オリキャラ雑談クロスSS_3_26

狭間の世界のゼノリス:第26回

3.狭間/決戦編

目次

3.7.ボーイ・ミーツ・ブレイヴ
3.8.モール・ウォリアーズ

3.7.ボーイ・ミーツ・ブレイヴ

 その時佳直は、自分以外の時間が止まっていることに気づいた。
 ナハヴェルトの拠点、コングロメレートに向かうロケットの中でのことだ。
 隣に座っていた04も、他の面々も。
 佳直以外の誰一人として、髪や衣服を含めて微動だにしない。
 そのようなことが、あるだろうか?
 佳直が戸惑っていると、彼の頭上の空間に裂け目が入り、そこが扉のように開く。

「――!?」

 何が出てくるかと身構えていると、そこから顔を出したのは幼さを残した少年だった。
 肩のあたりで切りそろえた金髪、口の横にニンジン型の絆創膏を張った容姿は、佳直にそっくり――というよりは、コピーか何かのようではないか。
 佳直そっくりの彼は、佳直に向かって告げた。

「聞いてくれ、ナハヴェルトの攻撃が来る……!
 僕らは一度ばらばらに分断されて……全滅してしまった。
 君に後を託す……どうかみんなを、助けて……!」
「……!? それって、どういう……!」

 佳直そっくりのその少年は、佳直の疑問に返答することなく、全身からその色彩を失い、そして粉々になって崩壊した。
 灰のようになって散らばったそれらは、やがて船内の空気に溶けるように消え去ってしまう。

「……!」

 佳直は戦慄しつつも、直感した。

(今のは……間違いなく僕だ……!
 神格能力の次の段階に目覚めた、少し未来の僕自身……!!)

 今から少し先の未来で、佳直を含めたゼノリスはナハヴェルトに敗れた。
 その断末において佳直の神格能力が次の段階へと進み、時間遡行を起こすことで、未来の彼を過去――つまり現在へと送り出したのだろう。
 代償として、未来の佳直の命は尽きてしまったが。
 しかして、時間の流れが元に戻ろうとしていた。
 そうなれば、彼が命を捨てて警告しに来たように――

(ナハヴェルトの攻撃が、来る――!)

 仲間たちへの警告は間に合わない――警告して対処できることではない。
 ここは佳直自身が動かなくてはならない局面だ。
 そう判断して、彼はE-ギア:ファスト・ブースターを握って引き金を引き、銃口をコネクターに変形させた。
 そしてそれを左手首に着けた祀霊具ショック・ブライトに接続し、その性能を拡張する。
 ショック・ブライトは、空間接続を行う祀霊具である。
 平素は佳直の自室と繋がり、物品などを出し入れするためのワープゲートとして機能している。
 ここに『接続』のE-ギアであるファスト・ブースターを接続すると、どうなるか?
 佳直は半ば、賭けに出ていた。

(これでみんなが飛ばされた空間を繋げて……
 ついでにナハヴェルトのいるところまで一気に……!)

 だが、その試みは成功しなかった。

(遠い……届かない……!?)

 彼らを分断しようとする力は、あまりに大きかった。
 世界に八座しか存在できないE-ギアで抗いきれない力となれば、これはもはや祖霊板を複数用いた複階梯儀式以外に考え難い。
 佳直はそれでも、と足掻いた。

(だからって、こんな所で……諦めるわけには……!!)

 だが、それは気合いや心、魂の強さとやらで押し通れるような次元のものではなかった。
 彼らを分断する力は極めて強く、このままでは未来の佳直が警告した通りになるのだろう。
 そう。このまま佳直が、もし敗れたとしたならば。

(全滅――!?)

 絶望が忍び寄る。

(ダメなのか!? 僕じゃ……僕だからダメなのか……!?)

 そうした意識が佳直の心に充満しかけた、その時。

「諦めないで!」
「――!?」

 聞こえてきたその声は、彼を励まし、助けようとする意思そのものだと思えた。
 誰かが、孤独に戦う佳直を助けようとしているのだ。

(本当に――!?)

 佳直はその時、少しだけ泣いていたのかも知れなかった。
 実際のところは、彼自身にも分からないことだったが。


 時刻を少し遡り、血管鉄道の車内。
 ミリアはナハヴェルトと戦う決意を表明したのち、何故か眠気を覚えて、まどろんでいた。
 夢の中へ――そう、彼女は束の間、夢を見ていた。
 それは、曾祖母の夢だった。
 若く凛々しい現役の勇者であっただろう頃の曾祖母が、彼女に告げる。

「ごめんね、ミリア……あなたにこんな戦いを、させたくはなかった」
「え……そうなの? ひいおばあちゃん?」

 だが、現れたのは曾祖母だけではなかった。

「あなたはもっと、自由に生きることもできた……」
「おばあちゃん……!?」

 姿は若い娘だったが、ミリアにはそれが祖母だと理解できた。
 それだけでなく、今度は母が、やや若い姿で現れる。

「あなたを産んだのは、幸せになってもらうため……」
「お母さん……! そんな、何でみんな……」

 三人の中心に立ち、曾祖母が告げる。

「みんな、不本意に思っているの。
 あなたにこのような戦いをさせてしまっていることを」

 それは三人の女親たちが、ミリアの行く末を憂いていると見えた。
 これは本当に、彼女たちが夢枕に立っているのだろうか?
 それとも、ミリアがわずかなりとも抱いている不安が、このような光景を見せているのか?
 ミリアは戸惑いつつも、彼女たちの危惧を解くため、言葉を尽くそうとした。

「心配してくれてるんだね……ごめん、勝手に飛び出しちゃって。
 でもボクは、不本意なんかじゃないよ?
 確かに、戦うのが平気なわけじゃない……怖い気持ちだってある。
 だけど、それなら誰かに押し付けちゃいけないんだ。
 勇者になるためにやりたいっていうのもあるけど、でもそれ以上に、巡り合わせなんだって思ってる」

 ミリアは、先日魔術師の少年から聞いたことを反芻しながら続けた。

「やりたいっていう『意志』はある。
 今そこに居合わせたっていう『機会』もあった。
 『能力』……がボクにあるのかどうかはまだ確信できないけど……そこは新しい仲間とも会えたし、何とかしてみせる!
 『能力』と、『意志』と、『機会』。三つ揃ってるなら、もうそれは義務とか、運命みたいなものだと思うんだ。
 今はナハヴェルトちゃんを止めるのが、勇者としてのボクの使命ってこと!」

 そう結ぶと、曾祖母たちは少し寂しげに微笑んだ。

「辛いけど、あなたはそう言うだろうと思っていた」
「血は争えないってやつかもね」
「誰に似たんだか……」

 母が、優しく告げる。

「これは、私たちからあなたへの贈り物――」

 祖母が、厳かに説く。

「継承の神格が暴走して、あなたが(くしび)の剣と共にある今だから可能な、束の間の奇跡――」

 そして曾祖母が、号を発する。

「行け、今こそ! 勇者ミリア!!」

 ミリアは手を振って、その声援に応えた。
 そして目覚めると同時、彼女は理解し、駆け出す。

「――っ!!」

 彼女の乗っていた血管鉄道は黒い渦に飲み込まれ、仲間たちは今まさに、分断されようとしていた。
 特異点であるミリアと分け隔てることで、過去改変による抹殺を容易にするためだろう。
 だが、そうはさせない。
 もはや足場どころか空間すら定かではない状態で、しかし、ミリアは加速した。
 腰に下げた霊剣ミルフィストラッセが、慌てふためいて問う。

(待て、ミリア!? 一体何が――)
「ごめん、後で説明する!」

 ミリアはドアをすり抜けて血管鉄道を飛び出し、その外の何もない空間を動いていた。
 奇跡を得た勇者の相対速度は音を超え、光に近づき、並び、そして追い越していく。
 肉体を持つ者が生きたまま光の速度を超えた時、何が起こるか?
 それを正確に知る者はいない――否、いなかったとするべきか。
 今や、ミリアが実例であった。
 物理法則を超えた彼女は、限定的ながら時間の流れさえも超えて動いている。
 僅かな時間だが、過去へ戻ることさえ出来る。
 血管鉄道を包み込む暗闇を外から観察しながら、ミリアは思案した。

(このままナハヴェルトちゃんの攻撃をなかったことに――するのはちょっと難しい……
 じゃあどうすれば……?)

 その時、ミルフィストラッセが音ならぬ声を発した。
 ミリアと共に、彼も奇跡の加護を受けているのだ。

(御辺の考えは理解した、ならば吾人の出番――抜剣せよ、勇者!)
「よぉし……!」

 意気込んで鞘から抜くと同時、霊剣から金色の粒子が迸った。
 粒子は渦を巻くのではなく、血管鉄道と、もう一方の地球側――地球から発進した隊のロケットへと筋のように伸びていった。
 そして、その粒子と、粒子を発している霊剣を通してミリアは理解した。

(シノノメ……カナオくん! 彼が今、抗ってる!)

 彼女は超光速で白い宇宙を疾走し、絶望的な状況に抵抗している少年の元へと向かった。
 彼の心が崩れかけていることさえ、分かってしまう。
 ミリアは、彼へと通じる粒子の道を通して声を送った。

「諦めないで!」


 涙の滲む視界の向こうに、佳直は見た。
 彼を助けにやってきた、勇者の姿を。
 彼女は、空いた手を差し伸べながら佳直に呼びかける。

「カナオくん! 君の力を貸して!」
「…………!」

 彼は迷うことなく、そこに向かって手を伸ばし返した。
 二つの手が、確と握り合う。
 佳直は機内で見て覚えていた、彼女の名を呼ぶ。

「ミリアさん! ありがとう!!」
「やろう! みんながやられてしまう前に!」
「行けます、これなら……!!」

 佳直は確信して、『接続』のE-ギア、ファスト・ブースターをショック・ブライトから引き抜く。
 すると、ミリアの握る霊剣の柄尻に、何とEチップと同規格の接続スロットが出現した。

(む!? 吾人にこんなものが……!?)
「失礼します、剣さん!」
(よく分からぬが、やるしかあるまい!)

 霊剣ミルフィストラッセにファスト・ブースターが接続され、その刃から虹色の粒子が迸り出た。

(ぬぉおおおおおッ!?)

 それは、ナハヴェルトの生み出した分断の暗黒を切り裂き、作り変えていく。
 ファスト・ブースターの持つ『接続』の力と、ミリアを通じて増幅されたミルフィストラッセの『共有』の力。
 二つが合わさり、ナハヴェルトの儀式に割り込むことに成功したのだ。

「これで、致命的な空間に送り込まれて即死するのは防げるはず!
 分断されるのは避けられないけど、合流できる人はすぐに合流できるように、僕たちで空間を繋ぎます!」
「カナオくんナイス!」

 ミリアが喝采すると、そこに。

「邪魔をしないでください、お二人とも」

 二人の正面に、ナハヴェルトが姿を現していた。
 透き通るような白い前髪を編み込み、細やかな装飾の施された裾長のドレス、その上にはマントを羽織っている。
 その表情は、包み隠すことのない不満。

(ナハヴェルトっていうのは、この人なのか……!)

 佳直は名前しか知らなかったが、確信する他なかった。
 彼女は、神格能力者――本来であればそれほどの数を所有することなど不可能な祖霊板を十二枚も持ち、更にそれを用いた儀式すら可能となると、神格能力の正体は限られてくる。

(どうする、ここで決着を……できるか!?
 いや、やるしかない……!!)

 だが佳直の決意をよそに、ミリアが敵の首魁へと呼びかける。

「ナハヴェルトちゃん、もうやめよう!
 過去と未来を思い通りに変えるなんて、疲れるだけだよ!」

 それに答えて、ナハヴェルト。

「私はそうは思いません。人類の理想郷を、この単一世界に創出してみせる」

 そこに割り込んで、佳直は発言した。

「そんなことしてる場合か!
 こうしてる間にも、神世から神々が攻めてくるんだぞ!」

 するとナハヴェルトは、彼に対しても返事をしてきた。

「シノノメ・カナオ。父の片腕として、未来を恣にするために働いていたあなたに、私の理想を非難できる筋があるとでも?」
「ダッジャールさんは過去までは変えようとしていない!」
「未来の人々から見れば同じことです。ある時点の人間の理想に合わせて、その後の歴史を選んでいる」
「……!」
「同じ歴史操作ならば、徹底すべきです。私なら、人類の千年王国――
 いえ、億年、兆年……陽子が崩壊する未来までの繁栄を、作り出してみせます」

 強固な信念の表明。それは野望を挫かれる前の彼女の父、ダッジャールに通じるところがあった。
 少なくとも佳直は、そう感じてしまった。
 ナハヴェルトが、自身の周囲に祖霊板を漂わせながら続ける。

「なので、これ以上邪魔をしないでください。
 ここで手を引くなら私も、あなた方を生かして返しましょう」
「命乞いなんて、するか!」
「やめる気がないなら、ボクもとことんやるよ!」

 佳直とミリアはそれぞれの武器を構え、ナハヴェルトと激突する。
 彼女の相手をしながら、分断されて窮地に陥った仲間たちを助けていく――
 できるのか? そんなことが?

(いや、やってみせる……!)

 ファスト・ブースターを通してミリアと霊剣とに接続している今、佳直は一人でいる時よりも多くのことが為せる。
 ならば、負けてはならない。
 祖霊板から放たれる超時間的な攻撃の小儀式を回避しつつ、佳直は分断された仲間たちのいる空間を必死に繋いだ。
 銀の海に埋め込まれるところだった04の空間を別の空間へと繋ぎ、エルフのフィーネの元には浮遊船ルセルナを合流させた。
 迷路で呪い殺されるところだったミナと、心臓の女王に心臓を奪われるように仕向けられていたメリーを合流させた。
 審問装置に処刑されようとしていたグリュクとシルビアを合流させた。
 栄光の手に乗っ取られる予定だったエリスには、シリルを引き合わせた。
 そこで朽ち果てるようにゲームの中に放り込まれていたアルダとホロウ、ヨーコには、短時間で可能な限りの手がかりを残した。
 分断を崩し、力を合わせて状況を突破できるよう、佳直とミリアは仲間たちを繋いでいった。
 彼らは互いの心の内を理解しあった戦友――などではない。
 さしたる時間を共有したわけでもない、寄り合い程度の絆に過ぎない。
 まして、繋げられた面々はほぼ全員が、初対面のような間柄だ。

「所詮は急遽の寄せ集め。そんな連中に、何ができるというのです?」

 儀式を放ちながら、せせら笑うナハヴェルト。
 しかしミリアが霊剣でそれらを弾きながら、問い返した。

「……ナハヴェルトちゃん、実は不安なんだよね?」
「……どういう意味です?」
「意地悪なことを言うけど……
 お父さんがカナオくんたちに負けて、お母さんはボクたちに負けた。
 それで、自分もゼノリスに負けるんじゃないかって、心配してるんだよ」
「…………!!」

 余裕綽々といった様子だったナハヴェルトの表情に、怒りが差し込む。

「黙って聞いていれば……それが遺言ですか……?」
「戦わなければ、勝ち負けなんか無くなるよ!
 こんなのやめよう、ナハヴェルトちゃん!」

 怯まず説くミリアに、ナハヴェルトが声を荒らげる。

「黙れ! 借り物の力で運良くここまで来られただけの、出来損ないの勇者もどきめ!」

 同時に飛んできた大規模儀式を羽露垂で防ぎつつ、佳直はミリアに確認した。

「ミリアさんちょっと、素で挑発してるんスか!?」
「違、そんなつもりじゃ……」
(天然の気性であったか……)

 釈明するミリアに、霊剣は半ば呆れているらしい。
 佳直はナハヴェルトの攻撃を防ぎつつ、ミリアに提案した。

「それよりミリアさん、まだ全員合流ができてないっス!
 このまま何とか隙を見て、みんなの居所を繋いで行きます!」
「そうだね、ナハヴェルトちゃんは任せて!」
「させませんよ……!」

 儀式の威力はなおも上がって行き、一発ごとの威力が水素爆弾にも匹敵しつつあった。
 ミリアが超光速で、ナハヴェルトの攻撃を四次元的に回避する。
 彼女の怒りの矛先を引きつけようというのだ。

(頼みます、ミリアさん!)

 佳直は勇者にその場を任せ、『接続』のE-ギアを突き刺した溶月鞘(ようげっしょう)富士焚剣(ふじだきのつるぎ)に変形させた。
 ファスト・ブースターの力で任意の時空を切り裂き繋げられるようになった祠霊具を操り、佳直は仲間たちの合流を急いだ。

3.8.モール・ウォリアーズ

 霧のかかった深い森。
 極相林というべきか、成長しきった木々が林床への陽光を遮っており、下層部分ではあまり植物が育たなくなっている。
 地球にはありふれた環境だ。
 ただ一点違いがあるとすれば、全ての葉が、異様な紫色をしているという点だろうか。
 グリームの元を去ったアルダたちが足を踏み入れたのは、そうした場所だった。
 そこで最初に口を開いたのは、ヨーコだ。

「他の人たちと合流できるってことでしたけど……
 方角とか分からなくて本当に大丈夫なんですかね?
 この紫の木から出てるみたいですけど、森全体に魔力が濃く溜まってます。
 誰かの魔力の痕跡や出処を探るみたいな探し方は、ちょっとできませんよ」
「もうちょっとグリームに詳しく聞いときゃよかったな……
 もう出口消えちゃって戻れないけど」

 それに応じて、ホロウ。
 アルダがそこに、補足する。

「済んでしまったことは致し方あるまい。
 ひとまず拙者が、サニーに連絡を取ってみよう」

 そう言って、彼は自身の体内の通信装置から地球の拠点に向けて発信した。
 すぐに返信があり、アンドロイドの少女が抑揚の効いた不愛想な口調で言うのが聞こえてくる。

『――こちらサムライ・ベース、サニー・サニー。
 テレメトリーでもお前のステータスは概ね把握できるが、無事なようだな、アルダ』
「すまぬサニー、異空間におった故、報せを送れなんだが……
 ホロウも無事だ。キョウカイからの仲間とも一人、合流できた」

 サニーは機械ゆえか音信不通に対して特に腹を立てる様子もなく、告げてくる。

『報告は受け取った。それに加えてお前たちの今の状況をこちらで掴んでいるだけ教えておきたいと思うが、周囲に敵などはいないか?
 私の観測によれば、お前たちは既にコングロメレートにいる。誤差が大きくて断定できないが、地表か?』
「恐らくは地表だな。敵地に侵入を果たしたということか……とはいえ、今は周囲に敵対的な存在は確認できぬ。
 木の葉が紫色をしているのは気にかかるが……
 それより、拙者たちの他にはゼノリスの面々は近くにおらぬか?」
『番号を知っている他の面々にも通信を送っていたが、今はお前たちだけのようだ。
 正確には東雲は近傍宙域に端末の異常な反応があるが、応答がない』
「うーむ……出ている暇がないだけだと思いたいが――むッ!」

 その時、アルダのセンサーが大地から伝わってくる振動を検知した。
 彼は仲間たちに警告し、自らも回避運動を取る。

「下からだ! ホロウ、ヨーコ、飛び退け!」
「うぉおっ!?」「把握済みです」

 三人がそれぞれその場から退避すると、直後に大地が割れた。
 そしてそこから岩盤と土を押し除けて、回転する鋼鉄色の円錐が迫り出してくる。
 彼らが距離を置いて見守る中、円錐はゆっくりと回転をやめた。
 その先端がぱっくりと開き、中から大きなモグラのような動物が這い出してくる。
 それどころか、それは哄笑を上げた。

「ガハハハハハ! 我こそは地底将軍モグリコン!
 我が敵はどこだ! 盛大に成敗してくれるぞ!」
「…………」

 彼女はアルダの方を見て、「殺しますけど構いませんね」といった様子で大ぶりのナイフを鞘から抜いた。
 アルダが「いかんまずは話からだ」と言うつもりで首を横に振ると、彼女は呆れたような表情をしつつ両手で謎の機械とモグラ男を指し示し、無音で後退した。

「かたじけない、ヨーコ!」

 彼女に礼を言い、アルダは地面から突き出した巨大なドリルと、そこから突き出ているモグラ男に歩み寄った。

「お主、モグリコンと言ったか! 拙者はサムライ・アル――!?」

 すると、再びアルダの足元から急速な振動が突き上がってきた。
 アーム――いや、マニピュレーターと言うべきか。
 機械の腕が土中から飛び出してきて、それは今度は、アルダの体を握って拘束することに成功する。

「ガハハハハハ! 早速一匹捕えたぞ!
 ちょうどサイボーグのようだから、いい部品は我輩のパワーアップに使うとしよう!」
「そうは……行かぬ!」

 彼は出力を上げて拘束を解除、マニピュレーターから抜け出し、モグラ男へと飛び込む。

「御免!」
「させんわ、ガハハハハハ!」

 自身も相当な技量を持っているらしく、モグラ男は機械化した左腕でアルダのスタン・カタナを受け止め、弾く。
 それだけでなく、

「出動せよ地底軍! 各々手柄を立てい!!」
「うぉおおおおお!!!」

 モグラ男の号令と共に巨大ドリルの腹が開き、その中から雄叫びを上げてモグラ人間の軍団が、こぼれ出るように現れた。
 重そうな鎧に身を包んで銃火器を携えており、一人一人の存在感は戦車を思わせるほどだ。
 ホロウは驚愕し、ヨーコはうんざりしたように肩を落とす。

「マジかよ!?」「これはまた血の気の多そうな……」
「踏み潰せぇッ!!」「うぉおおおおお!!!」

 重装のモグラ戦士たちは、二人に向かって銃を撃ちながら突撃してきた。

「いかん!」
「逃すものかァ!」

 アルダはホロウとヨーコを助けようと援護を試みるが、モグリコンの反撃が鋭く、迂闊に後退できない。
 他方、ヨーコは魔力で強化された脚力で森の中を高速で移動し、銃撃を回避しながら引き付けた敵を切り伏せていく。

(消費するそばから、魔力が流れ込んでくる……
 これなら魔力が切れる心配はなさそうだけど……)

 が、ヨーコは胸中で舌打ちした。

(数が多い……!)

 弾幕は増え続け、何発かが体をかすめる。
 悲鳴を上げつつ首尾よく逃げ続けていたホロウも、追い詰められつつあった。

「ひぃーッ!? 誰か助けてェ!?」

 ライフル弾程度の威力のエネルギー弾では、重装甲のモグラ戦士たちに一矢報いることすら難しい。
 四方から追い立てられたホロウが、死を覚悟したその時。

「――!?」

 彼を屠ろうと接近してきたモグラ戦士が、頭部を失ってどう、と倒れる。

「――!?」「――!?」「――!?」

 他のモグラ戦士たちも、次々と首を刎ねられて倒れていく。
 誰がやっているのか、その姿は見えない。
 周囲の敵を姿も見せずに一掃したその影は、ついにホロウの前に姿を現して、こう言った。

「あーら、ホロウじゃない。
 今のはサービスってことにしとくけど、これ以上助けて欲しかったら正式にあたしの下僕になりなさい?」

 惨殺少女人形、エリスだ。右の小手から生えた鉤状に曲がった金色のブレードが、血にまみれている。
 ホロウは安堵しつつも、抗議した。

「嫌だよ!? 礼は言うけど下僕は嫌だからな!!」

 一方でヨーコも危機に陥っていたが、

「ミサイルプロテクション!」

 彼女を直撃、粉砕しようとしていた銃弾は、半透明の球殻によって弾かれる。
 作り出したのは、そこに加勢した魔術師の少年シリルだ。
 彼は自らも防御殻の陰に隠れつつ、彼女に声をかける。

「ヨーコさん、大丈夫?」

 ヨーコは冷や汗を拭いつつ、礼を言った。

「まぁ、あのままで平気だったと言えば嘘になりますね……助かりましたよ」
「大体の状況はミリアさんたちから聞いてるよ。
 ただ、ボクとエリスだけじゃ、押し返すまでは行かないかな……」
「まだまだァ! 者ども押し返せぇい!!」

 将軍の号令で、モグラ戦士たちは攻勢を強めた。
 ドリル機械の中で予備に控えていたらしい戦士たちまでもが登場し、紫色の森を破壊し始める。
 遮蔽物になる樹木を除去し、火力を持つ自分たちの有利を広げようという意図だろう。
 しかし、そこに。

空対地ミサイル(A S M)、着弾!」
退(しりぞ)けッ!」

 複数の巨大な爆発が、勢力を広げ始めていたモグラ戦士たちを吹き飛ばす。
 魔法少女シルビアと、剣士グリュクの攻撃だった。

「エリスさん、ホロウさん! 今の内にあっちへ!」
「シリル、ヨーコ! こっちだ!」

 モグラ戦士たちを牽制しつつ、彼らは森の中で合流していく。

「むぅっ、加勢か!」
「ならば拙者も失礼する、モグリコン将軍!」

 戦力バランスの変化に将軍が気を取られた隙を突き、アルダは懐から取り出した爆音玉を破裂させた。

「むぉっ!?」

 敵の聴覚を攪乱し、仲間との合流を目指してセンサーを働かせる。
 残されたモグラ戦士の将軍は悔しがりながらもドリル機械の中に戻り、号令を飛ばした。

「おのれ! こうなれば、モグモゲラ号、大暴れじゃあッ!!」

 将軍を収納した巨大ドリルが再び回転を始め、地中にあったその本体が地上へと姿を現す。
 そしてその巨体は土砂を振るい落としながら変形を始め、変形に従ってモグラのような強靭な脚、腕、頭部が形成されていった。

「退けッ!」

 モグラ戦士たちの攻撃の合間を縫ってグリュクが強烈な炸裂魔弾を放つが、分厚い装甲の前に機体を揺らす程度に留まる。

「ガハハハハハ! モグモゲラ号の装甲を見たか!
 食らえ、モグモゲラビィィィム!!」

 巨人に変形した地底戦車の頭部から、一条の細い熱線が照射される。
 そこには膨大なエネルギーが込められているらしく、地底戦車が頭部を振るだけで樹木や土砂が爆ぜ飛んだ。
 アルダたちはかろうじて直撃を避けたが、爆轟やそれに吹き飛ばされた礫などは充分に危険だ。
 その隙をついて、体勢を立て直したモグラ戦士たちの戦列が前進し、再び彼らに牙を剥く――はずだった。
 が、今度は直立した地底戦車の巨体の背後で、虚空が球状に歪む。
 そしてその歪みの中から、二人の人影が森へと降着し――そして突進してきた。

「あれが敵っぽいねミナさん!」
「でぇぇいもうヤケクソじゃぁあああああ!!」

 メリーとミナだ。
 それぞれ獲物を構え、彼女たちは地底戦車の足元へと殺到する。

「何だこい――ぐえぇえッ!?」「ぎゃあああ!?」「ぼぁあああ!?」

 それを防ぎとめようとしたモグラ戦士たちだが、その分厚い鎧と巨体は、風に飛ぶ紙のように吹き飛ばされていく。

「行くよミナさん、せーの!」
「どっせーい!!」

 ついでのように、メリーのエウラリアとミナのメイスが地底戦車の脚部を強打する。
 ガゴォォォォォン!!
 快感すら覚える巨大な打撃音が響き、次の瞬間、地底戦車は土煙を巻き上げて転倒していた。
 そこに留まらず、二人は同時に跳躍して、

「極刑再現、石打刑!」
「心臓の女王の名に於いて!」

 戦鎚のように変形したエウラリアと、抽象化した心臓の形状をしたメイス。
 強大な二撃が、起き上がろうとしていた地底戦車の胸部へと同時に叩きつけられる。
 その威力が動力源まで達したか、地底戦車は爆炎を巻き上げて動作を停止した。
 直前に跳躍してそれを回避していたメリーが、少しばかり煙を吸い込んでせき込むミナに微笑む。

「何とかなったねミナさん!」
「ごほっごほっ……うんまぁそう、かも……」

 事前にモグラ戦士たちが樹木を伐採していたため、地底戦車から森に延焼することはないようだった。
 だがそれが切り札だったのか、モグラ戦士たちの動きは動揺で乱れ、攻撃が緩む。
 一方で炎上する地底戦車からは、将軍が這い出しつつあった。

「お、おのれ地上人どもめ……!」

 そこに、地中の奥深くから轟くような声が響く。

「おおモグリコン将軍よ、敗れてしまうとは哀れなり……!」

 その声を聞き、将軍は男涙を流して許しを乞うた。

「お許しください帝王モグライザー……!
 次こそは必ずや、地底帝国に栄光の勝利を――」
「ならぬ! これ以上兵が傷つくのを座して見てはおれぬ!!
 余が出陣する!!」
(何ですかねこの茶番みたいな……)

 それを鋭い聴覚で聞いていたヨーコは、胸中でぼやいた。

(いや、これは更なる増援の予兆……?)

 すると、地鳴りが起きる。
 戦場となっていた森から少し離れた位置の地中から、巨大な鉤爪が爆音を上げて飛び出した。
 その鉤爪に続いて、破壊された地中戦車よりも巨大な本体が姿を現す。
 モグラ戦士たち以外に詳細を知る者などないが、地底軍の帝王モグライザーの親征であった。

「ギュォォォォォン!!!」

 その巨体から生じた叫び声は爆風となって森を揺らし、

「うぉおおおおお!!!」

 勢いづいたモグラ戦士たちは再び進軍を始める。
 ゼノリスの面々が身構えると、前進する巨大なモグラの帝王が口を開き、その奥から大量の気体が噴出する。
 その足元のモグラ戦士たちはといえば、いつの間にやらガスマスクのようなものを装着しているではないか。
 その状況を拡大映像で見ることのできた、アルダやシルビアが戦慄する。

「推定――有毒ガスだと!?」
「誰か、友軍全体の化学兵器対策ができる人はいませんか!?」
「あーら、あたしは人形だからガスなんて効かない――」

 エリスが肩にかかった自身の髪を払ってそう言い終える前に、風の魔法を扱えるメンバーが反応していた。

「インテンスストーム!」
「吹き流せッ!」

 シリルとグリュクの生み出した気流が、大きな流れとなって有毒ガスを押し返す。
 しかしモグラの帝王は怯むことなく、更に大量の有毒ガスを噴出した。
 シルビアが高度を上げ、上空から魔法少女システムを用いて状況を解析する。

「駄目です、風の通り道を迂回してガスが来てます!
 退避してください!」
「拙者には対BC兵器フィルターがある、少しでも敵を押し戻して――」

 アルダが突貫をかけようとした時、彼らの背後から閃光が走った。

「――!?」

 青白いその一条の閃光はモグラ戦士たちの戦列を薙ぎ払い、紫の森を焼いて有毒ガスを無害化する。
 その光の出処へと全員が目を向けると、木造船に見える物体が空に浮かんでいた。

「みんなー! 大丈夫ー!?」

 船の名はルセルナ、その甲板の手すりに身を乗り上げて彼らの身を案じているのは、エルフのフィーネだ。
 そして舳先に陣取っているのは、髪を逆立てた長身の少年、No.04。
 だが、彼に関しては普段と面相が違っていた。
 顔の下半分に、禍々しい牙がびっしりと生えた、黒い仮面のようなものを着けている。
 森には火の海が広がっており、黒い煙がもうもうと立ち上っていた。
 その煙の中を突っ切って姿を現したモグラの帝王が、呻く。

「新手か!」

 すると今度は、帝王が口から火を吐いた。
 気化前の有毒ガスに着火しているのか、液体を噴出するような勢いで、炎が空中の木造船へと延びる。
 しかし、

「ガァアッ!!」

 04は禍々しい形状の黒い仮面の口を大きく開き、そこから一息に青白い閃光を発した。
 線状の光は炎を切り裂いて、それを吐き出したモグラの帝王に着弾する。
 光が一瞬上下にぶれたかと思うと、モグラの帝王は縦真っ二つに溶断され、左右に崩れ落ちてしまった。
 それを見たメリーが口に手を当て、呟く。

「うわ、すごい威力……」
「帝王陛下ぁぁぁッ!?
 おのれ、おのれぇ!! 覚えておれサルどもがァ!!」

 戦意を大きく削がれたらしいモグラの軍勢は、生き残っていた将軍の号令で撤退する――どこへかは不明だ――ようだった。
 焼け焦げた紫の森に静寂が戻ってくると、空中に上がっていたシルビアが、04とフィーネを乗せたルセルナを比較的開けた場所へと誘導してくる。
 甲板から、フィーネが手を振った。

「みんな、この船――ルセルナさんに乗せてもらいましょう!」

 それに応えてゼノリスの面々は、それぞれ思い思いの方法でルセルナへと乗船する。
 アルダはホロウの手を引いて跳躍、メリーも超重量のエウラリアを抱えつつ飛び上がった。
 エリスは舳先に立つ04の背後へ瞬間移動して、彼を驚かした。

「だからやめろっつってんだろが!?」「あらあら照れちゃって♪」

 エリスに続いてシルビアが飛行状態からゆっくりと着艦し、

「にょわー!? と、飛んでるー!?」
(案ずるな、心臓の女王の加護ぞ)

 謎の力で上昇するメイスにしがみつくように浮き上がったミナが、足をばたつかせながら甲板に降りる。

「レビテーション」「覆せ」

 シリルとグリュクはそれぞれ呪文を唱え、ヨーコは無言で跳び上がり、それぞれ甲板に上がった。
 それを見届けたフィーネが、両手を広げて喜ぶ。

「ようやく合流できたわ。チキュウのみなさん初めまして、フィーネと申します」
「お互い顔と名前程度は知ってんだからそういうのはもういいだろ、フィーネサンよぉ……」
「まぁまぁ、いいでしょ。やり過ぎという程じゃないわ」

 呻く04、鷹揚に誤魔化すフィーネ。
 彼女は紹介を続けて、

「それと、この船がルセルナさん、甲板から生えてるのが世界樹さん……よね?」
(世界樹はそれで構わないと言っている。明確な意思の疎通は難しいが、私が媒介しよう)

 そこで、フィーネが視線を落とす。

「あとはミリアさんと……」
「地球組では佳直がおらぬな」「そうだ佳直。あいつ何やってんだ?」

 アルダとホロウも周囲を見回して、そう口にした。

「分断された私たちが合流できるようにしてくれたのも、東雲さんと、そちらのビヨンドさんのようですね」

 そう考察するのは、シルビアだ。
 グリュクが、腕を組みつつ推測する。

「じゃあ、ミリアとカナオくんは何と戦って……もしかして、ナハヴェルトと?」
「……だとしたら私たち、何ができるんでしょうね」

 ぽつりと呟くミナに、エリスが腰に手を置いて言う。

「そりゃあ、最初の予定通りナハヴェルトとかってのをくびり殺すんでしょお?
 過去も未来も好き放題に変えられるとか、たまったもんじゃないし?」
「それならこの場所からどうやって、彼女と戦ってるらしい二人に加勢できるかって話さ」
「どこにいるのか分からねえと、手の出しようがないぜ。忌々しい話だがよ」

 補足するシリル、ヘアバンドを下ろして視線を塞ぐ04。
 そこでメリーが、思いついたらしいことを口にする。

「あ、そうだアルダ。サニーとは連絡できない?」
「すまぬ、戦闘ですっかり失念しておったな。
 サニー、こちらアルダ。聞こえるか?」
『こちらサニー・サニー。問題なく聞こえるが……私はチャットAIじゃないんだぞ。
 何度もそちらのタイミングで呼び出すならもう少し申し訳なさそうにしろ』
「すまぬ……お主との会話をスピーカーで皆に聞こえるようにしたいのですが、よろしいでしょうか?」
『畏まれという意味ではなくてだな……まぁいい、構わんぞ』
「では、そのように致す」

 アルダは内蔵スピーカー――本来はアルダ自身の音声を拡大する機能だが、無線通信と繋げることも出来る――をオンにすると、サニーに尋ねた。

「サニー、拙者たちの現在位置などは分からぬか?」

 それに答えて、スピーカーで拡大されたサニーの音声が響く。

『まず前提として、地球とキョウカイはそれぞれの宇宙にあった時の名残で、今も自転し、互いに引き合って公転する二重惑星状態となっている。
 そしてその中間点に位置するコングロメレートは、逆に自転などの運動の類を一切していない。
 ラグランジュ点にあるような状態だと推測できるが――』

 そこに、アルダが割り込んで告げた。

「サニー、すまぬ。天文学の素養のある者ばかりではないので、結論をかいつまんで頼む」
『これだから人間は……』

 と言ってサニーは、さほど気分を害した様子もなく続ける。
 同時に、アルダの両目から光が放射され、ルセルナの船室の外壁に当たって映像を映し出した。

「えっ、拙者の身体にいつの間にこんな機能が……!?」
『こんなこともあろうかと、アルダの身体に内蔵しておいたプロジェクターで図示する』

 アルダの驚愕を無視して、サニーが続ける。

『現在位置はここだ。コングロメレートは自転も公転もしていないので、本来東西南北など決めようがない。
 だが今回は便宜として、地球の南北と同じ方向に合わせて表示する』

 そこには白い背景に、彩度の低い紫色をした、やや歪な球が表示されていた。
 それがコングロメレートで、その上に刺さるように表示されているミント色の逆三角形が現在地らしい。

『そして東雲の端末の反応が検出できるのが、地表から主に高度200kmまでの軌道だ』

 赤色をした別のカーソルが登場すると、コングロメレートの外側に円を描きながら点滅する。
 佳直のいるであろう位置を大まかに示しているようだ。

『機材の限界で誤差が大きすぎて、細かい位置は分からん。
 だが反応は今も続いているから、二人はお前たちの比較的近くで戦っていると推測できる』

 それを聞いて、グリュクが頷いた。

「なら、あとは探すだけか」
『そう単純な話でもない。受信できた微弱な電波を解析したが、どうも東雲に関しては時間移動を繰り返しているように見えてな』

 サニーがセリフを区切ると、一向に動揺が走る。

「時間移動……!?」
『東雲の端末からの電波自体はひっきりなしに来ているが、これが連続した波になっていない。
 まるで時系列順に規則正しかった波形を細切れにして、順番をランダムに入れ替えたようになっている。
 機器の不調では生じない、歪な波形だ。
 これは東雲が端末ごと繰り返し過去に移動していると考えると、ある程度辻褄が合う』
「そんな戦いに、ミリアさんも……!?」
『もう一人は電波も何も出していないので分からんが、彼女が分断されたお前たちを合流させたのだとすれば、そうした力に目覚めた可能性はなくもない』

 フィーネが悲鳴じみた声を上げるが、サニーの調子は変わらない。

『とはいえ、詳しいことはまるで分らん。
 私も東雲に連絡してみたが、恐らくはこちらからの電波も時間的にぶつ切りになって入れ替わるせいで、全く通じなくてな』
「む――!?」

 そこに、アルダが声を上げる。

『どうした?』

 彼がサニーに答えた内容は、やや意外なものだった。 

「佳直から拙者に、着信が来ている!」

なかがき

 お読みいただきありがとうございます。
 第26回終了です。第27回に続きます。
 以下、注釈です。

【主な捏造点・疑問点・解説など】

 以上となります。ご意見などありましたら、可能な範囲で対応したいと思います。
 次回もよろしくお願いいたします。