子供の頃、お祭りで行進する兵隊たちに憧れた。 そろいの服にそろいの動きをする統率の取れた姿が美しかったからだ。 彼らが着ている伝統的な軍服もそうだ、 大昔活躍した勇者が着ていたものからほとんど形を変えていないらしいそれの伝統にも憧れた。 行進が終わると見回りを兼ねて屋台で食べ物を買ったり、町人と会話を交える軍服姿もちらほら見える。 陽気な市中の飾りつけの下で行われる普通の行為もまた美しい統率を際立たせるから好きだったのだ。 祭りの喧騒から離れて人通りの少ない通りに出る。 若竹色、藍色、鈍色、萌葱色、それとたまにツツシミ色。 遠くから見ると色々な軍服が街に溢れて視界がかなり面白い。 祭りは参加するのも好きだがこうして少し離れて全体を見渡すのもなかなか幻想的で特別感が味わえる。 そして、祭りの喧騒から離れた理由はもう一つあった。 あまり人の寄り付かない淡白な公園、ここには手入れをされているのかわからないプランターの草花や中途半端に崩れた像が立っている。 顔もわからない過去の偉人も同じ服で祭りを楽しんでいるのだろうか、それとも誰かに見て欲しいのだろうかと幼いながらに気にかかり祭りがあるたびここに足を向けていた。 自分の身の丈の何倍もある像を熱心に見上げていると、この年初めてその人に会った。 「少年、その像が気になるのかい?」 声のする方に顔を向けると女の人の姿があった。祭りに参加した軍人だろうか、ベンチに腰を下ろすその姿に萌葱色の軍服が目に入る。 なんてことの無い世間話をいくつかしたり、将来の夢を聞かれて軍人になりたいと答えたり、先の町人と軍人のような会話をいくつか交わした。 一時間ばかり話すと見回りがあるからと席を立ったその軍人の背中を見送る。 それからだ、その女性とこの公園で会うことになったのは。 あくる年、背が伸びたことを褒められた。その人は腹が減ったから何か食べてくると言って別れた。 あくる年、重いものが持てることを褒められた。その人は連れとはぐれた観光客を案内するため別れた。 あくる年、勉強が出来たことを褒められた。その人は祭りの喧嘩を止める指示を若竹色と藍色の軍服の人に出して別れた。 あくる年、軍隊に受かったことを褒められた。その人はお菓子の包み紙で作った勲章をくれて別れた。 翌年からは祭りでその人の影を探すようになった。 幾年かして大将へと上り詰めた。忙しいさなかに個人的な悩み事が増え鈍色の服に押しつぶされそうになる。 二人いる仲間たちと自分の違いや付き合い方に悩み、自分の立ち位置を見つめなおしたくなる。 目のくらむツツシミ色の服をかき分け今年もまた同じ時間に同じ公園で像を見上げる。 「少年、随分出世したじゃないか。偉いぞ。」 声のする方に顔を向けると女の人の姿があった。大将になった今ならわかる軍服の型の細かな古さに驚き、それを着る人の顔に驚く。 少し悩んだのち、お久しぶりですと頭を垂れる。 事を起こすにはこれまでいくらでも機会はあったはずだが、きっとただ自分と同じように喧騒を少し離れて楽しみたいんだろうという考えに留まる。 ベンチに静かに腰を下ろすその姿はまるで石像のように変わらなく懐かしいものだった。 「階級は?少年。」 「大将です。少年はよしてください、カイ・リッキーです。」 あくる年、出世したことを褒められた。その人は古い仲間の顔を見てくると言って別れた。 来年は少年から少しは出世させてくれるだろうか。