コージン=ミレーンの日記 y月a日 ドラグランドを探す途上において、道中付近にあるカンラークに立ち寄る。俺自身は来たくはなかったがナチアタがどうしてもとねだるので行くことにした。 ちょっとした墓参り代わりついでに、せっかくだから例の忌器に関するヒントの探索も兼ねようかと思う…。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ 「誰もいない場所なのに聖騎士の制服なんですね?」 俺の出で立ちを見てライトが疑問を投げかける。 「魔族みたいな姿になったのを仲間たちの魂に見せたくはないからな…」 「それにカンラークの跡地には魔王軍だけでなく、聖遺物や忌器の残滓を狙おうと各国から調査隊も送り込まれているらしい。仮にそいつらと遭遇した時にどちら側の存在なのか旗幟を鮮明にしておかないとトラブルの元だ。特に俺たちは姿が人間と異なるしな…」 カンラーク跡地に入ると俺たちは分かれて行動することにした。 特にやることがないライトには何か珍しい物を見つけたら持ってくるように頼んだ。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ 「忌器と言われてもどんなのかよくわかんないなぁ…」 瓦礫の中からライトは何かを拾う。 「何て書いてあるんだこれ? 天賀? ぷにぷにして穴が開いている…。よくわかんないけど持って行くか…」 ゴミ漁りに夢中になっていた時、背後から大鎌のような刃物を突き付けられたことに気づく。音も気配も立てずこんなに近くまで…一体何者?! ライトは両手を上げて抵抗の意志がないことをアピールしながら振り向いた。 そこにいたのは大仰な得物とは不似合いなメイドの衣装を身に着けていた黒髪の少女であった。 「お前一体ここで何をしている? とりあえずそのフードを外せ、魔王軍だったら殺すけど」 「僕はここに立ち寄っただけの旅の者で、今は何か珍しい物がないか漁っていただけです…」 ライトが外套のフードを外し、少女を見るとそこには見知った顔があった。 「お前ひょっとしてライトか?」 先に気づいたのは少女の方であった。 「もしかしてハナ…いや♰天逆の魔戦士アズライール♰?」 ライトが少女が自身で名づけた冒険者ネームを言うと、彼女は意外な反応を見せた。 「がああああああ!!!!!」 少女は気恥ずかしさに耐えかねたのか、壁に向かってヘドバンするかのように頭を打ち付ける。 突然の奇行に驚いたライトは彼女を止めようと声をかける。 「ちょっ?! 一体どうしたの?!  ♰天逆の魔戦士アズライール♰!」 ヘドバンはさらに激しくなり壁をぶち抜いたところで止まると、彼女は振り向きライトに念を押すようにこう言った。 「もういい…。私の事はいつも通りハナコ姉ちゃんでいい…。もうあの名前は言うな。次言ったら殺すからな!」 抜き身の刃のような気迫にライトは「あっ、はい」としか答えようがなかった。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ そこからはメイド姿の少女ことハナコの質問に答えるような形で、今までの経緯や現状についてライトが語りだす…。 「そうか…。とりあえずお前が無事で何とかやっているのは理解した。モトマトーには帰らないのか? おじさんもおばさんも凄く心配しているぞ」 「帰れるわけないよ…、こんなバケモノみたいな姿になったんだから…」 ライトは外套をまくり上げ、完全に竜化した右腕をハナコに見せつける。 知人の異形と化した姿にハナコは痛ましい物を見るような目で顔をしかめる。 「ひょっとしてこの前の魔獣テロの時に鎮圧に協力した怪物のような魔族ってのはお前だったのか?」 ハナコが少し前に話題になった事件について問いかけると、ライトは頷きながら答えた。 「怪物のような魔族か…。どこへ行っても見られる目はいつも一緒…。帰れるわけないだろ…父さんと母さんに迷惑がかかることが分かっているのに!」 悔しさとも未練とも取れるような感情で語気がつい荒くなる。 「そんなことはない! おじさんやおばさんは…」 そうハナコが言いかけると、発言を遮るようなタイミングで外から声をかける者が現れた。 「おーい! ライト、何か見つかったかー?」 声の主は覆面を被った聖騎士姿の男、ミレーンであった。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ 「この人は誰なんだ?」 ミレーンがライトと一緒にいるこの場に似つかわしくないメイド姿の少女について質問する。 「この人は前に話した近所のお姉さんです。偶然ここで出会っちゃいまして…」 そうライトが答えると、ミレーンは何か思い出したかのようにこう言った。 「あぁ、君が♰天逆の魔戦士アズライール♰か。ライトから話は聞いているよ」 ライトからそう呼べと言われていたのでミレーンは彼女の冒険者ネームで呼んだ。 「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」 ハナコは再度壁に頭をヘドバンする。突然の奇行にミレーンは一体何が起こったのか理解できなかった…。 「何かこう色々ありまして…この人がハナコ姉ちゃんです。本名で呼んであげて下さいミレーンさん…」 ライトは精一杯のフォローをした。 ライトがミレーンをハナコに紹介する。 「この人はミレーンさん。僕と一緒に旅をしている仲間で元聖騎士なんです。カンラーク事件の時もここにいて、今日はお墓参りみたいな感じです」 忌器探しについては彼の秘密の部分もあるだろうから語らずにおいた。 「覆面の聖騎士? ひょっとしてあんたもこの前の魔獣テロの時にモトマトーにいたのか?」 「ああそうだ」 あまり掘り下げられたくない案件でもあるから、ミレーンは深くは答えなかった。 「そういえば何でハナコ姉ちゃんはカンラークなんかにいるの? それにその格好はどうしたの?」 ライトが彼女に予想もしなかった再会をすることになった理由を質問した。 「王様から頼まれて…、そうそう私今はレンハートのお城でメイドやってるんだ」 レンハートという単語を聞いてミレーンは警戒のレベルを上げることにした。 「えっ!ハナコ姉ちゃん冒険者辞めちゃったの?! どうりで旅をしていても出会わないわけだ…。その格好の理由は解ったけど、ここには何しに来たの?」 「王様に頼まれてというか正確にはツレが頼まれたんだけど、ここに封印されていた忌器について調査してこいってさ。ツレも元カンラーク帰りの聖騎士なんだよ、ひょっとしたら知り合いかもしれないね」 そうハナコが言い終えるとタイミングを合わせたかのように外から声がかかる。 「おいハナコ、何をしている? そいつらは一体何者だ?」 棺桶を担いだ不愛想な男がやって来る。サーヴァイン=ヴァーズギルト、ハナコの件の同行者であった。 ◇ ◇   ◇   ◇   ◇ 「ああギルか。この子は前に話した私の弟分のライト。偶然ここで出会ったんだよ」 「で、そっちの覆面がライトのツレでミレーンていうんだってさ。この人もあんたと同じカンラークの聖騎士だったらしいけど知り合いかい?」 ハナコはギルに二人を紹介した。 「俺はサーヴァイン=ヴァーズギルト、元『墓守』だ。ミレーンとか言ったな、そんな奴の名はカンラークで聞いたことはなかったがあんたの所属はどこだ?」 不審に思ったギルがミレーンに問いかける。 「俺はただの兵卒だよ。カンラークには聖騎士が1000人以上もいたんだ、知らない名前がいてもおかしくはない…」 ミレーンは話を流そうと不愛想に答える。 ミレーンの返答に疑念を深めたギルがさらに問う。 「でもな、生き残りの聖騎士は何人もいやしねぇから俺は全員の名前も所属も知っている。その中にミレーンなんて奴はいない。お前は一体何者だ? 本当に聖騎士だというのならその覆面を取れ!」 実にごもっともな疑問だ。俺とてこの覆面を脱いで、かつての仲間であったお前に説明してやりたいが、その同行者であるハナコが大問題なんだ。 レンハートの王城関係者に俺の正体が知られてはいけない。当然それに連なるギルお前にもな…。 「だんまりか…。単なる騙り野郎かもしれねぇが、俺は顔や正体を隠している嘘つきが大嫌いなんだ。そんな真似している裏切り者が一人いるせいでな…。その覆面をひん剥いて正体を確かめてやる!」 ギルは棺を構えて右手を懐に入れる。 自分一人だけなら逃げるという手もあるが今はライトも一緒だ。仕方がない…やり合うしかないのか…。