ギャンさん怪文書 サカエトル王都警察、王都の治安維持を目的に組織されたと思われる警察組織である。 ギャン・スブツグ、主に暴力事件等を担当しており、いくつもの犯罪組織や暴力団を潰した実績を持つ刑事。 飄々とした態度の奥に深い悲しみと怒りを湛えた男。 先日発生した新興反社会的組織への出入りもひと段落して、今はデスクで新聞片手にコーヒーを飲んでいる。 「おい、ギャンはいるか!」 上司が彼を大声て呼びつける。 束の間の平穏を打ち砕かれ、彼はゾンビの復活がごとく身体を起こして向き直った。 「はい、なんでございましょうか部長。本官といたしましては今月甚だ積みあがっております超過勤務の清算に向けて積極的な休憩を取りたい所存でございますが。」 「馬鹿なこと言ってないでこっちにこい。指名だ。」 「はぁ…。」 会議室で部長と二人になったギャンは一つの資料を渡された。 「何々、ケイオー=カイライン…お貴族様じゃないですか。どうしたんです?」 「大きい声じゃ言えないが、行方不明らしい。ひと月ほど前からな。」 「行方不明ならウチじゃなくて生活安全課の領分では?」 「事件と事故の両方でってやつだ。こっちは反社の線を探ってほしいそうだ。」 「だからってなんで俺だけ…。」 悪態をつく彼に向って部長はにやけながら続ける。 「実績ってやつだよ、ギャン刑事。これが解決できれば昇進だぞ?」 「そんなの求めてないんですがねえ……部長、こっちの子は?」 資料をめくる手が止まる。 そこには5歳くらいであろうか、幼子の写真が入っていた。 「フイルー=カイライン、カイライン卿の一人息子だ。こっちも同じく行方不明らしい。」 「…。」 「どうだ、受けるか?」 先ほどまでの軽々しい態度とは打って変わって、刃のような視線が部長を突き刺した。 少し目を閉じた彼は重い口を開いた。 「はぁ~…わかりました。受けましょう。」 「よかった。さっき言った通り、極秘とまではいかないが話すやつには注意しろよ。」 「はいはい。」 資料を封筒にしまい込んで会議室をあとにする。 眼光の鋭さはそのままだったため、同僚から声をかけられた。 「どうかしたんですかギャンさん、深刻そうな顔して。部長にまた何か無理難題をふっかけられましたか?」 「ん…ああいや…トイレの紙が足りなくて困ってるらしくてなぁ、ちょっと買って来いってさ。」 ギャンはハッとして笑顔を張り付けた顔で言いつくろった。 「もう、また冗談ばかり、何か手伝えることがあったら言ってくださいね。」 「ありがとな、また声かけるよ。じゃあまあ出てくるぜ。」 そういうと部屋を後にした。