二次元裏@ふたば

画像ファイル名:1757780123246.png-(133747 B)
133747 B25/09/14(日)01:15:23No.1352976856+ 06:10頃消えます
ほんの少しだけ欠けた月が、空の天辺を折り返したところだった。
今日は十三夜。満月の少し前のこの月を、昔の人は十五夜の次に愛したという。それはきっと、あと少しで満ちる月を見ていると、明日が楽しみに思えてくるからだろう。
既に日付が変わったというのに、家の近くの公園のベンチに腰掛けたまま既に三十分が過ぎた。特に目的などはなく、ただ月を見ていたくていい場所を探しているうちにこんな時間になっていた。
昔は夜空に目を向けることなどなかった。どこまでいっても地上の住人である自分には、空の上がどんなに綺麗だろうとそれを気にする余裕がなかったのだ。
けれど今は、目に映るものがほんの少しいつもより綺麗なことが嬉しいと思える。誰にそんな趣味を伝染されたのかは、言うまでもないことだけれど。
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/09/14(日)01:15:53No.1352977005+
しんと静まりかえった秋の夜の空気に、いつの間にか陽気な足音が響き渡っている。どこから来るのかと起き上がろうと思った時には、もうくすくすと微笑む彼女の声がきこえていた。
いつもながらやはり彼女の足は速い。ぴんと立った影の先で、青い星がきらきらと光っている。
待ち合わせなどしていなかったが、少しも驚かなかった。目の前に覆いかぶさったその影は、いつも突然自分の空にやってくるからだ。
「へんな月食だな」
「空ばっかり見てるのが悔しくてさ」
かわいらしい影の主が、にっこりと笑うのが見えた。
225/09/14(日)01:16:14No.1352977092+
空を眺める人影がきみだとわかったとき、ひどくうれしくなってしまった。別に約束をしていたわけではないのにそこにいることが、アタシと同じように夜を歩きたくなったのだと教えてくれたからだ。
「もしかして、シービーも散歩?」
「ふふふふっ。ちょうどきみを誘おうって思ってたんだ。
やっぱりいい夜だよね、今日は」
レモンみたいにみずみずしく光る月を見ていると、そんな光に照らされたらあの景色はどう見えるのだろうとつい気になってしまう。きみも同じ気持ちだったんだと思うと、またきみが好きになった。
325/09/14(日)01:17:29No.1352977476+
アタシが隣に立つと、きみもアタシと同じようにうれしそうに笑っている。
だから、いいよね。今よりもっといい景色で、それを見たいと思っても。
「丘の森の端に月がかかったら、きっと綺麗だよ」
きみの笑顔が、今度は少し困ったような苦笑に変わる。仕方ないなと受け入れてくれる優しさも感じるから、この顔も好きなのだけれど。
「でも、今から行っても多分間に合わないぞ。シービーは走ればいいかもしれないけど」
確かにきみには、無茶なことをたくさん言ってきたかもしれない。でも、アタシだってちゃんと考えてるんだ。
「うん。だから、乗って?」
アタシのほしいものを、ぜんぶ手に入れる方法くらい。
425/09/14(日)01:17:48No.1352977598+
きみの顔が、今度は少し不安そうに顰められるのがわかる。嫌がってるんじゃなくて、心配してくれてるってことも。
「大丈夫か?」
「大丈夫だよ。
きみに鍛えてもらってるんだから」
でも、アタシの提案を聞いた一瞬、きみの目がきらりと輝いていたことだって、アタシにはちゃんとわかっている。
「行こうよ。あの景色はきみと見たいんだ。
きみとじゃなきゃ、やだ」
そんなきみだから、アタシはどんどんわがままになっていく。楽しいことに遠慮なんてしない、ほんとのアタシになれる。そんなアタシをきみは好きでいてくれるって、信じてる。
525/09/14(日)01:18:37No.1352977835+
森に着いた時には、ちょうど丘の杉の木に月がかかっているところだった。
「ぎりぎりだったな」
「でも間に合ったよ」
多少いつもより走りにくかったけれど、トレーニングの負荷と思えばさほど苦にはならない。それに、ただの無機質な重りときみを乗せるのとでは、重さは同じでも心の弾みが段違いだ。
「シービーが飛ばすからだろ」
「いいじゃん。楽しくなっちゃったんだもん」
おかげで自然と脚が動いて、きみにちょっとしたレースの気分を味わわせることになったかもしれない。でも、どんなに飛ばしても止めてと言わなかったのは、アタシと同じようにきみも楽しいと思ってくれた証拠だ。
625/09/14(日)01:18:52No.1352977919+
アタシより先にきみが腰を下ろして寛ぐのは、少し珍しい。さっきあんなに渋っていたのが嘘みたいにこの景色を楽しんでいるきみを見ると、ちょっぴり意地悪な誇らしさが顔を覗かせる。
「風、気持ちいいな。地面も柔らかくてこのまま寝ちゃいそうだ。
来てよかったな」
「ね。言ったじゃん」
でも、本当のきみはアタシより意地悪だ。アタシの心にまっすぐ響く言葉を、普段はどこに隠し持っているんだろう。
「うん。綺麗だ。
シービーも、なんかいつもよりキラキラしてる」
725/09/14(日)01:19:31No.1352978095+
夜はたくさんの幻想を懐に抱えてくれる。
世界にアタシたちしかいないと思い込むのも、夜の闇は許してくれる。そんな優しい静けさが、何度味わっても好きだ。
「やっぱり、夜はいいね。
いつもより世界が広く感じる」
夜が好きな理由はもうひとつある。きみがいつも恥ずかしがってしまい込んでいる詩人の心が、夜風に誘われて出てくるからだ。
「そうだな。
今だけ、世界がぜんぶ自分のものになったみたいな」
普段からもっときみの想像を聞きたいともどかしく思うこともあるが、今は今で悪くない。
こんな夜にだけ本当のきみに会えるというのも、素敵なことだと思うから。
いま、アタシときみは同じ世界を見ている。同じものを見つめて、同じ幸せをふたりで分かち合っている。
なら、きみの言う通りだ。世界はアタシときみのもの。
「じゃあ、半分こしようか。アタシときみで」
でも、やっぱりアタシときみは違う。きみはアタシよりずっと慎ましやかだ。
「そんなにいらないよ。全部シービーが持ってていい」
アタシと似てるところも、アタシと違うところも、アタシをわくわくさせるのには変わりないのだが。
825/09/14(日)01:19:54No.1352978194+
手に入らないものを掌に乗せたつもりになって遊ぶのは、なんと楽しいことだろう。
そのおもちゃはうんと大きいのに、アタシときみにしか見えないのだから。
「きみは謙虚だね。
じゃあ、ちょっとだけあげる」
大きな大きな、果てしない世界。
でも、アタシがきみにあげる場所はもう決まっているんだ。
「ここ。
ここが、きみの場所」
アタシの隣の草原をぽんぽんと叩くと、きみが何よりも幸せそうに微笑んでくれたのが、ひどくうれしかった。

アタシの隣をきみにあげよう。
今はここにいて。遠くに行っちゃやだ。
美しいものを想うときは、きみに隣にいてほしい。
きみを抱きしめて、この世界をきみと見られるのがうれしいんだって伝えたいから。
925/09/14(日)01:20:13No.1352978270+
アタシのあげた場所にゆっくり腰掛けたきみを見ていると、もう我慢できなくなってしまった。
「わ」
「ふふ。だめだよ、逃げたら。
きみの場所はここなんだから」
倒れるくらい勢いよく抱きついたアタシを受け止めて頭を撫でてもらうと、幸せってこういうことなんじゃないかと知ったようなことを言いたくなる。
「逃げないよ。逃げたくない」

髪を撫でる涼しい風が好きだ。小さくて聞き逃してしまう音も包みこんでくれる静けさが好きだ。
夜のぜんぶを、アタシは愛してる。
でも、それをきみの腕の中で味わうともっと美しく思えるってことは、きみに出会うまで知らなかったな。
1025/09/14(日)01:20:24No.1352978308+
「ね」
「ん?」
あの言葉がこの夜の中で何度も繰り返されてきた理由が、わかる気がした。
こんなにも綺麗なものをくれるひとがいるから、言わずにはいられないんだ。
「好きだよ。
きみのこと、大好き」

だから、何度でも同じ夜を明かそう。
その数だけ、きみを好きになるから。
1125/09/14(日)01:20:54No.1352978448+
おわり
シービーとお月見したいだけの人生だった
1225/09/14(日)01:22:47No.1352978941+
月が綺麗ですねって言われて満足そうににっこり笑うCB
1325/09/14(日)01:26:52No.1352979937+
奔放に見えて他の人の自由も尊重するからわがまま言うのが愛情表現になってる女
1425/09/14(日)01:36:17No.1352982082+
猫の隣に座っても逃げないときの嬉しさに似ている
1525/09/14(日)01:37:01No.1352982252+
ふたりで歩いて家に帰り着いたときには、すっかり日が昇っていた。
「あは。すっごい眠いや」
「俺も。今日が休みでよかったよ」
お互いにシャワーを浴びて汗を流すと、溜まっていた疲れがどっと染み出してくる。正直なところ、今すぐ布団に飛び込んで寝たくて仕方ない。
それはきっと彼女も同じなのだろうが。
「一応言っとくけど、俺のベッドだぞ」
「んー、だめ?」
ごろりとうつ伏せに寝転んで我が物顔で脚をばたつかせてみたり、先にシャワーを浴びてもこちらが上がるまで起きて待っていてくれたり、わがままなのだか律儀なのだかわからない。だが、その不敵な微笑みは既に答えを知っているが故のものだというのは、はっきりしていた。
「だめじゃない」
1625/09/14(日)01:37:11No.1352982299+
「言ったじゃん。
きみの居場所はここだよ」
自分の隣をぽんぽんと叩いて笑う彼女が、愛おしくて仕方ない。だからこっちも、嬉しくないふりはやめることにした。
ゆったりとベッドに身体を横たえると、どちらともなくお互いを抱きしめた。ほんのりと甘いシャンプーの匂いとほんの少し高い体温が、心地よい眠気を一気に加速させてゆく。
でも、寝てしまう前にこれだけは言わなくては。
「シービー」
「ん?」
「好きだよ。
大好き」

唐突に告げられて言葉が出ない彼女を置き去りにするように、瞼を閉じて睡魔に身を任せる。たまにはこうやって、彼女をからかって逃げおおせてみたかったのだ。
きっと彼女は、夢の中まで追いかけてくれるから。
1725/09/14(日)01:37:41No.1352982391+
おまけ
シービーにからかわれたりたまにからかったりしながらいちゃいちゃしたいだけの人生だった
1825/09/14(日)01:40:28No.1352983064+
多分このトレーナーの家には当たり前のようにシービーの着替えが置いてある
1925/09/14(日)01:43:18No.1352983671+
からかった罰としてCBが満足するまで離してくれなくなる
2025/09/14(日)01:48:36No.1352984880+
このあとも昼間に起きてごはん作って映画見て夜風に当たって…って一緒にやってたせいで二人とも生活リズムを戻すのに苦労しそう
どうせだからって直すときにも一緒にいながらやってほしい
2125/09/14(日)01:53:39No.1352986055+
籍は入れてないだけでもう結婚してそうな距離感
2225/09/14(日)02:25:41No.1352991403+
フリーダムキャッツ!


1757780123246.png