二次元裏@ふたば

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153658 B26/02/06(金)23:38:14No.1399475441+ 01:16頃消えます
「いやー死ぬかとおもいました!」
口回りに盛大に生クリームを盛りつけて、橘シェリーが元気よく情けないことを言う。
「今回はわたくしも本当にダメかとおもいましたわ」
「そんなハンナちゃんまで……」
同じくソファの隣に腰かけて、もはや色のついた水としか呼べない、 出涸らしのティーパックで入れたお茶をすする。お嬢様しぐさは質に入れてきた。
テーブルをはさんで対面、エマは反応に困って苦笑いをしている。
自分の分を早々に食べ終えて、こちらを狙っているシェリーをけん制しながらロールケーキをフォークでつつく。いつぞやのクレープの恨みを忘れてはいけない。
きめ細やかなスポンジは抵抗なくフォークを飲み込み、生クリームは口の中に入れた瞬間ほどけていく。舌の上に残るのはまろやかな甘みだけ、生地に編み込まれたのであろう、鼻孔を吹き抜けていくゆずの微かな香り。さすが食べ歩きが趣味のエマのチョイスだけあってレベルが高い。動物性脂肪分がすきっ腹に染みるようだ。ああ、うんめぇですわ。
126/02/06(金)23:38:46No.1399475612+
築40年鉄筋コンクリート造2階建て、23区の端の街、半死半生の商店街の大通りのそのまた端のさらに2階、元チェーン喫茶店の居 抜きテナントに橘探偵事務所はその居を構えている。本日のお客様は午後2時時点で桜羽エマを含めて2名、休日とは言えここ2週間で最大数だ。
「わたくしもついにアレに手をつける日がくるかと思いましたわ」
事務所の隅の段ボールを見やる。最近の牢屋敷のトレンドは自給自足とのことで、元なれはての少女たちのリハビリも兼ねて整備された畑には、往々にして見たこともない野菜が生えてくるという。
3メートルを超える南瓜、上下を指す指の形に似たトマト、やたら艶かしいベルト跡のついた二股の大根。橘家の食糧事情が厳しいことを知ってか、好意半分、面白半分で寄越してくる。
「これ傘の裏側が虹色です!煮たら虹色の汁になるんじゃないですか?」
私のロールケーキを諦めたシェリーが段ボールを漁って出てきた 謎のキノコをエマに見せている。
「ぜってぇやりませんわよ。通報される未来しか見えませんわ」
シェリーのに地口にハンナがツッコむ。慣れ親しんだいつもの光景が過ぎていく。
226/02/06(金)23:39:21No.1399475840+
「2人はいっつも仲良しで羨ましいなぁ」
エマが恨めし気な声を出して机に突っ伏す。たまにこうしておやつを提供してくれる彼女だが、ここのところはずいぶんと参っているようだった。
「久々にお休みが合うはずだったのに、ヒロちゃん今日もお仕事入っちゃったんだって」
エマは薬指の指輪をさすりながら、めそめそしている。シンプルすぎるくらいに洗練されたデザインのそれは、あの春を越えて初めての誕生日「傍に居られなくても君が心配しないように」と貰ったものだという。満開の笑顔で見せてくれたこと、好奇心に抗えずこっそり二人で値段を調べたら目をひん剥いたこと、ずいぶんと懐かしくなってしまった記憶の数々。
あの頃の将来に悩んでいた自分を笑ってやりたい、私たちがたどり着くのは笑っちゃうほどにへんてこな未来だと。
そう、エマもまたこちらに負けず劣らず、数奇な将来を送っている。
326/02/06(金)23:40:01No.1399476101+
◇◇◇
きっかけは大学3年生、そろそろ就活もしなきゃな、なんて多くの学生が浮足立つ頃、同じゼミの仲の良い子に持ち掛けられた相談だった。「ゲームを作ってるの。桜羽さん声が綺麗だからゲストやってくれない?」了承してしまったのは、誰にも見られることなく泡に消えた、とある世界の劇のことを思い出したからか。
しかしこれが全ての間違いだった、彼女たちには才能がありすぎた、資金調達の才能が。
思い付きで募ったクラウドファンディングの額はみるみるうちに数百万を突破、比例して青ざめる顔色、見たこともない額に震え上がった。資金消化の苦肉の策としてフルボイス実装、ゲストのはずがメインに、跳ね上がる作業量、ギリギリの延期にもはや伸ばせないデッドライン。バグ、最適化、各種手続き。
なにより、期待に、それに見合うものを返せるのか、エマは人一倍プレッシャーに弱い性質で、でもゲームなんて作ったことなくって、特にシナリオなんかもってのほかで、誰か、脚本、そうだ。
426/02/06(金)23:40:45No.1399476351+
◇◇◇
夏目アンアンは、スランプに陥っていた。
1作目に自身の経験、アイデア、情熱、全てをつぎ込んで、2作目以降にっちもさっちもいかないパターンは結構あるらしいが、まさか自分がそうなるとは思ってもいなかった。
だから、その提案を地獄に垂らされた蜘蛛の糸に見間違えた。頼られること、特に、あの桜羽エマに泣きつかれたことは気分が良かった。その実、掴んだのではなく掴まれていた。糸の先が楽園などではなく、底なし沼だったと気づいたのは腰まで沈んでからだった。
◇◇◇
幸か不幸か、作品は結構な評判を生んだらしく。二人は以前にまして忙しい日々を送っているようだった。「最近は家にも帰らずアンアンと会社に泊っている方が多いんじゃないのか」とヒロが妙な嫉妬をしていた。
その忙しさ、どうにかしてこちらと足して2で割れたりしないだろうか。
526/02/06(金)23:41:25No.1399476600+
事務所のチェストの上の写真立てには、何かの受賞記念のトロフィーを掲げている二人が飾られている。笑顔が死んでいる。見ていると謎の元気を貰えるので、同じく飾られている日よけ帽に軍手をはめて農作業中の若奥様スタイルのマーゴを隠し撮りした写真と並んでお気に入りだ。
写真から目線を戻してエマを見ると、相変わらず机に伏せをして、ヒロちゃーん……とお預けをくらった子犬みたいな、切なげな鳴き声を上げている。ゴッと所長机の方から音がしたような気がするが、無視。
「……?」
「エマさん!エマさん!それも一口食べてみていいですか!」
「う、うん…食べかけでよければ食べちゃちゃっていいよボクのリンゴタルトも」
シェリーに皿を差し出すエマの手の脇で、桜が装飾されたスマホケースが震えた。画面には「エマ来い」の四文字。送信者はアンアン。儚くも彼女の休日はここで終わりを告げたのだった。
626/02/06(金)23:42:06No.1399476848+
◇◇◇
哀愁を背負った彼女の小さな背中を見送って、事務所に戻る。さて、
「エマさん帰りましたよー」とシェリーが事務所の奥、虚空に向かって声をかける。ぬるり、と所長デスクの下から影が立ち上がる。現れたのは、エマの思い人、二階堂ヒロその人であった。
「…」
「言いたいことがあるのなら言ってみたらどうかな」
「お仕事、急に入ったのではなくて?」
「さて、答える義理はないな」
自分から降っておいてと、大きくため息をつく、この人が悪ぶっているときはどうせ何を言っても聞く耳を持ちやしない、余裕を見せて、内心余裕がないときだ。
「依頼の話に戻ろう」
強引に会話を切り上げてヒロが鞄から資料を取り出し、机に広げる。
エマの来訪によってヒロが隠れたため途切れざるを得なかったが、一人目の客とは彼女のことだった。
726/02/06(金)23:42:41No.1399477041+
几帳面に揃えられた体裁にいくつかの住所と物件の情報が並ぶ
「これらの現地を確認し写真の撮影と、現況の報告を頼みたい」
「これはまた」
闇バイトみたいですわね、と言いかけて止める。ざっと見ただけでも随分と位置にばらつきがある。確かに仕事の合間に行うには時間がかかりそうだ。外部に委託する理由としては納得できる。
「移動や宿泊等にかかる経費もこちらで持とう、ただし調査期限は1カ月だ」
「……」
破格の条件に思えるが、シェリーは黙っている、何か気になることでもあるのだろうか。
「あくまでこれは、個人的な依頼だよ。仕事とは関係ない」
問を先読みしたのだろう、カップに口をつけながらヒロはソファに深く背を預ける。個人的な調査とは?とか、それエマが使っていたカップですわよね?とか聞きたいことはあるがシェリーが口を挟まない以上、自分は黙っている。
826/02/06(金)23:43:22No.1399477277+
「……私たちみたくさっさと結婚しちゃえばいいのに何でしないんですか?」
ヒロがむせた。さっきから黙っていたと思ったらそんなこと考えていたんですの。
そう、今更だが、事務所の開設とほぼ同時に旧姓遠野ハンナ改め橘ハンナになったのだ。「配偶者控除の欄、ハンナさんの名前書いていいですか?」が明確なプロポーズの言葉だったのは、今でもぶん殴ってやろうかと思う。
「……万一にもエマを危険に巻き込むわけにはいかない」
呼吸を正してヒロが返答する。検事ってそこまで危険な職業でしたっけ。
「でも婚約指輪はまた買ったんですよね」
「違う、今回のはエマにとてもよく似合う石だと、当然エマが身に付けるべきで、エマ以外に渡ってしまうのは正しくない」
シェリーが無遠慮に切り込む、いつの間にそんな話していたんですのこの二人は。というか“今回のは”とは?
926/02/06(金)23:43:52No.1399477481+
◇◇◇
「この世のどこに渡してない婚約指輪を2桁抱えているカップルがいますの、どう付けるおつもりですか、そんな指輪」
「それは……両手に……」
「エマさんラッパーでしたっけ」
これはもう、仕事の話には戻らないなと思い、シェリーから残り半分となったリンゴタルトを取り上げていただく。
果実の最も甘美な部分のみを集めるだなんて、スイーツは罪深い。
食むと一瞬の酸味の後、歯で繊維を裂いた感触と同時にシロップが溢れ出す。脳髄を直接浸すような黄金色の甘みに酔う。これに比べたら牢屋敷のリンゴはカスですわ。
「途中でもいい、何かあったらすぐに連絡を」
現実に戻ってくると、仕事の話は終わっていたようだ。ヒロの荷物をまとめる動きがふと、何かに警戒したように止まる。
1026/02/06(金)23:44:39No.1399477749+
「ぴぃい!?」
急に視界が沈んだと思ったら、強引に膝をたたまれ、床に転がっていた。え!何!何ですの!?
「シェリー、ハンナをテーブルの下に」
「はい」
遅れて、外の階段を駆け上がる音。けたたましく、鳴り響くカウベルと飛び込んでくる人影。視界の端ではヒロが一瞬のうちにドアの死角に消えた。
「助けてぇシェリーちゃーん!ハンナちゃ−ん!どうしようおじさんこのままじゃ殺人犯になっちゃいだだだだ!?」
人影の正体は、現在恩人の元、弁護士見習いとして勉強中。目下ヒロに制圧されて涙目を浮かべた──佐伯ミリア。

橘探偵事務所に、かつてない嵐が近づいているようだった。
1126/02/06(金)23:45:04No.1399477875そうだねx6
橘探偵事務所の事件簿
追憶からの“銀弾“導入である。
1226/02/06(金)23:45:46No.1399478119そうだねx1
面白いの分かるんだからちゃんと完結させてよねアンアンちゃん!
1326/02/06(金)23:46:09No.1399478223そうだねx1
今日のアンアンちゃんはよく働くな…
1426/02/06(金)23:47:03No.1399478501そうだねx2
わぁ働き者のアンアンちゃん!
ボクこれ欲しかったんだ!
1526/02/06(金)23:49:09No.1399479215+
アンアンちゃん続きあるんでしょ
出して
1626/02/06(金)23:49:51No.1399479448+
橘探偵事務所は9人産むであろう橘家の家計を支えられるのだろうか…
1726/02/06(金)23:52:37No.1399480346そうだねx1
楽園に連れてかれるエマはかわいいですね…
1826/02/06(金)23:52:45No.1399480409+
橘が根性みせるんじゃねぇか?
1926/02/06(金)23:54:38No.1399481081+
ちょっとエマとアンアンちゃんがお労しくない?
2026/02/06(金)23:56:25No.1399481730そうだねx1
>ちょっとエマとアンアンちゃんがお労しくない?
でも賞ももらって嬉しそうだよ
2126/02/06(金)23:58:59No.1399482548そうだねx1
二階堂が根性見せて早く養わないと桜羽が過労死するからよ…
2226/02/07(土)00:01:46No.1399483395+
移植作業も頑張ろうねアンアンちゃん!
2326/02/07(土)00:02:21No.1399483575+
>いつぞやのクレープの恨みを忘れてはいけない。
こういう小ネタに弱い
2426/02/07(土)00:03:25No.1399483876+
わあ!みんなが成長して将来を歩んでる中起きるみんなを巻き込む10thAnniversaryみたいな大事件ボクこれ欲しかったんだあ
2526/02/07(土)00:06:00No.1399484640+
>上下を指す指の形に似たトマト、やたら艶かしいベルト跡のついた二股の大根。
✒️これユキエマですか…?
2626/02/07(土)00:07:10No.1399485000+
残留思念の類じゃねぇか?
2726/02/07(土)00:08:12No.1399485282+
ネタが大渋滞起こしててダメだった
2826/02/07(土)00:11:12No.1399486108+
アンアンちゃんはどういう気持ちで社畜の自分を書いたの
2926/02/07(土)00:12:36No.1399486552そうだねx1
>「配偶者控除の欄、ハンナさんの名前書いていいですか?」が明確なプロポーズの言葉だった
>「この世のどこに渡してない婚約指輪を2桁抱えているカップルがいますの、どう付けるおつもりですか、そんな指輪」
極端なヤツら!
3026/02/07(土)00:18:25No.1399488227+
貧乏テクを惜しみなく披露するハンナちゃん…
3126/02/07(土)00:20:34No.1399488819そうだねx1
ワクワクさせる導入が上手いね「」ンアンちゃん!
3226/02/07(土)00:27:39No.1399490800+
次の掲載はいつになるかなアンアンちゃん!
3326/02/07(土)00:38:38No.1399493664+
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ガイジ「あーこれシャンクスレで一番面白い流れか」
甚壱「?」
蘭太「構うな!甚壱さん!!」
3426/02/07(土)00:42:11No.1399494547+
所々挟まるハンナさんの食レポ好き
3526/02/07(土)00:50:48No.1399496835+
マーゴ、たすけろ
3626/02/07(土)00:57:41No.1399498677+
見てるだけ


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