みずみずしく輝いて見えるオレンジの果実を裏返すと、コルクのかけらを埋め込んだような茶色い斑点がまばらに散っていた。  潰瘍病だ。 (去年、やっとグリーニング病をやっつけたばかりなのに……)  MS-fサーフgSL4630はもいだばかりのそのオレンジを、しばらくのあいだ悲しい気持ちで見つめていた。それから背中のかごへ放り込み、次の実へ手を伸ばした。いそいで収穫したあと、この枝を切り落として燃やしてしまわなければならない。  形の悪いオレンジで一杯になったかごを担いで、サーフはとぼとぼと斜面をあるく。結局、傷のない上物の果実は数えるくらいしかなかった。これでは今週も上納ノルマが満たせない。また労働奉仕に出かけないといけないだろう。都会はきらいだ、みんなが馬鹿にするから。  農場長の言うように、もっと海側まで果樹園を広げる方がいいだろうか。でも面積が広がれば、それだけノルマも増える。どうするのが一番いいのだろう?  わからなくなったところで、サーフはいつものように考えるのを止めて背中の重みに集中した。サーフモデルはものを考えるのが苦手だ。 「お疲れ」 「よう」  分かれ道で別のサーフと会った。同じようにオレンジのかごを背負っている。尾根の向こうを担当しているサーフgSL5912だ。 「潰瘍病が出ちゃったよ」 「こっちもだ」gSL5912は肩をすくめ、背中のかごを揺さぶった。 「フェアリーさんが、前みたいに来てくれないとねえ」 「本当だねえ」  昔は年に一度か二度、フェアリーシリーズの誰かがやってきて農業指導をしてくれたものだった。でも、もう何年も姿を見ていない。  MS-fサーフはPECSの農業用バイオロイドだ。三安産業のフェアリーシリーズに対抗して開発されたそうだが、性能はフェアリーにずっと劣る。そのことは誰よりもサーフたち自身がよく知っている。サーフのとりえは安くて頑丈なことと、体が小さいので食費が少なくてすむことだ。  この国にフェアリーシリーズはほとんどおらず、休みなしに働かされているのだと、いつか聞いた。最後に見た時はずいぶんやつれていたから、死んでしまったのかもしれないとサーフは思っている。 「少しくらい皮に傷があったって、味は変わらないんだから同じ等級にしてくれてもいいのに」 「本当だよねえ」  これはただの、いつもの愚痴だ。本当にそうしてほしいと考えているわけではない。自分たちが何を言ったところで、レモネードベータ様が決めた税の決まりが動くわけはないし、そもそも本当に「少しくらい皮に傷があったって味は変わらない」のかどうか、gSL4630もgSL5912も知らない。二人ともオレンジを食べたことがないからだ。  ここで栽培している果物はすべて上納用だ。農奴の口に入るものではない。gSL4630は製造されて十年以上になるが、ふかしたキャッサバとプラタノ(調理用バナナ)以外のものを口にしたことはほとんどない。  食べ物のことを考えていたら腹が減ってきた。昼食までにはまだ時間があるが、誰かおやつでも持ってきていないかな。そんなことと考えながら事務所兼倉庫まで戻ってくると、何やら人だかりができていた。 「ああ、あなた達もこっちへ。さっき、カラカスから緊急通信が来ました」  農場長のミス・セーフティが、二人を見つけて呼び止めた。でもオレンジを早く倉庫に入れないといけない。収穫したあと陽に当てておくとそれだけ早く傷んでしまう。 「それはいいから、早く」  サーフは仕方なくかごを背負ったまま人だかりの端へ並んだ。都会の方ではシティガードが嫌われているそうだが、ここではそんなことはない。ミス・セーフティは農園のサーフ全員の姉のような存在だ。何しろMS-fとはMiss Safetyの農場(farm)モデルという意味なのだ。 「もう一度繰り返しますが、レモネードベータ様が……人類抵抗軍オルカに降伏し、南米はオルカの傘下に入ることになりました」 「?」  セーフティはひどくおごそかな口調でそう告げたが、サーフは首をかしげた。それがどういう意味を持つのかよくわからない。 「オルカって、ラジオをよくやってるあれでしょ」 「そうなの?」  サーフgSL4630はラジオを聞かない。でもそういえば、オルカという名前は他のサーフたちがよく口にしている気がする。 「ついては……ええ、これまでの租税は大幅に縮小する予定。当面の措置として、すべての農場・工場・採掘プラントに対して今月分の徴税を停止。納品用に保管してある物資は、各拠点の自由に消費・流通してよいとのことです」 「……?」  まだよくわからない。徴税を停止とはどういうことだ? 税とは、世界そのものと同じように必ずあるものでは? まわりのサーフもみな、きょとんとした顔をしている。 「つまり……ええ、つまり…………」  セーフティはペンを髪に突っ込んでくるくる回した。どう言ったらわかってもらえるか悩んでいる時の仕草だ。サーフは飲み込みが悪いので、セーフティはよくこれをやる。 「……例えば、それを食べてしまってもいいということです!」  しまいにセーフティはgSL4630が背負っているかごを指して、高らかにそう言った。 「そうです……そうです! 私たちが作ったものを、私たちが食べていいんです。倉庫を開けて下さい! 今夜はごちそうにしましょう!」  喋っているうちだんだん興奮してきたのか、セーフティは紙とペンを振り回しながら牧場の方へ走っていった。残されたサーフたちは呆然とお互いの顔を見て、それからgSL4630の背負ったかごへ目をやった。  かごを地面におろし、茶色い斑点の散らばったオレンジを一個、おそるおそる手にとる。本当にいいのだろうか。これはとんでもない違反だったはずだ。  これがもしも許されるというなら、何か大きなことが変わるのではないか?  隣のgSL5912も同じようにオレンジを持ったまま、同じようなことを考えているのがわかった。目を合わせてお互いにちょっとうなずいてから、二人同時に、思いきりかぶりついてみた。  にがくて香りの強い皮の下から、信じられないくらい甘酸っぱい汁がほとばしり出てきて口の中を満たした。 「あぁ……あ……」  思わず声が出た。なんの声だろう。嬉しいのだろうか。驚いているのだろうか。悔しいのだろうか。自分で自分がわからないまま、サーフは空いている方の手でオレンジをとり、まわりにいるサーフ達に次々渡していった。たちまちそこらじゅうで、同じような声が上がった。  かごはまたたく間に空になった。こんなことなら傷のないきれいなオレンジを取ればよかったとgSL4630は一瞬だけ思って、それからもう一口オレンジをかじったら、そんなことはすぐに忘れてしまった。 「これと……これと、これをソニアさんへ。こちらは龍さんへ。残りは私が処理します。そこのあなた、こっちの書類を全部写真にとってタブレットに取り込んでおいてもらえます?」 「は、はい!」 「通信機が全然足りないです! 修理できる人どこかにいませんか?」 「とにかく大至急で刑務所だけは解放するんだ。生存者を全員病院へ移せ、いやもう道具を持ち込んで刑務所を病院にしちまえ」 「エリア6の名簿来ましたけど」 「やっとですか! しかも紙!? ああもう、そこに貼っといて下さい」 「中将閣下! ウンディーネ542大尉以下、巡洋艦〈ヴェスヴィオ〉海兵隊22名着任いたしました」 「よく来た、まずはこの資料を全部読んで頭に叩き込め。君達は今からベネズエラ臨時内閣だ」 「な、内閣!?」 「カメラここでいいんだっけ?」 「旦那様はそんなことしてないで早くスタジオに入ってください!」  レモネードベータ・ウノとの戦い、そしてオメガとの別れからわずか数時間後。さっきまで戦場だったカラカス大統領宮は今、別の意味で戦場になっていた。  去年の欧州解放作戦では、最初からヨーロッパを俺たちの土地にするつもりで入念な準備をしたうえで戦いに臨んだ。それでもなお、実際にデルタを倒したあとは膨大な事務作業が発生し、秘書室を中心に組まれた内政担当チームが何週間も激務に追われていたのを覚えている。  それが今回はなんの準備もない。俺たちがここへ来たのはレモネードオメガとの停戦交渉のためで、南米を手に入れるつもりなんかこれっぽっちもなかった。和平交渉の障害になってはいけないと最低限度の護衛だけで、艦隊さえ連れずに巡洋艦一隻でやってきたのだ。なのにカラカスに入ってわずか一日で、南米大陸全土がオルカの領地になってしまった。 「取り急ぎ、カナリア諸島沖に待機させていた第四艦隊を呼び寄せた。一週間ほどで到着するだろうが、それまではここにいる人員でやっていくしかない」 「海軍チームの皆さんはとにかく国内外の状況把握に努めてください。シエテの手術がすんで市内のことを引き継ぎ次第、私もそっちへ合流します」  本来南米を管理する立場にあるベータは死亡。重要な情報が山ほど入っていたであろうケストスヒマスはオメガが持ち去った。生き残ったクローンのうちウノは稼働限界で無理をさせられず、クアトロは逃亡中。シエテは生まれたばかりで知識も経験もほとんどない。  にもかかわらず、状況は一刻を争う。旧時代からずっと回り続けてきた巨大な搾取の歯車が、今この時もカラカス、ベネズエラ、南米全土のバイオロイドを苦しめ続けている。一日も早くそれを止めなくてはならない。たとえ人手が圧倒的に足りなくても、南米のことなんて右も左もわからないとしてもだ。 「主、国内の生産拠点のリストがようやくまとまった。右から二列目がおよその生産能力で……その右が上納ノルマだ」  オメガが去り際に俺をカラカス産業の会長に据えていってくれたのだけは幸いだった。おかげで国内ではほとんど無制限の権限をふるえる。だがその権限で引き出した情報も、決して嬉しいものではない。 「これじゃあどこの農場も工場も……作ったものをほとんど全部、カラカスに取り上げられてるんじゃないか」 「その通りだ。ちょうどマラカイボから納税に来た者がいたので引きとめて話を聞いているが……地方では、餓死や過労死さえ起きているらしい」  人間よりずっとタフなバイオロイドが過労死するというのは並の惨状ではない。国土の維持や発展を目的としていない分、ある意味ではデルタのヨーロッパよりひどい。 「とにかくまず、徴税をいったん停止しよう。市内だけでとうぶん暮らせる物資はあるんだろ?」 「ああ。ウノが言うには、クローン生産さえ止めれば今ある物資だけで半年ほどは都市機能を維持できるそうだ。いま無事な倉庫を確認に行っている」  つくづく、あまりにも馬鹿げた浪費だ。俺はもう吐き飽きたため息をぐっとこらえて、二冊ある台本のうち片方を手にとった。 「じゃあ予定通りパターンB……『緊急呼びかけ』でいく。そっちは任せたよ」 「任された」龍は疲れた顔に、それでも力強い笑みを浮かべて、小さく敬礼をしてからスタジオを出ていった。俺は調整室にいるリリスに目で合図する。  龍もアルファも全力で頑張ってくれている。シェパードとソニアにはクアトロを追う任務があり、サディアスは入院中。  だからこれは俺にしかできないし、俺にできることはこれしかない。一つ咳払いをしてから、俺はカフを上げた。 「カラカスの、そして全国の皆さんこんにちは! オルカの司令官、兼、カラカス産業会長です。オラオラ・カラカススペシャル、第二回をお届けします! まず、皆さんに緊急のお願いがあります……」  ダッチガールmp8582がオイル漏れを起こしたポンプと格闘し始めて二時間ほど過ぎたころ、上から声が降ってきた。 「おおい、みんな集まれってさ」  mp8582は無視して作業を続けた。今はこのポンプの方が大事だ。作業が止まっているあいだの負担は自分に跳ね返ってくるのだし、みんなを集めてする話なんでどうせろくなものじゃないに決まっている。 「トラックがもう帰ってきたって」  mp8582は顔を上げた。上納物資を積んだトラックが出発したのは昨日のことだ。カラカスで検品を受け、収税担当官と交渉して配給を受け取るのに二日はかかるから、早くても明後日までは戻らないはず。よほど検品が早く済んだか、でなかったら逆に、何かいちゃもんを付けて突き返されたのだろうか?  mp8582は工具をしまい、泥でぬめる梯子を上がった。プラットフォームの上へ出ると、湖をわたってきた風が心地いい。マラカイボ湖第七油井は今日も曇り、空も水もどんよりと灰色をして静かだ。  湖岸の方を見ると、本当にトラックがいた。薄汚れた大きな車体のまわりにはすでに何人かの作業員が群がっており、施設長のフォーチュンの姿も見える。mp8582も細いタラップを踏んで岸へ渡った。 「だから、今月の上納はしなくていいって言われたんですよう。ラジオでも言ってたじゃないですか」 「そんなこと言って配給を減らされたり、来月になったら未納をとがめられたりするんじゃないの?」  運転席からケルベロスが身を乗り出して、フォーチュンと何やら言い合いをしている。と、運転席と逆側のドアが開いた。 「ケルベロスの言ってることは本当だよ。私が説明するから」  飛び降りてきた人物を見て、mp8582は目を丸くした。それは自分と同じ、ダッチガールだったのだ。 「どうも。オルカのダッチガール1977です。フォーチュンの心配するようなことはないよ。今月の納税は繰り延べとかじゃなく完全になし。あと、配給も持ってきたよね」 「そうでした!」  ケルベロスがあわててハンドル横のレバーを引くと、トラックの扉が開く。荷台には確かに昨日積み込んだ上納物資がそっくり残っており、それに加えて食料がぎっしり詰め込まれていた。 「本当だ……」 「じゃあ、ラジオで言ってたことも全部?」  おずおずとした歓声が上がる。フォーチュンもやっと安心した笑顔になる。しかしmp8582の目はダッチガール1977に釘付けになっていた。  つやつやと血色のいい肌、しっかり肉のついた厚みのある二の腕。目元に隈は少しもなく、きびきびとした所作でフォーチュンと話し合っている。あれは本当に、自分と同じダッチガールなのか?  彼女は身振り手振りをまじえて説明した。これまでの重税はレモネードベータの七人のクローンを維持するのに膨大な資源が必要だったからで、それは元をたどれば旧時代のある人間の怨念に端を発すること。しかし、オルカの司令官がクローン達をやっつけてその仕組み自体をやめさせたので、これからはもう重税が課されることはないこと。ただ司令官はもともと別の目的でカラカスにきたため、この地を統治するための準備が十分でなく、しばらくいろいろ混乱するかもしれないが、必ず前より良くするつもりだからどうか待っていてほしいこと。 「……信じていいのかな」  隣のダッチガールがささやいてくる。彼女もやはり、1977から目を離せなくなっているのがわかった。 「さあね……でも」  ちょっとやそっと甘やかされたり、安楽に暮らしたくらいではダッチガールは絶対あんな風にはならない。同じダッチガールとして、それだけはわかる。  一体彼女は……オルカのダッチガールは、どんな暮らしをしているのだろう?  上納がなかったにもかかわらず、配給された食料はいつもよりずっと多かった。近隣のプラットフォームにも配りに行くというので、mp8582は運転手を買って出た。1977が同行したいと言ったからだ。  どこのプラットフォームでも、1977は注目の的だった。特にダッチガール達はみな彼女に目を奪われていた。他のバイオロイドからも質問が殺到したが、1977は最初の時と同じ説明をし、必要な物資をトラックから下ろすと、そそくさと車内に戻ってしまった。 「……ふう」  ようやく配り終えた時にはもう夕方になっていた。窓を開けると生ぬるい風が流れ込んでくる。大きなハンドルにしがみつくようにして運転をしながら、mp8582はポケットから煙草を取り出した。 「吸う?」 「ありがと」  1977にも差し出すと一本取って、ダッシュボードのシガーライターで火をつけてから、mp8582にも火を移してくれる。それから首を曲げ、窓の外へ向けて長い煙を吹いた。 「久しぶりに吸うと、おいしい」 「オルカは物が豊富なんじゃなかったの?」 「え? ああ」1977は不思議そうな顔をしてから破顔した。「煙草はどこでも買えるよ。私が禁煙してるだけ」  禁煙しているダッチガールなんて初めて見た。唇の先でゆれる小さな火を見つめる。 「そういうの、宣伝しなくていいの」 「宣伝?」 「煙草がどこでも買えるとか。ラジオだとよく言ってるじゃない、オルカはいいところだ、みんな幸せに暮らしてるって」 「ああ。まあ、そうだけど……そういうのは私の仕事じゃないし」1977は二本の指で口元を覆って、もう一度深く吸った。 「それに、オルカのダッチガールがどんな風か見せるだけで十分だって言われた」 「ふうん」  それは確かにその通りで、ダッチガールなら誰でも1977が……彼女が暮らすオルカが気にならないはずがない。見事に思う壺にはまったわけだ。なんだか悔しい気がして、気になっていたもう一つのことをmp8582は訊ねてみた。 「オルカって強い軍隊なんでしょ? どうして1977が……ダッチガールがカラカスまで連れてこられたの?」 「穴掘りの仕事があったから」 「穴掘り?」 「うん。海側の山から、カラカスまで抜けるトンネルを掘ったんだ。トミーウォーカーと二人で」 「なんで?」 「いざって時、そこからカラカスに忍び込んで司令官を助けるため」  なんだ。じゃあやっぱり、ここと大して変わらない。偉い人が命令して、言われたとおりに穴を掘る。オルカでもダッチガールはそれが仕事なのだ。そんな風に考えて半分失望し、半分安心したmp8582は、だから次の言葉にひどく面食らった。 「……楽しかったな」  1977は目を細めて、懐かしむように微笑んだのだ。 「楽しかった? なにが?」 「いろいろ」1977は最後の数ミリをうまそうに吸い込んで煙草をもみ消した。「どこからどう掘るのが一番いいか、地図を見ながら考えたり。鉄虫が来て穴の中に隠れたり。レモネードガンマといっしょに出かけたり」 「レモネードガンマ!?」 「それで、ようやく開通したと思ったら水が出てさ」1977はくすくす笑った。「てっきり水脈にぶつかったのかと思ったら、司令官がダムを爆破してカラカスを水没させたんだって。無茶苦茶するよ、まったく」 「大変じゃなかったの?」 「大変だったよ。でも楽しかった」  理解できない。大変だということは苦しいということで、苦しいとは不幸ということだ。不幸がどうして楽しいのだろう。mp8582の仕事と、1977の仕事は、何が違うのだろう。 「私も……」つい口をついて、言葉が出た。「オルカに入れば、穴掘りが楽しくなる?」 「うーん」即答するかと思ったら、意外なことに1977はすこし考え込んだ。「たぶん。でも、絶対じゃない。みんながみんな、同じように感じるわけじゃないから。穴掘りはもうしたくないっていうダッチガールもいる」 「そういう子はどうしてるの」 「農場で働いたり、お店の手伝いをしたり、何かやりたいことを見つけてるよ」  やりたいことを見つける。mp8582の人生には、そんな選択肢自体存在しなかった。  トラックが大きな石を乗り越えた。荷物を全部吐き出して軽くなった荷台がガッタンと鳴り、ダッチガールの小さな体が二つそろって跳ねた。 「ケーキ屋に勤めた同期の子がいてね」シートに落ちてきた1977が言った。 「フルーツパフェがすごくおいしいんだ」  聞いたことのない言葉だった。でもなんだか、とても素敵なもののような気がした。  ノックの音がして、かすんだ目を開けた。  自分と同じ顔、同じ黒い喪服の女が、静かに部屋に入ってくるのが見えた。 「具合はどうですか」 「シエテ」  彼女の名を呼んでから、そうではないことに気づいた。 「……いいえ、違うわね。ベータを継承したのね」  ヴェールを上げた眼差しは、もう臆病で幼いシエテのものではない。旧時代から連綿と積み重ねられてきた知識と経験、そして悲しみを瞳の奥に宿した、かつてシエテだったベータは一瞬だけ顔をゆがませ、それから小さくうなずいた。 「ベータの役目も、罪も、すべて私が継ぎます。必ずレモネードオメガを打ち倒し、先代の私の復讐をとげてみせます。だからウノ、あなたは何も気にせず、ゆっくり休んで」 「……ありがとう」  ベータの継承、すなわち先代ベータの記憶をバックアップしたモジュールの移植。それは本来自分の……先代のシエテの役目のはずだった。先代のウノが死に、急遽ウノの役目を肩代わりする必要が生じなければ。 「カラカスは……どうなっていますか。さぞ皆、私達を恨んでいるでしょうね」 「司令官様とオルカの皆さんが、頑張って復旧させて下さっています。きっといい方向に変わりますから、大丈夫」 「クアトロは?」 「……まだ逃亡中です」ベータは首を振った。「シェパード姉さんたちが追っています。市境は封鎖しているので、時間の問題だと思いますが……」  姉妹を躊躇なく殺した彼女が、この上どんな凶行に及ぶかはわからない。彼女はどうやら、ウノも把握していない勢力とつながっていたようだ。 「私の部屋のボイスレコーダーに、クアトロとの通話データが残っています。参考になる情報があるかもしれません。パスコードは先代のトレスが生まれた日付」 「ありがとう。聞いておきますね」 「それからエリア1の備蓄資源についてですが、書類上の数字のほかに……」 「ウノ」  ベータはそっと手を伸ばして、ウノの言葉を押しとどめた。「大丈夫。必要な知識は私の中にあります。あなたはただ、体と心を休めることに専念して」 「……」  ウノはうながされるままに、枕に頭をあずけた。ベータに言われるまでもなく、頭の中に霧がかかったような気分がずっと続いている。その霧の向こうに手を伸ばそうとすると、耐えがたい頭痛に襲われる。 「あなたには本当に……辛い役目をさせてしまいました。生まれたばかりだというのに……」  つぶやいた言葉に、ベータは黙って首を振り、やさしい笑みを浮かべた。 「また来ます。ウノ、どうかゆっくり休んで」  ドアのすぐ外には医務班のダフネが待機していて、ベータが出てくるのと入れ替わりに小さく目礼して病室へ入っていった。廊下を少し進んで、あたりに誰もいないことを確かめると、ベータはヴェールの下の顔をおさえ、静かに涙を流した。  ウノは覚えていない。ベータが昨日も部屋を訪れたことを。シエテがベータを継承したのは昨日のことで、昨日も二人でほとんど同じ会話を交わしたのだということを。  彼女の命はもう、それほど残っていない。 「ベータ」  どれほどそうしていたのだろう。気がつくと、すぐ隣にアルファが立っていた。いそいで涙を拭い、ヴェールを跳ね上げる。 「わかっています。アルファ」  カラカスが、ベネズエラが、南米が今どうなっているのか。必要な知識はすべて頭の中に入っている。やるべきことは山のようにある。 「まずはスラム……エリア7へ行きましょう。シティガードだけでは人手が足りません。あそこでスタッフを集めます」  アルファは彼女と並んで歩き出し、一呼吸置いてからベータの方を見た。 「訊きたかったのですが、レモネードベータ・シエテは次代のベータになる特別なクローンだったのですよね。なぜ、担当地区がスラムなのですか?」 「スラムは……エリア7は、ベータの最後の祈りだったのです」 「祈り……?」  エリア7はかつて3等市民……反体制的な思想の持ち主や、そう密告を受けた者が追いやられた区域だ。今もそれは変わらず、カラカスの体制に批判的・非協力的なバイオロイドがここに強制移住させられる。電気や水道などの公共インフラは一切なく、住民は低賃金の下級労働に従事するか、物乞いや盗みで生きるしかない。  代々のベータは少しでも不審な態度を見せた者を容赦なくエリア7に送った。そしてシエテ……次代のベータはエリア7を、他のクローンに不審がられない範囲でではあるが、可能なかぎり緩やかに管理してきた。 「4等市民にされてしまえば、刑務所に送られて死ぬ未来しか待っていません。そうした人達を少しでも生き延びさせること。そしてできれば、いつか今のカラカスを壊してくれるような新しい力がそこから生まれてくること……それが、ベータがエリア7にかけた最後の望みでした」  ベータになる前の、まだ生まれて間もないシエテはそうしたことを何も知らなかった。順当にいけばいずれベータから教わることになっていたのだろう。 「では、エリア7には反政府勢力のようなものが組織されている?」  今やすべてを知ったベータは、悲しく微笑んで首を振った。「残念ながら、カラカスのシステムは私たちが思うよりずっと強固でした。組織と呼べるようなものは何も……。でも、カラカスを変えたいと思っている、その気力が残っている人たちは間違いなくあそこにいます」 「協力を得られますか? 旦那様にお越しいただく手もありますが……」  アルファが口ごもる。その先は言わずとも理解できた。まだ安全確保もできていないスラム街に司令官を連れ出すことなど、あの恐ろしいブラックリリスが許すはずがない。 「考えはあります。一緒に地下倉庫まで来てください」ベータは決然と足を速めてから、ふっと笑った。 「ところで、アルファ。楽器は弾けますか?」  雨季ももう終わるというのに、やけに蒸し暑い夕方だった。マドラークc244は右往左往するスラムのバイオロイド達を冷めた目で眺めていた。 「刑務所が開放されたってよ」 「炊き出しをやってるって本当かな」 「オルカの人間様って、あのオラオラジオの人間様でしょ。本人が来てるの!?」 (……ケッ)  心の中だけで唾を吐き、c244はゴミ山の上で足を伸ばした。ツナ缶の空き缶がかかとにぶつかり、汁を跳ねとばしながら転がり落ちていく。ああ、昨日のうちに汁まで飲んでおけばよかった。配給物資倉庫からくすねてきた最後の一缶だったのに。 「ねえ、マドラークはどう思う?」 「なにが」  ボビンガールの問いに、c244はわざとぶっきらぼうに答えた。 「オルカよ。これから、カラカスは暮らしよくなるかな」 「そんなわけあるか」  c244はイヤホンをいっそう強く耳へ押し込んだ。マドラークが、汚泥の中をもがき進むような人生で学んだことは三つある。一つ目は、人間はクソだということ。二つ目は、それ以外のすべても大体クソだということ。  マドラーク型はクローバー産業が旧時代の最後期に開発した汎用労働モデルだ。この場合の汎用とは「雑役」という言葉とほぼ同義である。すでに飽和しかかっていた工業用バイオロイド市場において、マドラークが売りにしたのは安さと汎用性だった。 「わざわざバイオロイドにやらせるのはもったいない。そんな業務にこそマドラーク」  自分のキャッチコピーを今でも覚えている。マドラーク(泥ひばり)とはよく言ったものだ。  当時の自分はあらゆることをやらされた。力仕事や掃除、洗濯などは上等な部類で、危険な解体作業から有害な汚染水の汲み出し、社員の靴磨きまでやった。アーティストバイオロイドがむしゃくしゃした時に殴る専用のマドラークなどというのまでいた。紛失したたった一個のコンピュータチップを探すため、たった一人で工場の床を一晩中なめるように探し続けたのはよく覚えている。そのチップ一つが、マドラークより高価だったことも。  人類がいなくなった時は、これで何もかも良くなるかとちょっとだけ期待した。しかし何も変わらないどころか、かえって悪くなった。レモネードベータはかつての人類とまったく同様にバイオロイドを苦しめ、搾取し続けた。 「何も変わらねえよ。でなきゃ、今より悪くなるかだ」 「そうかなあ」 「そうさ」  ボビンガール……マドラークより二世代ほど前の、旧式軽工業用バイオロイドが首をかしげるのを相手にせず、c244はイヤホンから流れるマウ&リッキーの「ハポネサ」に意識を浸した。三つ目は、クソみたいな世界の中で、音楽だけはかろうじてマシなものだということだ。 「あ、あれ見て!」 「なんだよ、今度は!」マドラークは苛立ちを露わにして目を上げた。 「大統領宮から何か来るよ」 「ああん?」  ゴミ山からはカラカス市街が一望の下に見下ろせる。エリア7は旧時代、20世紀からカラカスに存在していたスラム街をそのまま流用した区域だ。「ランチョ(小屋)」と呼ばれたそれは市の外縁、カラカス盆地をかこむ山々の裾野にへばりつくように広がっている。そのため、スラムからは市街地で起こっていることが手に取るようにわかるのだ。  ひときわ白く高くそびえる大統領宮から、確かに一台のトレーラーが出てきて、無事な道路を選びながらこちらへ向けてのろのろ走ってくるのが見えた。 「行ってみようよ」 「ええ……」  ボビンガールは従順で頭はあまり良くないが、明るくて好奇心旺盛な……下層労働者が「こんな子供がほしい」と思うような性格をコンセプトにデザインされたのだと、いつか聞いた。その設計コンセプトには虫唾が走るが、もちろんボビン自身に罪はない。それに正直、あれだけの大騒ぎのあとで大統領宮から何をしに来るのか、興味がないといえば嘘になる。c244はイヤホンをポケットにしまい、ゴミを蹴って立ち上がった。  エリア7の入り口にある広場に停まったトレーラーから降りてきたのは、案の定いつもの辛気くさい喪服に身を固めたレモネードベータだった。続いてもう一人、どぎついピンク色のスーツを来た女が降りてくる。話に聞いた、レモネードアルファだろうか。 「皆さん」  広場の周囲をかこむように蝟集した住民たちの視線を真っ向から受け止めて、レモネードベータは口を開いた。 「ここにいる皆さんは、この街の体制に疑問を持ち、それを変えたいと思ってきたはずです。いま、その機会がやってきました。力を貸してほしいのです」  答える声はない。敵意と猜疑に満ちた視線だけが、レモネードベータに注がれる。 「私の言葉は信用できないかもしれません。それだけのことを私はしてきました。しかし、私を信じられなくても、オルカの司令官のことはどうか信じてください。私を打ち負かし……そして、救ってくださった方のことだけは」  やはり答える声はない。しかし、隣にいるボビンガールが少しだけ困ったような顔をしたのを、マドラークは見逃さなかった。他にもいくつか、自信なさげに揺れた視線がある。低いつぶやきがさざ波のように、広場の周辺をめぐって流れる。レモネードベータが、さっと手を上げた。 「カラカスが変わる時が来たのです」  それを合図に、トレーラーのキャビンがゆっくり展開をはじめた。中から現れたものを見て、広場の周囲から驚きの声が上がった。  運んできたのは食料か、せいぜい衣類だろうとマドラークは思っていた。他の皆も同じだったろう。貧民を手なずけるための施しとしては鉄板だ。だが、現れたのはそのどちらでもなかった。  ラックにぎっしりと並べられていたのは、金色のトランペット。銀色のドラムセット。黒檀色のクラリネット。そのほか様々な色に輝く、何種類もの楽器だったのだ。 「何だ、ありゃ……」  誰もがあっけにとられている間に、レモネードベータはいつも着けているヴェールを顔からむしりとって投げ捨てた。同時に、黒い髪がするすると生き物のように伸びて、ラックに並んだ一本のドラムスティックを取る。そしてキャビンの中央に据え付けられたドラムセットの、クラッシュシンバルを思いきり叩きつけた。  空気を真っ二つに引きちぎるような甲高い響きが、ざわめきを一瞬で静めた。  レモネードベータ自身もラックから一本のサックスを手にする。髪の毛がもう一束伸びて一本のエレキベースを絡めとり、人の手のように構えたと思うと、そのまま力強いリフを奏で始めた。 「嘘だろ……!?」  マドラークの唇から我知らず声がもれた。単純だが緊張感に満ちた、そのイントロは知っている。  ベータが大きく息を吸い、サックスとドラムが同時に入ってくる。そのメロディとビートもよく知っている。 「『テレビで暴力とセックスが禁止された日』……」 「何、それ?」 「そういう曲があんだよ」  マドラークの一番好きな旧世紀ベネズエラのロックバンド、デソルデン・パブリコ。その中でも、最もアナーキーな曲のひとつだ。  当惑のざわめきが広がっていく。カラカスで禁じられているものは数多くあるが、そのひとつが音楽だった。ベータの黒いヴェールが象徴するように、ここは悲しみの都、服喪の都である。楽しげな音楽などは厳禁であり、戸外で歌や楽器を奏でようものならそれだけで監獄へ送られた。  百年間禁じられていた音楽が、今カラカスに流れている。  何人かが小声で歌詞を口ずさんでいることにマドラークは気づいた。隣を見ればボビンガールが小刻みに体を動かしている。笑っていいのかどうかわからないけれど、でも笑顔になってしまう。そんな顔をしている。自分の膝もリズムを刻んでいることに気づき、マドラークは慌てて手で押さえ込んだ。  キーボードが加わった。レモネードアルファがキャビンから取り出して弾き始めたのだ。  一人のバイオロイドが、広場の中へフラフラと踏み出した。トレーラーのほうへためらいがちに近づいていくと、二人のレモネードが微笑んで場所をあけた。  ギターが二本に増えた。  もう一人、誰かが出てきた。  ボーカルが加わった。  テレビで暴力とセックスが禁止されたその日  テレビで暴力とセックスが禁止されたその日  視聴者たちは文句を言った  一番面白いものがなくなったと  三人、五人、十人。楽器を手にとり、歌い出す者が増えるにつれ曲はふくらみ、大きさと厚みを増していく。  テレビで暴力とセックスが禁止されたその日  テレビで暴力とセックスが禁止されたその日  人々はまた見たがった  アクション、銃撃、たまには強姦  ボビンガールがいない。いつの間にかキーボードの横で、下手くそなタンバリンを叩いている。 「くそ……くそっ」  もはやスラム全体に響き渡るような大合奏の中、マドラークは歯を食いしばっていた。こんなはずはない。世界は全部クソのはずだ。レモネードベータもクソ女のはずだ。でも音楽だけは別で、みんなあんなに楽しそうに……マドラークは自分が何に抵抗して、何を守ろうとしているのか、よくわからなくなってきた。  ただ、この街がこれから大きく変わる、その最初の曲がり角が今なのかもしれないということだけはわかった。そんな風に感じてしまった時点で、自分の負けだということも。 「くそ……いい音出しやがって!」  マドラークc244は抵抗を諦めて立ち上がった。広場へ、思い思いに演奏を楽しむスラムの住人たちをかき分けてトレーラーへ走る。そしてマドラークはたった一本だけ残っていた、一度でいいから手にしてみたいと思っていた金色のトランペットをつかみ取った。  大勢の良識ある人々が言った  「そんなに悪いものでもなかったのに」  そして今度はラジオから  悲鳴と銃声が聞こえはじめたのさ  作戦はどうやらうまくいったようだ。レモネードベータはほっと息をついて、あとはもう演奏に集中することにした。  「テレビで暴力とセックスが禁止された日」は短い曲で、すぐ終わる。次はグッとポピュラーに「コーヒーを挽きながら」、その次は明るく「ラ・ニーニャ・ボニタ」と行こう。ドラムの転調のタイミングを測っていると、アルファが鮮やかなキーボードソロで間をつないでくれた。音楽が趣味だとは聞いたことがないが、さすがは最初のレモネード。何をやらせても器用にこなす。  アルファに限らず、ほかのどのレモネードにも音楽をたしなむ趣味はない。アンナ・ボルビエフ博士も別段音楽好きではなかったはずだ。音楽を聴くのも演奏するのも、これほど好きなのはレモネードの中でもベータだけだ。  だからこれはもしかすると、自分の遺伝子設計図の元になったもう一人の人間……シモン・ブランコの血に由来するのかもしれないと、ベータは考えている。 (聞こえていますか、会長。……………お父様)  オーバードライブを効かせたベースで、もうこの世にはいない男にベータは呼びかける。 (カラカスはあなたの遺した呪いからようやく解放されました。長い長いルート・ラグリマ(涙の服喪)の季節は終わりました。そこで見ていてください)  天国というものがもし存在するとして、シモン・ブランコは決してそこにはいないだろう。それでもベータは空を見上げ、雲の向こうに父の顔を探して、力のかぎりサックスを吹き上げた。 (この街はようやく、あなたがかつて夢見た都になれるかもしれません。苦しむ者を決して見捨てることのない都に)  サーフgSL4630はどうしたらいいかわからず、街の入り口にある広場で立ち尽くしていた。  広い。人が多い。  そこかしこに建築中の建物があり、大勢のバイオロイドが忙しそうに、時には楽しそうに行き来している。どこかでお祭りでもやっているのか、遠くから陽気な音楽が聞こえてくる。  去年、労働奉仕に来た時はこんな様子ではなかった。広場はもっと建物で狭苦しく、行き交う人はみんな暗い顔つきで、田舎から来た自分に険のある侮蔑の目つきを投げてきたものだ。  ふと横を見ると、同じようにぽつんと立ち尽くしているダッチガールがいた。なんとなく親近感を覚えて近寄ってみたが、特に話すこともない。ただおどおどと周囲を見渡す田舎者が二人に増えただけだ。 「こんにちは、カラカスは初めてですか?」  不意に声をかけられてサーフは飛び上がった。振り返ると一人のボビンガールがニコニコ笑っている。 「お上りさんだろ。見りゃわかる」もう一人、ガラの悪そうな肩に手をかけてきた。 「見物かい、それとも職探し? 働き口はいくらでもあるぜ、何しろ建物がみんな流されちまったばかりだからな」 「お腹は空いていませんか? エリア3に行けば無料の宿泊所と食堂がありますよ」  そんなものがあるのかと感心しているうちに背中を押され、なんとなく四人は固まって歩き出す。 「ここはちょっと前までクソみたいな街だったけどさ。今はまあ、そう悪くもないんだ」  オレンジのような太陽を浮かべた空から、涼しい風が吹き下ろしてきた。 End