二次元裏@ふたば

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691804 B25/12/16(火)00:15:11No.1382944725そうだねx9 03:06頃消えます
 ソフィー、私たちはいま、天からそそぐ光と足もとの闇が生んだ境界の上にいる。このことは、私たちしか知らないんだ。誰も真実を知らない。それでもこの奇妙な時間の中で充足しているでしょう?
 業を超える陶酔が、私を壊す。あなたは幸せだった? 夢を見てるのは私のほうなの? 
 あなたがこわいものはなに?





 今回の主題は《恐怖》です、と祥子は言った。

 唇を動かすたびに揺れる銀髪の先を見下ろしながら、初音は数日前の会話を思い出していた。それに至る流れはもう忘れたが確かに祥子が言ったのだ、「あなたにこわいものはありませんの?」と。答えは決まっているのに、なぜそんなことを訊くのだろう。不思議に感じながらも穏やかな笑みを返す。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/12/16(火)00:16:28No.1382945135そうだねx1
 さきちゃんといられるのなら、なにもこわくないよ。
 他に答えがあるだろうか? 同居人は少し呆れた顔をしていた。それはちょうど、いまの彼女の顔と同じような。「ちょっと初音、聞いてますの?」
「うん? うん」
「ずいぶんと楽しそうですけれど」
「うん、楽しいよ。さきちゃんと一緒に曲を作るのは、とっても」

 その無垢な笑顔に祥子の表情も思わず蕩ける。裏腹に心中は緊張感を増す。実を言えば、これは祥子にとってちょっとした実験だった。



225/12/16(火)00:16:51No.1382945281そうだねx1
 祥子は、初音の飽くなき愛を浴びることで起きた自らの変容を自覚していた。
 一人でいるのが寂しくなった。
 玄関で振り返るようになった。
 雨が降ると傘の心配をするようになった。
 喧騒の中で無意識に探した。
 この子が私をなにかに変えた。なにに? これまでは知らなかったもの。だが幼い祥子にも察しがつく、変わってしまった自分が手の内に認識したのは愛しさだと。そう、これが愛なのね、あなたが私に与えているものが。彼女の口から「愛している」なんて言葉は聞いたことがない、むかし母が言ってくれたことがあるかもしれない。でも、おそらくそうなんでしょう? 
 だから、初音を困らせてそれを確かめようとしたのだ、甘美で、傲慢な行為をもって。ふたりのあいだにあるものが愛だとしたら、私たちはこれからどうなるのだろう。他でもない祥子自身が一摘みの恐怖を感じたために確かめようと試みた。
325/12/16(火)00:17:32No.1382945556そうだねx1
「恐怖……こわいものかぁ……じゃあ、まずはイメージをまとめてみるね」
「ええ、楽しみにしてますわ」

 祥子が楽しみにしている。またひとつ存在理由を与えてくれる。祥子がほしいのはAve Mujicaの新しいが曲だ。だが欲張りな祥子がそれだけを求めているのではないことを、初音がいちばんよく知っている。そう、初音は知っていた。
 祥子が自分に求めるものを。
 初音が祥子に隠しているものを。
 自らの想いが愛とはいくらか異なること。
 そして、自らが狂っていることを。
 それを表に出すことの危うさも。
 特に、祥子を前にすると理性の手綱が弛むことも。
 同時に、詞を書くことが祥子を喜ばせるために与えられた才能だということも理解している。詞は、表出を許された感情と知見の断片であり、壊れた心を一匙混ぜても、祥子の手でAve Mujicaの世界観を彩る歯車に組み変えられる。これこそ奇跡だ。
 すべては世界のためにつくりだされた。
 歌うのは私でも、歌われるのは私ではない。Ave Mujicaの楽曲は、誰か・何処かの物語であり、五つの四肢で奏でるように仕組まれた叙事詩だ。
425/12/16(火)00:18:07No.1382945753そうだねx1
《恐怖》。

 それは、かつて生活の隅々に、視界のすべてに紛れ込んでいた。他人の目も、足がぐちゃぐちゃした昆虫も、家族の優しさも、夜の遠い波の音も幼い初音を怯えさせたが、それは理性を支配するほどには蔓延しなかった。本当の恐怖が生まれたのは、別離の存在を知ってからだった。
 祥子は《恐怖》さえも初音に与えたもののひとつであるのを知らない。
 そして《恐怖》を乗り越えるために初音が狂ったことも知らない。





 初音にとって《恐怖》は、祥子と自分のあいだに広がる空間にあった。それは見えるときもあれば聞こえないときもあり、思考を束縛することもあれば身体を傷つけることもあった。つかず離れず一定の距離から孤独な初音を掴んでいた。
 だから初音は繰り返した。恐怖を生み出す狭間を埋めるため。滑稽な哀れみを捨てるため。祥子の身になにが起きても、自分がまるで正常であるかのように見せるためのシュミレーションを。百の、千の答えを想定する思考実験をはじめた。
525/12/16(火)00:18:23No.1382945840そうだねx1
 例えば、祥子がこの世から不慮の理由で消えた場合、どうすれば正しく生きていけるか、もしくは、どのようにすべてを破壊するか、もしくは。一縷の問いかけに、最良から最悪の可能性をできるだけ細かく、理性的に、正邪の秤に乗せて確かめてゆく。
 彼女が他人のものになったら、彼女と会えなくなったら、彼女が変容したら、彼女が罪に問われたら、彼女が海に消えたら、彼女が首を……。「もし、さきちゃんが、」というひとつの問いかけに集う、無数の可能性。それを見つけるたびに生まれる喜び、悲しみ、感情の姿に動揺する己の滑稽さ。
 大丈夫、よく考えて、私は見つけられるはず、彼女のためにうまくやる方法を。
 どんな外的要因も、祥子を超える影響をこの身に及ぼすことはない。
 いくらでも時間はあった。だってここに彼女はいないのだから。きっと最後は、あの日の思い出だけで生きていくことになるだろう。日々は、最期の覚悟のために希望を捨てる反復練習に過ぎない。
625/12/16(火)00:18:51No.1382946020そうだねx1
 そうして最後に残ったのは、心を塗り替えて表現する方法、今や演技として喜ばれる表現技術だった。車中の実父から声をかけられたときも、祥子に近づく他者を傷つけてしまいたい衝動に駆られたときも、可能性はすでに思考実験の内に済ませており、状況の破綻を起こさずやり過ごした。少なくとも現実の世界は、歪まなかった。倫理の秤はとうに壊れている。誰に気付かれることもなく。
 それなのに。彼女が連絡してきた日を思い返すとわずかに怒りを覚える。その怒りすら整った白い肌に浮かぶことはない。
 初音の理性が鳴りを潜めるのは祥子の前に在るときだけだ。喜びが思考を支配する。どうしようもない愛おしさに溺れてしまう。ふたりのあいだに潜んでいた恐怖も消失する。
一万回の空想は無力となり、彼女のたった一言が、この恐怖を灼き払う。



725/12/16(火)00:19:09No.1382946125そうだねx1
 初音が差し出したイメージに目を通し、祥子は悲しげな顔をした。優しいな、と初音は思う。モチーフに選んだ物語は明らかに悲劇だったのだから。
「この『彼女』が、助かる方法はなかったのかしら」
「うーん……いろいろな説があるけど、有名なのは『対となる存在を見つけること』、『上位存在への執着を捨てること』って感じかなぁ」
「難しいことばかりで気の毒ですこと。崇高な存在なのに憧れを選び破滅を拒まない、というのは興味深いですわね。彼女の恐怖について書くの?」
「うん、そんな感じ。でもちょっと違うかな……説明が難しい」
 祥子が手応えを感じているのは明らかだ。このあと彼女は作詞をはじめるよう告げるだろう。そして、その歌詞を弄び、整え、最後には美しい音色をのせてくれるだろう。
「わかりました。楽しみにしてますわ、初音」
「ありがとう、さきちゃん」
825/12/16(火)00:19:44No.1382946300そうだねx1




 あなたが知ることはないだろう。
 私の《恐怖》は、あなたの堕落。
 あなたが私より下位の次元に沈むこと。
 それだけは許されない。あなたは神でなければいけない。
 私にとってあなたは概念を超えたかたちある証拠、世界に溢れ誰も彼もが祈りを捧げるあれらとは違う、唯一のもの。
 私たちは愛し合い、奪い合い、試し合い、奏で合う。時には互いに背を向ける。
 私たちはこの決まった世界で、二人をつなぐ隷属を閉じ込め続けなければいけない。
 あなたが歩み寄ったあの日から、もう、思い出だけでは生きていけないのだから。
925/12/16(火)00:20:00No.1382946406そうだねx1




 完成された詩を読んだ祥子は己を恥じた。困らせて、愛を確かめようとしたのに。意地の悪い実験だったのに。
 そもそも、何処にいても、船の上でも、腕の中でも、彼女が私を拒んだことなどないではないか。境遇への不寛容さが自信を押さえ付けていたのだろうか。愛することを恐れ客観視するようなふりをして問うたにもかかわらず初音はなにも疑わないどころか、求めていたものを昇華して差し出した。それは詞のかたちをとり、不器用な実験に大いなる成果を見せた。
 歌詞に刻まれていたのは強い、強い拒絶の言葉。それは挑発であり、祈りであり、宣誓だった。
1025/12/16(火)00:20:26No.1382946528そうだねx1
 あなたがすべてであり、あなたのすべてを受け入れることができる。表層の拒絶は、神の試練を受け入れ列聖された聖女だけが受けることのできる苦痛へのそれに似て、上回る甘美が、与えるものと与えられるもののあいだに生ずることを、今、あなたも知るだろう。子守唄のように流れ込んでくる狂信。祥子は自分が笑みを浮かべていることに気付く。
 そして次には、ステージで彼女が歌う姿を想像する。快い歌声、鋭く突き刺す照明、乱れた金糸からのぞく澄んだ眼差し、空間を巻き込む豊かな振動……空想による思考の痺れ、ゆるりと背筋を走るもの、すなわち恍惚、感情よりも原始的な感覚が祥子の理性をかき乱す。混乱した脳が、視界を明滅させ魂まで酩酊させる。私たちの世界が、虚無から創造されるのを見ている。そしてそれはもう祥子を離さない。
1125/12/16(火)00:20:44No.1382946624そうだねx1
 あなたは私の愛が未熟で、不器用で、身勝手で、乱暴でも、与えられることを拒まずに受け入れるのね。口元に浮かぶ淫靡な笑みを噛み殺しながら祥子は思う。彼女なしに、もはやAve Mujicaの世界は生まれない。
 いつか私も、初音なしには生きていけなくなるのかしら。もしそうなら、恐ろしいことね。

 こわいものはなに?
 こわがる私が見たい?
 本当はもう知っているの。《恐怖》を、その壊し方を。
 あなたが到達できなかったその先を。
1225/12/16(火)00:20:58No.1382946699そうだねx1




 
1325/12/16(火)00:22:05No.1382947102+
書き込みをした人によって削除されました
1425/12/16(火)00:22:36No.1382947301+
書き込みをした人によって削除されました
1525/12/16(火)00:41:31No.1382952837+
力作ですわね…
1625/12/16(火)00:47:03No.1382954397そうだねx5
AIが書いたみたいな文
1725/12/16(火)00:48:55No.1382954857+
書き込みをした人によって削除されました
1825/12/16(火)00:49:26No.1382954991そうだねx3
これを書くためにつくった資料
fu6035473.jpg" >https://dec.2chan.net/up2/src/fu6035473.jpg
1925/12/16(火)00:49:58No.1382955139+
ソフィーは色々想像が膨らむよね
2025/12/16(火)00:51:34No.1382955520そうだねx3
これを書くためにつくった資料その2
fu6035485.jpg" >https://dec.2chan.net/up2/src/fu6035485.jpg
2125/12/16(火)01:19:21No.1382961231そうだねx1
俺には難しくて何のことかわからないけど
ただ語感が気持ちいい曲と片付けていたSophieの歌詞に向き合ってみようと思えたよ
2225/12/16(火)01:24:38No.1382962148そうだねx3
読んでいる時の気分はバリスタ初華の長文コーヒーレビュー部分を読んでいる時に近い
何を言ってるんです…?って思いながらも読んじゃう
2325/12/16(火)01:25:15No.1382962255そうだねx1
>これを書くためにつくった資料
>fu6035473.jpg" >https://dec.2chan.net/up2/src/fu6035473.jpg
>これを書くためにつくった資料その2
>fu6035485.jpg" >https://dec.2chan.net/up2/src/fu6035485.jpg
まるで意味がわからんぞ!
2425/12/16(火)01:26:22No.1382962426+
>fu6035473.jpg
>fu6035485.jpg
なるほどわからん!
それはそうと良いはつさきだった
2525/12/16(火)01:27:07No.1382962565そうだねx1
ガチ解釈に恐れ入りますわ
とても良かったですわ
2625/12/16(火)01:45:31No.1382965661+
めっちゃ好き…
2725/12/16(火)02:03:40No.1382968358+
回鍋肉
2825/12/16(火)02:04:34No.1382968460そうだねx2
感謝

これまでの怪文書
https://www.pixiv.net/users/115076894
2925/12/16(火)02:25:33No.1382970806+
うわー
自分で怪文書とか言っちゃうイタい感じの奴だったかー…
3025/12/16(火)02:28:53No.1382971079そうだねx1
>うわー
>自分で怪文書とか言っちゃうイタい感じの奴だったかー…
半Pしような
3125/12/16(火)02:37:33No.1382971809+
>>うわー
>>自分で怪文書とか言っちゃうイタい感じの奴だったかー…
>半Pしような
わざわざ引用して言うほどの事でもないけどまあ自称はあんまりしないね
最近は増えたけど
3225/12/16(火)02:38:44No.1382971892+
普通にするぞ
まあというか普通にいつもの荒らしだろうけど
3325/12/16(火)02:49:50No.1382972748+
やっと終わった
3425/12/16(火)03:03:15No.1382973693+
焼売


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