酒場ひと口怪文書まとめ 酒場をパッと華やかに、「」の一笑を得たいがために、俺の人生に彩を与えるために 今日も頭の中で婦警たちがしゃべり始める。 今回はエイティクスもいる。 最後におまけもくっつけよう。 【だっこVS猫】  猫をなんの理由もなく抱きたいと思う飼い主は多いだろう。  レノレヴィン家においてもその例には漏れていない。  猫がただ静かに自身の時を過ごしている時に事件は起こった。 「どしたのハチロー」  特に何もしていないのに寝込みを襲いにハルノがやってきた。  すっくと起き上がりひらりと身をかわす。 「この野郎、大人しくだっこされなさい」  理不尽な庇護欲が迫る。  最近買った投影器を挟んで対峙する、長期戦の構えだ。  互いに出方を伺いじりじりと迫る。  千日手を打開する一筋の光、空を駆けるラインがハチローには見えた。  投影器を足蹴にハルノの後方へ飛び込む。 「うおっ!おあー!」  叫ぶハルノ。  足蹴にされた投影器が倒れたのは言うまでもない。 【忘年会シーズンだよ!王都警察交通安全課】 「この世は不公平だーッ!」 「んなこと酔っ払って言うことじゃないよ!!」  暴れる酔っ払いをリンダが組み伏せる。  王都警察交通安全課、年末恒例の夜間大パトロールの季節がやってきた。 「リズー!何人捕ったーッ?」 「これで13人ね、オートマトンに括り付けて病院まで行かせるわ」 「忙しい!交代いつよ」 「あと1時間はこんな感じよ」  もはや言葉なく項垂れたリンダがワルキューレまで戻ってくる。 「ユーリエは今日から休みだっけ、羨ましい」 「そういうことは言わない約束でしょ、別に好きで休んでるわけじゃないわ」 「わかってるわかってる、家の手伝いならしょうがないやつだよ。今日まで休みなしで出突っ張りだったわけだし」 「まあ、このシーズンで彼氏逮捕まえることになったのは悲惨というしかないわね」  ロンリーサンタを慮りながら王都の夜は明けていく。  この後酔っ払いを20人ほど病院に送り、暴走するセーブナマッスルモビリティを3台ほど拿捕したところで今日の任務は終了した。 【愛哀believe】  私の名前はユーリエ=アッテンボロー、両親はサンタ、今は色々あってお巡りさんをやっています。  世間はめっきりクリスマスムード、恋人達の季節です。  いつもはこの時期地元に戻って母さんの手伝いなんだけど今年は違う!  理解のある彼クンが私にはいます。  思い切ってこの年末は地元に帰らずに彼クンと過ごそうかなって思ってます。  そのためにもお仕事パトロール頑張らないと…!  あっ!愛しの彼クンが街角に立ってる!手振っちゃお!  男は彼女を、正確にはその服装を見るなり身を翻して逃げていく。  戸惑いが彼女を襲う。  しかしながらこれまでの経験から短時間で彼女は悟った。 「そうかー…またなんだねー…」  悲しく呟くと魔杖ブルームハンドルを構え、トナカイに鞭をうち、犯罪者を追いかける。  今日も魔弾が放たれ、悪の下腹部に激痛が走る。 【年明けの婦警ズ】 「はぁ~お疲れお疲れ。みんなこんな夜中までよく頑張った。各々帰って寝て良いぞ。でもちゃんと明日は起きて出てこいよな!」 「「はぁ~い」」  ハルノ課長の号令に気の抜けた返事をする婦警たち、夜明け前の街にそれぞれ散っていく。 「お疲れリンダ。送っていくわ」 「ありがとリズ、寄って欲しいところがあるんだけど…いいかな?」 「いいけど…まあ、乗りなさい」  既に年など明けているが、しんと静まった空気を切り裂き戦乙女は走り出した。 「ここは…前にきたわよね。山の上、良い景色ね」 「ね、良いでしょ?人が生きてる街の灯り」  人の営みの光、都市の心臓が鼓動するのを感じられる景色、日の出がそれを照らし、眠りから起こしていく。 「リンダ」 「ん…?」 「今年もよろしく」 「こちらこそ、よろしくね」  微笑みと共に何でもない日が始まり、積み重ねていく、人生という旅がこれからも人を繋ぎ、続いていくのだ。 【赤い光弾】  父のことは知らない。物心ついた時から今の主人と共にいた。  優しいヒトだ。自分に本当に良くしてくれる。  たまに何を言ってるかよくわからない時があるけれども。  現在の順位は最下位二歩手前、ライバルたちとの馬力差は埋めようがなく、ズルズルと後退する自身の不甲斐なさに歯噛みする。 「楽しんで走ってくればいいんですな!貴方は挑戦者なのだから」  主人はそう言った。自分も最初はそう思っていた。  楽しんで競えればそれで良いと。  だが抜かれていく感覚、負けの予感を前にして、優しさを超えて闘争本能に火がついた。  このままでは終われない。  コースは折り返しのダウンヒル。自分の戦場だ。  言葉の意味がどこまで伝わるかはわからない。  でも伝えなければならない。 「このレース、かちます。みんな、ぬきかえします」 「んん…貴方なら出来ますよ、エイティクス」  鋼の竜の心臓が、大地を掴む車輪の爪が、反撃の咆哮をあげた。 【110番だよ交通安全課】 「ハイ、こちら王都警察です。事件ですか?事故ですか?」    事件の発生は突然に、初動の通報が早期解決の鍵にもなる。  正しい通報の手順や不要不急の通報の防止のため、人気のS級冒険者を1日警察署長に据えるなどして周知を図っている。 『王城東通りで事故です。ワルキューレ組向かってください』 『王都東門で観光客が迷っているそうです。ワルキューレ組対応してください』 『貴族所有の山にクマが出たそうです。ワルキューレ組対処してください』  パトロールに出ている交通安全課は初動を任されることが多い、最速の戦乙女であればなおのこと方々へ回される。 「ほとんどアタシらじゃないだろ管轄!!」 「…ここのルートなら、道とラインを考えればもう1秒くらい縮められるわね」 「リズさんや…労働意識が高いのはいいんですけどね…」 『リズ!リンダ!女王サマがまた出てったらしいぞ!捜索しろ!』 「課長も出てくれませんかね!?」 『アタシはほら、ハチローのご飯買って帰らないといけないから』 「ふざけんなこのヤロー!!」  虚しく響くリンダの叫びは戦乙女のV12が上げる咆哮にかき消された。 【何か見た婦警たち】 「…見た?」 「見ましたー」  署内の休憩所、リンダとユーリエが空き缶片手に一方向を見つめる。 「なんだか一時期よりサトーちゃんとギャンさんの距離感が近い気がする…」 「なんかーちょっと近いですよねー」 「あれかね…夏が近いのかね…」 「冬ど真ん中じゃない。何アホな妄想膨らませてるのよ」  出歯亀二人の会話にリズが割って入る。 「警察組織はチームワークが大切でしょ。サトーも組対に配属されて関係性を深めたってワケ。だいたいリンダはこの前の組手で転がされてたじゃない。また見せ筋って言われるわよ。」 「それとこれとは…あとあれは合気が上手くて…うーん」 「リズ先輩には勝てませんねー。あー私にも良い人出来ないかなー」  好みを変えなければ無理であろう。 「なんだよお前ら暇そうだな。見回りに出るか?」  交通魔王が通りかかった。 「課長、貴重な休憩時間ですよ?恋バナに花を咲かせるのが乙女ってモンじゃないですか」 「万年筋トレ馬鹿の口から出るような言葉じゃないねぇ」 「ぐっ」  リンダに多少のダメージ。 「で、誰と誰の話をしてたんだい?」 「ギャン刑事とサトーについてです」  リズが淡々と答える。 「へぇ…そうかい…。」 「なんか訳知りな顔してますねー課長ー」 「いや、そういうのも良いんじゃないかなって思っただけだよ。ま、見守ろうや、生暖かくな」  遠い目に優しさを含み、ハルノは笑顔をこぼす。 「よし、休憩終わり!今日はだいぶ降ったからな。スタックしてるクルマがないか見て回りな」 「「はーい」」  婦警たちは解散していった。 【単純に寒いよ!交通安全課】 「署内が寒すぎる…」  何年かに一度の大寒波がサカエトルを襲い、その予備対応として多くの署員が居残りをさせられていた。 「あなたは脂肪量が少なすぎるんじゃないのリンダ。ギャン刑事を見なさい。いつものシャツにマフラーと手袋でピンピンしてるわ」  ドテラを着込んだリーゼロッテが縮こまりながら応える。 「あれはもう、何かネジが外れてる感じがするよ…」 「大丈夫ですかー?センパーイ?」  熱術式の編まれたライダースーツを着たユーリエが何食わぬ顔で歩いてきた。 「くっ、流石は寒冷地出身…準備が良い…寄越せそいつを!」  リンダがユーリエににじり寄る。 「こら、何バカなことしてんの」 「オフェリア巡査部長、お疲れ様です」 「おつかれ。まあ甘酒でも飲んで気を紛らわしなさい。いつスクランブルかかるかわからないんだから」 「ありがとうございます、オペ子センパイ…ずずっ」 「おう、良いもの飲んでるじゃないか。アタシにもおくれよ」  奥からハルノ課長の声がする。 「はいはい、ただいまお持ちしますよ」  オフェリアが回り込んでデスクに甘酒を置いた。 「あら課長、良い湯たんぽをお持ちで」 「だろう?特注さ」  ハルノが膝の上でアイドリング音を奏でるハチローを指して言う。 「課長ズルい!」  婦警たちが寄ってくる。 「仕方ないねぇ、もう一人いるだろう。基礎体温が高いやつが」  視線がオフェリアを捉える。獣人由来の基礎体温の高さに皆が気づいた。 「え、ちょっと私?うわっ」 「オペ子センパーイ!」「私も失礼します」「わーい」  次々とオフェリアに抱きつき暖を取る数名。おしくらまんじゅう押されて泣く泣く。 「やーめーてー!」  アラサー女子の悲鳴が極寒の夜に悲しく響いた。 【走り屋夫婦茶碗】  ゾクをやめても走ることは好きだった。  場所を変え、サーキットやラリーでのルールを覚え、自分を通していく。  なんだ、今までとやることは一緒じゃないか。  慣れない警察仕事の憂さをここで晴らしてやろうと思っていた。  そこに現れた一人の男。  今まで抜かれることは度々あったが、あそこまで鮮烈なオーバーテイクは初めてだった。  最初はただ悔しかった。  何とか撃墜したいと追いすがり、何度も負けた。  相手を追いかける原動力が恋であることに気が付くにはそう時間は要しなかった。  初めての告白、OKがもらえたときは年甲斐もなく飛び上がった。  クルマで駆け抜ける楽しい日々、喧嘩に明け暮れた青春を取り戻すように溌剌と過ごした。   「結婚しよう」  彼からそう切り出された。  面食らった。  どんな顔をしていたのかわからない。  顔がひとしきり熱くなった後、ふと思った。  ああ、また抜かれたんだ、と。  抜き返して、最後のチェッカー手前、またも鮮やかにオーバーテイクされた。  アタシは負けてばっかりだ。  でも心地よかった。  ・・・・・・・ 「そこからはもうね、とんとん拍子よ!籍入れて、式上げて、子供ができてなあ!!」  台無しである。  酒にまかせて惚気る中年女が一人、バーカウンターで管を巻いている。 「だぁー!普通なら叩き出してるところよアンタ!そもそも警察が盗賊ギルドの酒場に顔出すんじゃないわよォ!!」 「まあアンタとアタシの仲だからいいじゃないのよォ~明美ママちゃんよォ!」 「よくねぇよ!!」  遠くでどう介入すればいいかを考えているオーディン薫子をよそに、酔っぱらいとその被害者の夜は更けていくのであった。