ワイフ・オア・ドーター議論！　海外で定番のこの遊びがついに学園に上陸した。
ファンダムによれば、二次元キャラはすべて「妻」か「娘」に分類できるらしい。
暖かい家庭を築きたくなる存在はワイフ、庇護欲をそそる存在はドーター。
ウマ娘たちも当然、自分がどちらに該当しているのか気にかけるようになった。
やがてサトノグループが発明した判別機、通称“組み分け帽子”が登場した。
ハリー・ポッターの帽子そっくりなそれは、被れば即座にワイフかドーターかを宣言してくれる優れものだった。
即座に使用希望者が殺到し、ついには学園を挙げた一大イベントへと発展した。
ワイフ・ドーター決定祭の幕開けである。

「ふふん、見ててよカイチョー！　ボクがほんもののワイフだってところを、見せてやる！」
意気揚々と玉座に座ったトウカイテイオーに、組み分け帽子が手渡された。
つばの広い、魔術師が被るようなその帽子を、テイオーは躊躇することなく頭に乗せた。
かぽっ。とんがりコーンのような帽子部分にしわが寄り、難しいことを考えている人の模様が現れる。
「ほう……なるほど……これは……」
「どう？　ボクってばアダルティーだからさ、やっぱり隠しきれない所帯感が」
「ドーーターー！！」
明朗な宣言が響き渡った。観客から笑いが漏れる。
「なんでさーー！！」
帽子を外してにらめっこするテイオー。
「ボク、どう見てもワイフだよね！？　こんなの不正だ、ダンゴウだーー！！」
徹底抗戦の構えを見せるテイオーだったが、抵抗むなしく風紀委員に脇をつかまれて引っ張られていった。わははと会場がいい余韻に包まれる。

次に登壇したのはハルウララだった。しかしウララはこの祭りの趣旨を理解していない。
「わー！　すっごい人だね、わたしはどこに座ればいいの？」
促されて玉座に座る。偉くなったと勘違いしたのか「えっへん」と胸を張ってみせた。組み分け帽子を持ち上げて丁寧にお辞儀する。
「なんだかわからないけど、今日はよろしくね、帽子さん！」
かぽっ。むにゃむにゃと帽子が深い思考に入る。しかし、深く考えるまでもなく結論は一つだった。
「ドーーターー！！」
予定調和なその内容に観客からほっとため息が漏れた。
「わーい！　やったやったーー！！　ドータードーター！　……ところで、ドーターってなに？」
無邪気に喜びながらも頭にクエスチョンマークを乗せるウララに万雷の拍手が届けられた。
なお、トレーナーには肩たたき券とおままごと券、なんでも券に添い寝券が与えられる。

「それでは、次はお待ちかねの副会長、エアグルーヴに登壇していただきましょう！」
司会の声に反応して舞台に出たエアグルーヴの顔に笑みはなかった。
不満はあるが、ここで表に出して台無しにするつもりはない。不承不承ながら付き合い、結果を淡々と受け入れるだけだ。
送られた拍手に軽く手を上げ、ゆっくり玉座に腰掛ける。しばし逡巡したあと、帽子をかぽっと被った。後は流れに身を任せればいい。
「ほうほう……興味深い……まさしく資格を持つもの……」
組み分け帽子は、その場のテンションで判断しているわけではない。内部には高度な解析プログラムが組み込まれ、SNSやデータベースを横断して、多角的にワイフかドーターかを判断している。
その際、最も重視されるのは担当トレーナーの意見だ。性格や振る舞い、交友関係まで、すべてトレーナーの視点が基準になる。
つまり帽子は、トレーナーのもう一つの姿でもあるのだ。
「……お主のトレーナーからお気持ちを頂戴しているよ」

何を言われても馬耳東風と決め込んでいたエアグルーヴにとっては、寝耳に水だった。
「なんですって？」
「このイベントに臨む前にトレーナーから話を聞いている。要約して伝えよう」
そう言うと組み分け帽子は訥々と語り始めた。
エアグルーヴへ。
君の懸念は全くその通りだと思うし、俺もワイフかドーターかで区分けすることはナンセンスだと思う。
米国では貞淑な妻、理想的な妻のことをワイフ・マテリアルというらしい。
つまり「妻になる資質を備えた女性」ということだ。
俺はこの言葉を聞いて言いようのない怒りを覚えた。エアグルーヴが理想を追い求めているのは妻になるためか？
家庭的で掃除が好きで花壇を世話することが趣味なのは妻になるためか？
礼節と儀礼を重んじて母親を大事にしているのは妻になるためか？
ワイフ・マテリアルという言葉には「役割」だけが先行していて「本質」を蔑ろにしている。
人は妻や娘になるために生まれたわけではないはずだ。そう思っていた。

しかしトレーナーをしていると、様々なウマ娘と関わることになる。
中でも根強かったのは、「将来の夢はお嫁さん」という子たちだ。
レースの素質もあり学問もこなすのに、無限の選択肢を捨ててお嫁さんという安寧に落ち着こうとする。その心理が長いこと理解できなかった。
あるウマ娘に尋ねると、こう答えた。
「同調圧力じゃないんです。ただ、世界一好きな人と人生を共有したいだけなんです」
好きな人と――それがそんなに大事なのか？
「トレーナーさんも、いつかわかりますヨ。絶対に」
俺は最近になってその言葉を噛みしめるようになった。人は孤独でも生きていける。しかし、エアグルーヴのいない人生はあまりにも寂しい。
君はこの馬鹿げた祭りから降りる権利を持っている。帽子を放り投げて退場してもいい。
俺はワイフ・マテリアルなど信じない。ワイフ・オア・ドーター議論にも反対だ。
それでも、あのとき微笑んで「お嫁さんになりたい」と言ったウマ娘の姿は、忘れることができない。

「――もういいのか？」
帽子は問いかけた。エアグルーヴはこくりと頷いた。
「どうする？　やめるかね？　今なら辞退することも可能だよ」
「いいえ、続けてください」
「そうか、いい男だね」
エアグルーヴは何も答えなかった。
「さあ、間もなく結果発表です！」
司会がタメを作り、カウントダウンが始まった。５、４、３……同時にドラムロールがだららららと鳴り、複数のスポットライトが回転しながら玉座を照らし出した。
エアグルーヴの表情はこわばっていたが、目には希望の色が濃く満ちて、赤色のアイラインを際立たせていた。
「ワイイイイフッ！！！」
会場全体に響き渡る強い宣言の声。そして、一瞬の静寂。
さらにその後に訪れた、地鳴りのような歓声。

紅白の幕がステージを覆い、ホールキャノン砲が金銀のテープと紙吹雪を舞い上げた。
メインスクリーンとサブスクリーンには「Waifu」「Waifu」「Absolutely Waifu」の文字が映し出される。
巨大なくす玉がエアグルーヴの頭上で割れ、「祝・おめでとう！」の垂れ幕がぶら下がった。
三味線と囃子の賑やかな音に合わせ、五人のスモウレスラーが四股を踏みながら玉座を回り、観客席に張り手を見舞った。
二機のミラーボール付きドローンが上空を舞い、青・赤・黄の光を目まぐるしく振りまいた。
祭りっ気を感じた有志とエアグルーヴを慕う後輩たちが続々とステージの上に乱入し、祭囃子に合わせて踊り始めた。
エアグルーヴは狂騒の中心で、目を丸くしながら一部始終を眺めていた。

ふと隣を見ると、トレーナーが立っていた。
やんややんやとはしゃぐ観客とは対照的に、タキシード姿で気まずそうに佇んでいる。
エアグルーヴと目が合うと、頬を指でかきながら困ったような笑みを浮かべた。
周囲の喧騒で声は届かなくても、唇の動きから言葉は読み取れた。
「すまない」
かっと血が頭に上る。ここまできておいて、何を無責任なことを――。
玉座から立ち上がり、蝶ネクタイを乱暴に掴もうとするが、トレーナーは動じない。
トレーナーは低い声で、真っ直ぐに見据えながら呟いた。
「ありがとう」
瞬間、怒りは霧散し、代わりに暖かさが体を満たした。
「たわけが」
蝶ネクタイをそっと離し、トレーナーの身だしなみを整え、腕を組んで堂々と観客席に向き直った。
「しゃきっとしろ。それがハズバンド・マテリアルというものだろう」
トレーナーは眩しいものを見るように背筋を伸ばし、隣に立った。

ワイフ・オア・ドーター議論は様々なウマ娘に衝撃を与えた。
スーパークリークはドーターに認定された。膝から崩れ落ちた。
ナイスネイチャはドーターに認定された。しょげていた。
カルストンライトオはワイフに認定された。無反応だった。
オルフェーヴルはドーターに認定された。不服そうだった。
ジェンティルドンナはワイフに認定された。まんざらでもなかった。
決定祭は一大コンテンツとなり全世界に配信され、SNSはその話題で持ちきりになった。
その喧騒の外で、エアグルーヴとトレーナーは静かに花壇に水をやっていた。
花たちは誰に聞かれるでもなく、思い思いの色で咲いていた。

>紅白の幕がステージを覆い、ホールキャノン砲が金銀のテープと紙吹雪を舞い上げた。
>メインスクリーンとサブスクリーンには「Waifu」「Waifu」「Absolutely Waifu」の文字が映し出される。
>巨大なくす玉がエアグルーヴの頭上で割れ、「祝・おめでとう！」の垂れ幕がぶら下がった。
>三味線と囃子の賑やかな音に合わせ、五人のスモウレスラーが四股を踏みながら玉座を回り、観客席に張り手を見舞った。
>二機のミラーボール付きドローンが上空を舞い、青・赤・黄の光を目まぐるしく振りまいた。
>祭りっ気を感じた有志とエアグルーヴを慕う後輩たちが続々とステージの上に乱入し、祭囃子に合わせて踊り始めた。
イカれすぎだろ！

>イカれすぎだろ！
サトノなのでパチ的な演出が…

>>イカれすぎだろ！
>サトノなのでパチ的な演出が…
パチ屋で当たったら相撲レスラーが四股踏みながら周りを回ってくれるのか…

何が起こってるんだ

>オルフェーヴルはドーターに認定された。不服そうだった。
そりゃそうだろ…

クリーク実際手のかかる娘何だよなあ…

>パチ屋で当たったら相撲レスラーが四股踏みながら周りを回ってくれるのか…
ちょっと面白いな
インバウンド向け飲食店とかでやって欲しい

>五人のスモウレスラーが四股を踏みながら玉座を回り
突っ張ることが男の〜〜

なんだこの奇祭は…

ヴ三姉妹は全員ドーターでシーナ姉さんが怒ってるのは分かる

>ジェンティルドンナはワイフに認定された。まんざらでもなかった。
ドヤ顔してそう

>>>イカれすぎだろ！
>>サトノなのでパチ的な演出が…
>パチ屋で当たったら相撲レスラーが四股踏みながら周りを回ってくれるのか…
それやりそうな版権はユニバか大一だろ

逆にドーター枠だろって見られてたのにワイフ判定出てざわついてそうなの誰だろう

>逆にドーター枠だろって見られてたのにワイフ判定出てざわついてそうなの誰だろう
クラフト様

>クラフト様
身体じゃなくて精神がだろこの判定は