70年後――  なんでもない、ただみかづき荘の掃除をすることになったある日。フェリシアとさなの部屋の片づけがなかなか進まず鶴乃が援軍に向かい、騒がしい声が廊下を超えて響いてくる中、いろはとやちよは、物置として使っている一室の整理をしていた。 「これはたしかおばあちゃんの……これはたしか……○×さんのだったかしら?」  建てられてからそれなりに長い年月を経た建物であり、下宿としても利用されていたみかづき荘には物が多い。この家の持ち主だったやちよの祖母の物、または入居者が置いていった物。見覚えのある物。無いもの。とにかく雑多に様々な物がこの部屋には詰め込まれていた。  それらはみかづき荘の歴史そのもの。とはいえ置き場所は無限ではない。どれだけ人の思いが込められた物であろうとも、優先されるべきは現在を生きる人間の都合だ。 つまるところ、いつの間にか再び結構な大所帯となってしまったみかづき荘のことを顧みて、やちよは一度断捨離をすべきだと判断したのだ。 「やちよさん、これはここでいいですか?」 「ええ、そこに置いておいて。あっその上、古雑誌らしき物があるから、こっちに頂戴」 「わかりました」  とはいえ、さすがに量が多い。やちよとて全てを処分しようと思っているわけではないが、埃の漂う中で作業を続けては流石に気も滅入る。 いろはも疲れただろう。一旦休憩にしようか。と勘上げていたその時、 「あれ?この箱は……って、きゃっ!」 「いろは!?」  叫び声に驚いてそちらを見ると、いろはが古雑誌の束を取ろうとしてその上にあった箱を落としてしまっていた。箱の中からは銀色の箱のような形状をしてアンテナやメーターがついた物体と、一枚の写真が飛び出し、写真はやちよの足元までひらりと飛んできた。思わず拾い上げる。  写真は白黒、裏に書いてあった日付によると70年近く前にみかづき荘の前で撮られたものらしい。 「はぁ……落としちゃった……なんなんだろうこれ……?」  そう言いながら箱から出てきた古いラジオのような物体を前にいろはは首を捻っている。やちよも見せてもらったが、何なのか判別はつかなかった。銘板らしき部分に「鋼鉄人間試製弐十八號電磁波操縦機」と彫ってあったが、かなり古いラジコンのようなものではないかと推測することが精々だった。 「よくわからないわね……まあ、わからないものは置いておいて、ちょっとこの写真を見てちょうだい」 「何の写真なんですか……ってあれ?この人、なんだかやちよさんに似てるような……」 「それだけじゃないわよ。この人は鶴乃、この人はフェリシア、この人はさな、そしてこの人はいろはに似てるわ」 「ええっ!……本当だ!すごい偶然……」  そうしてしばらくその写真を前に盛り上がったものの、あれやこれやと考えたところで答えが出る筈もなく、整理を続ける雰囲気でもなくなってしまったため、一旦休憩することとした。 二人揃って軍手を脱ぎ、部屋を出て居間へ続く廊下を歩いていると、ふといろはが口を開く。 「結局あの写真はなんだったんでしょうか……いくらなんでも似すぎだと思うんですけど……」  それは先程何度も考えて答えを導けなかった疑問。だがその時、それを聞いたやちよの頭に一つの言葉が浮かんだ。 「もしかして……違う時代を生きた、もう一つの私たち……とか?」 「そんなことあるんですか?」 「さあ、でも魔法があるんだもの。そんな不思議なこともあり得るのかもしれないわよ」 そうして他愛ない会話を続けながら、二人は居間へと入っていった。 完