[一方] ミュラ・サーヴェ : 「…………うへえ」
新報を眺めていた私は顔を顰めた。記事になっとるでないの、あの一件のこと。

[一方] ミュラ・サーヴェ : ザルドルシェルクラブだぞ。よくこんなところまで活かして運んできたものだとは思うが……問題はそういうことじゃない。ここの教授、いや学生から一部国民に至るまでユーシズには常識というやつがない。

[一方] ミュラ・サーヴェ : それがまだ研究のためというなら分かる。アルフレイム大陸の魔導研究の双璧たるハールーン魔術研究王国には獣舎があって珍しい魔獣を多く飼って調べているという話だし。

[一方] ミュラ・サーヴェ : 食べるためて。そのために活かして連れてきたて。

[一方] ミュラ・サーヴェ : そもそも隊商だかユーシズのお抱えの輸送団だか知らないが、よくもあんなものの運搬を請け負ったものだ。命知らずなのだろうか。ぞっとしないな。

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「やめやめ。読んでるだけで頭が痛くなってくるわ」
私は新報を閉じた。うん、あのやはり即応隊の依頼は今後もおことわりだな。……お金に困ったら気が迷うかもしれないけど。

[一方] ??? : そんな愚痴る彼女を遠目から無表情……
ながらもキョドキョドしながらチラチラと見ている少年が居た

[一方] マシュヤ・シャイング : 「……………」

[一方] マシュヤ・シャイング : (あっ……ミュラさん!奇遇ですね!お元気でしたか?)

[一方] マシュヤ・シャイング : (……………以前のことで気まずくて声掛けにくいよぉ~!!!😭)

[一方] マシュヤ・シャイング : (いや、流石に一緒に冒険した仲だしもっとこう…「……まさかこんな形で伝えられるとは思わなかったな」とか言うべきかな……)
(………ちょっとフランク過ぎるかなぁ~~~~!それはそれで勘違いしてると思われたらやだなぁ~!!!😭)

[一方] ミュラ・サーヴェ : ご覧、マシュヤくん。

[一方] ミュラ・サーヴェ : 意を決して顔を上げるでしょ。

[一方] ミュラ・サーヴェ : もうミュラさんいないよ。

[一方] アンビィ : まごまごしてるから…

[一方] マシュヤ・シャイング : 「あっ」

[一方] マシュヤ・シャイング : …………

[一方] マシュヤ・シャイング : (あああ~~~!!!😭😭😭)

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「………。さっき視線を感じたわね。なんだったのかしら」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「………ひょっとして“アレ”が原因か………」

[一方] ミュラ・サーヴェ : そうなのである。この女、うっかりブロードソード級になってしまったのである。

[一方] ミュラ・サーヴェ : おかげであちこちの酒場で飲むたび「お近づきの印に…」と奢られるようになってしまった。ありがたい反面、こんなはずではないのにという気持ち。

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「冒険者として大成する気は微塵もなかったんだけどなぁ………」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「あ、フローラちゃん。これ精算よろしく。今月の支払いね。………そうなの、ちょっと奮発した買い物しちゃってさぁ。急に入り用になると困っちゃうわよね」

[一方] 受付嬢 : 「何買ったのぉ?」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「ふふーん」
すっと取り出したるはブラックロッド。冒険者の間でもスペルユーザーには垂涎の代物であった。

[一方] 受付嬢 : 「高いの買ったわねぇ」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「長い事ちまちまと依頼をこなしてたらこないだブロードソード級冒険者に認定します! ってギルドの方から言われちゃってね」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「そしたら舞い込む依頼のレベルがどっとあがっちゃって。これはいろいろ新調しないと間に合わないぞって、急遽ね」

[一方] 受付嬢 : 「身の丈にあった依頼しないと痛い目見るわよぉ?」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「本当に同感だわ。これまでもそうしてやってきたつもりよ」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「自分でも知らない間にそういう域に達しちゃってたってことかも」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「正直、複雑」

[一方] 受付嬢 : 「もうちょっと高いとこに行けるのかもねえ」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「………高望みなんて御免。そこそこの暮らし、そこそこの愉しみ、その程度で十分だし、そのくらいの器だと今でも思ってるんだけどね」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「じゃ、支払いの方よろしく。……あとエールちょうだいね、頼むわ~」

[一方] 受付嬢 : 「はぁい」

[一方] ミュラ・サーヴェ : そう言い残してひらひらと手を振り、ギルドの酒場のあたりへ戻っていく。

[一方] ミュラ・サーヴェ : ところで間違えていた。ブロードソード級じゃなくてグレートソード級だった。

[一方] ミュラ・サーヴェ : ミュラが腹を切ってお詫びいたします。

[一方] アンビィ : グレソ級すごい

[一方] ディアナ : 有名人ねぇ

[一方] ミュラ・サーヴェ : ギルドでも「あなたほどの腕前でいらっしゃるなら…」という扱いされる立場らしいですね

[一方] ジュリオ・リーベルト : (1人だけ実力が違うように見えたが、この神官は即応班ではなかったのだな)

[一方] ジュリオ・リーベルト : (冒険者としての経験も長いようだ。きっと彼女がいれば、仲間は安心して前を向いて戦えるだろう)

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「なによ」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「ん、いや失礼。先ほどの神聖魔法を思い出していた。腕のいい神官だなと」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「あなたのような人がパーティーにいれば、きっと仲間も安心できるだろう」/

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「そう。“あなたくらいの冒険者の目から見て、いい腕止まり”なの」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「えっ……」
と少々面食らう。褒めたつもりだったが、何か気に食わなかったのだろうか

[一方] ジュリオ・リーベルト : いかんいかん、人を誉めるとき、つい上からの物言いになってしまうのが俺の悪い癖だ

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「………。ごめんなさい。ちょっと差というやつを実感して嫌な言い回しになってたわ」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「そうではなく、その……うん、実力者というか」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「いいのよ。あなたは隠してるみたいだけれど分かるわ。高ランクの冒険者でしょう?あなた」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「その気になれば“神”へ到れるかもしれないような」

[一方] ジュリオ・リーベルト : ズバリ言い当てられる。困ったように頬をかいた

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「それはわからないが、まあそれなりの腕とは思っている」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「分かるわよ。だって金の使い方が垢抜けてるもの」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「それならボンボンかもしれないぞ」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「ふふ。………冒険者ってね。大なり小なり意味もなく身を着飾るわ。だって鉄火場こそが自分の全て。自分がいつ死んでも美しくあるように、装飾品を纏うのよ」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「高位の冒険者の気配があるのにそうしないのは、“そうはならない”という自信があるやつしかしないのよ」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「……なるほど、流石は賢者(セージ)殿、よく見ている」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「万年神殿の書庫に引きこもって本を片っ端から読んでただけで得た称号ですけどねー」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「学びは大切だ」と先に一区切り

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「確かにおっしゃる通り。ただ誤解しないで欲しいのだが、俺は決して地位や実力を隠して、あの子らのような冒険者を笑いに来たわけではない」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「外に出て、こうしてこの目で見なければわからないこともあると学んだのだ」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「俺は神官ではないが、キルヒアの教えにも通じるところがあるのではないかな?」
そう言って笑った/

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「なぁに?どこぞの御曹司が見聞を広めるのに諸国漫遊ってわけ?」
薄く笑う。ある程度を察していてもさすがにミュラの立場では分からなかった。眼の前の男が時代の流れ次第で一国を統べる立場なのだと。

[一方] ミュラ・サーヴェ :

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「そうね。でもいいと思うわ。知らないよりよっぽどいい。冒険者なんていくらでも代わりがいると思っている領主の多いこと。そうじゃないと知っていることを主人が知っているだけでも……冒険者たちにはありがたいことでしょうね」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「そも、それを言ったら今さっき出ていった子たちなんてまさにその典型よ? ユーシズの教授どもは実験の後始末で死人が出ることなんて痛痒にも感じはしないわ。でもいいのよ」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「それがユーシズのルールだものね」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「本当にそれでいいのか?」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「いや、それでいいと考えているのか?」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「ええ、もちろん」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「だから、それが違う、おかしい、と思うなら」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「そういう国を作る誰かがいなければいけないんでしょうね」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「範を示せ、と」

[一方] ジュリオ・リーベルト : いやはや、こちらの正体を察しつつの直言、見事なものだ

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「その振る舞い、一流の冒険者と呼ぶに相応しい。お名前をうかがっても?」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「エルデン・アウレリウス著作。『黎明律篇』」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「『まだ名もなき掟の種火を掲げよ』」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「うん?」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「ミュラ・サーヴェです。何者かは何故か知らぬ、名うての冒険者様?」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「所詮私は市井に生きる木っ端めいた神官ですが、どうぞお見知りおきを」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「まだまだ学ぶことは多いな……改めて、ジュリオ・リーベルトだ」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「そう自分を卑下するものじゃない。自分たちより腕利きの冒険者がそれでは、先ほどの彼らのような者も悲しむ」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「そういうことにしてこのくらいにしておきましょう」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「さぁて、あの連中無事に帰ってくるかしらねー。ユーシズの依頼主どもが気狂いしかいないという意見を曲げる気はないから、きっと苦労してくることでしょうけど」

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「ま、ここの連中の人使いが荒いとは聞いている。だが大丈夫だろう、いいパーティーのようだからな」

[一方] ミュラ・サーヴェ : 「だといいですけどー」

[一方] ミュラ・サーヴェ : そう言ってミュラはぐびぐびとエールを飲みだした。ジュリオのことなんかこれ以上気に掛けるものか、という様子で。

[一方] ジュリオ・リーベルト : その様子に苦笑して、こちらもエールを頼みながら余ったピザを口に運ぶ

[一方] ジュリオ・リーベルト : 恐らく自分よりも人生経験が豊富なのだろう。それだけよくないものを見て来たのか……

[一方] ジュリオ・リーベルト : だが口で言うほど、厭世感にまみれているだけではないとも思えた。先ほど俺にかけた言葉もそうだ。何も期待していない人間が、あんなことを言うだろうか

[一方] ジュリオ・リーベルト : きっとこれから、彼女は多くの人を助け、名を上げるのではないか。そんな気がするのだった

[一方] ジュリオ・リーベルト : 「俺も頑張らないとな」
ぽつりとつぶやき、エールをごくりと流し込んだ/