「当学園における情報漏洩事案についてのご説明」
ある日、学園サイトに掲載されたそのニュースは、静かな衝撃をもって迎えられた。
現役トレーナーがハニートラップにかかり、機密事項を漏洩したという内容だった。
実際に情報を渡した者が二人、接触を受けたが未遂に終わった例が十数件。
噂やＤＭレベルのものまで含めれば、その数は百を超える。
「トレーナーとか言って所詮はただの童貞」「ガキ相手にイキっているだけのヘタレ」「カス」
そんな冷笑が、内外から向けられた。
事態を重く見た生徒会は緊急事態宣言を発令し、コンプライアンス教育の強化に踏み切った。
担当トレーナーに悪い”虫”がついていないか、互いに目を光らせるよう呼びかけたのだ。
もはや、戦時であった。

「いつなんどき寝取られがおこるかわからないんデェス。五人組を作って相互監視する必要があるんデェェス！」
「お〜げさだね〜。学園が動いてるなら、それで十分でしょ？」
「ほー、セイちゃん、やけに余裕じゃないデスか。実際に被害も出てるんデスよ？」
「極端な例でしょ。誰だってそうなるわけじゃないし」
「う、うん……トレーナーさん、そんな人じゃないと思う」
「なるほど。セイちゃんはトレーナーを信頼している、という訳デスね」
「……まぁね〜」
「ふふふ。でもエルにはわかりますよ。その言葉の裏に隠された真意を」
「どういう意味？」とキングヘイローが口を挟んだ。

「簡単な話デェス。誰が一番、ショックを“受けたまま”になるか、ということなんデェス」
エルコンドルパサーは全員を見渡し、不敵に笑った。
「もし寝取られが起こったら、誰だって傷つきます。けど――この中で、一番深く、しかも表に出さないのは……」
指先が止まる。
「セイちゃん、あなたなんデェス」
「えー？　そうかな。セイちゃんって、全然気にしなそうだけど」
「……いいえ、スペさん。それは違うわ」
「キングは察しが良くて助かるデース」
エルコンドルパサーは笑みを崩さず、セイウンスカイを見た。
グラスワンダーは何も言わなかった。ただ、その視線だけがわずかに鋭くなった。

「寝取られが起こったとします。スペちゃんは三か月は引きずります。グラスは四か月、キングはさらに長く、半年くらい引きずります。でもセイちゃんは、一週間くらいで元に戻るんデェス」
「え、どういうこと？　一番ダメージがあるなら、立ち直るまでにももっと時間がかかるんじゃ……」
この疑問にもキングヘイローは明晰であった。
「……そう」
「おや、キングはタネが見えているようデスね。言ってみてください」
「スカイさんは、”切り離して”しまうのね」
セイウンスカイは何も口を出さなかったが、照明の関係か顔に少し影が差したように見えた。
「スペちゃん、”トカゲの尻尾切り”は知ってますよね。セイちゃんも同じように尻尾切りするんデース」

「尻尾を切るの！？　い、痛いよそんなの」
「だいじょーぶ、ものの例えデェス。危ないと思ったら、痛みごと切り捨てる。そういう逃げ方もあるってだけデェス」
「え、でも……それじゃ、何も解決してないんじゃ……」
「いい視点デェス。ふっふっふ、だからこそ――あだぁっ！！」
気付くとグラスワンダーが隣に立って、その尻尾を思いっきり引っ張っていた。
「ぐ、グラァス！！　痛いっ！　千切れる！　尻尾切れちゃうデェェス！！！」
「エル。親友相手にしたり顔で人格分析しようなどとは、恥と知りなさい。セイちゃんに謝りなさい」
「いだだだだだっ！！　あ、謝るデェェス！　ごめんなさいデェェス！！」
セイウンスカイは、少しだけ目を伏せてから、いつもの笑みを作った。
「にゃはは。ま〜ダメージで言えば、エルが一番かもね〜」
空気は和らいだ。
だが、キングヘイローだけは、最後まで表情を崩さなかった。

トレーナー室の引き戸が、からからと乾いた音を立てた。
作業机の脇から、冬の日差しが斜めに差し込んでいる。
返事はない。けれど、セイウンスカイは中に誰がいるか知っていた。
「……おーい。寝ちゃってますか？」
三人掛けのソファに、トレーナーが横になっていた。毛布にくるまり、仰向けで、無防備に眠っている。
起こさないように近づき、床に膝をついた。
しばらくの間、聞こえるのは寝息と、壁の時計が刻む秒針の音だけだった。
「……寝取られ、だってさ」
誰に向けるでもなく、そう呟く。
それからぽつりぽつりと、今日あった出来事を話し始めた。

「まいっちゃうね〜キングとエルには。付き合いが長いとバレるのかな」
確かに自分はそれほどストレスに強いウマ娘ではない。
それでも、あの五人組の中で最も”折れやすい”と看破されていたのには舌を巻いた。
「こんなのセイちゃんのイメージ毀損ですよーって、怒ってもよかったよね」
しかし、それ以上に心にずしりときたのは、その後に続く洞察だった。
もし、寝取られが起こったら。
自分は”トカゲの尻尾切り”をする。
裏切りも離別も、すべて、無かったことのように振舞ってしまう。
その事実を突き付けられて、セイウンスカイは何も言えなくなってしまった。

その光景が目に浮かぶようだった。
自分は川岸に立って、釣り糸を垂らしている。顔は微笑み、いつもとなんら変わることがない。
しかし、自分を取り巻く環境は刻々と変化している。
愛するトレーナーは、憎き女狐の甘言にそそのかされ、自分を裏切り家を出た。
学園ではそこかしこでハニートラップ騒動が起き、混沌と阿鼻叫喚が渦を巻いている。
それでも、自分は涙のひとつも流さない。どころか、口笛を吹く余裕すらある。
”切り離して”いるから。何もかも他人事だと思いこんでいるから、痛くもかゆくもないのだ。
自分は、逃げの脚質だから。
嫌なことがあったら、背を向けて逃げ出してしまえばいい。
馬鹿正直に受け止めて、大怪我を負うよりは、そのほうがずっといい――。

「……やだ。やだよ……」
声は、思ったより小さかった。
そんなふうに振舞う保証なんて、どこにもない。それでも、考えずにはいられなかった。
「私……そんなに、平気な顔できるのかな。トレーナーさんのこと忘れるくらい、薄情になれるのかな……」
セイウンスカイは、トレーナーの胸に顔をうずめた。声を殺して、息だけが震える。
トレーナーを寝取られてしまうのが恐ろしい。
でもそれ以上に、逃げてしまう自分を止められない気がするのが、恐ろしい。
しばらくすると、頭の上にそっと重みが落ちてきた。
それがトレーナーの手だと気付くまで、そう時間はかからなかった。

「ごめん、起きてた」
視線が合った、その瞬間。
セイウンスカイは、天敵に遭遇した猫のように飛びのき、背後の棚にぶつかった。
「と、とっとと……トレーナーさん！？　い、いつから……」
「“まいっちゃうね”のあたりから」
かっと顔が熱くなる。いちばん聞かれたくないところを、聞かれていた。
「あ、あはは……やだな〜本気にしちゃいました？　もしもの話ですよ〜ぜんぶ」
とっさに誤魔化すが、トレーナーはからかいもせず、ただこちらを見ていた。
「俺はさ」
間があって。
「スカイが逃げ出すとは、思えない」
「え？」

「前提として、俺は寝取られない。だがそれを考慮しても、スカイは逃げたりしない」
「……そんなの、わからないじゃないですか。私が何をするかなんて、誰にも」
「だったら、約束しよう」
トレーナーは寝たまま起き上がらなかった。ただ腕を垂直に立てて、小指をそっと差し出した。
「俺は裏切らない。スカイは逃げ出さない。ここで指切りだ」
セイウンスカイは再び近づいていった。ハイハイしながら、恐る恐るその小指に触れた。
この男の言うことを信用してもいいのだろうか。寝取られは本当に起きないのだろうか。
自分は、逃げ出さずにきちんと感情と対峙できるのだろうか。
さまざまな思いが駆け巡ったが、トレーナーと小指を絡めることで悩みは氷解していった。
トレーナーは微笑む。その笑顔は屈託がなくて、あまりにも無邪気だった。
「……ぴろりろりん。セイちゃんの好感度が1上がりました」

「うん」
「ぴろりろりん。セイちゃんの好感度が1上がりました」
「うん」
「ぴろりろりん。セイちゃんの好感度が1上がりました」
「うん」
いつの間にか、冬の日は沈みきっていた。
トレーナー室は暗く、輪郭だけがぼんやりと残っている。
二人は長い時間、絡めた小指を離さなかった。

「撲滅！　滅却！　排斥！　淘汰！　トレーナーを悪しきサキュバスから守れー！！」
学園の校門では有志の”トレーナー守護り隊”がアジテーションを繰り返していた。
「魔の手がすぐそこまで！　セイちゃん、助けてほしいデェス！！」
しかし、セイウンスカイは驚くほどに朗らかで、笑みを絶やさずに答えた。
「だいじょーぶ。昨日今日の付き合いじゃないんだからさ。どーんと構えなよ」
「ケ！？　なんか……セイちゃんめっちゃ頼りになるデェス！」
察しの良いキングヘイローは、セイウンスカイを見つめてほっと息をついた。
「……そう、スカイさんは乗り越えたのね……」
セイウンスカイは、ばっちりとウインクを決めて歩き始めた。
デモ隊がプラカードを掲げながら目の前を通り過ぎていく。
そこには、「先手必勝！　奪られる前に奪れ！」と、勇ましい標語が踊っていた。

セイちゃんがちゃんと勝ってるの久々に見た

天才か

>もはや、戦時であった。
この学園、ちょっと変…

>>もはや、戦時であった。
>この学園、ちょっと変…
ちょっと…？

キングは物語開始前に亡くなったものとして下さい、の意がわかった
いざとなったら全部解決しちゃうわこの子

エル。真剣に謝りましょうね、こういうのは本当に…

>そこには、「先手必勝！　奪られる前に奪れ！」と、勇ましい標語が踊っていた。
もう終わりだよこの学園

凄く美しいパートナー愛を見たが
>>そこには、「先手必勝！　奪られる前に奪れ！」と、勇ましい標語が踊っていた。
>もう終わりだよこの学園

担当よりトラップ相手の方が魅力的なのかー！
悪魔を許すなー！

16方睨みチームといい
クリスマスには変な雰囲気になるなこの学園…

これは寝取られなのか…？

普通に情報セキュリティ案件…あはん案件ですね…

これはいい話…でいいのか？

つよつよセイちゃんいいよね

>二人は長い時間、絡めた小指を離さなかった。
（ふたりで長い時間を過ごした…）

セイちゃんはフラワー寝取られまくって耐性ついてるからな…

残りの4人も一悶着ありそう

>残りの4人も一悶着ありそう
「見捨てないでくださーい！」と泣きついて困らせるスペ
一流の労いを見せてあげる、と急に甲斐甲斐しくなるキング
マスクを外すことが増えるエル
白装束に紅を引いて道場で待ち受けるグラス

グラス…死してなお桜色か
いや死ぬな

黄金世代がバカやってる怪文書久々に見た…

人生とは勝つか散るか

>マスクを外すことが増えるエル
エロ。

足が震える

寝てから言え
とは言えない

エルはどれくらい引きずるんだろうね

全員男性トレーナーに卑しすぎる…

寝取られじゃないだろ
WSSだろ

ハニトラだからその先は無いしただただ引っかかったトレーナーがマヌケなやつ！

草

>ハニトラだからその先は無いしただただ引っかかったトレーナーがマヌケなやつ！
卑しい雌豚ウマ娘しかいない

>卑しい雌豚ウマ娘しかいない
卑しいのはお前の育ちだよ