して…!私…だってば…ホ…ム…ちゃん…!」 手を伸ばす彼女を意にも介さず、彼は光る卵をもう片方の手で握りしめる。 「サポタマ…これにe-パルスを収容せよとの命令だったな。」 掴まれている部分から、麗沙の身体が凍っていく。 「え…?私…死ぬの…?や…やだ…!し、死にたくない!」 藻掻こうとそれは止まることがなく、彼女のe-パルスが枯れ始める。 「や……め…て…………ホ……ム…ちゃ───── 眼から光が消え、手足がぶらりと力なく垂れ下がる。 『ご苦労、ホムコールモン。』 「はっ。」 いつの間にか現れていたブラックコールモンに声をかけられると、ホムコールモンはフュージョンデジヴァイスを受け渡した。 『しかし君も酷いことをするな。そのガキと多少は交流もあっただろう?』 「私はデジモンイレイザー様の忠実なる下僕。ただ命令に従うことが、私の存在意義です。タマゴはいかが致しますか?」 『そっちも回収しよう。なにか役立つかもしれない。』 ブラックコールモンはサポタマも受け取ると、再び何処かに消えていった。 そしてホムコールモンもデジタルワールドへ帰ると、そこには凍りついた路地と、コールドハートした麗沙の身体だけが残されることになった。