ハルノ=レノレヴィン&ハチロー怪文書  サカエトル王都警察、王都の治安維持を目的に組織されたと思われる警察組織である。  ハルノ=レノレヴィン、ルーツを東方に持つ陰陽使いであり交通安全課課長を務める。  元は王都付近を勢力圏とする暴走グループのヘッドであったが当時の警察と全面衝突して敗北、自身が警察権力に下ることでチームメンバーの免責させた過去を持つ。  ハチロー、個体識別名称「衛府慶八郎」ハルノの駆る火車である。  ハルノのハチロクをぶっ壊したせいでボコボコにされた結果、今の形に収まった。  本日はこの二人の出会いのお話。 【ぬとだけんのコーナー】  王都にも年の瀬迫ってきた。  冬の交通安全運動の時期である。  点数稼ぎなどと揶揄されるがそれはそれ、飲んだら乗るなも守れない悪い奴らや単純に悪い奴らは監視する。  ハルノは今日も広場に陣を張り夜間パトロールの指揮をしている。   「オペ子~餅が焼けたぞ~食うか~?」 「ありがとうございます課長。いただきます。はふっおいし」 「暇な夜はデカ火鉢で餅焼くくらいしか楽しみがないよな。平和なのはいいことなんだろうけど」 「そうですね、ちょっと眠くなりそう…あ、ユーリエ・スレイ組が職質入りました。」 「そうかそうか、首尾はどんなもんだい」 「…彼氏が売人やってたみたいです。」 「あー…アイツもなんかツイてないね…」 「えぇ、本当に…」 「近くに仲間がいるかもしれないから増援を回しておきな」 「了解しました」  オフェリア=ストランド、通称オペ子。  交通安全課オペレーターである。  電子ハッカーたるリーゼロッテ=ホフアイゼンが「掴んで弄る」専門家であるとすれば、彼女は「流し送る」専門家である。  正しい情報を正しい場所へ送り届ける、広域作戦における指揮の要と言える。  魔術で再現した都内の地図に情報を表示し捌く。  周囲の位置情報と状況を精査してきぱきと処理していく。 「3分くらいで組織的対処可能な人員が揃います。課長も行きますか?」 「いや、そこまでは要らんだろう。おつかれさん」  盤面から少し目を離したオフェリアが急いで向き直る。 「何か来ます!西側山道方面からすごいスピードで!」 「落ち着きな、こっちで対処しても良いタイプのモンかい?」 「…大丈夫です、これはたぶんクルマ…識別はインフェルニャアン種、猫ですね」 「原産地はセーブナの方のやつじゃないか。誰だそんな性悪捕まえてきたやつらは」 「バリバリ法定速度違反ですね」 「スレイは…ダメンズの方か。ワルキューレは?」 「逆サイドですね、ちょっと遠いです」 「仕方ないね、アタシが出るか」 「いくらハチローちゃんでも馬力が違いすぎませんか?」 「だから追いかけない。コース上の人員を動かしてこのポイントに誘導、ラインがクロスするところで停める」 「了解しました。うまくいきますかね?」 「いくとも。あっちは大方楽しく運転したいだけでぶつけたいわけじゃない」 「了解です。道に車両を並べて誘導路を作ります。お気をつけて」 「オッケー、いってくるわ」  火鉢の前に陣取り丸くなっていた愛猫は出動の気配を感じたのか、軽く伸びをして主人を待っている。 「よし、じゃあ行くか、ハチロー」  三又に分かれた尾に火が着き、大きく逆巻く炎の中から大きな車体が姿を現した。  衛府慶八郎、強靭な前肢を持つ火車、ハルノがインカムとグローブを付けて乗り込む。  炎をひと吹きして軽快に走り出した。  狭い路地を縫うように加速して駆け抜ける。  通れない幅の道は建物の壁を走り進む。  オフェリアからの地図情報が車内に共有され、ターゲットとの距離感を把握できる。 「やっぱ真っすぐは早いねぇ…流石セーブナマッスル。コーナリングはちょっとぎこちないか、ソリは今一歩ってところだな」  角度や切れ目をつけるようにバリケードを設置し、そちらに曲げていく。  交通課の連携の賜物である。 「よしよし、みんないい仕事だ。次の交差点、上から仕掛けるぞハチロー、気張れよぉ!」  交差点出口付近の縁石に乗り上げ、飛び上がりながら車体を捻る。 「降りろ!天幕大師!」  三次元方向のすれ違い様に符が展開し、ターゲットを包み込む。  車体がホールドされたことで制御を失い、白煙を上げて路面を回転しながら停止した。 「さてさて、現行犯逮捕だ。天下のサカエトルで暴走なんてアタシが許すかよ」  ハチローから降りたハルノが式を解き、下手人に迫る。 「痛っつ~…いきなりなんだよ!」 「おう、兄ちゃん。なんだよとはご挨拶だな。自分が何してたのかわかってんのかい」 「あ?」 「あぁっ!!!?」 「スイマセン…」  ハルノが車体を見やり、もう一度話しかける。 「大方、峠で走ってきたんだろ。こんなことするくらいだから負けてきたな?」 「わかるんスか?」 「この子のボディにまだ草だか葉っぱだかの跡がついてるからよ」 「まぁ…手痛くちぎられまして…」 「悔しいのはわかる。でも市内で鬱憤晴らすのはちょっと違うと思わないかい」  過去を考えれば異次元の棚の上げ方ではあるが正論である。  運転手は閉口する。 「相手のホームに乗り込むんだ。そういう時は準備をちゃんとするんだよ。明るい時からコース見て回って、流してみて」 「でもいきなり現れてかっちょよく倒していくの、よくないですか?」 「そんなのはかっこいい通りこして不気味だよ。地道にやんのさ。あともうちょっとこの子のことを理解してやんな」 「理解?」 「硬い鎧をまとって爆音を轟かせていたところでこの子らは生き物さ。信頼関係が大切なんだよ」  そろそろと近づいてきたハチローの元まで行き腰を預ける。 「どこまで攻められるか、互いを労わる。こういう生き物に乗るってのはそういうことさ」 「…俺はどうなるんですか?」 「今のところ誰か轢いたりしたわけじゃないからねえ。良くて罰金、悪けりゃ短めの懲役ってとこかね」 「こいつはどうなるんですか?」 「心配すんな、こっちでちゃんと世話して預かっとくよ」 「よろしく…お願いします」  インカムでオフェリアに連行処理を依頼する。  まもなく到着した別の婦警に運転手は連行されていった。  インフェルニャアンもそれについていく形で警察署へ向かっていった。 「許可は出てるんだからスケィスの兄貴の方も早くストリートデザインのサーキット作ればいいのにな。レギュレーションの方が難儀ってとこか」  早く戻ろうと軽くふかした愛車を撫で、乗り込む。  行きとはうって変わって安全運転で本部へアクセルを踏む。 「戻ったぜ~」 「お疲れ様です課長、それにハチローちゃんも」  オフェリアが上司には温かいお茶、猫にはちゅーるを出す。 「おう、ありがとオベ子。ハチローも良かったなおやつ貰えて」  飼い主の言葉に耳を貸さず、猫は一心不乱にちゅーるをむさぼる。 「そういえば課長。ハチローちゃんはその、普通の猫と同じもの食べてもいいんですか?モービル種は餌から違うって聞きますよ」 「まぁそりゃ、普通の猫だからだろ」 「はい?車両形態への変身能力がある種族とかでなく?」 「こいつはアタシが改造したのさ、いやするしかなかったというべきか」 「イマイチお話が飲み込めないのですが…?」  疑問符が取れない部下と都市の盤面とを交互に見て、少し思案した後ハルノが口を開く。 「状況も落ち着いてきたし、少し昔話でもしてみるか」  茶をすすりながらハルノはゆっくりと話し始めた。