※「」ふゆさん─折り紙ちゃん回怪文書 ※いろはとみことが二人で戦うルートです。 >ちっぽけな願い。自分でもそうだと思い、でも、 >ただそれだけでいいと思ったの。だから…… >魔女であった自分の内から溢れていたその衝動を思い出して、 >喉から手が出るくらいに欲しい。それさえ手に入るなら、私はもう何もいらない…! 第XX節 境界反理⬛︎⬛︎ マギカバロット AP0 >> 「ぐぁ……!」 「くぅぅ…!」 戦いは熾烈を極めた。獣と魔女は全力を尽くした。 一進一退に見える戦いは、その実手数の差でこちらの方が消耗が早い。当然の結果だった。相手の戦力はマシュとマスターが呼び出すサーヴァントに加え、やちよたちみかづき荘の面々も含まれているのだから。 いくら規格外の存在に変貌したといえども、体力は無尽蔵ではない。また結果として“ビースト”環いろはの能力は真正面きっての直接戦闘に強みがある類ではなかった。みことには鏡の魔女の力があるが、サーヴァントの枠に押し込められた弊害からフルパワーを出し続けることができない。 押し切られてしまうのは、時間の問題だった。 「ん〜……最後まで付き合うって言っといてアレだけど、良かったの?あの人らまで敵に回してさ」 「……止めようにも、こんな状況じゃ『暗示』の足止め維持も難しいし……仕方、ないでしょ」 「そういう話じゃ……いやそれもそうなんだけどさ」 分かっている。みことが何を言いたいかなんて。 いろは自身、何故こんな事になったのだろう、という思いは正直ある。 何故、自分はみことと肩を並べて、大切なみんなを──仕方ないからと──攻撃して。 何故、自分は大切なみんなから──手加減されているのは肌で感じるが──攻撃されているのだろうか。 なんで私はこんな事をしているのだろう? 頭がおかしくなりそうだった。 「ホント……バカみたい、だよね……」 いっそこのまま倒れてしまえれば、どれだけ楽になれるのだろうか。 思わず口をついて出た弱音は、やちよたちにも聴こえていた。 「いろはっもういい……もういいでしょう!」 あなたの願いが分からない。 カルデアのマスターは瀬奈みことにそう問いかけていたが、やちよは今のいろはの内心が分からなかった。 いや、分からなくはない。幕引きを担うという、一個人には重すぎる責任を背負うためだ。そこまでは──よくは、ないのだけど──分かる。自分たちの知る環いろははそんな人だから。 じゃあなんで、自分たちまでいろはと戦っているのだろう?いろはの助けになるために呼ばれたというのに。 『──いいえ、やちよさん、みんな。みんなは……こっちに来ちゃ、駄目です』 『ココは私たちの世界だけど、あなたたちが生きる時間(せかい)じゃない。……まあつまりさ、私たちだけでいいんだよ』 『ごめんなさい。みんなを求めたのは私なのに。だから、やちよさん……これが最後の我儘です』 『──せめてそこで大人しくしていてください。……もし立ち塞がるのなら……手加減は、できません』 一方的に、苦しそうに告げるだけ告げて、獣と魔女は攻撃を始めた。それが開戦の狼煙となった。 戦いにかける二人の熱量は計り知れず、このままでは自滅すら有り得る事を危惧したみかづき荘はやむを得ずカルデアに助力した。 分かっている。いろはがこれ以上ないほど苦しんでいる事なんて。 もういい、もう十分だろうという純粋な心配を、いろはは大声で拒絶した。 「──来ないで!!」 叫ぶと同時に、反射的に魔力が吹き出しプレッシャーとなる。 あまりの圧に思わずやちよ・鶴乃・フェリシア・さなの踏み出そうとした足が止まる。 ああ、まただ。またみんなを拒絶してしまった。心が悲鳴を上げる。 分かっている、分かっているんだ。 みんなに頼ることができれば、みんなに助けてもらえたら、みんなと一緒ならどんなに良いだろうか。 『これからは……私がリーダーになります!これなら、大丈夫ですよね?』 『チームみかづき荘、が、がんばるぞー!』 酷い話だ。 一人じゃなくていい、助け合い支え合おう……などと最初に言い出したのは、元はと言えば自分だっただろうに。 だけど、だけど──誰にだって、自分の力で立ち向かわなければならない事もある。そんな時が私にも来てしまったのだと、いろはは既に心を決めていた。 『おやすみなさい……』 あの夢の……懐かしい「一日」の中で、別れは済ませた。 人生のロスタイムを埋めてくれるには十分過ぎた。 未練が無いと言えば嘘になるけど……これ以上何を望むというのか。 いずれにせよ、もう留まれない。旅立つ時が来たのだ。 『……急がないとね』 それに、あのみことが最後まで付き合ってくれると、自分からそう言ってくれたのだ。 何より、みんなは今も変わらず環いろはを大切に想ってくれている。 だから、もう、それだけで良かった。 たとえこれからなんて、何処にも無いとしても。それだけで、私もこれからがんばっていける……そんな気がしたから。 環いろはは、とっくに夢から覚めていた。 「いろはちゃんが傲慢で頑固で諦めが悪いのは分かりきってるけどね?物理的にキツいのはどうしようもないよ本当」 「……そんな口叩けるぐらいの力は残ってる、って事だね」 「んふっ、まあね」 実際、自分も余裕が無いのは事実だが余力は残っている。しかし諸々の利はあちらにある。ここから戦況をひっくり返し、文句のつけようもない勝利を勝ち取るには、起死回生の一手が必要だった。 「さあ、どうする?私あんなキラキラした連中相手でやられ役になんてなりたくないんだけど?」 迫りくる敗北の二文字が、いろはとみことに重くのしかかる。 カルデアは動かない。 この戦いは言ってしまえば意地の張り合いであり、どちらかが「負け」を認めるまでは終わらない。 あくまで決闘のようなもので殺し合いではなく、お互い悔いや後腐れが無いようやり切りたい。だからカルデアのマスターと盾のデミ・サーヴァントは動かず、膝を突いたままの相手を見守っている。 (…………負けられない、けど……) 瞑目し、思い返す。 負けられない理由は、幾つもあった。 負けたくない理由だって、確かにあった。 これまで自分たちが辿ってきた道のりで、負けてもよかった時なんて一度もなかった。 負けてはダメだった。それでも自分たちはみこと(鏡の魔女)に敗北した。負けた結果が、今のこの滅びゆく宇宙だ。 いくら過去に希望を繋げたとは言え、負けた現実はこの世界の全てを奪い去った。だからと言って今みことが憎い訳でもないのだけど。 そして今、環いろははまた負けようとしている。 「……。」 客観的な事実として、ここで自分が根負けしたからと言って何かが変わる訳でもない。世界が滅ぶ結果自体に変わりはなく、ただ彼ら(カルデア)の背負う十字架を増やしたくないのも主観的なエゴでしかない。 彼らにも彼らなりの責任があるらしい以上、決して諦めることはないだろう。自分たちがそうだったように。 ならばいっそ、私が折れてしまえばどれだけ簡単に事が済むのか。どれだけ楽になれるのか。 では、何故だろう。 何故今自分は、まだ負けたくないのだろう。 そう思った時、不意に視線が横に向いた。 「……いろはちゃん?」 その時いろはは、最後のピースを掴んだような気がした。 「何?まさかここまで来て素直に降参する……なんて訳ないよね?」 「……当、然……!」 全部一緒に台無しにしてやろうと決めた、最後までラスボスをやり切ろうと言ってくれた、この宇宙が終わってしまう原因となった、共犯者が、精一杯に強がって笑っている。 こいつが傍で見てるのに、まだ諦めていないのに、自分が諦めてやるわけにはいかない。 こいつに恥ずかしい姿は見せられない。見せたくない。──ああ、なるほど。 (そっか、だからみことは……いや、私も……私たちが……!) そこで気付いた。 みことにとっての「待ち人」は、何処かでみことを見守っているんだ。 みことの勝たなければならない、負けられない理由がどんなモノか、事ここに来てようやく思い至ってしまった。そして、自分が勝たなければいけない理由にも。 それに今は、“みんな”が目の前にいる状況でもある。みんなを安心……させるのは、まあ、無理だろうけど……それでも少しぐらい、カッコつけてもバチは当たらないだろう……多分。 そんな諸々を改めて自覚してしまった以上、もう絶対に負けられない。ではどうする? 一人では届かない。けれど、二人なら。 なら、つまり、今一度──全てを賭けて、全てを台無しにする覚悟を決めるのだ。 「──みこと」 「はいはいどうしたの?」 「今から希望を見せてあげる……いや、違う……」 打開策は既に思いついていた。そこから「みかづき荘に被害をなるべく与えず」且つ「絶対に勝てる」道筋も。 そのメリットもデメリットも、成功率が低い事だって理解していた。 懸念はただ一つ、みことと本当の意味で力と心を一つにする必要がある。 その為にみことを説得……いや、それでは足りない──煽ろう。 いろははマギアレコードから流れてきた知識を引用して言葉を紡いだ。 「一緒に魔法を見せてやろう。どんな絶望も悪夢も台無しにしてやれる……奇跡も希望もあるんだって、今度は私たちで示そう」 「────。………あっははは!!」 みことは一瞬あっけにとられ、そして何が言いたいかを理解して思わず吹き出した。 「何それ皮肉!?でもいいね!乗ってあげるよその提案!」 まったく、鏡の魔女相手になんて事を言い出すのか。正気じゃない。 だけどそれぐらい言ってもらわないと、力を貸した甲斐が無い。 魔女は獣に肩を貸し、二人してよろよろと不格好に立ち上がった。 「じゃあ改めて……最後までよろしくね、みこと……!」 「もっちろん!私たちの底力、お客様に思い知らせてやろう!」 戦おう。 未練を引き摺って、醜く抗って、存在をすり減らしてでも、たった一つの願い(ホント)のために。 そして、終わらせよう。 私たちのマギアレコードを。 決意を新たに、歪んだ世界の歪な運命に決着を付けるべく、環いろはと瀬奈みことは最後の賭けに出る。 「……ごめんね、『私』。返すよ」 いろははまず、マギアレコードの効果を一度解除した。それに伴い纏う衣装が獣としての本性(すがた)から、魔法少女としてのあるべき姿へ戻った。 確かに「環いろは」の辿り着く姿としては、あの白く煌びやかな衣装が相応しいのだろう。それが正解なのだろう。 だがいろはは思った。 それはあくまで、これからも妹たちと共に在り続ける『私』のものであり、自分(わたし)のものではない。 そういう意味で、私はこれから間違った道を行く。だから返した。 何より些細な理屈を抜きにしても、勝負服が借り物では格好がつかないではないか。これが本当に最後の晴れ舞台なんだから。 「なっ……!?」 「宝具を、解いた?……ッ!?マスター、下がってください!」 それと同時、いろはの足元から黒い泥が溢れ出した。 ケイオスタイド。 ティアマトから引き継ぎ、しかし現状ティアマトが抜けい出た影響で使用できないはずのそれが、カルデアとやちよ達がいろはとみことに近寄れないよう展開される。 荒れ狂う汚泥が十全に制御されている事実を受け、まさかと思いマシュとカルデアのマスターは彼女たちの背後を見た。 「ナーサリーさん!ティアマトさん!」 キャスターとアルターエゴ。 二騎のサーヴァントは、既に腰を上げていた。 「ごめんなさい、最後の我儘です。もう一度だけ、私たちと一緒に戦ってください!」 返ってくる言葉はなかった。ただ、微かな笑顔が浮かんでいた。 ──それが子供(あなた)たちが、真に望む意思ならば。 再び、環いろはの体内に二騎のサーヴァントが入っていく。否、溶け込んでいく。 同時に宝具「誰かの為の物語」とスキル「蒼き星の海」が最大出力で展開される。 味方を守護・増強させるスキルの恩恵を受け、いろはがスキル「自己改造」を起動させ、みことが気合いを入れ直す。すると世界に異変が生じた。 「あれって……鏡の魔女!?」 「いろは、瀬奈みこと、貴女たち何をするつもりで……!?」 空間がひび割れ、鏡の魔女の本体が全身を顕にする。 馬鹿な、何故ここに──疑問に疑問が重なり、視線がいろはとみことに集まる。 俯いていたいろはは、顔を上げ正面に目を向けた。 やちよさん、鶴乃ちゃん、フェリシアちゃん、さなちゃん。 ふっ、と。 何故だか笑みが零れた。 未練はある。 後悔もある。 本当にこれでよかったのかという葛藤もある。 だけど今は、いや、だからこそ。 悲しみも苦しみも、全て抱えたまま振り切るのだ。 「みこと!」 「いろはちゃん!」 二人が手を繋ぎ、そして──コネクトする。 固く結ばれた手に光が灯り、何かが浮かび上がる。 それは一冊の本。多くの魔法少女たちの想いに彩られた「環いろは」の宝具──「マギアレコード」。 「あれは……アンデルセンさんが託された……」 「マギアレコード……魔法少女の……私たちの歴史と想いが詰まった記録……」 「──そう、だからこそ!!」 マギアレコードの表紙と裏表紙にエンブレムが刻まれた。 それは獣。ビーストⅡを示す紋章が反転した、彼女たちだけの印。円環と人理、二つの理の狭間に生まれ落ち、そのどちらにも反する時空(とき)の迷い子の証明。 「私たちが始めた、私たちの記録(たたかい)は!!」 「私たちが記して、私たちが終わらせる!!」 いろはとみことが、想いを解き放つ。 マギアレコードが、泥の如き黒に染められていく。 マギアレコードに、終わりが綴られていく。 誰も知らない、彼女たちの記録。 交わした約束。 かつての誓い。 明日への祈り。 それから…… ……絆? 自分たちにもよく分からない全ての想いを、剥き出しのまま叩き付けていく。 そうして書き加えられる、最終章の名は。 ──「マギカバロット」。 「これが、私たちの!!」 「最後の物語だ!!」 ケイオスタイドが沸き上がり二人を飲み込む。 鏡の魔女が抱き締めるように二人を包み込む。 それら全てが一つとなって、黒く輝き周囲を照らし、激しい衝撃が吹き荒れた。 第XX節 運命の勝利者 AP22 > ※このバトルはサポートの???のみ編成できます。 ※このバトルではマスタースキルと令呪が使えません。 「……ッ、マスター、ご無事ですか!?」 1. ……何が、どうなって 2. !あれは…… 後方からマシュをサポートしていたカルデアのマスターが、最初に視界を取り戻し気づいた。 ──圧倒的な魔力の余波によって発生したその輝きの中に、一人の少女が浮かんでいる。 「いろは、ちゃん……?」 その顔立ちや髪から環いろはである事に疑いようはない。 だが全体の容姿は、チームみかづき荘すらもこれまで見たことがないものだった。 頭に生えた一対の巻角はビーストの証。先程までと変わらずティアマトと同一のソレは、カルデアが見慣れたもの。桃色の長髪に混ざる水色のメッシュは瀬奈みことのものなのか、あるいはティアマトのものなのか、果たして。 纏う装束は、モノクロームを基調とした、切り絵やステンドグラスを彷彿とさせるゴシックドレス。「誰かの為の物語」で急遽形成したデザインはまるで鏡の魔女の……あるいは瀬奈みことのソレのようで、やちよ達は言葉を失った。 背中から生えた翼は、ジャバウォック──“今の”ナーサリーライムの構成要素・鏡の国の怪物のパーツである事を察知し、何より今起きた現象そのものにBBは驚愕した。 木の根が纏わりついたクロスボウは禍々しく変形し、漏れ出た赤黒い魔力がドクンドクンと胎動している。……カルデアもみかづき荘も知らない「誰か」が、いろはに力を貸しているのだろうか。 「いろはさん、受け入れたんですか……?鏡の魔女を……?」 「……なんでッ、なんでだよいろは!どうして……オレは……オレたちを……!」 ……もう、頼っては、くれないのか? フェリシアは、続く言葉を口にする事ができなかった。 さなは、自分で口にした目の前の現実を飲み込みきれなかった。 問われて、少女が目を開ける。 右眼は蒼色に、左眼は桃色に輝いていた。 明らかに瀬奈みことと環いろはのモノであるそれらは、その実「青き星の瞳」と「赤き星の瞳」が同時に発動している状態でもあった。 「……キャスター、アルターエゴ、プリテンダーの反応消失。ビーストの魔力反応変化、及び魔力量、急激に増大……!止まりません!」 『まさか……ビースト本体をも巻き込んだ4騎が、この場で霊基の改竄と統合を!?ハイサーヴァント……バカな、いくらビーストが常識外れだからって、自分の存在も諸共にこの場で再定義するとか……出来うるのか!?』 カルデアのマスターはこの光景に覚えがあった。 喫茶アーネンエルベのアルターエゴ、二人で一騎の彼女たちが辿り着いた第三再臨段階……あれと似たような現象を起こしたのではないか。だが彼女らにしたって二人で一騎というのはそもそもが前提の話であり、元が別々の霊基という訳ではない。 或いはハイサーヴァントも近しいかもしれないが、それを能動的に創り出せるのはカルデアの知る限りBBと「異星の神」のみで、構成要素側の意識は基本表に出てこない。 このように複数で一つの個を形成しているサーヴァント自体は今や珍しくはないのだが、確か彼女らの言によるとプリテンダー/瀬奈みことは、ビースト/環いろはの霊基に間借りしているだけの他人だったはず。 それだけではない。ビーストとして不完全な情報の穴埋めをすべく駆けつけたアルターエゴ/ティアマトはともかく、キャスター/ナーサリーライムは別時間軸の環いろはをマスターとする救援であり、ビーストの構成要素そのものには関わっていない。ダ・ヴィンチちゃんの「3騎のサーヴァントが寄り添っているだけ」という評はどこまでも的確だった──筈であった。 今顕現したこの少女は違う。 マシュは3騎のサーヴァント反応が消失したと報告した。普通のハイサーヴァントならば意識が統一されるのが常だが、それで終わりな訳がない。 マスターも、マシュも、ダ・ヴィンチちゃんも、サーヴァントの事情に疎いやちよ達にだって、なんならこの戦いを空から見守っているだけの「」ですら分かっていた。 ナーサリーも、ティアマトも、みことも、明確に“そこ”にいるということが。 『……なんで、だろうね』 ここまでする意味があったのか。 それだけの価値がこの姿にあるのか。 本当にこれでよかったのか。 自分たちにも分からない。きっと最期の最後になっても正しい答えなんて出せない。 だけど。 それでも。 『私たちにも──』 たとえこの想いが、間違いだとしても── 『──譲れない終わり方があるからだ!!』 その叫びと同時、少女の背後から、バケモノが姿を現す。 “沈黙”と“鏡”、“竜体”に“怪物(ジャバウォック)”までもがごちゃごちゃに混ざり合った巨体が汚泥を振り撒く。少女にとってのドッペルとも言えるバケモノが時空間そのものに負荷をかけながら進撃する。 (準備は全部整った。後は……) (全力全開でデカいのぶちかまして、終わりっ!──の前に、ちゃんとワルっぽい宣言しとかなきゃね?) そう、私たちはラスボスだ。ならこれで勝つにしろ負けるにしろラスボスっぽいセリフの一つや二つ、宣っておいた方がいいだろう。 二人はふふっと笑い、声を揃えた。 『この世界を滅ぼしたのは……私たち』 『そしてあなたたちは、もう用済み。だから──』 精一杯悪ぶって、力を込めて、腹の底から、思いっきり叫ぶ。 『──この世界から出ていけ!!』 彼女たちは獣。英霊にして神霊、魔法少女にして魔女。 世界を滅ぼし、世界を救った者。 “円環”と“人理”、二つの理の境界線上に生まれ落ち、そのどちらにも反する魔の獣。 世界(ここ)がもう、明日も希望も、絶望すらも喪った跡地だとしても。 私たちは確かにココに生きたのだと、一匹の獣が──世界最後の人類(にんげん)が、全てを敵に回し咆哮した。 >dice2d100=96 81 (177) >(左がいろせな 右がカルデア) 次節 エピローグ また明日