私、日暮登津子は19歳の秋を迎える。「登るの「登」に大津市の「津」で登津子といいます。けど誰も私の事を名前で読んでくれない。私も役所に出す資料以外全部「トツ子」で済ませている。
「日暮さん」って読んでくれるのはシスター樹里先生、そしてシスター日吉子先生だけ。
　そんなトツ子、大学二年の秋。虹光大学神学科で神について学ぶピチピチの大学生です！
いまは見習い修道女として寄宿舎で暮らしています。シスターとして認められる儀式「誓願」を行うまではとても大変な道のりで。自分自身の信仰の強さを見せないといけないらしい…樹里も日吉子先生もやさしいですが厳しいです！夜中におかしを食べるとおこられます。
「とりあえず大学で勉強しなさい」とシスター樹里。
まずは勉強！っていう事で勉学に励んでおります。

きみちゃんは通っていた定時高校を来年春に卒業する。「大学」にいくらしい。漠然としているけど、「大学」へ進学する事は決めているらしい。いまだに元気なおばあちゃんもいるし！その願いはきっと叶うよ！

　―――問題のルイくん。東京の大学に通って医者を目指す現在二年生。
「買っちゃった♪おかあさんに頼んで20年ローン組んじゃった！」
「学生でローン組めるの？」きみちゃん
「お母さん名義で…この箪笥のローンを支払うというのは、医者になって稼がないといけないと言う自分への足枷なんだ。望んでその枷をボクは引き受けた」
「おいくらまんえんするので？」トツ子は訝しんだ
「壊れて動かないんだけど…高級車が買えるくらいかな？」
　ルイくん、誇らしげだった？
壊れている箱にそんな値段を払えるルイくんの存在は私には謎だった。
　きみちゃんはなぜか恍惚とした瞳でルイくんを見ていた。

「これはモーグ・シンセサイザーといって。世界ではじめてできたまともに音がなるアナログ・シンセサイザーなんだよ。テルミンやメロトロンとは違う、一から音を作れるはじめての電子楽器なんだ」
　ルイくんは嬉しそうに説明する。
「楽器っていうけど鍵盤は？」
「ないよ？」
「「ないの！？」」
「その代わり無数の端子とツマミがあるでしょ？でしょ？
ルイくん上機嫌
「この端子にケーブルを繋いで、ツマミで音をチューニングする。するとすきな音がでてくる…音を探り当てると言う方が正しいかもしれないね」
「めんどうな楽器だね」きみちゃんも思わずツッコム
「そこが楽しんだよ。このシンセサイザーには夢がいっぱいつまってる。けど今は壊れているから音はならない。秋葉原のラジオ会館で毎日パーツを探して、直している最中なんだ」
　ルイくんの東京生活はとても順分満帆そうであった。

「ルイくんがたのしそうでよかった。なんだか私も嬉しくなる」ときみちゃん
　きみちゃんは正直だ、きみちゃんはルイくんの事が大好きだ。
そんなきみちゃんが好きな私がいる。

―――ボク達は、好きと秘密を共有しているんだ。

　あの日のルイくんの言葉が胸の奥で響いている。

ルイくんがホクホク顔で箪笥を撫でている姿はまさに好きと秘密を共有している姿だ

女子二人はいまだにこの箪笥にはちょっと引いているが

「この壊れたシンセサイザーから音を出せるようになったら『しろねこ堂』の音楽性は広がっていくよ！」
「それは…楽しみだね。ライブ会場まで持って行くの…？その箪笥」トツ子
「録音スタジオだけだよ、持ち運びはできないかな…新曲作ろうよ…デモ・テープも作りたいな」
　ルイくんは「しろねこ堂」の活動に前向きだ、じゃないと月一の頻度で東京から長崎にまで帰ってくるなんて事はしない。実際、二枚目のデモテープを作ってはいる
　やりとりはLINEで行う、動画も音声も共有できるから、海を隔てていても楽曲作りには支障はない。だけど、液晶越しのルイくんの顔を見るのはさみしい。生身のルイくんに会いたいな。

「いそがないと、いけない」ルイくんがボソっとこぼす

「いそぐ…とは？」
「ボクはまだ2年生だから一般教養しか学習していない。これから3年生4年生になってようやく医学生の卵として医学の勉強がはじまる。そうなると土曜も日曜もなくなるから。こんなに気軽に長崎へ帰れなくなる」
「ルイくん」きみちゃんが悲しい声をあげる
「でも、LINEでつながり会えるし、楽曲づくりは続けよう！このモーグが完成する頃にはきっとボクも研修医だ、その時一枚アルバムつくれたらいいなぁ…と思っている」
「研修医って何年生でなれるの？」「これから4年後」
4年後―――。4年後の私達は今のわたしたちのままでいられるだろうか？
　4年後のきみちゃん…どうなるんだろう…心配でならない。

　4年後のきみちゃん…どうなるんだろう…心配でならない。
　その気持ちはきみちゃんも同じだった、きみちゃんは小さく震えていた。
「いやだ！ルイくんいかないで！」キミちゃんは勇気を出して叫んだ
「そうはいかないよきみちゃん…ボクはあの診療所を継がないといけないんだ」
「わかってる…けど…」
「きみちゃん…」私はきみちゃんの方を叩いた。ムリな願いっていうのがあるんだよきみちゃん
そんな私達二人を、ルイくんは大きな腕（かいな）で抱きとめる。まるで大型犬のような抱きつきはどこか頼もしい存在でもあった。

「悲しくなる事はない、どんな場所にいても「しろねこ堂」は「しろねこ堂」だよ」

ルイくんの言葉は心に響いた。御言葉より響くものがあった
「そうだね…」「そうだねルイくん」
私達はルイくんの暖かさに抱きしめられるしかなかった。

　そして、ルイくんは再び東京へ旅立った。箪笥は東京で直すらしい

「行っちゃったね」きみちゃん
「でも、私達ずっといっしょだよ！」励ます事しかできない私が悲しい
「ありがとうトツ子！トツ子の事大好き」
きみちゃんは私を抱きしめる。彼女からあふれる「無条件の愛」にわたしは受け入れるしかなかった。
　青と黄緑と赤色が混じり合う。混じり合うと白い光になる
そんな瞬間だった。

　わたしトツ子19歳。秋を迎えますが元気にやっています心配しないでください。
　もちろん、きみちゃんも元気です。

おわり。アマプラ配信おめでとうきみちゃん
これからみんなときみちゃんのかわいさを共有できると思うと嬉しいです

ルイくんはマジで突然モーグ・シンセサイザー買いそうで困る
困らない

買っちゃたんだ…『箪笥』ッ！

そこらへんに楽器が落ちてる世界だから箪笥なんてどこにでも落ちてるだろ

>女子二人はいまだにこの箪笥にはちょっと引いているが
そりゃねえ…

カタ闇
光のトツ子だった

「八百屋が高いんだよ…」
「やおや？」
「TR-808っていうドラムマシーンがあって…エミュレーターでも動かせるんだけど実機でしか鳴らない音がするって石野卓球が教えてくれたんだよトツ子ちゃん」
石野さんの事は存じ上げませんが、ルイくんはやおやについて悩んでいるようです

ルイくん？あの…まともに動く箪笥って世界に数台しかないってタモリ倶楽部が言ってたんだけど？

ルイくんが牛尾憲輔か山田監督に変な入れ知恵されてるな…

静岡でパン屋さんをやっていた入れ墨まみれの変なおっさんに弟子入りするルイくん
ゲンキとサル二人の犬の世話をしている内に
頭角を現し、ついに電気グルーヴのサポートメンバーにまで昇格するルイくん
実家を継ぐ夢はどっかで消えた

ルイくんのイカした趣味のシャツ
全部作画修正されていたねルイくん
悲しいね…無許可だったんだねルイくん

箪笥という多額の借金によりルイママに従属するしかないルイくん
ルイくんは喜んで首輪をつけた
箪笥の魅力を前にすれば、僻地医療を担う医者として一生隷属するなんてなんてことのない事だった

きみちゃんはさぁ…ルイくんの家に嫁ぐんでしょ？

ルイくんがヘンテコな楽器買ってくるお話もっと聞かせて？