二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1757844016461.png-(193687 B)
193687 B25/09/14(日)19:00:16No.1353195224+ 20:05頃消えます
8月も半ばのある日のこと。とある地方都市の、比較的大きな駅の中。
ひとつだけしかない改札の前で、1人の少年が壁に背を預けていた。人を待っているのか、手元のスマホをぼんやりと眺めて時間をつぶしている。

やがて電車の到着を知らせるメロディが構内に鳴り響き、少し遅れて改札に人の群れが流れ込んできた。
少年が顔を上げて改札の向こうへ視線を送ると、ちょうどその先でキャリーバッグを引いたウマ娘がひとり、笑顔で手を振りながらぴょんと跳ねる。

「やっほー! お待たせ〜!」

緩やかに巻いた栗毛の髪に青い帽子を被ったウマ娘──マチカネタンホイザは、小走りで改札を抜けると嬉しそうに少年の方へ駆け寄ってきた。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/09/14(日)19:00:54No.1353195487+
「お疲れ様……って、うわっ!」
「えへへ! 久しぶり〜!」

タンホイザは走って来た勢いで少年の胸元に飛び込むと、その少し華奢な体を力強く抱き締めた。
少年はちょっと恥ずかしそうに周囲を見回しながら、タンホイザの肩を軽く叩く。

「久しぶりって……大げさな。そんなに経ってないよ」
「それくらい寂しかったの! 元気にしてた?」
「うん、まあね。ほら、そろそろ行こう」
「んもー照れちゃってー。ほいほい♪」

タンホイザが少し名残惜しそうに少年を放すと、ふたりは駅の外へ向かって歩き始めた。
225/09/14(日)19:01:29No.1353195683+
「お父さんとお母さんも元気にしてるー?」
「そりゃもう。今ごろご馳走作ってるんじゃない?」
「やった、楽しみだぁ♪」

駅から出ると、まだ衰える様子のない午後の日差しがふたりの顔に降り注ぐ。
タンホイザは帽子の下の目を細め、じんわりと汗のにじむ頬に指先を沿わせて髪を除けた。

「はぁ……どこも毎日あっついねぇ」

ふと、タンホイザの顔に陰がかかる。
横を見ると、少年が広げた日傘を差し出していた。
325/09/14(日)19:02:10No.1353195975+
「はい、どうぞ」
「やさしー。ありがとね」

タンホイザは少年に一歩身を寄せて、小さな日陰の中に入り込んだ。
少年は小さく微笑みながら、そんな彼女の横顔を見つめる。

「……そういえば、ネイチャさんの手伝いはもう良いの?」
「うん。しっかりおつとめ果たして来たからねっ」
「じゃあ、今日からはずっとこっちに居る?」
「うん! ……嬉しい?」
「まぁ……嬉しいけど」
「んふふ〜! 素直でよろしい! 私も嬉しい♪」
425/09/14(日)19:02:43No.1353196179+
やがてふたりは駅から離れ、人影も疎らな住宅街の方へと歩いていった。
そのうち小さな用水路にかけられたコンクリートの橋に差し掛かると、タンホイザは少年の顔を見上げ、いたずらっぽく笑った。

「落っこちないように気を付けてね〜?」
「はいはい落ちませんよ。……毎年それ言うよね」

少年はわずかに頬を赤らめ、憮然とした表情で言った。

「まったく何年前のことだと……そっちこそ、転んで鼻血出さないように気を付けてよね?」
「うひひ。平気だよー、とうっ!」
525/09/14(日)19:03:17No.1353196437+
タンホイザは軽やかなステップで日差しの中へ駆け出すと、軽々と橋を飛び越えていった。
中身の詰まった重そうなキャリーケースまで、まるで重力を忘れたかのようにふわりと宙を舞う。

やがてサンダルの底がこつんと小さな音を立ててアスファルトを叩くと、広がったワンピースの裾が静かに下りて膝を覆った。
少年はその光景に思わず見惚れていたが、振り返ったタンホイザが満面の笑顔を向けると、彼も笑顔を返して橋へと歩き出した。

「さすがG1ウマ娘。相変わらずすごいね」
「ふふん♪ 今でもこれくらいはね!」
「……そういえばさ」

再び日傘の陰にタンホイザを迎え入れながら、少年はふと遠くを見つめて言った。
625/09/14(日)19:03:52No.1353196660+
「僕もネイチャさんの講演、動画で見たんだけど。……やっぱり、ウマ娘って走るのが一番幸せ? 今でも走りたいって思う?」
「え? んー、そうだなぁ……走るのは確かに楽しいけど、幸せっていうのはまた別かなぁ」

タンホイザは顎に指先を当て、少し考えこみつつそれに答える。

「一人で走ってもそんなにだし。だから一緒に走ってきた友達とか、応援してくれるファンの人たちとか……レースを通じて出会ったみんなが、私の幸せなのかなって」
「……それって、“トレーナーさん”も?」
725/09/14(日)19:04:24No.1353196861+
少年が小さく笑いながらそう言うと、タンホイザもくすくすと笑った。

「そ、“トレーナー”も! ……今もみんなが居てくれるから、引退した後もずっと幸せだよ」
「……そうなんだ」
「うん。それに今は、もういっこの幸せも──」

タンホイザは少し背伸びをすると、少年の頭に手を乗せて、彼女とよく似た栗色の髪を優しく撫でた。

「──ほら、こんなに大きくなりマチタン♡ ……もう落っこちたりしないね♪」
825/09/14(日)19:05:00No.1353197116+
少年は再び頬を染めて、照れくさそうに笑った。

「……なら、良かったけど」
「ふふ。……だから、昔のファンと会えるネイチャの活動には感謝してるんだー。夏休みに寂しい思いさせちゃって、ごめんねだけど」
「べ、別にそんなこと……母さんがやりたいことなら応援するよ」
「ありがと。なんかそういうとこ、パパに似てきたねぇ〜」
「え、そうかな……?」

話しながら、ふたりは再び歩き出す。
娘と孫の帰りに合わせ、店主が腕をふるっているであろう食堂へ向けて。
925/09/14(日)19:05:31No.1353197339+
「……そういえば、父さん合宿が終わったらこっちに来れるってね」
「えっ!? そうなの!? やった、うれしー!」
「え、母さんのとこに連絡来てない?」
「……あ、未読無視してた。てへへ」
「もう……早く返信してあげたら?」

少年は苦笑しながら言った。


「……待ちかねてるよ、きっと」
1025/09/14(日)19:10:57No.1353199516+
一応補足するとこの頃のネイチャは引退したウマ娘とファンの交流の機会を作る活動をしていてタンホイザも時々手伝っているという設定です
ちょうど旦那が合宿で忙しい夏休みに重なったので息子たちはお祖父ちゃん家に数日預けられました
ちなみにアラフォーくらいです
1125/09/14(日)19:18:16No.1353202716+


1757844016461.png