【禁酒の日】 超力士 典星の大木をもへし折る威力の突進を、アル=コールは普段の姿からは伺えない華麗な跳躍で躱した。 「チェストォォ!!」 着地の隙を狙ってシュバルツキリシマが凄まじい気迫の太刀を振るうが、なんとアル=コールは真剣白刃取りでこれを受け止める。 アル=コールは掌底を驚愕で一瞬硬直した彼女の顎に放ち、怯んだ瞬間また走り出す。 「観念なさい!」 寡黙なキルシェが前方に現れ、アル=コールが舌打ちをする。キルシェの聖なるダブルスレッジハンマーが彼女に降りかかる。 「!?」 キルシェは仰天した。丸太のような彼の太い腕を踏み台に、アル=コールがキルシェの肩に飛び移り、そのまま彼の背後に大ジャンプを決める。 走り続ける彼女の目にやっと目当ての建物、マスターの店が視界に入り、僅かに気を緩める。それを軍師シディー・チュウは見逃さなかった。 「今だ!」 合図とともに四方八方から彼女に襲い掛かる網。あえなく彼女は御用となった。 「どれだけお前が手練れでも、行き先が酒なら対処は簡単だ」 血走った目で睨むアル=コールを、無表情にスプドラートが見下ろす。 「今日は禁酒の日だ。今日1日ぐらいは耐える気概を見せろ」 【減塩の日】 スパーデは本屋で料理本を物色していた。ヤン・デホムが健康診断で引っかかってから減塩生活に取り組んでいるものの、あまり料理に力を注いでなかった彼女は直ぐに料理のレシピがネタ切れとなっていた。 「あっ」「むっ」 料理本に同時に手を伸ばしたアズライールことハナコと、スパーデは、互いの存在に気づき、同時に顔を顰める。 「なぜお前がここに、拗らせ邪気眼」 「それはこっちの台詞よかっこつけ女」 睨みあうこと数秒、二人は同時に本棚に顔を戻し、再度同時に料理本に手を伸ばす。 「放しなさい!料理とか未来永劫縁のない分野でしょ!」 「その言葉、そっくり返すぞハナコ!」 ぐぎぎぎ、と本を掴みながら二人の女冒険者はガンを飛ばしあう。 「剣しか頭にないアンタがなんでこれを?ふん、まさか男ができたとか?」 「ややややヤンの事はどうでもいいだろ!」「えっヤンって人は知らな」 「お前こそ意中の殿方ができたから色気づいたのではないのか!?」 「は、はぁ!?ギルのことなんて好きじゃないし!」「えっギルって誰だ」 顔を真っ赤にした二人の睨みあいは、涙目の店員が「本は二人分ありますから」と懇願するまで続けられた。 【防犯の日】 審判の勇者イザベルと勇者ボーリャックは同時に異変に気づいた。 「あなた!」「わかっている」 赤子を揺り籠に入れ、イザベルとボーリャックが剣を手に家から飛び出る。 「やはり、結界が破られてる」 "アイツ"レベルには程遠いが、それでも聖都で魔術を習ってきたボーリャックにもある程度の結界は張ることができる。 そのボーリャックからしても結界の破られる速度は異常だった。まるで、向こうにスペシャリストがいるような…。 遠くで眩い光線と爆音が鳴り響く。光線を見たイザベルはボーリャックに囁く。 「多分罠が無効化された。装置ごと破壊された」 一瞬感じた魔力の気配に夫婦は笑みを浮かべて見つめあう。 「結構早かったな」「楽しみ…!」 やがて凄まじい魔力のオーラを放ちながら侵入者──聖盾のクリストと漆黒の勇者イザベラが現れた。 「交際報告もなしに妹と肉体関係結ぶなんて許しませんからねボーリャックさん!あと赤ちゃん見せて!」 「義妹のデキ婚の報告聞いた時はぶったまげましたよ!まずは一発殴らせろボーリャック!」 「派手な登場じゃないかクリスト!歓迎するぞ義姉上!」 「お姉ちゃんに義兄さん!会いに来てくれたんだ!」 【三十路の日】 ダルマーダ神父が施術を行った途端、レディ・ロナアプトラは情けない悲鳴をあげた。 「あまり動くな、施術が長引く」 「簡単に言いやがって…!」 下唇を噛み締めて耐えるレディを確認すると、ダルマーダは施術を再開させる。十数分程の、だがレディにとっては永遠ともいえる時間を過ごした後、ダルマーダは彼女から離れた。 「どうだ、体を動かしてみろ」 「おお…!すげえ!全然痛くねぇぞ!」 両腕、次いで腰を回して、悩みの種だった痛みが全く走らない事にレディは感動する。 「所詮対処療法だ。生活を改めないと直ぐに痛みは再発する」 「マジかよ…30になったばっかでこれか…」 頭を掻くレディに肩をすくめると、ダルマーダはレディに生活スタイルの改善を進める。 「まず一番気を付けるべきは姿勢だ。例えば、崩した姿勢で物書きをしてないか?」 うっ、とレディが言葉に詰まる。思い出されるのはイーンボウ宛てのヒュドラの情報を記す時の、己のガサツな姿勢。 「自覚があるようだな。では、さらばだ」「ま、待ってくれ!」 慌ててレディはダルマーダの腕を掴む。 「アタシの教会に一度来てくれよ!意外と生活習慣病抱えた奴が多くてよ!な?」 【熟カレーの日】 1日置いた後のカレーってなぜ美味しく感じるのか。カケルはそれが不思議だった。 「なんでだ?オッサン」 「オッサンゆーな!」 旅の途中、唐突にカケルから出された質問に、アリルチュートは律儀にツッコミを入れた後、上を見上げて考え込む。 「確か…うま味がカレーに溶け込むからか?」 「うま味?」 「ああ、野菜や肉の繊維や成分が時間を置くことでルーに溶け込み、より味に深みがでるってことだろ」 得意げに解説するアリルチュートだが、カケルには難しかったらしく、「よくわかんねえ」と頭を抱えてしまった。言い方が悪かったかとアリルチュートが再度説明しようとした時、カケルがばッと頭をあげた。 「一つ分かったことがあった!カイトの料理がすげぇってことだ!」 「えぇ!?」 まさか自分に話が及ぶとは思ってなかったカイトが、急に褒められて動揺する。 「だって時間がたつほど美味しくなるって、カイトのカレーが凄いってことじゃねぇか!」 「お、おう!そうだよな!オレ凄いよなっ!」 スゲースゲーと、盛り上がってる2人を眺めてたアリルチュートは空に視線を向ける。 なぜか、全国の親に拍手を送りたくなるような、そんな気分だった。 【イクラの日】 「美味しいわね。これがいくら丼か」 ルタルタが赤い宝石のようなイクラを堪能している。天幕の中はルタルタと彼女の幕閣による、海鮮丼大会が開かれていた。 「鮭というものは大変価値のある魚と聞いております」 奴隷から握られた寿司を頬張りつつ、ラグバートルは聞き出した情報をルタルタに披露する。 「身はこうやって美味しく味わうことは勿論、皮は衣服に利用もしている地域もあるとか」 「面白い!」 イクラを口にかきこんだルタルタは天幕を出る。途端に彼女の全身に吹きかける潮風の匂い。 「海、制覇してみたいと思わない?ションジェベ」 無言でションジェベは応じる。大海原を眺めるその顔からは、一切の感情を伺うことはできない。 「ションジェベ。併合した東国の技術者、学者に命じなさい。我らは草原を駆け巡るがごとく海を渡ることを望むと」 「御意」 「ラグバートル。速やかに東国の諸地域に代官の派遣を。税さえ払えば信仰と生命を保証すると民に触れを。現地の有能な官僚はどんどん登用せよ」 「御意」 「ドンドルジ。商人たちに諮問を。海の向こうにはどんな産物が得られるか。港を握ることで得られる利益は如何ほどのものか」 「うす」 【甘酒の日】 一口飲んで、マーリンはうえっとした顔をしてクリストにカップを渡した。 「甘すぎる。こんなの飲めねぇ」 「全く、馬鹿マーリンはこの美味しさがわかんないか」 プリプリ怒るハルナを宥めながら、美味そうにクリストはカップを傾ける。 「美味しいです。この甘酒というの」 「クリストはんの口に合ってくれてよかったわぁ」 ホッとした仕草をしながらジュダが屋台で買った甘酒を持ってくる。ハルナは礼を言いながら甘酒を受け取った。 「ごめんねジュダお姉ちゃん、うちの人が面倒くさくて」 「ほんまにそうや。うちの人にきつく言ってもらわんと敵わへんで」 誰がうちの人だっ、というマーリンの叫びを無視して二人は小芝居に興じる。笑ってそれを眺めてたクリストは寒さで冷えた体が火照ってきたのを感じた。 「うん、温まってきました」 「ほな、そろそろ行きまひょか。コト調査はまだこれからや!」 素早くクリストと腕を絡ませたジュダが、彼を引っ張っていく。 それを見たハルナも「行くよ馬鹿マーリン!」と、土産物店の着物に気を取られてたマーリンの手を掴んで走り出す。 ジュダの顔が赤いのは寒さだけではないだろう。ハルナは何となくそう思った。 【足袋下の日】 店に展示されてるとある品物にマーリンの目が吸い寄せられた。ジュダが怪訝気に声をかけても、生返事をするだけで動こうとはしない。 「なあハルナ、足袋ってどんな履物だ」 驚くハルナだが、頭の回転の早い彼女はマーリンの質問にスラスラと答える。 「この地方の伝統的な履物だよ。靴下のようなもので、親指と人差し指が分かれているのが特徴なの」 「そこが分かれてるってことは、靴にあたる物と関連が?」 推察を口にするクリストにジュダが正解!と、大きく丸を作る。 「前見したこともあるけどこの地方では草履や下駄が主流や、そのためにできた履物やで」 「ふーん」 店の中に入っていくマーリンに、慌てて三人も彼の後を追いかける。やがてマーリンはとある足袋の前に立ち、指さしてハルナに尋ねた。 「これはなんだ?」 「…地下足袋、足裏がゴム状になってて、鳶職や大工さんが愛用してるもの」 「そうか」と頷いたマーリンは、一足手に取ると会計に向かう。 「ハルナ、これ持っとけ。色々動き回るお前なら持っといて損ないだろ」 マーリンは後ろを振り向くと、呆然とているハルナにニヤリと笑いかけた。 「あとクリスト、悪いが金貸してくれ」 【ぬか床の日】 口に入れ、しっかりと噛むと、カリッとした気持ちのいい音が聞こえた。そのまま噛むと口の中に広がっていく美味しい味わい。 「美味しいですジュダさん!」 「良かったわぁ!クリストはんの口に合ってくれて」 お櫃を横に置いたジュダが顔をほころばせる。 「これは酒にもあうぜ。まじうめえ」「甘酒の時はあんなこと言ってたくせに」 ぬか漬と酒を交互に口に放り込むマーリンにハルナが呆れ顔で突っ込む。 「このぬか漬は…どちらで?」 購入したいですとクリストが言うと、なぜかジュダは頬を朱に染めて口ごもる。 「んっふっふ…クリストお兄ちゃん、このぬか漬、ジュダお姉ちゃん家で作ったんだよ」 「そうなんですか!」 驚いた顔でクリストがジュダを見ると、ますます真っ赤になって小さくなるジュダ。 「…ジュダさんの家の人は羨ましいですね、こんな美味しい漬物が毎日食べれて」 「!!?あ、う、うち、ちょっと用を足しに~~!!」 キャパオーバーしたジュダが持ち前の俊足で逃げ出した。元凶のクリストはというと、気づかずに幸せそうにぬか漬を味わっていた。 「…鈍感」「ハルナ、酒の肴にしたいからこれの作り方盗め」「どいつもこいつも…!」 【信州ワインブレッドの日】 「まさかこの国でワインブレッドを見れるとはな!」 マーリンが焼きたてのワインブレッドに舌鼓を打つ。既に結構な量のワインをお召し上がりになっており、彼の頬は随分赤みがかっている。 「全く、周りの目を気にして馬鹿マーリン、優良不良男児め」 ワイングラス片手にハルナがマーリンに毒づくと、くいっと勢いよくグラスを傾けた。 「まあまあ、元気のあってええことやし」 気にしてへんよと手を振りながらジュダがクリストに追加の赤ワインを薦める。遠慮しながらも有難くクリストはジュダの酌を受けた。 「しかし…東の国にワインの文化があったとは。しかもこんなに美味しいワインが」 ワイングラスを揺らして赤ワインを観察しながらクリストが感心したように言う。 「ウチの国は、結構ブドウの生産が盛んなんよ」 「それに、東の国の人たちはお酒が大好き」 そりゃあおもしれえ、とハルナとジュダの説明を聞いてたマーリンが会話に加わる。 「あの酔いどれシスターにも教えてやりてえな。アル・コールだったか」 「アル=コールですよ」 クリストが訂正を入れると、ハルナがおずおずと手を挙げた。 「ねえ…アル=コールってどういう風に発言すんの?」 【ライバルが手を結ぶ日】 『今日はライバルが手を結ぶ日です。なのでギルド1仲が悪い貴方たち二人を閉じ込めちゃいました♪』 「「ふざけるなあああ!!」」 クリストとマーリンは絶叫した。『あら、ハモリ♪』と天井からカプナーマの声が聞こえてくる。 『そこに楽器と楽譜があります。デュオで3曲弾けたら結界が消えます』 『簡単でしょ?』とさらっと言うカプナーマの声に、マーリンが天井に中指を突き立てる。 「何でよりによっててめえと!」 「…それはこっちの台詞です」 苛立たし気に返すクリストの姿がマーリンの癇に障る。眉間に皺寄せて二人が睨みあう。 「あ?自分は純粋な被害者だと言いたげだなおい」「そうですよね?貴方のやらかしに何度巻き込まれたか」「てめぇが頼んでもないのに口挟んできたんだろうが」 「俗物騎士が」「小悪党」 話は終わりだとばかりに二人は同時に背を向ける。 「くだらね。リタイアでいいから俺は寝る」「僕もです。死ぬ前には出れますよ」 『追伸。この部屋は時間切れと同時にセ(略)部屋と変わります』 「お前何弾ける!?俺バイオリンとピアノ!」「僕もその二つです!」 「頼もしいな!期待してるぜ!」「まずは情熱大陸にしますか!」 【禁煙の日】 煙草を奪い取られ、ギャンが顔を顰める。 「なにすんだ。サトー」 奪い取った煙草を手にサトーが険しい顔をしている。何故か一瞬、ギャンの体が怯んだ。 「ギャンさん、1日何本吸ってますか」 一瞬ギャンが言葉を失う。視線を宙に漂わせ、目を逸らしながら答える。 「7、8本くらいか」「15本以上減ってますよね」 ゴミ箱を指さしながらサトーが詰る。 「煙草を止めろとは言いません。ギャンさんにとって貴重な気分転換ですし」 でも、と俯きながらサトーが言葉を続ける。 「少しは自分の体を労わってください。喉頭癌や肺癌になったらそれこそ大事ですよ…」 サトーの肩が震えてることに気づいたギャンは、彼女の肩に手を置こうとして、置けなかった。代わりに出るのは残酷な言葉。 「今俺がどうなろうと、もう、困らせる相手もいねぇよ」 「私は!ギャンさんにとって困らせる価値もない存在ですか!」 ギャンが呆然として立ち尽くす。自分の言った言葉の意味に気づいたサトーがみるみるうちに青ざめ、「すいません」と呟いてギャンの家から飛び出した。 独りになった家の中で、ギャンは煙草を取り出し、火をつけようとし──床に煙草を投げ捨てた。 【夫婦の日】 「クリストの浮気者!」「誤解です!」 イザベラが次々と繰り出す魔法弾を、クリストは自身に強化魔法をかけ素早く躱す。 「ミサさんにあんなに密着されてにやけてた!」「あれはイゾウさんですよ!!」「関係ない!」 一瞬のための後、光弾をイザベラは繰り出す。強い追尾性能がある光弾を、クリストはボール型の結界を張って凌いだ。 「ジャンクさんもあんなに貴方にくっついて!」「彼女は大雑把な方ですから…!」 イザベラが魔力を手に集中し、直後彼女が放った魔力の砲撃を、クリストはリフレクター型の魔法壁で弾き返す。 己に向かってくる砲撃を、イザベラは右腕に魔力を集中させ、体をひねりながらアッパーで天空に殴り飛ばした。 「クリストの…馬鹿ぁぁ!」「イザベラの…分らず屋!」 二人の魔力が大幅に高まる。イザベラの掲げた右手に巨大な魔力の弾が浮かぶ。クリストを中心に聖なる結界の輪が広がっていく。 『スーパーノヴァ!』『ルクス・エテルナ!』 巨大な魔法弾が、天まで昇るかに見える円柱の結界にぶつかり、大爆発がクリストを包んだ。 「ごめんクリスト、私嫉妬深い奥さんだね…」 「嫉妬してくれて嬉しいですよ。僕も不注意でした」 「すいません。負けました」 シュンとした顔でユイリアは謝罪する。心なしかアホ毛も元気がない。 「気にすんな。最初からカジノで勝つ方が後々怖い」 「でも、お金が…」 沈んだ顔でユイリアが空になった財布を取り出す。それを見たマーリンは笑い飛ばした。 「気にすんな。ちょうどあてがある」 キョトンとしたユイリアが意味を問おうとした時、ガラの悪い空気を纏った男たちが二人を囲んだ。 「ワシらはヒュドラのもんじゃ!往生せいやマーリン!」 「あてが来たぜ」 匕首で突きかかる構成員をマーリンはさっと躱す。喚きながら振り返ろうとした構成員の背をユイリアが張り手で殴ると、その男は錐揉みしながら吹っ飛んだ。 感心した顔でユイリアが構成員たちに突進していく。女だと油断していた構成員たちは、直後ピンボールのように彼女に殴られ、投げ飛ばされる光景に驚愕した。 構成員たちはユイリア相手に数の優位を活かそうとするが、マーリンの魔法で視界を狂わされ、転ばされ、次々と戦闘力を奪われていく。 瞬く間に全滅した構成員を指さしながらマーリンは笑った。 「こいつら突き出せば報奨金が出る。できる旦那だろ?俺」 「流石ですマーリン!」 「あんたどうやってあのボーリャックと結婚したの」 「教えなよっ」と、叫びながらハナコが棒で薙ぎ払った。 「気づいたらそうなってた。あと流れ」 スウェーで棒を躱した審判の勇者イザベルが、瞬時にハナコに斬りこむ。 「その流れの中身を知りたいのよ。参考にしてあげるわ!」 「知りたいなら私に勝ってみな」 棒と木刀で鍔迫り合いながら、ハナコとイザベルが睨みあう。 「その言葉…」 ハナコが飛びずさって棒に気を籠める。一瞬彼女の脳裏に浮かぶのは仏頂面のギルの顔。それを見たイザベルも木刀を構えて、精神を集中させ始める。 「忘れんじゃないよ!!」「はぁっ」 ハナコが渾身の力で放った衝撃波と、イザベルが振りかぶった木刀によって生み出されし衝撃波がぶつかり合った。直後巻きあがる爆風と轟音。 ばきっと二人の武器が限界を迎える。ハナコの棒は二つに折れ、イザベルの木刀も隅々にひびが走っている。 「ちっ」「鍛錬はここまでね」 露骨に舌打ちするハナコを後にしてイザベルは訓練場を立ち去る。折れた棒を手に、ハナコはイザベルの背に向けて叫んだ。 「絶対に一回り上の男の落とし方、聞き出してやるんだから~~!!」 【一無、二少、三多の日】 サカエトル某所、宵の明星の経営するバーのカウンターで、警察官が並んで座っていた。 「お前も、難儀な恋してるねぇ…」 ハルノ=レノレヴィンが遠い目をしながらモヒートを傾ける。隣に座るサトーは苦笑いしながらギムレットを口につけた。 「恋とかそういうのじゃないです」 ただ、放っておけなかった。ギャンのまるで生活感のない部屋を見た時、彼をこのままにしてはいけないと思ったのが切欠だった。 「きっと私がこれ以上言ってもギャンさんはこう言います。『お前に俺の何がわかる』と、わかりません。子をなくした経験なんてないんだから」 揺れるギムレットを眺めながら訥々と語るサトーを、ヘカトン明美とハルノは黙って見つめる。 「でも、悲しみを抱えてるから、今の自分をぞんざいに扱うのはきっと違うと思うんです」 震えるサトーの肩に、優しくハルノが手を置く。 「確かに貴女のは恋じゃないわねェ」 黙って話を聞いていた明美が優しい目で彼女を見下ろす。 「貴女が抱いてる思い、それは愛よ」 驚いたサトーが顔を上げると、明美は笑って頷いた。 「ところでババア、何うちのバーを相談場所にしてんのよ」 「やだもぅ明美ちゃんったら~!」 お気に入りの喫煙所、そこにギャンは立っていた。煙草を手に。 深く息を吸えば紫煙の匂いが彼の鼻孔を刺激する。ギャンはこの空間が好きだった。だが、今は何故か吸う気にはなれない。頭にあるのは、とある一人の後輩の姿。 近づけすぎたとギャンは反省する。次会う時は関係を解消せねば。『もうくんな』と言えばそれで終わる。だが…。 「吸わねえのか?」 喫煙所を訪れた人物にギャンが舌打ちをする。 「面白れぇことになってんじゃねぇか。サトーだっけ」 楽し気なダテイワ・クシテルをギャンが睨むと、大げさに仰け反った。 「よくわかってるぜお前の考えてることは。関係を解消したいんだろ」 「うるせぇ」 「理由なら幾らでも上がるだろ。歳の差、こいつは覆せねえ。職場の評価、彼女の社内評価はどうなるか。それとも、やっぱ申し訳がたたねえか?」 「黙れ」 「伝え方か?もうくんなと言えばそれで終わるだろ。なぜできないか?それは」 ダテイワの体が吹き飛ぶ。拳を握りしめたギャンがダテイワを見下ろすと、荒々しく喫煙所を立ち去った。 苦笑しながら立ち上がったダテイワはギャンの落とした煙草を拾うと、ゴミ箱に捨て笑いながら喫煙所を後にした。 【ゴールドラッシュの日】 私はキャプテン・ユーリン この放送を見てる君は選ばれし者 ユーリン・ディ・レンハートとのお食事会を掴むチャンスを与えられた強き者 単刀直入に言おう サンク・マスグラード帝国にいるあるマスクマンをぶちのめしてほしい 名はレンハートマンホーリーナイト 正体不明のレスラーで"メロ・ディ・レンハート"をたぶらかしたマスクマンだ もちろんめちゃくちゃ強い しかもこの戦いには絶対守らなければならない条件がある ホーリーナイトを倒すには徒手空拳でなければならない 銃や刃物などの武器は使用禁止 なぜなら万が一にも"彼"を殺してはならないからだ 何よりも"彼の正体"が大事なんだ ぶっちゃけホーリーナイトなんてどうでもいいんだ "マスクの下"さえわかればなぁ さぁ腕に自信のある者は今すぐサンク・マスグラード帝国へ行け ホーリーナイトを失神KOさせろ 急げっ 乗り遅れるな 国王ユーリンとのお食事会を掴むんだ "ホーリー・ラッシュ"だ 品行方正とはまるで無縁の危険なオーラを放ちながら続々と入国 金鉱を掘り当てた"ゴールドラッシュ"ならぬレンハートマンホーリーナイトのマスクに群がる"ホーリーラッシュ" 泣いて詫びている弱者に対して冷徹非情にパイプ椅子を振り下ろす精神が"強さ"だと信じている野蛮人たち 【お詫びの日】 かつてイザベルとイザベラが幸せに暮らしていた場所。そこにイザベルとボーリャックの姿があった。 お供え物を置き、イザベルは手を合わせる。 「お母さん、お父さん、みんな。こんなに遅くなってごめんなさい。とても合わせる顔がなくて今までこれなかった」 祈りを捧げるイザベルの手に震えが走る。 「命を奪ってごめんなさい。本当に、本当にごめんなさい…!」 嗚咽を漏らしながら謝罪を続けるイザベルの後ろで、ボーリャックは祈りを捧げる。 「私は願いがある。一人でも二人でも私の墓を訪れ、祈り、佇んでくれること」 イザベラが立てたのであろう墓を見つめ、神への祈りを続ける。 「一人が清き心を保てたことを私のお陰だと神に感謝し、もう一人が貴方のお陰で正しき心に帰れたと墓に眠る私を祝福してくれること。このことが私の願い」 やがてイザベルの謝罪が終わり、泣きはらした目でイザベルは立ち上がる。 「有難うボーリャック。今日は付き合ってくれて」 ボーリャックは首を横に振り、イザベルの肩に手を置く。 「魔王軍との戦いで死んだ兵の共同墓地の墓参りに、お前が共に来てくれた時はもっと嬉しかった。…独りではとても俺は行けなかった」 【ホットケーキの日】 「朝飯できたぞー起きろお師匠さま」 マーリン改めジャックの声に、寝ぼけ眼のままリビングにやってきた魔女マーリンは「おっ」と、驚きの声をあげた。 「ホットケーキかい!嬉しいね」 にやけ顔でテーブル椅子に座り、たっぷりとバターと蜂蜜のかかったホットケーキを一口食べた師匠は「美味い!」と叫んだ。 「いい腕じゃないか!相変わらず変な所でやけに器用だねお前さんは」 「そりゃどうも」と、追加のホットケーキを持ってきたジャックも席に座る。 「なんせあのPTにいた時は簡単な飯は俺が作ってたからな」 お嬢様のユイリアに不器用者のボルボレオ。食事担当はハルナかジャックだったことをジャックはマーリンに話す。 「ふうん…ねえお前さん」 食べながら聞いていたマーリンが、ふとジャックに尋ねた。 「戻りたいかい?あの頃の日々に」 「いんや」 即答するジャックに感心しながらマーリンが続きを促す。 「魔王滅亡後、ユイリアは俺を親に招待したがってたが、行けば俺の素性がバレて身の破滅の危機。ハルナも第二の生活を考え始めてた。色々終わりドコロだったのさ」 「だから感謝してるぜ。ありがとよ師匠、俺を弟子にしてくれて」 【二郎の日(非公式)】 『遺恨清算タッグマッチ、ラーメン早食い大会』と書かれた看板の下で、クリストとヴリッグズ、マーリンとボルボレオの四人が睨みあっていた。 「自慢の逃げ腰がいつ発揮されるか楽しみだぜ」 「貴方がどんな言い訳言うのか楽しみでなりませんよ」 「ヴリッグズ殿、辞退してくれませぬか。弱いものいじめはしたくない」 「あまり強い言葉使うなよボルボレオさん。弱く見えるぜ」 既に臨戦態勢の四人に、会場のボルテージは一気に高まる。 「ルールは簡単!先にこの極悪ラーメン、通称《ブタのエサ》を食べきったチームが勝ち!残した場合は残りの重量で勝者を決めます!」 司会者のバニラの解説と共に、ドンッとニンニク マシマシ アブラ カラメが置かれ、その威容に四人が息を吞む。 「アーユーレディー?」 審判役のウサフリードの掛け声に一斉に四人は箸を手に持つ。 「二人とも頑張って…!」「二人とも根性みせえや!」 「マーリン!ボルボレオ!気合です!」「マーリン!こっちの勝ちに有り金全部賭けたんだからね!」 観客席からの女性たちの応援が、ファイターの心に炎を灯す。 「ファイっ!」 ゴングの音と同時に一斉に四人は麺を啜りだした。 【求婚の日】 「求婚の日?」 首を傾げるイザベラに、クリストが新聞を出しながら解説をする。 「求婚の日って新聞に求婚の広告を出したのが由来なんだ」 「はい、そこから発展してプロポーズを後押しする日になったのです」 「なるほど…」 無邪気な瞳で何度も頷いていたイザベラが、ぽんと手を叩いて唐突にクリストに提案をした。 「ねえクリスト、私も求婚広告出そうかな」 「えぇ!?」 驚くクリストを放ってウキウキとイザベラがペンを取り出すと、新聞に何やら書きこんでいる。 イザベラから新聞を受け取ったクリストが恐々読むと、流麗な字でこう記されていた。 『旦那さん募集中。年齢:20代、容姿:金髪隻眼、職業:聖騎士(パラディン)、性格;奥ゆかしく献身的、その他:攻めるより守りが得意で大楯と魔法で立派に誰か(具体的には長身黒髪の女性)を護り続けてきて、かつ偏見や誤解から一生懸命漆黒の勇者イザベラを護ろうと奮闘してくれた人』 その内容に十数秒ほど固まったクリストだが、やがて顔を上げてイザベラと見つめ合うと、どちらからともなく笑い合った。 そしてペンを手に取ると、イザベラが書いた文字の横にこう書き加えた。 『応募済み』と。 【寒の土用丑の日】 「お前は痩せすぎだ、ほらもっと鰻をたべろ」「…どうも」 シュバルツキリシマから渡されたうなぎの蒲焼を、おずおずと受け取った見習い戦士ロカは、一口蒲焼に齧り付いた途端に口に広がる甘みと、ふっくらとした食感に目を見開いた。 「美味い」 「そうだろう?」 ニヤリと笑うとキリシマは自身も蒲焼を手に取り、美味そうに頬張った。 「これを食うと力がでる。お前の兄探しも捗る」 「これはどんな食べ物だ?」 「鰻という生き物を蒲焼にしたものだ」 早々と食べ終えたキリシマが頬についたタレを指で掬って舐めながらロカに説明する。 「ちょうど今日は土用丑の日でな。鰻を部隊の皆で食していたところなのだ」 「そうか(うしのひ…?)」 「私が所属している部隊にも聞いて回ったが、心当たりがある者はいなかった。すまん」 深々と頭を下げるキリシマにかえってロカの方が恐縮する。うなぎの蒲焼というご馳走を頂いたうえに協力までしてもらって、感謝こそすれ謝罪される理由などどこにもなかった。 そのことを伝えるとキリシマに笑顔が浮かぶ。それはとても綺麗な笑顔だった。 「この女騎士の下半身の意匠どうなってんだろうなロカ!?」「黙れ」 【愛妻感謝の日】 雄叫とともに一閃させたジーニャの斬撃が、ハナコの棍を弾き飛ばした。 「お見事」「手加減しといて何が見事だ」 バレたか、と舌を出すハナコに、不満気にジーニャが鼻を鳴らす。 「ジーニャ妃殿下の実力を試したまで。許されよ」 スパーデが拾った混をハナコに渡しながらジーニャに詫びる。 「もう一戦やろうぜ、手加減なしでな」 再びジーニャが剣を構えると、スパーデが前に出て刀を鞘から抜いた。 「では次が私がやろう。この後のイベントで少々気分が昂っているのでな」 「イベント?」 「今日は愛妻の日、レンハートの夫婦には欠かせない行事です」 得意げにハナコが語る。ハナコの話によると、彼女の夫のギルも、シュガーにイベントに強制参加させられたとのことだった。 「我が夫ヤンも父上に捕まっていた。その類の行事に関心が薄い人なのに気の毒な事だ」 悪い笑みをする二人に呆れながらも、ジーニャは準備をするラーバルの姿を思い浮かべる。 「もしかしたら、10か月後はこの中の誰かが母親になっているかもしれんな」 「義姉上!」と真っ赤になりながらスパーデに斬りかかり、そのまま派手に切り結ぶジーニャに、ハナコは耐え切れず吹き出した。 魔術師マーリンは工房に籠って木の指輪を作成していた。 使う木は、クルミの木。クルミの木言葉は「豊穣・強さ・あなたは必要とされる」。 まさしくユイリアのためにある言葉だとマーリンは信じていた。 「よし…」 出来上がった指輪を眺めて満足げに頷いたマーリンは紙袋にしまうと、次にギフトカードに用意する。 暫し腕を組んでマーリンはカードに書き込む文章を考える。 『流石ですマーリン!』『マーリンは偉大な魔術師です』『マーリンならきっと解決策を見つけます』『マーリン!何かわかりましたか!?』 「へっ、あいつ、俺に頼りすぎだろ」 思わず顔がにやけてきたマーリンは、ギシッと椅子を傾け、天井を眺めながら思う。 『いやー!見つけましたよ勇者様!貴方こそ俺の目に適った人!』 初印象は世間知らずなお嬢様。カモだと思って近づいた。カモどころか鳳凰だった。 楽てボロイ儲け話どころか、命が幾つあっても足りないような冒険と恐ろしい敵との戦いの日々。ヒュドラやルタルタとの忌まわしき追いかけっこ…。 「だが、楽しかったな」 姿勢を戻したマーリンは、ペンを持つとカードに文字を書き始めた。 『我が愛しき妻、ユイリアに送る……』 今日は愛妻感謝の日。クリストはガチガチに緊張しながら、自分の家の玄関の前に佇んでいた。 手に持つのはチューリップの花束。花言葉は「愛の告白、博愛、思いやり」。 花言葉を聞いた時、イザベラにとってピッタリな花だと確信した。 「すー…はー…」 深く深呼吸をしてクリストは心を落ち着かせる。ドアノブに手を伸ばしたとき、ガチャっと何もしてないのに扉が開いた。 「あれ?クリスト?」 「のわぁ!?」 新妻のイザベラが扉に手を当てたままキョトンとしている。買い物袋を持ってる所を見ると、これから買い物に行くところらしい。 「…どうしたの。その花」 クリストの顔と花を交互に見比べながらイザベラが尋ねる。一方のクリストというと、予想外の展開に完全に動揺していた。 「えーと、あの、その、これ、愛妻感謝の日です!」 考えていた口上が全て吹き飛びながらも、ばっと頭を下げ、何とかクリストはイザベラに花束を差し出す。だが何秒経っても妻からの反応がない。 (終わった…また僕はやらかしてしまった…) クリストの心に弱気の虫が起きかけた時、がばっとイザベラがクリストに抱きついた。 「嬉しいっ、ありがとうクリスト!大好き!」 【ゆでたまごの日】 宿で異星からの迷い人ジェームスと、獣人の少年テルタが朝食をとっていた時、ジェームスがゆで卵を見てボソッと呟いた。 「俺、ゆで卵苦手なんだよな」 「フーン…?」 対して興味なさそうな顔でテルタが相槌を打つ。たまたま同日同時刻にチェックインしたというだけの関係なので、無視しても良かったのだが。それをしなかったのは彼の人柄故か。 「こうやって剥いてくじゃんか」 ジェームスが殻を剥くと、どんどん内側の白身まで一緒にはがれていく。哀れ、ジェームスが剥き終わるころには、ゆで卵は表面が凸凹になっていた。 「はい、クレーターの出来上がりだ」 「クレーター?」 「こっちの話だ。忘れろ。しかし、どうやりゃ綺麗に剥けんだこれ」 何か考え込んでいたテルタがおずおずと話しかける。 「おじさん、卵を茹でた後に直ぐ冷水で冷やしてる?」「いや、してねえな」 「茹でる前に卵に針で孔開けてる?」「…やってねえ」 「今度騙されたと思ってやってみてよ。きっと上手く剥けるようになると思うから」 感心したようにジェームスが頷くと、卵を口に放り入れた。 「いい話聞かせてもらったぜ。じゃあな坊主、達者でな」「うん、おじさんも元気で」 【夫婦の日】 「レンハート国王夫婦は今も大層熱愛らしいですねシュティアイセ殿。関税は異議なし」 「うむ。アレを見ると、余にも素敵なスパダリ現れろって思うんじゃよマチ殿。知財は異議なし」 「あら、貴女にそういう願望があったのですか?あれだけ好き勝手に振舞っているからてっきり。消費者保護について異議なし」 「むっ、余もまだぴちぴちギャルの乙女!まだこれからじゃ。…まあ、マチ殿の苦労には負けるがの。セーフガード、異議なし」 「…何のことでしょうか、ティア殿」 「およ?ただ、奥ゆかしいマチ殿のこと、『寝室で己の姿を曝け出す』時は色々悩みそうと。失敬、下世話な話じゃったな。補助金に関して異議なし」 「くっふふっ、国政を放り出して冒険者ごっこに現を抜かす女がよくも……投資の規定、異議なし」 「いやいや、部下が有能揃いでのう、優れた人材を見つけ仕事を任せるのも、立派な統治術じゃよ。規制の項目、異議なし」 「…さて。後は共同会見と署名式ですね」 「…イーンボウに任せちゃだめかのう?」 「駄目です」 『ウァリトヒロイ王国とダスタブ王国が経済連携協定を締結。発表の内容によると、両国間の貿易品目の92%の関税を撤廃…』 【節分】 海を渡り逃げのびた鬼王子シュテンを追い、大陸にやってきたモモっち。彼はとりあえず考えた。「とりあえず新しいキジと猿と犬を見つけるか」と。 「お前のその力、その風貌、気に入った。拙者の仲間になれ」 (この男、大木…?柱……むしろ岩石っっ 断れば俺は死ぬ!) 最初に、プロロで野球をしていたオーガコングを仲間にした。 「キジもツルも似たようなもの。その面構え気に入った。拙者の仲間になれ」 「あぁぁ!?誰がトキだって………は?キジ???」 次に、剣豪ツルを配下に加えた。 「良い目をしておる……そなたら、我が一味に加われ」 (助けてお兄ちゃん…!私…この人(のナデナデ)に逆らえない!!)「わふぅ」「お兄ちゃーーーん!!??」 最後に、セーブナで銀狼イヒト・ゼーンニとアナベラ・ライアーを仲間に加えた。 「…で、モモっち殿はどうやってシュテンってやつに会うんですかい?魔王城に引きこもっているという話ですが」 「勿論、魔王城に真正面から乗り込むまで。皆もその積りで心得よ」 「……アナベラ、モモっちの今の発言は?」 「噓でしょ……お兄ちゃん、この人本心で言ってる……」「そうか…そうかぁ……」 【妊娠の日】 その言葉を発した時は、あんな事態になると思わなかった、アリシアはフレイを追いかけながら先程の出来事を振り返った。 「あ、今日は妊娠の日なんだって」 カレンダーを見て思い出したようにアリシアが口にした。 「なんだそりゃ」「2/4で妊娠。ただの語呂合わせだ」 クロウが鼻で笑い、ドアンが得意げに解説する。それだけのことだが、この二人と雑談が出来たことが何となくアリシアは嬉しかった。 「確かにくだらないねフレイ。……フレイ?」 フレイの顔を見たアリシアは息を飲んだ。彼の顔は蒼白となり、目は恐怖で見開かれていたのだから。 「ぼ、ぼく、知らない!!」 フレイを呼び止めるアリシアの声も無視して、脱兎のごとくフレイは宿から飛び出していった。 「フレイ!」 慌ててアリシアも彼の後を追いかける。物陰に隠れて蹲る彼を見かけたのは暫く後のことだった。 「フレイ、ごめんね」「触らないで!」 アリシアの手を振り払ったフレイが、ハッと我に返って顔を歪める。 「ごめんアリシア、僕、僕」「何も言わなくていいよ。私もごめん」 自分はフレイの最も触れられたくない過去に触れてしまった。それだけはアリシアにもわかった。 【にっこり笑顔の日】 「はい皆さん、1+1は?」「に、にー!」 クリストの声と共にイザベラ、ヴリッグズ、ジュダが笑顔を作る。何かと誤解されやすいクリスト以外(ある意味クリストも誤解の被害者ではある)の3人の、印象改善訓練が行われていた。 「…うん!どうですマインさん!」 手応えありと頷いたクリストが、採点係のマインの方を振り向く。 「う、うーん…」 複雑な顔で腕を組みながらマインが、言いにくそうに口を開いた。 「えーと、採点なんだけど…」 ギロッと三人が何とも凄みのある顔で一斉にマインに顔を向ける。その迫力に一瞬マインがたじろいだ。 「…45点!」「「「「えー!!」」」」 ガクッと三人は肩を落とす。罪悪感を覚えるもマインは心を鬼にして、パッと浮かんだ感想をあえて正直に伝えていく。 「まずジュダさん、凄く含みが感じるというか、誤解されやすい顔してます」「はうっ」 「次ヴリッグズさん。仕方ない部分あるかもしれないけど、物凄く好戦的な顔に見えます」「難しいぜ…」 「最後にイザベラさん!ザ・物語に出てくる悪い魔女!って感じです!」「あう…」 「皆さんいい笑顔でしょうが!!」 「クリストさんは三人を甘やかさない!!」 「うえへへへ~ギャンさんだ~~」 すっかりへべれけになったサトーが、ギャンに抱き着いてくる。顔面は真っ赤になっており、普段の初心さの欠片もない。 「…離れろサトー」「や!私は蝉だ!」 振り払おうとしてもがっしりと抱き着いてきて、サトーを剥がすことができない。もみ合っているうち、バランスを崩してギャンは尻餅をついた。 「えへへ~、ギャンさんの顔が近くにある~」 ギャンの膝の上に乗ったまま、彼の顔をペタペタ触るサトー。ここが自分の家であることにギャンは心底安堵した。 「む~~…」 ふと気づくと、膨れっ面をしながらサトーがギャンの顔を睨んでいる。恐る恐る理由を聞くと、サトーは予想外なことを言い出した。 「…見てない」「は?」「私はまだ、ギャンさんの笑顔を見てない!」 思わずギャンはサトーの顔を凝視する。 「笑ったことはあるだろ」「あんなニヒルな笑み笑顔じゃない!!」 十数秒後、観念したようにギャンはゆるゆると頷いた。 「…ほら、これでいいか」「わあ…!」 ぎこちないギャンの笑顔。だが、サトーの顔にみるみるうちに笑みが浮かんでいく。 「ギャンさんが笑った!私のギャンさんの笑顔だ~~!」 【抹茶の日】 茶筅でお茶を点てるスパーデの顔に、一切の緊張も昂ぶりも見られない。意外な彼女の技能にヤンは内心感心していた。 スパーデの合図に恭しくヤンが一礼し、懐紙を掌に載せヤンが菓子を食べる。食べ終わったヤンが懐紙を懐にしまう。 「お点前頂戴いたします」 スパーデが出した茶碗を完璧な作法でヤンは口につける。そして飲み口を指で拭き、半回転させ、茶碗を置いた。 「…お前にこういう趣味があったとはな」 「ヤンよ。それはこちらの台詞だ」 正座をしながら二人が向かい合って談笑する。 「王族という面倒な生まれからの煩わしさを、束の間茶は忘れさせてくれる」 ほう、とヤンが僅かに驚いた顔をした。 「ではここでは俺たちの関係もか?」「然り」 スパーデは頷く。 「ここでは指名手配犯と王の娘という関係も、剣の師と弟子という関係も、かつての勇者ユーリン・ディ・レンハートに目を焦がれた者と、勇者の娘という関係もない」 「一座建立、ただ、招いた者と招かれた者の心が通い合う空間のみがある、か」 無言でスパーデが頷く。腕を組み黙然と考え込んでいたヤンだったが、やがて、「本日はお相伴有難うございました」とゆっくりと頭を下げた。