──ちょっとした打ち合わせがしたいから、竿隊は居残り！
練習前みんなが集まるやいなや、愛音ちゃんはそう伝えてきた。
それはもういいことを思いついたって笑顔付きで。
なにを企んでいるのか知らないけど、きっと大したことはないだろうとあまり気は進まなかった。

「居残らせたのに、なんでちゃんと用意できてないの？」
「思ったより写真溜まっててさ〜…あった！　これこれ！」

私の冷めきった視線なんて気にもしていない愛音ちゃんは、スマホの画面を得意げに見せてきた。
画面に映っていたのは、まっすぐ進めずくるりと一回転してまた曲がる青い矢印。
愛音ちゃんが勝手に作ったMyGO!!!!!のロゴマークだった。

「それがなに？」
「このロゴマークをさ、私のギターにインレイカスタムしようと思って！」
「いんれい？」

きょとんと聞き返す楽奈ちゃんに、愛音ちゃんはよくぞ聞いてくれましたとまたにやりと笑う。
ロゴマークを探していたときよりも素早く、愛音ちゃんはギターの画像を私達に見せた。
フィンガーボードやヘッドに、図形や生き物、草花を象った装飾が施されたギターの写真。
どうやら、この装飾がインレイらしい。

「…つまり、愛音ちゃんはMyGO!!!!!のロゴをギターに付けたいってこと？」
「そう！　シールか彫って嵌め込むかって感じなんだけど…シールならすぐ出来るしやっちゃおうかなって」
「ふうん…」
「ギターのさ、この辺に貼ったら目立つよね！？」
「さぁ？」

ステージでも見えやすそうな12フレット辺りを指さしながら、にまにまと笑う愛音ちゃん。
きっと頭の中では、ロゴマークを貼ったギターで注目を集めている様が浮かんでいることだろう。
ふと、ロゴマークが貼られた自分のベースが思い浮かんでしまって、私は眉間にシワを寄せる。

「好きにしたらいいんじゃない？　愛音ちゃんのギターなんだし」
「そうなんだけどさ、そよりんと楽奈ちゃんも一緒に貼らない？」

愛音ちゃんの誘いにどう返そうか悩む。
いいよとも、嫌だとも、なぜか言えなかった。
形から入ろうとする愛音ちゃんのいつもの思いつきだって、そう切り捨てればいいのに。
なのに、さっき浮かんだベースが頭から離れてくれなくて。

「やる」
「ホント！？　良かった〜！」

答えあぐねていた私を他所に、楽奈ちゃんがにやりと笑った。
楽奈ちゃんはこういうことに興味なさそうなのに。
ギターは弾ければそれで、飾ることなんて意味がないと切り捨てるのかと思っていた。

「楽奈ちゃん、いいの？」
「ん。インレイ、彫って、はめこむ」
「えっ？」

私は、多分愛音ちゃんも、流石にそこまで考えていなかった。
ただシールを貼って飾るだけなら、ある種遊びのようなもので、剥がしてしまえば簡単に元に戻せる、はず。

「楽奈ちゃん、彫ったらもう戻せないよ？」
「戻さないから、いい」
「やっぱり合わないなって思っても？」
「思わない」

なんでそんな当たり前のことを？と言われたような気がした。
私の方からしたら、どうしてそう思えるのかが分からない。
もう二度と、同じ状態には戻せなくなってしまうのに。

「そよりんの言うとおりだよ。楽奈ちゃんのギターってヴィンテージっぽいし、めっちゃ高いんじゃない？」

価値がありそうだから止めたほうがいい、なんて楽奈ちゃんには意味のなさそうな説得。
けど、その意見には私も頷けた。
価値があるからじゃない。
楽奈ちゃんがそのギターを大切にしているのは、私でも分かるから。
いつも服に猫の毛を付けて、髪だってあまり頓着しない楽奈ちゃん。
けれど、彼女のギターはいつも綺麗だった。
使い古されて塗装だって剥げているけど、決して手入れを怠っているわけじゃない。
いつだって楽奈ちゃんが楽しく弾けるようになっていた。
だからこそ…こんな思いつきで二度と戻らない傷を付けてしまうのは、良くない気がした。
なのに楽奈ちゃんは、私達の心配なんて気にもしていないように、ただにやりと笑った。

「このギターでずっと弾く。一生バンドやる。だから今、やる」
「…今じゃなきゃダメ？」
「待つなんてつまんねーこと、しない」

ずっとMyGO!!!!!でバンドをやるって決めたんだから。
これから先、一生続けられるって自信がつくまで…そんな”いつか”を待っているなんて嫌だ。
左右で色が違う瞳が、そう訴えるように私を力強く見返してきた。

「そよは？」
「…そうだね、私も、そう思う」

一生だなんて分からなくて。
健康に気をつけて１秒でも長くバンドをできるようにってことしか考えられなかった。
けど、私のベースにも刻み込めば、燈ちゃんの言う”一生”が少しは感じ取れる気がした。
そうありたいと、思ってしまった。

「え？　そよりん？」
「楽奈ちゃんの意見に賛成。私も…中途半端は嫌かな」
「え、ええ〜？」

楽奈ちゃんと私の顔を交互に見て、愛音ちゃんはううんと悩む。
私達が冗談で言ってるわけじゃないのは伝わったのかな。

「まぁ〜〜確かに？　そっちのほうがカッコいいか〜〜」
「そう、かっこいい」
「よし、私も決めた！　シールはやめてちゃんと仕上げてもらう！」

三人の意見がまとまって、真っ先に楽奈ちゃんが椅子からぴょんと立ち上がった。
すぐにハンドキャリーを掴んで、私たちを一瞥することなく歩き出す。
慌てたように愛音ちゃんもギターケースを背負って、楽奈ちゃんに続く。
私も席を立って、先を行く二人と離れないよう少しだけ足早に歩き出す。

──私たちのギターとベース、格好良くなるといいな。

今は少しだけワクワクしている自分が居て、なんだか可笑しかった。

🐱
「楽奈、あんたまだ起きて──」

部屋の明かりが見えて、私は眉間にシワを寄せた。
呆れながら部屋に入ると、果たして楽奈は床で丸まって寝ていた。
誰に似たのか勝手気ままな孫娘だけど、寝る時はちゃんとベッドで横になっているのに。

「珍しいこともあるもんだね」

ただいくら家だからって床の上で寝たんじゃ身体に良くない。
ふうと息を吐いて、私は楽奈を起こそうとした。

「これは…」

声をかけようとして、私の視線は楽奈のすぐ側にあったギターに吸い込まれていた。
私が初めて買って、楽奈に取られたギター。
その指板に、真新しい白蝶貝のインレイが入れられていた。
あっちへ行ったりこっちへ行ったり、慌ただしい矢印のピース。
嬉しそうに教えてくれた、楽奈の見つけた居場所。
12フレットの中心にはめ込まれたピースは、その居場所を自慢しているようで。

「…あんたも、この子のギターって面になったじゃないか」

かっこいいでしょ？と言い張るように、インレイがキラリと光った気がした。

いい空気吸ってる

実際にありそうな感じで好き…

>愛音ちゃんの誘いにどう返そうか悩む。
>いいよとも、嫌だとも、なぜか言えなかった。
ここめっちゃそよりん

劇中でもインレイって入れてるんだっけ

>劇中でもインレイって入れてるんだっけ
MyGO!!!!! #12ではポジションマークのみ
Ave Mujicaではロゴのピースがはめ込まれているため、作中7月〜8月辺りにインレイカスタムをしていると思われます。

>>劇中でもインレイって入れてるんだっけ
>MyGO!!!!! #12ではポジションマークのみ
>Ave Mujicaではロゴのピースがはめ込まれているため、作中7月〜8月辺りにインレイカスタムをしていると思われます。
なるほど
結構何度も見たつもりでも知らないことたくさんあるな

>MyGO!!!!! #12ではポジションマークのみ
>Ave Mujicaではロゴのピースがはめ込まれているため、作中7月〜8月辺りにインレイカスタムをしていると思われます。
しら
そん

3人とも理解度が高い

本編の補完する系の怪文書って何が面白いのかわからん

ババアパートもいい

確かにいつの間にロゴ入ってたよね

レズ！？

レズ…？

面白くてレス消せなくなったじゃねーか！
まあでも3月くらいの連投荒らしを何度も食らった身からすればこの程度可愛いもんよ

いい怪文書だ

自演多いな

この時間に統を失うんすね

ドラムとかのロゴはとうだっけ
入ってたよね？

>ドラムとかのロゴはとうだっけ
>入ってたよね？
ロゴついてないの燈のマイクくらいかな