コングロメレートへと突入したゼノリスは分断を受けるも、その大半が合流を果たした。
だが、その立役者であるはずの、東雲佳直とミリア・ビヨンドの姿がない。
そこに、アルダが叫ぶように発した。
「佳直から拙者に、着信が来ている!
このまま応答する!」
彼は即断し、佳直との通話を開始した。
「こちらアルダ。佳直、何があった――」
『アルダさん、こちら東雲です。正直だいぶ押されてます……
今はミリアさんに任せて、通常時間に留まってこの連絡をしてますが……このままでは勝てません!』
「こう言うべきではないのかも知れぬが……無理はするな」
『ありがとうございます……
僕とミリアさん以外のみんなは合流できたと思うんですが……そこで皆さんに頼みがあります……!
ナハヴェルトと十二枚の祖霊板の繋がりを、断ち切ってください……!
僕たちが勝つには、それしかない……!』
「佳直、無事なのか佳直!」
アルダのその呼びかけが、今や聞こえているのかどうか。
『後は……皆さんに託します……!
どうか歴史を……守ってください――』
そこで、通話は途切れた。
佳直の声は、ひどく切実に聞こえた。
「佳直……断ち切るとは、どうすれば良いのだ……?」
問いかけるアルダに、シリルが懐から手錠のような道具を取り出しながら答える。
「先日、ボクたちはナハヴェルトの母親、リカーシャ・カインから祖霊板を剥奪したことがある。
あの時は、彼女を戦闘不能になるまで痛めつけてこの魔術錠を嵌めることで、祖霊板との繋がりを遮断できたけど……
でも、そのことを知ってる上に、母親よりも強いであろうナハヴェルトが、同じことを許すとは考えにくいね」
「だったら、ナハヴェルトが強大なことは前提として、それでも祖霊板を奪い取るか……
もしくは祖霊板の影響を回避して彼女自身を封印などする手段を考えなければなりませんね。
推察するに、物理的に奪取すれば済む話ではないようですけど」
それを受けて、シルビアが考えを述べた。
顎を捻る仕草をしながら続くのは、エリスだ。
「そのやり方は佳直も知らないわけよね、知ってたらアルダに教えてるでしょうし……
私たちに丸投げなんて、見た目の割にいい度胸してるじゃない、あの子」
一方で、04は討議の輪から少し離れ、しゃがみ込んで黙っていた。
(あ“ー、お頭のおよろしいお話は苦手だぜ……
ナハヴェルトとかってのがそんなに強えんなら今すぐタイマン張りてーんだがなぁ……
東雲の野郎、何処にいるのかくれぇ言えよな)
「ゼロフォーくん、折角だから一緒に考えてみましょう?
自分の頭が悪いなんて決めてかかることはないわ?」
声をかけてきたフィーネに驚いて、04は呻いた。
「あぁ!? いや今……オレ何も言ってなかったよな!?」
「わたしにも聞こえたけど、今の愚痴」「ごめん私も聞いちゃった……」
「冗談だろ!?」
メリーとミナに指摘され、04はにわかに狼狽する。
そこにヨーコが、左側頭部の翼を揺らしながら告げた。
「声に出てたわけじゃありませんよ。
っていうかこれは……」
思い当たったのか、グリュクが叫ぶように声に出す。
「ミルフィストラッセの粒子だ!」
目を凝らせば周囲には虹色の粒子が漂っており、彼らの意思や思考を媒していた。
ミルフィストラッセにファスト・ブースターを挿入したことで、『共有』の力を持つ霊剣と『接続』の力を持つE-ギアが一つとなった。
ミリアに発現した超光速の力を、今や疑似的に佳直も共有している。
これならば、神格能力の第二段階――死の時間遡行を行い、過去の自分へと情報を渡す力――に目覚めずとも、ナハヴェルトに対抗することが可能だ。
ただし対抗可能とはいっても、敵の操る十二階梯儀式は強力無比だ。
ともすればそれは、全知全能に限りなく近いかも知れない。
佳直とミリアだけでは、如何に霊剣とE-ギア――そして奇跡のもたらした力――があろうとも打ち克つことは不可能だ。
仲間たちの助けが、必要だった。
そこで、ミリアが提案する。
「みんなで考えれば、何とかなるよ!」
彼女の考えは声に出さずとも、そして短時間の時間遡行を伴う超時間戦闘の中でも、E-ギアを通して佳直に伝わってきた。
ナハヴェルトとの戦いに使う力を、少しだけ割く。
ファスト・ブースターの『接続』と霊剣の『共有』の能力で、ゼノリスの仲間たちの心を繋ぎ合わせるのだ。
ただ、問題があった。
「でも、ナハヴェルトの過去改変を止めながら……つまり時間を超えながら戦ってる僕たちの考えをみんなに届けたら……
時系列がバラバラになった支離滅裂な思考の塊を送り付けることになっちゃいますね」
「じゃあ、粒子だけ送って、みんなに任せよう!
ボクたちはナハヴェルトちゃんの引き留めに専念して、フィーネさんたちに何とかしてもらう!」
(それが良かろう、行くぞミリア!)
「うぉおおおおおっ!」
気合を入れるミリア。
だが彼女は途中でそれを中断し、
「あ、カナオくん。ちょっとだけ通常時間に留まって、誰かにそのことを連絡できない?」
「や、やってみます……! 申し訳ないけど、その間は一人で凌いでください!」
「よぉし、やるよっ!」
そのやり取りに気づいたナハヴェルトが、彼らへと接近する。
「小賢しい……させませんよ!」
そこに立ちはだかって、ミリア。
「キミの相手はボクだ!
勇者ミリアが怖いなら、ボクから逃げてもいいよ!」
「舐めるな……!」
(……思ってたより単純……?
それとも引っかかった振りなのかな?)
ミリアは彼女に応戦しながら、霊剣の粒子をコングロメレートへと流し続けた。
その虹色の粒子がうっすらとした密度ながら、小天体コングロメレートを覆い始めていた。
アルダは少しばかり戸惑いつつも、通信を通じてサニーに尋ねる。
「サニーよ。今、拙者たちの周囲には思考を共有させる粒子が漂っている。
佳直とミリアの意図は、これを用いて解決策を見出せということであろうか?」
『こちらの機材ではそうした粒子の存在は観測できないが、そう考えるべきだろう。
絆を深めようなどという絵空事で打倒できる敵ではない筈だからな』
答える彼女に、アルダは頼み込んだ。
「ならばお主も知恵を貸してくれ。
地球にいるお主の思考は共有できぬから、拙者を通してという形になるが」
『いいだろう。多分に希望的観測が混じるが……
このコングロメレートの成り立ちは、ダッジャールが推測していたな』
「うむ。ポータルを使って異世界から召喚した資材や建造物の集合体ということだったが」
『こちらで大雑把に解析したコングロメレートの質量は、5.9x10の18乗――およそ590京トンになる。
これは地球の10万分の1ほどだが、それでも恐るべき質量には違いない。
この質量を達成するには、この72時間で召喚したと大雑把に仮定しても、1秒間に22兆トン以上を休まずポータルから召喚し続ける必要がある。
22兆トンとは水に換算すれば1辺28kmほどの立方体で、底面の面積だけでも秩父市と飯能市を合わせただけの大きさがある。
それだけではなく、これを直径2kmあまりの狭いポータルから毎秒休まずひねり出したと仮定すると……
全て水で代入すると、1秒当たり7245km余り。マッハ2.1万の勢いで噴出していたことになるな』
「そんなに」
『実際にはコングロメレートの構成物質は水ばかりではないし、ポータルを移動できるなら面積の拡大もできるかも知れん。
召喚の勢いはもう少し穏やかだっただろうが、結局そんな大質量を急いで召喚したことには変わりがない。
少なくともこれは、召喚する対象を厳選していては間に合わない量ではないか?』
アルダは、己が何かに気づきかけていると感じ、顎に手を当てた。
「そうか……このコングロメレートは、ナハヴェルトが無数の異世界から召喚した地形や建造物。
それが寄り集まってできているのであれば」
そこまで聞いて、シリルが自らの拳でもう片方の掌を打つ。
「なら召喚対象を厳選していない以上、様々な世界の知識や技術が、そこに巻き込まれて召喚されている可能性が高い……?」
「そういえば、心臓の女王陛下には迷路がついてきたっけ」
メリーが虚空を見上げて、口にする。
続いて、グリュクとホロウが思い当たったことを言う。
「俺たちが相手をした審問装置は、都市の廃墟とセットだったな」
「オレッチたちが飛ばされた異世界には、脱出の鍵になる魔法のかかったリンゴがあったなぁ」
フィーネとミナも、それぞれの見解を述べる。
「世界樹さんが枝を分けてくれたようなものかしら?」
「中にはこのメイスに宿ってくれた心臓の女王様みたいな、こっちが有利になる人やアイテムが混ざってるかもってことですかね」
「それを探せってことぉ? ヤぁねえ面倒臭そう……」
「探しはしますけど……運よくそんな、祖霊板を引き剥がせる奇跡のアイテムが見つかるでしょうか?」
露骨に顔をしかめるエリスに対して、シルビアは純粋に不安を覗かせる。
それに答えて、ヨーコが言う。
「そこはほら、組み合わせてクラフトしてもいいのでは?
このルセルナさんなんか世界樹が生えちゃってますし、そんな感じで」
ヘアバンドをわずかに上げながら04が、しゃがんだままぼやくように発言する。
「つまりヨォ、この面子で意識を共有して、知恵を出し合ってそれを作れっつーことか?」
「今のところ、ボクらではミリアさんとカナオくんの戦いには加勢できそうにないからね。
できることを、やるしかないだろうさ」
そう言うと、シリルはその場の全員を見回して、尋ねた。
「……ところで、そうなるといよいよ、この全員で動くことになると思うんだけど……
この中で集団の指揮を取ったことのある人、いる?」
「………………」
手を挙げる者はいない。
一応、といった様子でグリュクが小さく手を挙げるが、
「……会社で戦闘の訓練教官みたいなことはたまにしてるけど、指揮となるとちょっと、自信がないな。
やれと言われたら努力はするけど」
アルダは耳元に手を当て、サニーに尋ねる。
「サニー、拙者たちのサポートで仕切りは慣れていよう。何とかできぬか?」
『私は地球にいるんだぞ。そして地球はまだ自転している。
もうすぐコングロメレートが飯能市から見て地平線の向こうに消えるから、各種の中継衛星が消えた今の状況では、この通信もしばらくできなくなる』
「拙者たちの乗ってきたロケットを中継器にできぬか?」
『ロケットは直径200km程度のコングロメレートの、地表上空2、300kmを周回しているようだ。
そんな軌道にあるのでは、どちらにせよ地球からの通信を中継するなど――』
「む、サニー? 声が聞こえづらくなってきているのだが……」
『―--…――-―---――……』
アルダのスピーカーから聞こえていたサニーの音声は、ホワイトノイズに変わってしまった。
彼女の言う通り、コングロメレートが飯能市から見た地平線の向こうに落ちたのだろう。
シリルが腕を組んで、ため息交じりに宣言する。
「じゃあ、僭越ながら暫定的に、ボクが仕切ろう。
一応年の功はそれなりにあると思うから、頑張るつもりだけど……
代わりに指揮を執りたい人、いる?」
「…………積極的にやりたいという程では……」
かくして、祖霊板切り離し作戦の準備が始まった。
ナハヴェルトから祖霊板を奪うか、封印などするための手段を探す、そのために。
一行は虹色の粒子で考えを迅速に共有し合いながら、探査に入った。
コングロメレートにおける、建築物などによる凹凸を除いた地表の平均直径はおよそ200km、周長は630km弱。
ここから推定される地表面積は12万6千平方kmほどであり、更に地下も含めた体積は420万立方kmほどとなる。
ゼノリスはここから、ナハヴェルトの祖霊板を無力化することに必要なアイテムを探し出すのだ。
「世界樹の……祝福の息吹よ!
いいわ、3人とも!」
雲を突き抜けて聳え立つ塔の途中、展望台と思しき場所で、フィーネが合図を送る。
「然らば、参る!」「行くぜぇ!」
同じく塔の上に立ったアルダとホロウから、霊波が球状に広がっていった。
「検め尽くせ!」
一方で、グリュクは魔法術を用いて念動力場を広げていく。
彼らのいる展望台の高さは推定で1000mほど、用途は不明だが、彼らはここを探査の最初の地点に定めていた。
ここから、アルダとホロウは霊波通信の応用で霊的物品を探査する。
グリュクは念動力場と塔の刻印の盾で、魔力を放射するアイテムや金属反応などを検索する。
世界樹の若枝の力で彼らの探知範囲を拡大するのが、フィーネの役割だ。
更に、彼女の後ろにはシルビアが待機している。
虹色の粒子を通して指揮を執っているのは、シリルだ。
「まず最初に欲しいのが、魔力や霊力、体力を回復するアイテムだね。
探知にもエネルギーが必要だから、それが尽きて長時間休む必要が生じる事態は避けたい」
アルダとホロウ、グリュクが得た情報は、虹色の粒子を通してシルビアに伝わっている。
彼女はその魔法少女システムがエネルギー源としている『人造神格』に情報的に接続し、そこから『理解』の権能の一部を得ていた。
三人から流れ込んでくる膨大な情報を取捨選択し、求めているものかどうかを判断することが可能になるのだ。
シルビアは虹色の粒子を通して、シリルに伝えた。
「2時から3時の方角、地表に露出している石造りの倉庫の中……魔力を貯めた薬品が備蓄されているみたい」
「よし、ゼロフォーとルセルナ、メリーさんに頼もう。
ルセルナが運搬役、ゼロフォーは波動熱線を船体後方に噴射してルセルナを加速、メリーさんは臨時班長で」
「オレがメリーの部下かよ……」
差配にぼやく04に、虹色の粒子を通してシリルが笑いかける。
「人にあれこれ指示出すの苦手でしょ?」
「うっせぇ、行くぞオラ!」
「全く、万年反抗期なんだから」
「聞こえてんぞメリー!!」
彼はメリーと共にルセルナに乗り込むと、大黒を顔面に装着して波動熱線を噴射、船体を加速させた。
それを見送りつつ、シリルが口にする。
「次に欲しいのは瞬歩、あるいは高速移動のアイテムだね。それかルセルナみたいな乗り物。
常時高速で移動ができるメンバーは限られているから、迅速な資材の輸送のためにもそういうのがあるといい」
「10時の方向、地表に高速飛行が可能な船が小破状態で擱座しています。無人のようです」
シルビアの報告に、エリスが肩を竦めて言った。
「えー、でも私たちのお船は行っちゃったわよ?
あたしの瞬間移動は知ってる相手か、電話に出た相手じゃないとできないし……そもそも大荷物は運べないわ」
「問題ないと思うよ」
「はぁ?」
エリスが眉根を寄せるが、シリルは意に介さず、そしてシルビアがミナの方に視線を向けて解説する。
「友誼を結んだ心臓の女王陛下の加護で、今のミナさんは空が飛べますね。速度も出せるみたいです」
(良かろう)
頷く女王が宿るメイスに向かって、シリルは恭しく礼をした。
「では女王陛下、ミナさんとエリスとヨーコさんを頼みます」
(心得た)
ミナのメイスが、彼女をぶら下げたままゆっくりと空中に浮き上がる。
それに驚き、じたばたと狼狽するミナ。
「わー、ウソ!? 本当に飛ぶんですか女王様!?」
(任せよ、悪いようにはしない)
「じゃ、私が上ね♪」
「隣、失礼しますよミナさん」
エリスはミナのメイスの上に横向きに座り、ヨーコがミナの隣にぶら下がる形となる。
ミナは女王に問いかけた。
「いいんですか三人乗りでも!?」
(汝の友は我の友)
「うぎゃあああああぁぁぁぁぁ――」
心臓の女王が入り込んだメイスは急加速し、ミナの悲鳴と共に空の彼方へと飛び出していった。
シリルは彼方にきらめく彼女たちの影を見送りながら、呟く。
「……ゼロフォーたちが戻ってきたら、次は採掘ゴーレムみたいなのも探してもらおうかな?」
(シリルくんは人使いの荒いタイプだなぁ……)
シルビアはシリルに気づかれないよう、こっそりとそう考えた。
そうしたことを人員を入れ替えつつ何度か繰り返し、ゼノリスは多くの財宝を発掘した。
座ると全てを見通す、神の玉座。
あるいは仙道の作り出した反魂の香。
またあるいは、その惑星に生きとし生けるもの全ての霊力を凝縮した霊玉。
その総質量は新たに獲得した飛行船舶を除いても推定で1000トン以上に及び、中には小さな自動工場すら混じっていた。
これらを用い、あるいは組み合わせて、ナハヴェルトの祖霊板を無力化するのだ。
財宝は塔の近くにあった広大な飛行場のような場所に集められ、シリルはそれらを見渡しながら言った。
「とはいっても、多分このままじゃ十二重の霊的結合で祖霊板と繋がっているナハヴェルトに通用しないから……
次はボクが考えておいた搦め手を実現するための工作作業に取り掛かる」
それを聞いたメリーが、尋ねる。
「工作って……やっぱりヨーコさんが言ってたみたいに切ったり貼ったりするんだよね?」
「そうだね。組み合わせるだけでいいものもあるけど、その種類はできるだけ多く用意しておきたい。
味方に祖霊板を持ってる人なんていないから、実際に試し撃ちして効果を確かめるなんてことが出来ないわけだからね。
シルビアが『理解』の権能と接続しているから、理論上の効果については彼女に事前に判断してもらえるけれど――」
「…………」
ホロウは黙っていた。
迂闊に「オレッチ霊的生命体だから、祖霊板の代役ができるかも知れないぜ?」などと発言して余計な危険を負いたくないためだ。
だが、そこで04が彼を指さし、言う。
「んじゃあよ、ホロウの奴が幽霊みたいなナリしてっから、代わりに試してみればいいんじゃねえのか」
(ぎゃああああ、黙ってろゴジラ野郎!)
ホロウが心中で声に出さずに絶叫すると――虹色の粒子の作用で聞こえていた恐れもあるが――、シリルが反駁する。
「ボクもそこまで詳しいわけじゃないんだけど、祖霊板は人間の魂を儀式で凝集して形作った霊具だ。
霊そのものみたいな形態で動き回ってるホロウに効いたからって、12枚持ちのナハヴェルトに通用するとは限らない」
「そうだそうだー」
「チッ」
勢いづくホロウ、わざとらしく舌打ちをする04。
シリルはメリーの方に向き直って、
「まぁそれはともかくとして、だ。
メリーさんの心配は、魔具やら霊具やらの加工・組み合わせ作業のできる人がゼノリスにいるのかって話だよね」
「あ、そうそう……わたしやったことないから、手伝いくらいしかできないかも……」
「いやいや、ぴったりの人がいるじゃない?」
「え……?」
「誰ぇ?」
メリーとエリスが不思議がると、シリルはヘアバンドを目深に被った長身の少年に向かって、微笑んだ。
「ねぇ、ゼロフォー?」
「その黒いのが役に立つってことぉ?」
エリスの質問に、「大黒」を取り出しながら04が答える。
「……まぁ、そんなとこらしい。知識の方はオレも今まで知らなかったがな」
「球体の体積の求め方は?」
「あ”ぁ……!? えーと……ぱ、π……ぐ……く、そういう知識じゃねーんだよ悪かったな!?」
だがアルダから訊かれ、反逆者は返答に詰まってしまった。
助け舟というわけではないだろうが、そこにグリュクが考えを述べる。
「ミルフィストラッセみたいな感じかな?
それが必要な場面に出くわすと、対応した知識や技術が再生されて、使用者に定着していくっていう具合だ。
あんまり初歩的な定理や常識なんかは、単独では中々出てこないと思う」
「た、多分な……何となく分かんだ、えーと……」
やや恥ずかしげながらも、04は彼なりの言葉で説明を試みるようだった。
「例えばそこに、さっき拾ってきた反魂香とかってのと、インヴァーサルプラズマ点火プラグってヤツがあんだろ。
つまりは焚くと死んだ奴の面影が煙の中に浮かび上がるっていう線香と、現実と虚構を部分的に入れ替える機械だ。
そいつらを組み合わせりゃ、実質死人復活装置が作れんだろ?
あと、異世界の呪いの石像に、何とかって聖人の書いた護符なんてのもあったよな。
あれも自分に落書きだの傷だのをつけた相手に呪いをかけるんだから、石像は弾除けに使って、こっちは護符を持っときゃ、一方的に敵を呪えるじゃねーかよ」
それを聞いたメリーが、目を丸くして驚く。
「どうしたの04、何か変なものでも食べた?」
「きっと拾い食いよぉ性根が意地汚いもの」
「うっせぇわ!! よく分かんねーけど分かるんだよ!!」
メリーと彼女の言葉に便乗して煽るエリスに向かって、04は思わず怒鳴った。
再度、グリュクが考察する。
「この粒子の作用かもな。君のその黒いやつ、そういう効果もあるんじゃないのか?」
「あ"ぁ……? まぁ言われてみりゃあ、そういうこともあんのかもな」
04の胸の内に仕舞っている認識だが、彼の持つ想像可変武器「大黒」は、彼が波動能力に目覚めた際、「神」を自称する存在から同時に授かったものだ。
その中に「神」の知識が眠っていたとしても、驚くことはないのだろう。
付け加えれば、自在に可変する大黒は工具の代替にもなり、更に加熱や溶接が必要となれば04の波動熱線を使用することもできる。
「というわけでだ……ミリアさんとカナオくんは今もナハヴェルトと戦っていると思われる。
既に24時間近く経っているから、交互に休息を取りつつ、急いで準備に取り掛かろう」
お読みいただきありがとうございます。
第26回終了です。第27回に続きます。
以下、注釈です。
以上となります。ご意見などありましたら、可能な範囲で対応したいと思います。
次回もよろしくお願いいたします。