二次元裏@ふたば

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47865 B25/10/26(日)22:40:16No.1366675469+ 00:07頃消えます
トレセン学園を卒業して数年が経ち、24歳になってから7ヶ月が経った

「この門を潜るのも、久しぶりですね!!!!!!!!!!」
「私はそうでもないけどな」

一層肌寒さが強まる秋の某日。脈々と継がれる歴史を感じさせるレンガ造りの門の前で、エールと私が並び立つ
私にとっては感慨も何もないのだが、隣の彼女にとっては何年振りになるんだろうか

「久々のトレセン学園!!!!!!!!!ワクワクします!!!!!!!!!」

今日はとある事情で、エールを連れてこの学園に来ていたのだった
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/10/26(日)22:40:29No.1366675530+
校舎の窓口でエールの受付を済ませた後。学園のはずれにある目的地へ向かうために、外履きのまま学園の外周を歩く
今は午前の授業中。外から見ると、校舎の中の生徒たちは皆授業中だ
エールは観光地で観光するように、キラキラした瞳で校舎の外装を眺めていた

「こんなところに校舎ってありましたっけ!!!!!!!!!?」
「ああ、最近できた新校舎だな。エールがいない間に建ったんだ」
「なるほど!!!!!!!道理で!!!!!!!」
「数年もありゃ、色々変わるさ」

本当に、数年で色々なことが変わってしまったなあ
この学園も……私たちも。あの頃から、大きく変わってしまったんだ
225/10/26(日)22:40:48No.1366675659+
「OGとして学園を回るのって、なんだか不思議な感じしますね!!!!!!!!!!」
「わかる。自分が先生になったような気分だよな」

隣で歩くエールは、私の感想に微笑んでつっこむ

「何言っているんですか!!!!!!!!!ソングちゃんは、本当の先生になったじゃないですか!!!!!!!!!」
「まー、そうだったな」
「もー!!!!!!忘れないで下さいよ!!!!!!!!」
「そんなわけないだろ〜」
325/10/26(日)22:41:01No.1366675748+
そう。何を隠そう、私はこのトレセン学園のトレーナーに就職した
認めたくはなかったのだが、どうやら私は人の面倒を見るのが、誰かと夢を一緒に追いかけるのが、好きだったらしい
卒業後、私はトレーナー資格取得の道に進むことに決めた。そこからはもう、地獄のような猛勉強だ
スポーツ生物学、栄養学、レース理論、コーチング。現役時代とは違う種類の知識を頭に詰め込む日々
そして丸1年、血反吐を吐くような努力の末、ようやくその努力は実を結んだのだった

「ここに入って結構経つけれど、私はまだまだ見習いだよ。今校舎で教鞭取ってる先輩方に比べたら全然だしな」
「全然っていいますけど、ソングちゃんは他のトレーナーには無い偉大な実績があるじゃないですか〜!!!!!!!!!GIトロフィー3つ持ちのトレーナーなんて、ソングちゃんしかいませんよ!!!!!!!!!!」
「あのなあ。選手としての実績と、トレーナーとしての実績って、お前が思うよりもまるっきり違うからな?」
425/10/26(日)22:41:14No.1366675827+
そういうものなのですか? と、不思議そうな顔をするメイケイエール
私は今、とあるベテラントレーナーが率いるチームの実習生として、見習いをやっている。タイム計測や情報伝達など、やってることはほぼほぼ雑用なのだが、メイントレーナーの指揮を間近で勉強させてもらっている。いつかあの人のようなチームを率いるのが、私の今の夢だった

「ソングちゃんのことですから、すでに5人くらい率いているものだと思っていたのですが!!!!!!!!!」
「生徒一人一人の、たった一度きりの競走人生を預かることになるんだ。教師の能力が生半可じゃ、任せられないんだよ」

当たり前のことだ。それくらいの覚悟がなきゃ、トレーナーとしてチームを先導する資格などない
その重い私の言葉にひるまず、エールはパッと笑顔になって言う
525/10/26(日)22:41:26No.1366675901+
「でも、早く見てみたいです!!!!!!!!!!チームソングちゃん!!!!!!!!!!!」
「ふふっ チーム名はそのまんまなんだな!」
「私、毎回応援に行きますよ!!!!!!!!!!!!おっきい応援旗をぶんぶん振ってアピールします!!!!!!!!!!!」
「レース場に旗は迷惑だからやめな……」

でも、そう言ってくれるだけで心強い。私は少しだけ、笑みが溢れる
どんなことでさえ、私を信じて背中を押してくれる。エールが親友で良かったと強く思う
まー、このバカデカスピーカーガールのことだ。彼女の応援(エール)なら、観客席からターフまで余裕で届くだろう。応援団団長は決まりだな
625/10/26(日)22:41:36No.1366675979+
「あっ!ソングトレーナー!」
「おっ、ガルフか。お疲れ」
「!!!!!!!!!!!」

歩きながらエールと談笑していると、ターフの方から、体操着を着た一人のウマ娘がやってきた
鹿毛が目を引くセミロングの子。私が見習いをやっているチームに所属する子だ
咄嗟に、近くの物陰に隠れるメイケイエール。過去の話とは言え、彼女はその名を轟かせたスーパーアイドルだ
現役の生徒にとっちゃ、レース場の観客席やSNS越しでしか見られなかった雲の上のような存在。騒ぎになると面倒になることは、彼女本人もわかっている

「どうしたの?」
「いや……ソングトレーナーの姿が見えたので」
「ふーん。ガルフは体育の時間かな?」
「はい。持久走をやっていて、ちょうど今休憩していました」
「あー。そういう季節だもんなあ」
725/10/26(日)22:41:50No.1366676059+
しかし、向こうから声をかけてくるなんて珍しいな。普段は積極的に来ることないのに
これって、私も一人のトレーナーとして、生徒に慕われ始めたのかなあ〜? ……なんて、のんきなことを考えてしまう
しかしよく見ると、ガルフの視線は私を見ていない。彼女はチラリ、チラリと、エールが息を潜めて隠れた物陰の方を気にしながら、体をそわそわと落ち着きなく揺らしている
ガルフは意を決したように口を開く

「あ、あのー…… ところで、なんですが……あそこにいらっしゃるのって……」
「あ、あー……」
「メイケイエールさん、ですよねっ!!!!!」
「!!!!!!!!!!!!!!」

まー、エール目当てだよなあ…… ハハハ
ガルフの大声を制止することも出来ずに、私は渇いた笑いしか出なかった
静かな午前の学園に響き渡った彼女の一言で、ターフで休憩していた他の生徒たちも反応する
「え?」「マジ?」「エールさん!?」……あーあ、終わった終わった
その子たちも、ターフから私たちめがけて押し寄せてくる。そしてエールの方も、やれやれ見つかっちゃいましたかーと言いたげな面で、呑気に飛び出してきた
825/10/26(日)22:42:02No.1366676125+
「そうです!!!!!!!!!私がメイケ……」
「バカヤロー!!!逃げるぞ!!!」

ファンサのために手を振ろうとするこの能天気ガールの手を掴み、猛ダッシュ!!

「ちょっ、ちょっと〜〜〜!!!!!!!! 久々に人気者扱いされて嬉しかったのに〜!!!!!!!!!!」
「対応する暇ないだろ!!!!今日の目的を忘れたのかよ!!!!」
「てか、ソングちゃん速い!!!!!!!速いですよ!!!!!!!!!!」
「バカ言え!!!追手は現役だぞ!!!」
925/10/26(日)22:42:22No.1366676262+
私たちと、背後から追う現役の子たちの、たくさんの蹄鉄の音。アスファルトを蹴るその音が慌ただしく響き渡る
瞬間。景色が、今までのここでの思い出たちが、私たちとすれ違って猛スピードで後ろへと流れていった
何かを追いかけたり、追いかけられたり……二人で駆け抜けたハチャメチャな毎日が、今ここに帰ってきてくれたような心地がした

校舎裏の裏庭まで逃げ込んだ私たち。ほとんど森みたいな環境であるここは周囲全てが緑一色。北も南もわからなくなってしまっている
だけど、私たちだけは知っている。この裏庭の走り方を、どんな生徒よりも知っている
木の並び、枝の形、土の感触に、放棄された赤コーン……前より一層茂っているが、何ら変わっちゃいない
だって、私たちはここを……あの場所に向かうために、毎日通っていたんだっ!!
1025/10/26(日)22:42:40No.1366676377+
「なんとか、まきましたかね……!!!!!!?!?」
「くそ…… こんな所で体力消耗するとは……」
「でもほら!!!!!!!!!見てください!!!!!!!!!!!」

追手をまきながら、険しい道のりを進んだ末
私たちはようやく、目的地に辿り着いた
それは…… 私たちの、想い出の地

「久しぶりの、プレハブです!!!!!!!!!!」

あの頃と何ら変わらない、ボロボロのプレハブ小屋が、私たちの帰りを待っていた
1125/10/26(日)22:43:22No.1366676629+
当時のトレセン学園には、とある噂話が囁かれていた
曰く、校舎裏に広がる裏庭には、気性が荒い危険なウマ娘を閉じ込める監獄が存在するという
普通の生徒から隔離するように設置されたこの小屋が、それだ。その噂のせいで、このプレハブ小屋には、誰も近づこうとすらしなかった

……けれど、その噂話は半分間違いだった。トレセンの最果て、気性難の監獄とすら呼ばれたこの場所は……本当は、とある二人の大先輩を中心とした温かい溜まり場だったのだ
確かに危険な気性難バが集まる場所ではあったが、みんな私たちに良くしてくれたのだ。ときには先輩の作る料理やお菓子を頂きながら、漫画を読みだらだら過ごすこともあった
部室と呼ぶには似合わないキッチンとか漫画とかがあって、沢山の優しい先輩たちと、かわいい後輩もいて、たまにタイムやソダシも来てくれて……
1225/10/26(日)22:43:35No.1366676707+
「……まだ、耐えていたんだなぁ」

深い安堵で、ほっと息をつく
まあ、ちょくちょく心配で様子を見に行っていたんだけどな。台風とか心配だし
でも、中に入るのは初めてだ。中に入るのは、エールと一緒の時だと決めていた
警備室から借りてきた鍵を挿し、硬い引き扉を開ける。ギギギ……と、砂で詰まったレールが悲鳴を上げていた

「わー!!!!!!!埃まみれ!!!!!!!!!」
「あーほら、マスク使え」

プレハブの中は、私たちの記憶の中にある姿とは似ても似つかない、荒廃した景色が広がっていた
床には、隙間風が運んできたであろう枯れ葉や砂が散乱し、まるで廃墟のようだ
荒らされた……というより、誰もここを使っていなかったみたいだ。逆に建物が崩れず残っていることが幸運だ
1325/10/26(日)22:43:49No.1366676798+
「ささ!!!!!!!!!そろそろ始めましょうか!!!!!!!!!」
「そーだな!」

今日ここに来た理由は単なる様子見ではない。この想い出の場所を、私たちの手で掃除するために来ていた
プレハブの端にある、あの頃のままのロッカー。その扉を開け、中からホウキと、まだ使えそうな雑巾を取り出す
エールにホウキを渡し、まずは床に散らばった枯れ葉やゴミを掃いてもらう。とりあえず私は、雑巾を固く絞り、乾拭きで高いところの埃をとっていくことにした

「何だか私たち、墓参りに来ているみたいですね!!!!!!!!!」
「不謹慎なことを言うんじゃないぞ」
1425/10/26(日)22:44:03No.1366676892+
照明の裏、年季の入った棚の上、窓の桟。拭けるところは隅々まで、丁寧に拭いていく
しかし……掃除を進めれば進めるほど、違和感が募る。どこもかしこも、もぬけの殻になっているのだ
先輩たちが持ち込んだ漫画やDVDとか、あの頃の想い出の写真立てとかだってあったはずなんだけど、すっかり消えてなくなっている。まるで、引っ越しの準備が終わった後の部屋のよう
何者かが盗んだとは考えにくい。後輩が持って帰っちゃったのだろうか
これじゃ、想い出に浸ることすらできないじゃないか

「ねえ、ソングちゃん」
「ん?」
「ここまで何もないと……寂しい、ですね」
「そうだな」

一通り掃き終えたエールが、小屋の中を眺めながら小さくつぶやく。寂しくなる気持ちは、私も同じだ
寂しいのは当然だ。今日私たちが来るまで、誰もこのプレハブを使っていないのだから
1525/10/26(日)22:46:27No.1366677781+
元々ここは部室のようで、実は正規の部室ではない。噂話は半分正しく、実際にチームの中の気性難バを隔離する為の場所だった。しかし、その気性難バたちが卒業でいなくなってしまってからは、徐々に変わっていった
私たちの後輩を含め、こことゆかりのある人々が全員卒業した後は、ここに隔離されるべき気性難バが現れなくなった。そして隔離施設の存在意義も失って、少しずつ使われなくなったようだ
そして誰もこのプレハブの存在を記憶しなくなり、噂話も立ち消え……訪れる者は終ぞいなくなった
今のトレセン学園に、この場所の存在を知る者など……もう私しか残されていない

「私、心配です…… いつの日かここが、取り壊しになっちゃう日もあるのかなって」
「……」
「……こうも、ひとけがないと……今すぐにでも、無くなってしまいそうで……」

エールの不安げな声が、埃っぽい空気に溶けていく
その光景を見ながら、私は少し、迷っていた
1625/10/26(日)22:46:52No.1366677931+
言わなきゃ、いけない
今日、エールをここに連れてきた、本当の理由を
最初から、包み隠さず言うつもりだったけど……少しだけ、エールに打ち明ける勇気が無かった
エールは自分の大切なものが、自分の前から消えてなくなってしまう事をとても怖がる性格だ。だから人よりも早く異変に気が付き、不安がる事が出来る
けど、ちゃんと説明しなきゃ……何も、始まらない

私は一度、固く目を閉じ、そして開いた
1725/10/26(日)22:47:14No.1366678072+
「今のトレセンは、学生数を増やしたがっている。ここに来た最初にさ、新校舎見ただろ?」
「あ……はい!!!ありましたね!!!!!」
「理事長はどうやら、このまま校舎と施設を拡充していって、ゆくゆくはより多くの生徒に平等な教育が行き渡るようにする方針なんだとさ」
「そうなん……ですか!!!」
「なんでも、落ち着いてしまったレースブームの再燃を見越しているらしい」
「……」
「ブーム再燃の火付け役。次の世代を牽引しうる天才的なスターを産み出すための『多産戦略』。だから、ターフに夢を寄せる入学希望者を、できるだけ多く受け入れる方針へと舵を切りたいんだそうだ」
「……ちょっ、ちょっと待ってください」

カタン、と。ホウキを壁に置いて、私の方へ向き合うメイケイエール
その真剣な眼差しには、大きな戸惑いを含んでいた
1825/10/26(日)22:47:33No.1366678208+
「ソングちゃんはどうして、いきなりそんな話を始めたのですか?」
「エールに、話さなくちゃならない事があるからだ」
「それって…… このプレハブ小屋にまつわることですか?」
「……そうだ」

いつもいつも、お前は本当に、察しが良すぎるな。メイケイエール

「……当たり前だが、施設の拡充には土地がいる。そしてトレセン学園の校舎裏には幸運にも、もう一つ小さなトラックくらいなら余裕で作れそうなくらいの広い敷地がある。今はこうして放置されているとはいえ、本来は学園の私有地」

私の言葉が、一言一言、重くプレハブの中に響く
ここまで言えば、頭のいいエールなら理解してしまう
1925/10/26(日)22:47:54No.1366678318+
「つ、つまり……」
「……」
「新しい施設を建てるために、このプレハブ小屋は取り壊しになるってことですか!?!?」

その瞳から目を逸らさず
悲鳴にも似た彼女の叫びに、私は黙って首肯した
2025/10/26(日)22:48:13No.1366678426+
「まあ、まだ決定事項ではないんだけどな。でも、プレハブの取り壊しは時間の問題だ」
「……」
「理事長やいろんなトレーナーが、ここら一帯を更地にしたがっていることは、いろんなところで耳にした」
「……」
「私も、もう少し早く気が付いていたら、良かったんだけどなあ……」

複雑な表情のメイケイエール
無理もないさ。自分が大切にしていた想い出の場所が無くなるかもしれないと、いきなり告げられてしまったんだもの
2125/10/26(日)22:48:32No.1366678542+
「……どうすれば、よかったのでしょうか」

エールが口を開いたのは、私が話し終えた少し後のことだった

「ソングちゃん含め、今までここから数々のGI制覇者を輩出していきました。プレハブチームの実力は、確かだったじゃないですか!!!」

デュランダル、スイープトウショウ、カレンチャン、ドリームジャーニー……そして、クラシック三冠のオルフェーヴルと、ウマ娘の最高傑作と呼ばれたディープインパクト
ターフの上で歴史を刻んだ先輩たちの名前が、プレハブの中で一緒の時を過ごしたかけがえのない先輩たちの名前が、私の頭によぎる

「それに、私たちだけじゃないです!!!!!ここは先輩たちの、大切な想い出の場所でもあるんですよ!!!!!?!?!?!?」
2225/10/26(日)22:48:43No.1366678609+
わかっている。わかっているんだそんなことは
でも私は、言わなきゃいけない。私は奥歯を、強く噛み締める

「でも、みんなもういない」
「……」
「もうみんな、卒業したんだよ!!!」
「……ッ!!!!!!!」

私の声が、プレハブの中に響き渡る
2325/10/26(日)22:49:02No.1366678698+
「私だって。私だってここが無くなっちゃうのは絶対に嫌だ!!! でも、でもなあ……トレセン学園は私たち卒業生の為の場所じゃないだよ!! 今ここで通う、生徒たちの為の施設なんだぞっ!!!」

私にとっちゃ、今更な話だった。優先されるべきは生徒の教育。トレーナーとして、それは絶対の真実だ
見習いとして、自分に何度も何度も言い聞かせてきたことだ。今日ここに来るまで、何度も何度も……

「ご、ごめん、エール…… つい、叫んじゃった……」
「……私は大丈夫です……けど」
「……」
「……ソングちゃんの、方が」
2425/10/26(日)22:49:16No.1366678767+
……なんだか、息が苦しい。叫んだ反動か、気分がとても気持ち悪い
どうやら、私も相当気持ちをため込んでいたらしい。ずっとずっとひそかにため込んでいた感情が、たった今どっと押し寄せてきていて、めまいのような感覚に陥る。苦しくて、私はその場でしゃがみ込む

「な、なあ。メイケイエール……」
「……!!」

頭を抱えた私がエールに発した言葉は、頼りないくらいにか細く、震える声をしていた
2525/10/26(日)22:49:35No.1366678889+
「私、どうすればいいかなあ……?」

私は、本当は、ずっと前から弱っていた。隠していただけで、限界だったんだ
折角、目標だったトレセン学園に就職したのに……偉大な先輩たちが残してくれた大切な想い出を守れないなんて。そんなの知られたら、もう二度と先輩たちに顔向けできない

「私、どうすればよかったかなあ……? どうすれば、ここを守れるかなあ……!?」

どうすればいいか、わかんなくて。「見習い」という無力な立場で、どう抗えばいいのか、わからなくて

「わたしも、大切な場所を失くしたくないよ……」

私は、目の前の親友に、すがるしかなかったのだった
2625/10/26(日)22:49:55No.1366679015+
「……再建、です」

涙で湿り、ぼやけた床の木目しか見えなかった視界が、今変わる
私の目を覚ましたのは、メイケイエールの、いつもの、あまりにも力強い言葉だった

「またイチから、このプレハブを立て直すんですよ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ガバッ、と音がしそうな勢いで、エールはしゃがみ込む私の両肩を、痛いくらいの力で掴んだ
その手は、驚くほど熱かった
2725/10/26(日)22:50:06No.1366679087+
「バカ言うなよ、メイケイエール。立て直すったって、どうやって……」
「トレセンには、ソングちゃんがいるじゃないですか!!!!!!!!!!!」
「いるだけじゃ、何も変わらないだろ……」
「ソングちゃんは、自分のチームを組むんですよ!!!!!!!!!!それで万事解決です!!!!!!!!!!」

……チームを組む? 私が?
一瞬、思考が停止する。あまりにも突拍子の無い荒唐無稽な提案に、さっきまでの絶望すらどこかへ吹き飛んでいく
2825/10/26(日)22:51:04No.1366679424+
「だから、どうやって……」
「部室です!!!!!!!!!」
「……!!」
「ここを、ソングちゃんのチームの部室ということにしちゃえばいいんですよ!!!!!!!!」

な、なるほど……
ここにチームとしての籍を置けば、理事長もそう簡単にここを取り壊せなくなるということか
確かにそれなら、プレハブ取り壊しを回避できるかもしれない
しかし、だ。その作戦には重大な欠点がある

「チームって言っても、私はまだ選手一人も任せられない、見習いなんだぞ……?」

すると、エールはパッと笑顔を咲かせて答える
2925/10/26(日)22:51:39No.1366679632+
「頑張ってください!!!!!!」
「……え?」
「頑張ってください!!!!!!!!!」
「頑張るったって、なにを……」
「もちろん、頑張るんですよ!!!!!!!!!」
「は、はあ……?」

なんだそのごり押し精神論は
だが、エールは私の困惑など一切意に介さず、そのまま太陽のような笑顔で畳み掛ける
3025/10/26(日)22:52:08No.1366679817+
「チームを組むのはソングちゃんにしかできないことなのですから、そりゃもう、頑張ってくださいとしか言えませんよ!!!!!!!!!!一人前のトレーナーとしてチームを任せられるようになるまで、めっちゃ頑張ってください!!!!!!!!!!!!」

そして、トドメの一言
3125/10/26(日)22:52:59No.1366680111+
「困ったときは、私がいますから!!!!!!!!!!!」
「いつも言ってるじゃないですか!!!!!!!!!一人で出来ないことがあったなら、私を頼ってくださいって!!!!!!!!」
「つらい時や、困ったときは、いつでも私の胸に寄りかかってください!!!!!!!!!!!!」
「私がいつも、あなたのおそばにいるのは、いつでもお互い支え合えるようにするためなのですから!!!!!!!!!!!!!」
3225/10/26(日)22:53:23No.1366680254+
あーもう、本当にこいつは……
いつだって、いつだっていつだっていつだって……そうだ
私がどん底に落ちた時、こいつはいつもいつも、無茶苦茶な力技で私を引っ張り上げてくれる

「答えになってないだろ、ばかっ!」

自分でも驚いた
声に、さっきまでの絶望の色はなかった
涙で濡れたままの顔で、私は自然と、笑っていた
3325/10/26(日)22:54:25No.1366680622そうだねx2
舎弟リスペクトでメイソンした
プレハブという言葉も消えかけていて寂しい思いをしています
3425/10/26(日)23:02:45No.1366683546そうだねx1
プレハブも懐かしくなってしまった…
3525/10/26(日)23:07:29No.1366685231そうだねx1
>プレハブも懐かしくなってしまった…

本当にね…
舎弟のメイソンが大好きなので未練たらしく更新し続けてしまっています
3625/10/26(日)23:09:14No.1366685906+
まだ書いてくれてありがたいぜ
3725/10/26(日)23:15:51No.1366688182+
>まだ書いてくれてありがたいぜ
今月も読んでいただきありがとうございます
励みになります
3825/10/26(日)23:16:38No.1366688436そうだねx1
現在のアプリ事情からプレハブ構成してもあんまり変わらんよな…
君臨するおるへ、世話を焼くドリジャ、お兄ちゃん関係は絶対にけん制するカレンちゃん
3925/10/26(日)23:19:23No.1366689375+
>君臨するおるへ、世話を焼くドリジャ、お兄ちゃん関係は絶対にけん制するカレンちゃん
ドリジャが舎弟ポジになるイメージ
4025/10/26(日)23:20:00No.1366689594+
>ドリジャが舎弟ポジになるイメージ
お姉ちゃんだからね…
4125/10/26(日)23:21:23No.1366690038+
おるへリードギター兼Vo、ドリジャベース、カレンちゃんギター、聖剣ドラムス
4225/10/26(日)23:24:58No.1366691277そうだねx1
>おるへリードギター兼Vo、ドリジャベース、カレンちゃんギター、聖剣ドラムス
こう見るとメイソンがバンドやってるイメージ全然湧かないな…
4325/10/26(日)23:57:06No.1366701824そうだねx1
ありがたい…
4425/10/27(月)00:02:35No.1366703525+
>ありがたい…
今月も読んでいただきありがとうございます


1761486016242.jpg