27文字 15行 ○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ ①  すみれがDWからMWに強制転移させられて迎えたのは、数人の同僚であった。  同時に、本来なら行動を共にしている筈のパートナーデジモンの姿は見えなかった。  自身のパートナーであるシンドゥーラモンもいない事に間を置いて気付いた。 「どういう事なの…。」 「すみれちゃん。  その事で今、課長と竜崎さん…を止める為に 明智と色井と笠水が一緒に部長どもに接見してる。」 「私達は、説明の為にすみれ先輩が来るまで待ってました。  事情説明は、会議室までの道中説明します。」  すみれを迎えたのは坊主頭の中年男性である筧 宗介と白髪女性の二尾橋 源乃であった。 「…分かったわ。」  すみれは、正直頭が混乱していた。 急な転移に、戻ればパートナー達の不在、同僚達の緊張感のある雰囲気。  それを言葉にしてぶち撒けたかったが、飲み込み正装に着替え、会議室へ向かった。 ② 「俺達も完全に状況を把握してる訳じゃねえんだけど…。  今朝、総監命でサイバー警察局の連中が来て、デジモンの保全という体で連れってちまったんだよ。」 「事情説明も最低限で関係部局間で調整済みだと。  抗議の為に課長が…。  更に竜崎さんも行ってしまって…それを止める為に明智先輩方が…、小隊への説明と落ち着かせるのも兼ねてそちらはディン先輩が…デジマル先輩の世話もありますが。」 「行くんだろ?」 「決まってるでしょ!」  サイバー警察局…情報通信局から再編された組織であるが、主にインターネットを介した犯罪捜査を主に行う警察庁部署である。  情報通信局から犯罪の予想、予防、捜査に対する高度AIの開発で大きな成果を上げ、諸外国への導入なども行われている部署となっている。  すみれ達が所属する警備局局付公安別室、別名:電脳犯罪捜査課と所管が被っているがサイバー局は人間のみで構成されたAI開発、捜査が主となっている対人間組織の筈である。  デジモン案件については特異な電子犯罪として電捜課へ事件を流されている。  電捜課は、デジモンの性質上、出現は首都圏が主であり、 デジモンの存在がオフレコなのもあり、胡散臭いキワモノ連中、地方の出現率も併せて現在でも地方対応まで任される部署である。 「妙な話ですが、サイバー局の方々は、特にデジモンに対して驚きもせず、収納用の機器も使い慣れてる様でした。」 「すみれちゃんが帰ってくるのも分かってたし、前から一部きな臭い連中はいたが、ここに来て露骨になってきやがったな。」 (…デーモンとの戦闘が終了した矢先に追い出す様な帰還に、パートナー達の拘束…まさか?) ③  会議室のドアには「関係者以外立入禁止」の紙が貼られている。  すみれは、一呼吸置き声を上げる。 「警備部であります!入室よろしいでしょうか!」  中から、「どうぞ」と返ってくる。 「失礼いたします!  警備局局付公安別室の巡査烏藤 すみれであります!  同室、筧宗 介以下一名、入室させていただきます!」  会議室の中は、妙に冷房が強かった。  長机をコの字に並べた典型的な官庁スタイルだが、端に置かれたモニターには、新宿周辺の俯瞰映像が静止画で映っている。  正面奥には、警察庁総監とサイバー局長のふたりの初老の男達がいた。  そして、それに喰って掛かっている自室課長と大吾  入り口側面には警、備の職員であろうか。  返答をしたのはこの大柄の男であろう。 「改めて。  本件デジタル特異存在、いわゆる“デジモン”については、今後、個別部局による分散的な運用は行わず、サイバー警察局の下で一元的に管理する。  その方針で内閣官房と調整済みとなっている。」  正面席の官房長は、組んだ手を崩さないまま、ゆっくりと室内を見回している。  その視線には、ここで覆ることはないという確信がにじんでいた。 「了承済みということですがね。」  大吾が、そこではっきりと口を開いた。  声量は抑え気味だが、会議室の空気がわずかに張り詰める。 ④ 「その了承とやらに、現場を一度でも噛ませましたか。  警備部としては、本日これまで、事前の説明を一切受けておりません。  このような場を事前にサイバー局から開くでもなく、略式の書面、簡易な説明でパートナーデジモンは、一体残らず警察庁に移されていた。  しかもその場所は、我々に非公開ということですが、これはどういうことか。  更には、DWで民間人の保護等の烏藤巡査の救援依頼があったにも関わらず、総監判断により救援の拒否。  民間人を置いての烏藤巡査の強制帰還。   総監から明確にご説明いただきたいんですが。」  総監に視線が集まる。  机上の資料を一枚だけ揃え直し、しばし黙ったあと、面倒そうに口を開いた。 「…改めて私の口から言っておくが。」  声は落ち着いているが、どこか上から押さえつけるような響きがある。 「烏藤巡査がDWに派遣されたのが、電脳テロの重要参考人となる鮎川 聖及び脱獄等で全国手配を行っている渡辺 直人の逮捕であり、そのために特別にDWのシオンサーバーに入国する事を許可されている。」  入国という言葉に何人かの眉間が動く。 「デーモンと称される存在を見れば分かるとおり、デジモンというものは、扱いを誤れば、我が国の存立に直結するレベルのリスクになり得る。  そのリスクが日本国に侵入するリスクがあるのならトリアージを検討し、入口を締めるのは当然の事だ。」 トリアージという言葉に、電捜課全員の血管を刺激した。 「更に言えば、この件については、政治の場の判断を求められる。  …にもかかわらず、進化という特性と進化先が未知というデジモンというリスクを個々の隊員の“相棒”だの“信頼関係”だのという話で運用し続けることは、もはや許されないと判断となった。  これは、政府部内でとっくに整理されている話だ。」 「その整理に、現場の意見聴取は一度でも「現場レベルの意見は、警備局を通じて必要な範囲で把握している。」  総監は、言葉を遮った。 「ただし最終判断は、あくまで政府として行うものだ。そこを混同しないでもらいたい。  君たちの役割は、決まった方針のもとで任務を遂行することであって、方針そのものを左右する立場にはない。」  特異事案対策室長が、抑えた声で口を挟む。 「現場での協働の実態や、パートナーデジモンとの関係についても「その点も含めて、承知の上で決めている。」  官房長は短く切った。 「そのうえで、現行の運用はリスクが高すぎると判断した。それだけの事だ。」  そこで総監が、わざとらしく咳払いをした。 ⑤ 「隔離という言い方をされていますが、その認識は誤りですね。」  総監の隣にいたサイバー局長が口を挟み立ちあがった。  その男は、モンゴロイド系じゃなく、コーカソイド系であった。  無駄に整った顔、姿勢、丁寧な口調。  まるで作り物のようであった。 「保全措置です。烏藤巡査。」 「失礼。  私は、サイバー警察局、局長…セラフィムです。」  (セラフィム?…外国人?それにサイバー局長は、大堂 勝弘だったはず。) 「あなたのパートナーも含めて、デジモンはすべて我々の管理下に移しました。  適切な施設で、安全な状態に置いてあります。  今の段階で、現場の隊員ひとりの判断に委ねておく方が、よほど危険だと我々は見ています。」  言い回しは丁寧だが、その中身はお前たちには任せていられない。ということであった。 「一点、確認させていただきます」  すみれは、声のトーンを落としたまま言った。 「デーモンの侵攻を押しとどめていたのは、テイマーとデジモンであるのは、局長も把握されてますよね」  会議室の視線が、再びすみれに集まる。 「更にこれまでの事件についても我々がパートナー達と解決したものです。  それにもかかわらず、一切の説明もなく引き離すのが、保全措置なんですか。」。 「結果について、自負を持つのは結構です。」  声音に、薄く冷ややかなものが混じる。 「しかし、たまたま今回は上手くいったからといって、そのやり方を制度にするわけにはいきません。  人とデジモンの関係が感情ベースで固定化していること自体が、組織運用上のリスクなんですよ。  先も申し上げましたが、そこは一度切り離しておかなければならない。これはもう、方針として決まった話です。」 「方針として決まった、で現場の話を全部終わらせるんですか?」 ⑥  気づけば、すみれは机の縁を強く握っていた。  隣でが小さく秀人が「すみれ先輩」と制するが、口は止まらなかった。 「彼女達は、現場で一緒に命張ってきた相棒です!  道具でも資産でもない…!  現場には何も説明せず、保全措置の一言で連れて行かれて、はいそうですかとは…!「貴方の感想は分かりました。」  セセラフィムが、きっぱりと切り捨てた。 「だが、組織としての決定は、個々の隊員の感情で左右される話ではありません。  そこは、一警察官であれば理解していただけると思います。」  その一言に、すみれは言葉を詰まらせた。 「では、警察官としてこれからの治安維持をどうすればよろしいのですかな?」  課長が口を挟む。 「現在、サイバー局で対応不能な事件について、我々に移管し、烏藤巡査の発言は少々感情的ではありましたが、数字としての成果も確かに示しています。  今後の対応は如何と考えているのですか?」 「その件については問題ありません。  今後は、我々サイバー局が担当します。」 「担当?デジモン達に首輪を付けたところで言う事を聞かないのは局長達の弁では?」 「言ったではありませんか、問題ありませんと。」  瞬間、セラフィムの身体から光が溢れる。 (馬鹿な…これは!?)  光が治まるとそこには、鎧を纏った天使型のデジモンがいた。 「改めて自己紹介を。  現在、カーネル及びシオンの管理及びシオン特命全権大使、電子生命人第0号セラフィモンです。」  そういうとセラフィモンは再び人間の姿へ戻り、名刺を課長へ渡す。 「これはご丁寧に頂戴いたします。」 「課長…。」 「いや、つい…。  というよりも、自分日本の風習に詳しいのですな。」 「ミラノでは、土曜に断食しないが、ローマではする。  そういう事です。」 ⑦ 「急な話で混乱すると思われますので経緯を説明させていただきます。  我々は、現在の電脳犯罪捜査課が…いや烏藤巡査が選ばれし子供としてDWに招致される前に、日本政府に接触をしていました。」 「は?」 「1995年、バブル崩壊後に日本は、長期不況に入りつつもIT化が進み新宿周辺で大規模再開発、通信インフラ実験、金融系データセンターの整備が進行した際に、日本国内でDWに繋がる安定した大規模ゲートが初めて開かれました。  我々はそこからやって来た。  これは、デジタル化の波に起こる必然的な現象であり、諸外国も同様の現象を確認できた。  デジモンという核兵器となり得るものがです。  冷戦終結数年で、これを公開する事は諸外国含め出来ず、米国と歩調を合わせる形で秘密裏にごく一部のみの極秘協議として和平関係を結びました。  如何せん、他国のゲートから来たデジモンは我々程、友好的ではありませんのでね。」 「彼らは、様々なAIシステムを提供してくれた。  2001年、米同の時多発テロを契機にした公安・警備・空港保安が厳格化が求めれ、ブタペスト条約での秘密裏の技術提供により秘密裏にではあるがイニシアチブを日本が取れた。  現在の日本警察が使用している監視カメラ追跡等の捜査、犯罪予測AIに…波及した健康管理、自殺予防アプリやいじめ検知等…我々のこの四半世紀は、彼らとの密接な共存関係にあると言える。」 「我々としてもDWのみでなくMWでの活動範囲を伸ばしたいものなので。  安心してください、我々は暴力を好みません。  平和を求め、これを追え。  そういう事です。」 「これは、一部署の了解する事ではないが、現在、彼らから一部自衛隊組織にそのデーモンの関係があるとの情報が提供された。」 (…うん?)  大吾が表に出さないようにしたが、一瞬違和感のある顔をした。 「組織間を越えた繊細な判断が求められる。  表向きは、今の話の通りだが…言わんでも分かるだろう。  それを警視庁一部署が担うには荷が重いと思わんかね?」  すみれ達は口を開けなかった。 ⑧ 「この件について、これ以上ここでやり取りを続けても、生産的ではないでしょう」  冷えた口調だった。 「本件措置は、内閣官房、警察庁、防衛省等、関係機関で協議を行ったうえで決定している。  君たちに変えてもらう余地はない。  現場としてやってほしいのは、決定を前提にどう運用していくかを考える。  それが役割の違いというものです。」 「個別の協議経過については、特定秘密に該当する部分もあるため、この場での詳細な説明は行えん。  その点も含めて、これはそういうものだ。と受け止めてもらうしかない。  今後、状況が終了し、デジモンの運用が決定するまでは、パートナーデジモンを持たない職員は公安の部隊に合流。  君達は、過去の事件のアーカイブ整理を行ってもらう。  以上だ。」  これは暗にこちらに手を出すなというメッセージであった。  そこで、会議室の隅のノートパソコンが、一瞬ノイズを走らせた。  情報通信課から来ている若い職員が眉をひそめ、タッチパッドを何度か叩く。 「……すみません、回線が少し不安定なようで——」  同時に、壁に掛けられたモニターの新宿俯瞰映像が、一瞬だけ真っ白に飛んだ。すぐに元の映像に戻るが、その白の中に、翼のようなシルエットが見えた気がして、すみれは思わず目を凝らす。  そのとき、会議室のドアが勢いよく開いた。  防災担当の職員が、顔を真っ青にして飛び込んでくる。 「し、失礼いたします! 防衛省から緊急連絡で…!」  言葉は最後まで届かなかった。  窓ガラスが、轟音と共に、一斉に内側へ弾け飛んだ。  光と熱と衝撃。会議室の外側、ビルの壁面をかすめるように、低空で何かが通り過ぎた気配だけが脳に焼き付く。 (ヘリ…?)  爆風がすみれの身体を椅子ごと吹き飛ばした。  耳鳴り。テーブルが倒れる音、人のうめき声、スプリンクラーの水。  爆撃は、狙いすましたようにセラフィモンのみを吹き飛ばした。 ⑨  爆撃から2日経った8月4日。  すみれ達は、別館の一室へ移動となり、警視庁一件の捜査、復旧から完全に外されていた。  自衛隊機という動かぬ証拠があるためか、その関係性含めテロの可能性等センセーショナルにメディアに報道された。  操縦者が死亡している事もあり、自衛隊という組織の関与があったのかという憶測が飛び交い、防衛庁はそれを強く否定し、特別調査委員会の設置を発表した。 「課長自体は、天使型デジモンの関与を知ってたわけではないが、上の連中に利用されんよう俺らのような問題児を独立愚連隊然り集めたのがそもそもの電脳犯罪捜査課ってらしいんだ。  まさか既にベッタリねちょねちょだったとは。」  紋十郎とすみれが資料を運びながら廊下を歩く。 「課長は警視庁に居残り、完全に分断されちゃいましたね。」 「パートナーも取られて、治安の裏付けもされりゃあこっちは手も足も捥ぎ取られた当然だしな。」 「紋十郎さんは、納得されてます?」 「されてる訳ないでしょうが。  だから、竜崎の旦那も宗介も前のコネ使って探ってる訳だしな。  強行的なパートナーとの隔離に島流しにあの爆撃。  胡散臭い要素がありすぎる。  その癖、旦那達には自由にやらせてるのが舐められてるとしか言いようがないよな。」 「あっすみれさん。  お客様来てますよ。」  恋夜がすみれ達を見つけて声を掛ける。 「防衛省情報本部電波情報部所属の安所さん?」 「住所と連絡先も載ってるんですね。」 「まぁ、別に不都合もないので。」  安所と名乗る女性は、吊り上がった猫の様な目をしてニタニタと張り付いた意地の悪そうな表情を浮かべていた。 「それでどういった話を?今は課長も係長級もいない状況なのですが…。」 「まぁ、お決まりですが本題の前に見て貰いたい映像が…。」 「…。」  会議室の窓から秀人達が覗き見していた。 「…すみません。」 「モニター接続お願いできますか?」 ⑩  会議室には菓子やらが置かれ、もはや緊張感のない大学サークルの有様であった。  映像に映し出されたのは演習場にある爆撃事件の実行機AH-64Dであった。 「訓練映像ですか?」 「こういうの撮ってるもんなんですね。」 「まぁ全部が全部録画する訳ではないのですが。  ここは、どうでもいいので…お好きな方がいるなら見ますか?」 「普通ひとりはいそうなんですけど、ウチはそういうの好きなひと別にいないんですよね…。」 (おっさん比重高いし…。) 「なら、飛ばします。」  映像が飛ばされ、AH-64Dの発着準備が行われる場面に移る。 「問題はここからです。」  安所の言葉の次の瞬間、AH-64Dのコックピット内で雷のような光が放たれ、そのままAH-64Dは発着した。 「皆さんならこの光…どういったものか分かると思いますが?」 「デジモンだな…。」 「本来であれば、弾薬の搭載、安全管理で終了する筈の訓練でしたが、突如の発着。  搭乗員2名については、こちらで経歴も洗いましたが、何かしらの反社会的組織に関与する繋がりは確認できませんでした。  定期的な精神鑑定も問題は確認できませんでしたね。」 「急にとち狂ったとしても搭乗員2名が一斉にというのも考えられんしな。」 「そもそも我々は、この2名による事案とは考えていません。  御覧なさい。」  安所が映像をアップにすると光の中で見えにくいが搭乗員2名がぐったりしているのが見えた。 「検死の結果、搭乗員2名はこの時点で心臓麻痺で死亡しているということです。」 「ちょっと待て…こっちの聞いた話をあんたらが知ってるが分からんが、なぜこの話をウチに?デジモンがいなけりゃあただの奇人変人若造の吹き溜まりだぞ。」 「無論、真相究明に協力していただきたいのと、最悪の自体に備えて現場レベルのパイプを確保しておきたい。  それに、二日前の爆撃前の内容は、ちょっとしたコネで概ねこちらも把握しています。」 「…あの、なんで私が指名なのでしょうか?」 「どうです?河岸を変えませんか?」 ⑪ 「…夕方とは言え、まだ勤務中なのですが…。」  安所に連れて来られたのは大衆酒場であった。 「河岸を変えると言ったではないですか。  こういった場の方が口が動くタイプなので、それに今や閑職誰も気にしませんよ。  後ろのこっそり着いて来た方達も楽しそうですし。」  すみれ達に着いて来た他メンバーのうち、宗介と紋十郎は既にベロンベロンであった。 「不良警官以前に、見苦しいおっさんね、殺そうかしら?」 「逆にディンさんは、スピリタスをストレートで飲めるんですか…。」 「母は強いのよ。」 「はぁ…デジマルは、骨付き肉喰うなよ。」(なわけあるか…。) 「大衆酒場での話には疑問はないのですね。」 「入った瞬間から、デジモン関係の気配を感じました。  テイマーはこういった感覚の強化が自然とあると聞いているので…。  それでそろそろ本題を…。」 「現在、警察と自衛隊間での緊張状態になった事は、ご存じですよね?」 「昨日、治安維持の一貫で警察が都全体に展開及び重要参考人として基地司令を連行したのは?」 「…聞いています。」 「ここまで強行な動きを取ったのは、警備部の点数稼ぎもあるのでしょうかど、我々は天使型デジモンの入れ知恵と考えています。」 「というと?」 ⑫ 「我々も独自のルートでDWの情報提供を受けていますが、現在シオンで天使型デジモンがほぼ実効支配されています。  一部、選ばれし子供とその一派が抵抗していますが、焼け石に水でしょうな。」 「そうなったタイミングでの今の騒ぎ…。」 「目的は不明ですが、デジタル庁のデジモン対応特務室も地方でのデジモンを捜査に活用している警察組織、挙句の果てにはデジ対のデータを私物化して、一般のテイマー狩りを裏で行っていると確認しています。」 「…なにを血迷って。」 「ご存じないのも無理はありませんが、元々警察と幕僚…いえ、警察以外とでは、デジモン関係…AI関係で仲が悪いんですよ。」 「はぁ…。」 「現在、警察で使われているAIは、天使型デジモンに提供されたものですが、その中身がほぼほぼブラックボックスなんですよ。」 「でも、確か…AIの内容は資料公開されてた筈じゃ…。」 「表向きは、まぁDWの技術が当時としては、オーバーテクノロジーだったのはそうですが、それでも現在に至るまで不明な部分が多い。  2000年前後は、警察の信頼が底の底、名誉回復に見事に釣られて四半世紀。  最早警察の上層部は、ブラックボックスのAIと自らを先導してくれた天使達に囲い込まれる蜜月の関係。  もちろん批判もあって、あなたのとこの様な独立愚連隊に、天使様達に見捨てられた我々があーだこーだ言っても実績を盾に姿勢を硬直。  そのままなーなーに…今は、そのAI技術が他にも浸透しはじめてる…それに危機感を覚えてる反発側の意見が強くなってきている状況でこの騒ぎ。」 「警察がカルト宗教の手口で囲い込まれるとは…。」 「心中お察し、します。」  安所はわざとらしそうに微笑んだ。 ⑬ 「セラフィモンは先日の爆発で…。」 「究極体とは言え、ヘルファイアを無防備で直撃すればですが無事ではすみませんが、十中八九生きてるでしょうな。  裏付けるように、頼りを失った警察は得体の知れないAIの指示のまま、こちらが提供した先の映像を信じず今に至る訳ですかね。  烏藤巡査を指名させていただいたのは、DWで天使型デジモンの動きや、数年前の天使型デジモンが行ったと思われる一斉拉致事件に興味があられたようなので、話を出来る素地があると判断したためです。  …セラフィモンの確保協力していただけますかね?」 「…。」  安所の携帯が鳴る。 「はい…そうですか…分かりました。」 「どうされましたか?」  安所が黙ってテレビのリモコンを付ける。 『東京及び近県の視聴者の皆さんに緊急放送をお送りします。  テレビの近くにいる方はできるだけ多くの人に声を掛け放送を観てもらうようご協力をお願いします。  先程内閣官房より首都圏の治安維持の為に、陸上自衛隊内の信頼のおける部隊へ出動を要請したと…。』  テレビの緊急放送でアナウンサーが文章を淡々と読み上げていた。  この意味をその場にいた全員が理解し、酒場を出る。 「最悪の事態…政府は、この事態と利用し、警察というよりも天使型デジモンがクーデターを起こすと考えている。  今回の出動要請も警察の動きに対応するためでしょうな。  今朝から検討をしている情報はありましたが、やはり最悪の結論となりましたね。」  異様な光景であった。  日本という平和が維持されていた国に軽装甲機動車、高機動車、16式機動戦闘車等。  今までモニターの奥に押し込めていたものが露わになった。 「…彼ら秋の葉のごとく群がり落ち、狂乱した混沌は吼えたけり。」 「え…?」 「…。」  夏の生温い空気が、不吉なものを運んできている…すみれにはそう思わずにいられなかった。 ⑭  時を遡り、8月2日:午後3時26分…AH-64D、警視庁爆撃直後。 「警視庁が!?えっ急いで戻らなきゃ!?」  越谷駅まで戻り起こされた勇太は、茜に状況を説明され慌てふためいていた。 「落ち着きなさいよ、行ってどうなるもの以前に邪魔になるだけでしょ。  今回は、物騒だけど人間の事なんだから大人に任させるの!」 「う…うん。」 「それより、私達には、私達にし!か!で!き!な!い!事あるでしょ!もう!  …なによ?」 「いや…やっぱり委員長って頼りになるなって。」  ふやけた笑い方をする勇太に茜の顔が赤くなる。 「はぁ!?何言いよーと…はぁ!?もー!照れること言うのやめて!」 「あたたたた。」  茜が勇太の背中をバシバシと叩く。 ⑮  茜の家を様子見し、次にふたりは勇太の家の様子を見た。  様子見は、近所にある施設の屋上へ登りそこからエレプモンの能力や、双眼鏡で確認をした。 「やっぱりウチも、もぬけの殻だ。  車は残ってるのに…。  エレプモンどう?」  エレプモンから伸びた糸が細菌のように広がり家屋内の様子を探っていく。 「う~ん、こっちもデジモンが中にいる。  やっぱり、待ち伏せかなこれは…。  今後は、携帯の電源も落としてた方がいいかも。  交渉の場に引っ張り出されるのは不利だし、居場所もバレる可能性もあるしね~。」 「やっぱり…ごめん委員長。」 「…謝る必要はないわよ。  日野君の責任なんて1mmもないんだから。  …でも、どこ連れていかれたっちゃろ…、イライラするとね。」 「そりゃあ、The Elect of Zion(ジ・エレクト・オブ・ザイオン)さ。」 「そげなん分かっとーったい!TEZのどこにおるかって話たい!」 「こわ…勇太、君はどうしてこう、いつも凶暴な女といるかなぁ?」 「いや、光は気は強いけど別に…ってだあああああああああああ!????」 「やっ勇太。」  そこにいたのはルクスモンであった。 ⑯ 「君は…!なんでここに!?」  勇太が茜を庇うように前に出る。 (日野くんが言いよった、アレっぽいルクスモンってこれ?) (あっ、うん…気を付けて。) 「はぁ…勇太ぁ、さっかくの命の恩人にその態度はないだろ?」  ルクスモンがわざとらしく溜息を吐く。 「命の恩人…?」 「そうさ、君はDWで一度死んでる。  本来だったら、データとして霧散しているところを僕がMWの肉体情報と紐づけてなんとか…まぁいいか兎に角僕のおかげだよ。」 「恩着せがましいたい。」 (まぁ、あのままDWにいたら鬼塚もろとも殺されるだろうし丁度良かったんだけどね。) 「ま、それもチャラかな。  別のチームだけどこっちの管轄で跳ねっかえりの不手際があった訳だしね。」 「あの、エンジェモン…。」 「僕の本来の役目は、MWでの人間リクルート。  DWでデーモンの偵察は、まぁヘルプみたいなもんかな。」 「あの…DWへの行き方を君は…。」 「それは知っているけど教えられない。  勇太、君は勘違いしてるけどあくまで僕は天使だ。  その枠組みの中では君の味方なだけだ。  だから大枠の部分で敵対し、妨害する事は教えられない。」 「…。」 「でも、もうひとつだけ教えてあげよう。  君達の家族は、TEZの東京教会にいる。  手出しはさせないし、ビジネスホテルよりはいい環境は保証するよ。  じゃあね、今日はそれを伝えに来たんだ。」  ルクスモンがそう言うと飛び上がる。 「待って!君はあの時のパタモンなんだろ!?  話したい事が…!」 「今の僕にはないよ。  勇太、僕はまだ君を諦めたくない。  これからは、少し強引な手段も辞さないよ。  じゃ~ね。  あ、大声出したから気付かれちゃってるよ?」  そう言い残すとルクスモンは飛び立っていった。 ⑰ 「げっ!本当に来るよ!早く逃げないと!」 「そんな大声だすからばい!」 「ごめ…!いやでも!」 「責めとるわけやなかよ!とにかく逃げるばい!」  勇太が委員長を抱えて屋根から飛び降りる。 「…。」 「どうしたの?」 「いや…DWの話聞いたら、光ちゃんとご飯食べてるかなって…。  ただでさえ、偏食で小食なのに、委員長抱えると全然体重違うなって…べふ!」  茜が思いっきり勇太にビンタを当てる。 「なに!?」 「いや…今のは勇太さんが色々悪いよ。」 「デリカシーがなかと!!!」 「えぇ…。」  すると勇太達の前に急ブレーキで停まる女性のバイカーが現れた。 「日野 勇太君と…その友達ね!乗りなさい!」  ヘルメットを渡されてよくよくそのバイカーの姿を見る。 バイカーはヘルメットを取る。 「鬼塚 秋子…光の母です。」  全身ピッチリのビニールタイプの峰 不二子のような姿の秋子であった。 「痴女たい!!!!!!!????」 「なっ!違うわよ!!」