────数年前 「────やあ、千束」 「うおっ、マジで来た!ホント神出鬼没だねぇ〜キミィ」 「キミがこの日時に来て欲しいと言ったんじゃないか……さてと、ボクをここに呼び出した用件は 何かな?まあ予想はついているけれども」 「じゃあ結果発表の時間で〜す!ドゥルルルルル……じゃじゃ〜ん!錦木千束、今日より魔法少 女デビューを決定いたしました〜!」 「……ってなんかツッコまんかい!私がスベったみたいじゃん!」 「悪いけど、ボクに反応を求めても期待した通りのものは100%返ってこないと断言しておくよ。人 間達の文化の中で漫才と言う芸の一種があるのは知識にあるけれども、ボクらは────」 「あ〜もう分かった分かった!アンタにネタを振った私がバカだった……」 「しかしどういう風の吹き回しだい?キミは魔法少女になる事にあまり積極的ではなかっただろ う?願いを叶えてもらうのは自身のポリシーに反するとも語っていたし」 「ん?まあそこは今でもそう思ってるよ。そんな力借りずに済むならそっちの方がいいもん」 「そんなキミが魔法少女になる決意をした……何か心境の変化があったのかな?」 「まー、そだね」 「なんにせよ、ボクとしては僥倖だよ。特にキミの様なリコリスが契約してくれるのはね」 「えー?別にリコリスが魔法少女になるなんて珍しくもないでしょうに」 「勿論キミ達リコリスについてはしっかり把握しているよ。それこそ前身の時から携わってきたから ね。その歴史の中で数々の優秀なエージェントや魔法少女が生まれてきたけれども、キミ以上の 因果と才能を擁する少女は今まで見たことがないよ」 「ふーん」 「……反応が淡白だね」 「や、褒められてんのはわかるよ?あんまし実感が湧かんだけ」 「まあ、契約を結ぶ少女の殆どはキミの様な反応をするものさ……それより、願いはもう決まって いるのかい?」 「もち!『私たちの日常と笑顔を守らせて』ってね!」 「…………」 「ちょいちょい、何でフリーズしてんのさ?」 「いや、すまない。キミからまさか抽象的な願いが口に出るとは思わなくて」 「いやいやこれ以上ないほどめっちゃハッキリしてんでしょーが」 「ボクとしてはてっきり、キミに人工心臓を提供した人物に会いたいと願うと想定していたんだけど ……」 「それこそハナっから叶えて貰うつもりはなかったよ。あの人には自分の力で会わなきゃ意味が ないもん。それに、今の私の願いだからこそあの人に近づけると思ったんだ」 「……聞かせてくれるかな?どうしてキミがその願いに至ったか」 「理由はシンプル。好きなものがいっぱい出来た」 「好きなもの?」 「そ。数年前に先生と一緒にDA出て、喫茶店開いて色んな人やものと出会ったんだ。お店に来る お客さんとか、美味しい食べ物、楽しい場所……どれもこれも私にとって大切なものになっていっ た。その中でも一番大切なものがデュエル」 「デュエル?」 「エンタメデュエル。知ってる?」 「ああ、アクションデュエルを生み出したプロ決闘者榊遊勝が掲げるデュエルのスタイルのひとつ ……だったかな?」 「その通り!遊勝さんの決闘はホントにすごくて、あんなにキラキラして楽しいデュエルがあるな んて思わなかった!私も同じ様に誰かが笑顔になれる決闘をしたくなるぐらいインパクトを受けた んだ」 「成る程ね。しかし、それがキミの願いとどう繋がるんだい?」 「繋がるよ!あの人がくれた時間のお陰で大切なものを沢山見つけられて、その全部が私を形 作っていった。その大事な日常を護るために私は魔法少女になるんだ。そして……いつかあの人 を見つけられたら、お礼と一緒に私のエンタメデュエルも見せてあげたい」 「……キミもまた、様々な人間達と同じ様にわけがわからないよ」 「わからなくてケッコーですぅ。これが私だから。さ、叶えてよキュゥべえ!」 「契約は成立だ。 君の祈りはエントロピーを凌駕した。 さあ、解き放ってごらん。 その新しい力 を!」 ───こうして、錦木千束は魔法少女になった。 奇しくもその日は彼女の誕生日でもあった。 (魔法少女として生まれ変わったキミに対しハッピーバースデー……と言えばいいのかな) (いや、ボクが祝福する意義も意味も感じられないか)