「ぶつかったり話し合ったり…それすら一朝一夕で出来るものではないと実感しています」
意味が分からないから、私は怪訝な顔だけ返した。
まあ、海鈴なりに歩み寄ってるってことなんだろう。
他人事みたいに見切りをつけようとしていたあの頃とはまるで違って。
「そういうもんでしょ、バンドって」
「さすが、言うことが違いますね」
「はぁ？」
茶化しているのか感心しているのか分からない顔のまま、海鈴はまたジュースを口にした。
別に追及したいわけじゃないから、私もそれ以上聞くのを辞めた。
溜息を吐く。
多分このままじゃ、聞きたいことを聞けずに休み時間が終わってしまう。
「お悩みですか」
「そんなんじゃない」
「相談受付中ですよ」
そんな簡単に聞ければ苦労はしない。

私は真顔のままの海鈴をちょっとだけ睨む。
睨んだってなにも進まないことなんて分かってるから、すぐに目を逸らした。
「…睦は、どうなの」
「若葉さんですか？」
さすがに海鈴も怪訝そうな声で聞き返してくる。
私はやっぱりブラックコーヒーにしとくべきだったかなと思いながらジュースを一口飲んだ。
「最近、またTVとか広告とか見るようになったから」
あんなに注目されることを嫌がって、そのせいか分からないけど一時は心を崩すくらいだったのに。
再結成から睦は、なにか心変わりがあったみたいに色んなメディアで目にするようになった。
「若葉さんに特段変わった様子はありませんが」
「…そうなんだ」
あれから睦には会ってないから、そよ伝いでしか様子を聞いていない。
ひとまず元の睦に戻って以前のような不安定さは無いらしい。
それで納得していいのか分からないまま、今日までずっとモヤモヤした気持ちが胸の中でわだかまっている。
他所は他所、と他ならぬ自分が言ったのに。

「なにか気になることでも？」
「……」
私はなにも答えられなかった。
再結成したAve Mujicaが順調そうなのは海鈴を見ていればなんとなく分かって、だから私達にはもう関係ないことなんだ。
燈が読んでくれた祥子の手紙にもあるように、あとはアイツらなりにバンドしていくだけで。
『私も、私なりに自分のバンドを護っていきます』
だからありがとう、さようなら。
私にはそう聞こえた。
心を崩した睦の為に、もう一度CRYCHICをやりたいと言い出すほどだった、他ならぬ祥子がそう言うんだから。
だから今はこれ以上は、私が踏み込むべきじゃない。
なのになんでこんなにもイライラするんだろう。
「…まさか、浮気ですか」
「はぁ？」
私の苛立ちなんて間違いなく１ミリも伝わってない海鈴が、疑いの眼差しで私のことを見つめてくる。
なにをどう捉えたら浮気とやらになるんだ。

「若葉さんは豊川さんに運命を預けましたから。元鞘は出来ませんよ」
「なにそれ」
自慢げな顔の海鈴。
よく分からない企みに、よく分からない自信を持って突っぱねられた気がする。
浮気って、前も三角さんに言ってたっけ。
「ここで違うバンドの私と話してるのは浮気じゃないわけ？」
「…？　言ってる意味が分かりませんが…」
趣旨が違うらしい。こっちのほうが恥ずかしくなってくる。なんだか余計に苛立ってきた。
「私は浮気する気はありません。それに、今はティモリスではなく一学生ですので」
「詭弁じゃないの、それ」
「事実です」
きっぱりと言い切られると、もうそれ以上なにか言う気も起きなくなる。
確かに、と海鈴は続けた。
「立希さんのバンドに一度サポートに出向いたこともありますが」
「あれは…」

当てつけみたいに海鈴を呼んで、もういらないと撥ね退けたのを今更思い出して、私は口ごもる。
…やっぱり私も最低だ。
何も言えずに、私はまたジュースを一口飲んだ。
「それに…あの時点でも私が必要とは思えませんでしたし」
呟くような海鈴の一言に、私はハッとした。
そっか。
私は燈と一生バンドするって誓って。
海鈴も浮気なんてする気も起きないほどAve Mujica一筋で。
つまり、私は海鈴とはバンドすることはないんだ。
──わかれ道の先へ　僕らは歩き出す
燈が書いた詩の一説が頭に浮かんだ。
祥子と睦との間に感じたものは、私と海鈴の間にもあったんだ。
それには、『分かれ道』って言葉がピタリと当てはまるように感じた。
「だからこれは浮気ではありません」

「…そう」
「そうです」
食い気味に返された。
良いことなのか悪いことなのか、私と海鈴にはさようならって雰囲気は全然ない。
道は分かれて、もう同じ道を歩くことはないのに。
どうして祥子や睦のことを考えるとイライラして、海鈴にはそんな風に思えるのか、分からなかった。
「立希さんも、もう元鞘する気は無いと思っていましたが」
「…無いよ。CRYCHICはもう、終わったから」
もう終わって、分かれて、これからは別々の道を行く。
同じ方向へ歩いているとは思えない。
「では立希さんのバンドと私のバンドで、これからも良い関係でありたいですね」
「なにその勿体ぶった言い方」
「なにかと因縁がありますから」
紙パックを持ったまま腕を組んで、海鈴は頷いた。
因縁て…。

けど、海鈴の考えには私も頷ける気がした。
これからも。
２本の道はそれぞれ進む方向も違って、けれどなんとなくお互いを意識しているような。
自分なりに言語化出来なくてモヤモヤする。
燈ならぴったりの言葉を見つけてくれるだろうに。
『私も、私なりに自分のバンドを護っていきます』
『これからの人生に、幸多からんことを』
そう言えば、祥子も手紙で似たような言葉を書いていたっけ。
あの時、私は祥子からの別れの挨拶に思えて、だから全然違う意見を聞いてドキリとした。
──これからもよろしく、的な。
愛音の言葉が、ストンと胸に落ちるみたいに感じた。
悔しいけど、けど自分でも驚くくらいぴったりだと思った。
「これから、か…」
「そうです。お互い、始まったばかりですから」
道は分かれて、同じ道（バンド）を歩くことはない。

けれど、こうして隣で海鈴とジュースを飲みながら喋る事はできる。
道は分かれても、それはきっと近いところにあって。
だから今は会わなくても、歩く姿が見えなくなったわけじゃない。
「…なら私は、」
私達にだって助けを求められないほどプライドの高い祥子が、素直にさようならを告げるわけない。
だから多分、愛音の言う「これからもよろしく」も間違っていないのかもしれない。
今は祥子のことも睦のことも分からない。
分からないけど、私達にはこれからがあって、生憎どちらの道も途切れる気はなくて。
ならそのうち、あの時は大変だったって言い合える日が来るかも知れない。
「私なりにバンドをやっていくって決めてるから。この先もずっと」
「望むところです。私も、私の運命を支払った身ですから」
あんまりにもらしくない会話に私は小さく笑う。
イライラした気持ちは、もう無くなっていた。

ネタ元：
★５ 椎名 立希『進む先にある答え』
イベントストーリー『わかれ道をゆく人たちへ』

感動しました🐼💦

✨️ し感
🐼💦ま涙
✨️ し
　 た
　 ！
…あれ？

(こんなに海鈴まともにもの考えるかな…)

睦が大丈夫なのか海鈴だから何か異常あっても気付いてないか分かんないんだよな…

>(こんなに海鈴まともにもの考えるかな…)
信用してください

いい…

うみたきのカードエピだと海鈴なりに考えてるし…

こういう補完みたいなの好き

そういえば公式の海鈴はこんな感じだった

>そういえば公式の海鈴はこんな感じだった
何が言いたいんだよ…

胡乱な日刊のおかげで真面目なうみたきが際立つ作戦です

真面目なうみたきなんてアニメにバカにされてるからな

日刊はつさき→はつさき同棲END
日刊うみたき→海鈴が実はアホ
と謎の正解を叩き出している…