「見つかった?」 窓に打ち付ける雨を眺めながら返事を待つ。 イチカに返されたの言葉はいつもと同じだ。 嘆息一つ。もう今日まで何度ついたか分からない。 「お疲れ様」と異常気象の中を走り回ってくれるイリーガルモービルを労って、通話を切る。 そのままベッドへ身体を投げ、いつも隣にあった温もりを探した。 「……ああ」 そうだった。 まだ、彼女はここに戻ってきていない。 アリエルが姿を消してからもう一週間。 追跡に出していたイリーガルモービルも何故か振り切られてしまった。 自分の足でも彼女を追った。UGNに応援も頼んだ。 それでも、足取りはまだ掴めないままだ。 独力でアリエルがそれを成し得たなら、素直に賞賛しよう 。忍者もかくやの隠密技術だ。 だが、私の見立てでは彼女はまだ実践に足りうるだけの領域に達していない。 そよ風を起こすのが精一杯。それが彼女の実力だ。 だから、彼女の身に何かが起こった。そう考えるしかない。 「……どこで間違えた?」 無意味な自問だ。 アリエルを自分の現場に連れ出してもきっと私は後悔したし、彼女も心か身体に癒えない傷を負う羽目になっただろう。 だから、なるべく彼女を危険から遠ざけた。 傷つくかもしれないことに触れさせたくなかった。 後は……そう、血に汚れるカッコ悪い自分を見せたくなかったのかも。 結果が、このザマだ。もう少し上手く、私はできたんじゃないのか? ベッドから身を起こす。 片付けられた積本、チリのないフローリング、シワのないワイシャツ、ピカピカの食器。 部屋に残された彼女の足跡が、私の足にぎゅうと絡みついた。 恩返しですから。 そう言って微笑んだ彼女の姿が、この部屋に焼き付いている。 どこにもアリエルはいないのに、私が突き放したのにも等しいのに。 意味もなく、報われることもなく、部屋の中に彼女を探した。 今何かを手放せば、君は戻ってきてくれるだろうか。 今怪我をすれば、君は飛んできてくれるだろうか。 「……バカを言うなよ」 しがらみを振り払うようにかぶりを振る。 見せていいのかよ。苦悩する私の姿をアリエルに。 それでいいのかよ。想い出に足を取られて、うずくまっているままで。 「ダメだろ、それじゃあ」 取り返しがつくかは分からない。 ひょっとしたらもう私の手の届かないところまで行ってしまったのかもしれない。 ──だからと言って、諦める理由にはならない。 後悔するには早すぎる。 お前はまだ、八方手を尽くしてすらいないのだから。 「昨日本棚を頼んだんだ。こういうことに横着する私にしては、珍しいだろ?到着まではこの天気だからしばらくかかるみたいだけど」 「届いたら二人で作ろう。そしたら本屋に行こう。そうだな、コナンの実本とかはどうだろう?」 願いを口に、今一度身体に気力を通し直す。 いつまで保つか分からないが、とりあえずはこれで。 「こう見えてお巡りさんだからね」 「探し物は、結構得意な方なんだ」