「……はい?」  思わず、素っ頓狂な声が漏れる。  マスターが口にした「お願い」の内容が、私には全く以て理解できないものだったからだ。  いや、もしかすると聞き間違いかもしれない。きっとそうだ。そうであって欲しい。私の疲れがもたらした幻聴に違いない。カルデアに召喚されて一息つく間も無くカ星の第二ストレージでエリザベートと共に奇矯な弓使いの騎士をぶん殴る作業に従事していたのが災いしたに違いない。  このマスターは人畜無害な顔をしながらもサーヴァント使いが本当に荒いのだ。私の前で「逆王手、やるよ!」だとか「SG、もらった!」などと叫んでいるだけの学生服姿の二人でさえ疲労困憊の様相を呈して水分補給している程なのだから、直接的にスフィンクスだの変な騎士だのを殴りつけている私とエリザベートが疲労するのも仕方が無い。  しかし、気付けばマスターの事をエリザベートよりも熱を込めて見つめるようになってしまっている私であるからして、そのマスターが何をおねだりしようともある程度は――私に物理的に不可能な物でなければ――答えてみせるつもりだ。 「もう一度聞きましょうか。なんとおっしゃいましたか、マスター」 →<<……その太ももでですね>> 「はあ。私の大腿部で?」 →<<挟んで欲しいんです……>> 「……何をです?」  <<……男性器を……>> →<<ちんちん!>> 「何を言ってるのあなたはーーーー!?!?」  これはおかしい。  聞き直した筈なのに内容が理解出来なかった。  内容の不可解さと、それを発したマスターのサムズアップに思わず大声を出しながら後ずさる。 →<<溜まってるんです!>> 「何が!?」 →<<言わせないで>>  <<分かってるくせに……>> 「何を!? え、何? 私は何を頼まれているの!?」 →<<だいたいママエリちゃんが悪いんですよ!!>> →<<エリちゃんと殆ど同じ体型のくせにお尻から下だけなんかもちっとしてるし!!>> →<<なんかエリちゃんとは似ても似つかぬエッチなパンツ履いてるし!>> 「!? 見、見見見見――見えていた、のですか!?」 →<<近距離B(モーニングスターを叩き付けるモーション)(注:プレイヤーからは観測不可能)だと後ろから丸見えで……>> 「〜〜〜〜ッ!!」  羞恥に頬が赤く染まったのを自覚する。  確かに私の下着はエリザベートの好みとはズレている。あの子はピンクの縞パンを好むが私が普段着用しているのは……。 →<<赤の……紐……!>> 「言わなくて結構です! ああもう、それで!? 私の下着が見えたからと言ってなんだと言うんですか!?」 →<<すごいムラムラしました!!>> 「最悪! 最悪ですねこのマスター!」  ……しかし、口ではそう叫び、手は顔を押さえて隠しながらも、何故か私の頬は緩んでいる。……彼の趣味から外れていなくて良かった、などと。そんな安堵が思考の何処かを駆け抜けてゆく。  困ったことに、既に私は絆されてしまっているのだ。  カ星人を吹き飛ばし、スフィンクスを吹き飛ばし、変な騎士を吹き飛ばす。それを幾度も幾度も彼の指示と共に熟していたせいで、私は、彼に「そういう」目で見られても不快ではなくなってしまっていた。 →<<……なのでママエリちゃんには責任を取ってもらおうと思って……>>  そう言って、ずいと一歩近寄る彼。  あどけない顔立ちの筈なのに、頭一つ違う身長に男性を感じて息が詰まる。 「せ、責任……!?」  それは、まさかアレだろうか。男女の、営みの……。  ごくり。喉が私の意志を無視して鳴る。生唾を飲み込んだ音。餌を眼前に吊された雌犬のようなはしたなさ。動揺を反映して揺れる視線が忙しない。   →<<本当に嫌なら、良いんだけど……>>  そんな事、思っていないくせに。優しく伸ばされた手が私の指に触れる。ぴくりと跳ねた私の指も、けれどすぐさま絡め取られた。  逃げようと思えば逃げられる筈なのに。私の身体は、私の意志も、彼を拒まない。 「……し、仕方ない……ですね……。私のせいで、溜まってしまったのであれば……私が、身を以て解消してあげるのが、筋でしょうし……?」  挙句の果てにはそんな馬鹿な答えを返してしまう始末。  何が仕方ないですね、だ。自分で言っていて笑ってしまう。完全に流されているし、流されるまでが早すぎる。これでは、まるで「チョロい女」のようではないか。  <<ありがとうママエリちゃん>> →<<……ありがとう、エリザ>> 「っ」  あっ駄目だ。私チョロい。自嘲が一瞬で吹き飛ばされて、胸が熱くなる。  ママエリちゃんと呼ばないでください、と幾度も言っていたのに気安くママエリちゃんと呼ばれ続けていたものだから、もう私も慣れてしまっていたのに。それをこんな、こんなタイミングで改められたら、私、チョロい女になってしまう。  究極の一から分かたれたモノであろうとも、エリちゃん=チョロいの図式からは逃れられないらしい。  私はすっかり彼に夢中になってしまっている。   「あっ、あの……その、私……経験、なくて……」 →<<大丈夫、無理はしないから>> 「はい……」  自分から何を言っているのだろう私は。何シーズンにも渡ってキングエリザの復活に尽力していた私は、それ以外の機能を持たない存在であった私は、数シーズン分の生活経験による知識こそあれど、全くもって実践を伴った体験が存在しない。  けれど、そんな恥ずかしい告白も、指を絡ませながら容易く受け止められて、私の声が蕩けていくのを自覚する。  なるほど、あの子が彼に想いを寄せる訳だ。何年にも渡って旅をしてきた彼の包容力は、エリザ一族には覿面だろう。ギャルゲー主人公に弱い存在なのだ、私達は。  ああ、ごめんなさいエリザベート。貴女の想い人に拐かされてしまう私を許してくださいね。私も、私もエリザベートだから……。 「……服はそのままで良い? 今日は挿れるまで行かない? はあ、あなたがそう言うのなら……」  溜まっている、という彼の言葉は嘘では無かったようで、ベッド脇の目立たない棚から潤滑剤――ローションというのだったか――を取り出して私の眼前に立つ頃には、既に彼の分身は下履きを押し上げて固く張り詰めていた。  <<ちょっと冷たいけど>> →<<我慢してね>> 「ひゃぁっ!?」  ぶちゅる、という何処か淫靡な粘ついた水音と共に彼の手に吐き出される潤滑剤。それがそっと私の内股に塗りたくられ、ひやりとした温感に思わず声が出た。  大腿部の、股間に近い部位。そこに突き入れられる彼の手はごつごつして、筋張って、固くて。時折――本当に時折、数ヶ月に一度程度の頻度が在るかないかの機会で――慰める自らの手に比べるとまるで違う。  ひんやりしていた潤滑剤も、私と彼の体温ですぐなじんでしまう。  なじんでしまえば、行為が始まってしまうから、私は息を呑むことしかできない。  <<ママエリちゃんの脚って、エリちゃんに比べると>> →<<ちょっと肉付きが良い気がする>> 「……それは、太い、という事ですか……?」  どきどきしていたらいきなり罵られたが?  確かに、カルデアに来てあの子や、他のエリザベートを見ていると少し「あれ……? なんだか私の脚太くないですか……?」と思わなくもない瞬間はありましたが面と向かって言われると傷つきますよ? →<<ううん、違うよ>> →<<エリちゃんはこの辺に隙間が在るんだけど……>> 「ひゃぁっ……、〜〜ッ、し、失礼しました……」  内股をなぞられて、無意識のうちに甘い声が漏れる。思わず謝ってしまったが私は何に謝ったのだろう。  そんな私のぐちゃぐちゃな脳内を知ってか知らずか彼の言葉は続く。 →<<ママエリちゃんはむっちりしてて、隙間が無いんだよね>> →<<その違いが何だか気になって、見ててすごくムラムラしてた>> 「ぁ……」  紡がれた、あまりにも明け透けな「お前に欲情していた」という告白。そんな物に胸を高鳴らせてしまう。それに連動するようにきゅっ、と脚を閉じる力を強めてしまうが、彼の手は女の柔らかい肉に挟まれた程度で動きを止められる物では無い。男の手なのだ。これから私をものにする、力強いものなのだ。 →<<もう大丈夫そうかな?>>  気が付けば、冷たい感触は消えていた。  ぬたついた水音が私の大腿部の内側でなじんで、……何処か女性器を連想させる質感が私自身の内股に伝わってくる。  生唾を飲み込んだ。なるほど、太ももに男性器を挟んで欲しい、というのはこういう事だったのかと今更ながらに理解する。つまりは、私の大腿部はいつの間にやら彼の男性器を心地よくするための交接部位にされてしまったらしい。 「……〜〜〜〜〜ッ!?」  そう気付いてしまえば気恥ずかしさが総身を襲う。繁殖を必要としない存在であった私達から分かたれた私だが、私が私になった時既に繁殖に用いるための器官は持っていた。先程言った通り、ごく稀に自らを慰めることもあったが、これはそれとは違う。  繁殖のための交わりではなく、快楽のための交わりなのだ。それも、本来ならば性的価値を有しない筈の部位に、性的価値を見出されている。その為に在るものではなかった筈の場所が、そう使うための場所に変えられてしまった。彼が、そうした。 「ぁ、ぅぅ……」  途端に、全身の発熱が跳ね上がった。宇宙線をも苦としない本来の強度はどこへやら。彼の目から反射して私に届くほんの些細な可視光の波長にすら耐えられない。顔と、胸と、胎が熱い。蕩けだしてしまいそうな熱情が文字通りに私の体幹をふやかして、気付けば私は彼の胸元に顔を埋めている。  左手はつないだまま。手を重ねるのではなく、指と指とを一本ずつ絡ませたカタチ。枝同士が絡み合うようなそれは、恋人繋ぎというらしい。なんて甘い名称だろう。きっとハロウィンのどんな菓子よりも糖度が高い。密着度の高さが、二人の関係性をそのまま示すというのなら、この名称はまさに天才的だった。  顔を上げられない。彼の顔を見られない。頬は、きっと私の髪よりも鮮やかになっている。けれど、視線を上げられないというのなら、私は別のものを見なくてはならない。これから自らを捕食する者を見上げることも出来ないという非礼の対価に、自らを捕食する物を見る権利が与えられた。即ち、彼の股間部。既に張り詰めて、ズボンの下で山脈の如くに隆起したそれを、彼が空いた手で解き放つ。  ――べちんッ!  布地から解放され、内部に流れる血潮の滾るままに暴れたそれは、まず何よりも先に、これが自分の物だと示すように私の腹へと突き勃った。  他の人の物なんて見たことが無いからそれが相対的にどんなサイズなのかは知らないし、そもそも平均値がどれ程なのかも知らないが、私はそれを突き付けられて、本能のままに「おおき、い……」と漏らしてしまう。  私と彼の身長差はおよそ20cm。私のヒールと彼の履き物で少しだけ縮まって差は18。彼の股関節が私の下腹部と並ぶのだが、屹立した男性器はその切っ先を臍の上方約10cm程度にまで伸ばしている。  概算で、24cm強。血管を浮かび上がらせ、「かえし」の段差を明確にしたそれのカタチは生物的な優秀さを心肝に染むもの。「チョロい女」であるところの私などはそれを突き付けられただけで胎をずぐりと疼かせてしまう。 「は……ぁ……っ……」  聞いた事の無い吐息が自分の口から排出されている。  何のことはない、発情した雌のそれだ。それが自分の口から漏れていることに一抹の驚きを禁じ得ないけれど、体幹を蕩かして滴る甘美は脳髄から脊椎へ、胸に焦がされ垂れ落ちて、下腹に溢れてゆく。あやふやになる自分が怖くてぎゅっと彼の手を握りしめれば、彼は微笑んで握り返してくれた。あっ、好き……。 →<<じゃあ始めるね……>> 「えっ、ぁ、待っ……ひぅっ!?」  そうしてまだ追いつかないチョロい女の心を置き去りに、何の抵抗もなく私の大腿部は彼のそれを受け入れた。  ずぢゅちっ……、という僅かな水音と共に、彼の体温より明らかに一段高い熱さが突き入れられる。 「あっ、ぁぅ……」  掃除の際に手を空けたくて箒を数瞬内股に挟むような行為とは決定的に違う。肉の隙間に異なる肉を挟んでいるのだから、それも当然だ。だが、肉を挟んでいる筈なのに、私の大腿部は焼けた鉄の棒に蹂躙されているような感覚に襲われている。固い、そして熱い。  彼の欲情の熱が伝達される。物の形状を判別するための触覚は鋭敏ではない筈の内股なのに、肉を押し割って突き通る物体の形状が分かってしまう。生物学的には、ヒトの男性器が傘を開くような形状なのは、異なる個体の精液を掻き出すためだという。つまりは、雌に自分の遺伝子だけを浸透させようとする本能的な独占欲。しかしそれと番う雌の体はその形状に適応して快楽を得るようになってしまっているし、雄の身体も男性器をもてなす器官となってしまった女性器から快楽を得られるようになっているから、最終的にヒトの肉茎があのようなカタチをしているのは双方に快楽を得るためという事になる。  けれど今の私はそんな高尚なことはしていない。彼が一方的に快楽を得ているだけ。彼が快楽を得るために、私の女性器に似た感触に仕立てた部位を堪能されているだけ。彼が交尾ごっこをしているとしたら、私は交尾ごっこの道具役をしているだけだ。  だというのに、どうしてこんなにも胎は熱いのか。心地よさそうな甘い呻きと共に腰を前後させる彼の顔を思わず見上げれば、エリザの太もも、すごく良いよと囁かれて心臓が跳ねる。 「……ぁ、あなたが……心地よいなら、私も嬉しいです……」  けれど、どうにかして微笑んでみせれば、彼が呆気に取られたような顔で停止する。 「あ、あの……どうかしましたか……?」  何か不興を買ったのかと怯える心は乙女のそれだ。彼が快楽を得るための道具役である筈なのに、その任を果たせなかったのではないか。そんな怯えはチョロい女の根性丸出しの情動だけれども、自分を求めてくれる男に尽くしたいという想いは本質的には恋する少女と変わりない。  <<いや……>> →<<今すごく、ぐっと来た>> →<<可愛いよ>>  ああ、やめて欲しい。そんな事囁かないで。愛おしげな声で、耳元でしゃべらないで。今そんな事言われたら、私はもう駄目になってしまうでしょう。  ……いいえ、もう既に手遅れ。だってほら、今、滴り落ちてしまったもの。彼は気付いているかしら。内股のぬかるみに、潤滑剤以外の何かが混じり込み始めたことに。細い紐状の下着では到底受け止めきれない熱情が、己が肉で快楽を得る番いをもっともてなしたいと生理的な本来の役割を果たそうとしていることに。 「ええ、ええ……。あなたが溜め込んでしまったのも、私の責任ですものね……。私がしっかり、お手伝いをしてあげますから……」  蕩けきった声。発情期の猫ですらもっとまともな声色をしている筈。だというのに、私はそんな猫撫で声で、甘やかすように甘えている。  と、内股の熱がびくりと跳ねた。  おや、と思い、さらに睦言を重ねてゆく。 「マスターの男性器……おちんちんでしたか? 熱くて、固いですね……。本物の女性器ではないというのに、私の脚、そんなに気持ち良いですか……?」  その言葉に、再びびくん、と跳ねる熱。  ああ、分かった。正解はこれらしい。  彼の顔も蕩けてきて、どこか可愛らしい。さっきまではあんなに素敵だったのに、今は幼子のよう。  けれどそれは寧ろ喜ばしい事だった。先程までの交尾ごっことその道具役ではない。今はお互いに交尾ごっこをしている。彼は私の言葉で快楽を増している。それは私に心を預けてくれているという事。より快楽を得る為に、私を使うのでは無く私が提案した使い方を受け入れてくれている。  そうなれば寧ろこれは私の得意分野かもしれない。だってほら、私は甘やかすのが得意な方ですし? 「分かってしまいましたよ、マスター。こうやって、よしよしされると……あんっ……ほら」  空いている右手で頭を撫でてあげた途端に、熱が跳ね上がって布越しに秘所を打ち付ける。なるほどなるほど。彼はこういうのを求めて居たらしい。そうなれば後はお手の物。きかん坊をなだめすかしてあげるのだ。  彼も空いていた右手で私を抱き寄せる。縮まる彼我の距離。背の低い私が彼の頭を撫でながら受け入れて、背の高い彼が私に腰を押しつける。  甘えているのは彼の方? いいえお互いがお互いに甘えているだけ。だってほら、私の顔、こんなにもとろとろになっているんですもの。   「あ、ん……。うふふ、どんどん固くなっていますね……。おちんちんの、かえしのところ……カリ首でしたか? 私の太ももに擦りつけて、カタチ分かってしまいます……」  互いに蕩けたお顔で見つめ合う私達。ふう、ふう、と鼻息の荒くなってしまっている彼の顔が愛おしい。まるで子作りでもしているかのように必死に腰を振って、ああそんなに私は彼を欲情させてしまっていたのかしら、それならいっぱい出させてあげないといけませんね、と勝手に脳髄がお嫁さん気取りで脚をきゅ、と閉じて快楽に導いてあげてしまう。 「いいですよ、私の太ももの中で、いっぱい出していいんですよ……」  彼の腰の動きが速くなる。ぬちぬちと鳴る水音。本当の交尾と違い、互いの交接器同士の抽挿ではないが故にぱんぱんと鳴る音もない。へこっ、へこっ、という可愛らしい腰の動きで彼が快楽を求め、私がそれに答えて受け入れる。  時折跳ね上がった切っ先に秘所をくすぐられ、私が甘い声を上げながら彼を抱き留める度に彼の熱が伝わってくる。 →<<エリザ、ごめん……!>>  <<もう……!>> 「はい、どうぞ……」  彼の切羽詰まった声に、脚の間で震える感触に、私も感極まって脚をきゅっと閉じる。偽物交尾であっても互いに快楽を追求するのがラブラブという事の筈だ。彼は求めて、私は応える。即ち私は彼に使える巫女なのだ。巫女なのでえっちなことをしていても何の問題もない。ハートまみれの頭がそんな風なよく分からない理論を提唱し、そうしてその時を迎えるのでした。  ぶびゅぅっ、びゅくっ、びゅるっ、ぶぴゅぅぅっ……!  内股に吐き出される、熱い迸り。潤滑剤よりも粘ついた液体が吐き出される感触に、本能がその液体の正体を悟って疼きに内股をこすり合わせる。  吐精中の敏感な器官を追い打ちで刺激され、さらにぶぴゅっと精を漏らす男性器。  すえた精臭がゆっくりとマイルームの中に満ちてゆく中、私達はしっかりと抱き合って快楽の余韻に浸っていた。 「……いっぱい、出ましたねマスター」 →<<ありがとう……>>  <<すごく良かった……>>  ふう、とお互いに息を吐き、甘い空気の漂うまま見つめ合う視線。  ぬちゅり、と内股から引き抜かれた男性器には彼の吐き出した白濁がこびり付いていて、それはきっと私の内股も同じことだろう。  そして互いの熱は収まっていない。何なら燃え上がっている。もし二回戦が始まるのであれば、一度身を清めて――。  シュィイン。そんな間の抜けた音と共になめらかに開くドア。  セキュリティとかどうなっているのかしら。 「子イヌ〜、母様知ら、な……。……子イヌ……?」 「あ」 →<<あ>>  そして全ての余韻が突如として入ってきたエリザベートに打ち砕かれて。  急速に血の気が引いてゆく彼と私。 「え……子イヌ……? 母様……? 嘘、嘘よね……?」 「あ、えっと。ち、違うのですよエリザベート。これはその……」  先程までの甘い空気はどこへやら。  マスターのマイルームに漂うのは、まるで娘の彼氏に手を出した淫乱母の不貞が明るみになった修羅場の気配。  いえ、まるでではないわね。まさしくその通りです。 「……ね……」 「ね?」 →<<ね?>> 「寝取られたぁああああ!! 母様に子イヌが寝取られたわぁぁぁあああ!?!?!?」  叫びながら駆け出すエリザベート。 「寝取っ……!? ね、寝てから言いなさい!!」  何を言っているのか自分でもよく分からないまま、内股に吐精されたものを処理することも忘れて追いかける私。 →<<しまった……>>  <<修羅場だ……>>  ひどいオチだ……と言わんばかりにズボンを履き直して私達を追うマスター。  三者による追いかけっこは、最終的にエリザベートが捕獲され、私同伴の下エリザベートの初夜を迎えると決定された事で幕を迎えるのだけれど、それはまたいつかの機会に。