冬は嫌いだ。 冬の訪れを感じるのは毎年手があかぎれ始めてからだ。ああまたこの季節がやってきたのかと、うんざりしながら街で購入するリストに保湿成分のあるクリームを追加する。冬は出費が増える。このクリームの他にも寒さに耐えるための燃料だとかもいつもより多く必要となるし、食べ物だって高騰する。こんなことならもっと暖かい地域に先に移動しておくべきだったなと、そんなことを思いもするがやっぱり来年のこの時期にはもう忘れているのだ。一人で生きるというのはいつだって忙しい。 今年は、冬の訪れを感じたのは息が白み始めてからで、朝テントから這い出たら周囲を白が覆っていた時だった。 「寒っむ……」 思わず我が身を抱いてぶるりと震えた。寒くなって来たなとは感じてはいたものの、まさかここまでとは。例年冬の訪れを真っ先に感知するはずの両手を見てみると、じんわりと熱を帯びたままで、あかぎれどころかつやつやの肌を見せていた。 火をおこして朝食の準備に取りかかる。フライパンを十分に熱してから卵を落とすと聞き慣れた心地よい音がした。鼻が利くのかなんなのか、相方が起き出してくる時間がいつもちょうどいい焼き具合だ。火加減に気を付けながら、パンを切って皿を用意しておく。 「さ"む"い"」 目玉焼き以外の準備を終えたところで──相方が起き出して来た。じゅうじゅうと音を立てているフライパンに目を向けると、ずんずんと近付いてきてあたしの隣に座った。あたしはさてそろそろかとフライパンに注意を向けていたから、少し気付くのが遅れた。 翼をくいくいと引っ張られてそこで初めてジト目で見られていることに気付いた。 「ああ、悪い悪い」 暖かいと好評を頂いてる翼を広げて包んでやる。遅いですよ、とでも言いたげな目線を向けられたが翼に包まれてると文句はないらしい、満足気な表情を披露してくれた。 しばらくそのままで2人して朝食を済ませて食後に温めた牛乳を飲んでいる時に、ふと気づいた。相方を包んでいる方の翼が少し濡れていた。ああ、そういえば奴の種族柄、よくこうなるんだった。 いつもは手を握って、翼で包み合って寝てる。なるほど、それか。もうすっかり冬だと言うのにあかぎれていなかった理由は。 なんとなく嬉しくなって、けれどそれを伝えるのも恥ずかしかったから無言で抱き寄せた。 いきなりだったから少し非難の声があがって、それを「あたしも寒いんだよ」と言って返す。 冬も好きになれるかもしれない。