二次元裏@ふたば

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241044 B25/09/06(土)11:23:28No.1350444011+ 13:13頃消えます
シャリタツ焼きたい
このスレは古いので、もうすぐ消えます。
125/09/06(土)11:23:47No.1350444080+
 会社帰り、俺はふらふらと繁華街をうろついていた。色んなところから良い匂いが漂ってきて、空腹の俺を誘惑してやがる。
 残業のせいで時間も遅いし、このままどっかで晩飯でも食べて帰ろう。
 何がいいかなーっと建ち並ぶ店を眺めていると、可愛いシャリタツが描かれた看板に目がいった。オレンジ、ピンク、黄色の3種類のシャリタツ達が寿司に擬態して『オレスシー!』と言っている。
 店の名前は『シャリタツ専門寿司』。
 実にシンプルで分かりやすい名前だ。
 今日はここにしよう。俺は吸い込まれるように店の中へと入っていった。
225/09/06(土)11:23:57No.1350444126+
 店の人にカウンター席へ案内された。俺は荷物を足元のカゴに入れて席に座る。そして、出されたお茶を啜って店内を見渡した。
 実に雰囲気の良い店だ。店の内装はオーソドックスでまさに寿司屋といったところ。カウンター8席と奥に座敷テーブルが4席。繁華街にしては少し狭いなと思ったが、団体客用に2階にも座敷テーブルがあるみたいだ。
 きっと週末は大賑わいで、飛び込み客が座れる席もなかった筈だ。今日が平日の夜で助かった。
 俺はビールと『シャリタツの踊り食い』を注文する。本当は寿司から堪能したかったが、それはまた今度の休日にでも楽しもう。
 目の前のガラスケースにはシャリタツ達がばんばん!とケースを叩いている。
325/09/06(土)11:24:11No.1350444189+
「タスケテ!!」「ダシテ!!」「ココイヤー!!」「オレスシチガーウ!!」

 可愛く元気なシャリタツ達につい口元が緩んでしまう。ケースの中にいるのは食用のシャリタツ達。客は気に入ったシャリタツを指名して料理を注文することができるのだ。でもごめんな、俺は明日の朝も仕事があるからお腹いっぱい食べられないんだ。他のお客さんに食べてもらってくれ。
 そうこうしている間に、ビールとシャリタツの入った鉢がやって来る。鉢の中にはシャリタツの子供が沢山入っていた。
「スシー?」「ダレー?」「スシスシ?」「シャリシャリ」「ヌシー?」
 このシャリタツ達は全て養殖産だ。本来のシャリタツは30センチほどだが、こいつらは5センチにも満たない超小型サイズで技はもちろん『はねる』だけ。他の養殖と違って明らかに食用の品種改良が施されているため骨まで柔らかく、寿命もかなり短いらしい。
 おそらく昨日今日に生まれんじゃないだろうか、早く食べてあげないとな。
425/09/06(土)11:24:22No.1350444227+
 まずはキンキンに冷えたビールを喉に流し込む。この喉越しがたまらないんだ。これがあるから俺は明日も仕事を頑張れるんだと言っても過言ではない。
「スシー?」
 1匹の子シャリが鉢をよじ登って顔を覗かせている。俺が人差し指を出すと「シャリ♪ シャリ〜♪」と絡みついてきた。可愛いから人差し指ごと口の中に入れる。
 上唇と下唇で挟んで、人差し指だけ抜き取る。口の中に取り残された子シャリは「クサイー!」と鳴いている。きっとビールの残り香に当てられたんだろう。加齢臭だったらへこむ。
 舌先で子シャリ身体を舐め上げる。シャリタツは"すがた"によって味が変わるポケモンだが、品種改良で超小型サイズになったシャリタツ達は"味の分岐"まで成長できていない。だから全て同じ味なのだ。でもそれは悪い意味ではない。どれもとってと美味しいということだ。
525/09/06(土)11:24:47No.1350444314そうだねx1
 うろこのないみずみずしい身体を上から下へ、下から上へと堪能する。口の中で子シャリは「キモチワルイ!」と叫ぶ。怯えているのか心臓の鼓動が早まっているのを舌先で感じた。『怯えないで』と舌で子シャリの顔を舐めてあげる。子シャリから涙のしょっぱい味が返ってきて俺は嬉しくなった。
 ヘイラッシャは毎日こんな気持ちいい思いをしているのか。なんてズルいんだ。でも妬んでも仕方ない。
 もっと、もっと、可愛いがってあげるからねと口の中の子シャリを愛してあげると、ついに反応がなくなった。まさかと思い、舌先でシャリタツの胸を押さえつける。心臓の鼓動が止まっていた。死んでしまったようだ。
 
──ありがとう、美味かったよ。

 俺はもぐもぐと数回咀嚼し、子シャリを弔った。
 コップに残っていたビールを飲み干して、鉢の中を覗き込む。小さな子シャリ達が楽しそうに遊んでいた。さっきまでの子シャリとの触れ合いは見えていなかったようだ。
625/09/06(土)11:25:02No.1350444380+
「ヌシー?」「ダレー?」「ヌシヌシ?」
「オスシー?」「スメシ?」
 子シャリ達と目が合う。つぶらなひとみで俺の攻撃力が一段階下がる。ドラゴンタイプなのにフェアリータイプの技を使うなんて卑怯だ。
 俺は残った子シャリ達をお椀に移す。1匹1匹は面倒なので箸でごっそりまとめて移動させた。子シャリ達は楽しそうに「スシー!」と鳴いている。
 全員をお椀に集めたら、上からポン酢をかける。
「ヤダー」「スッパイ!」「イヤー!」
 みんながみんな、違う反応を見せる。愛らくもあり、哀しくもある。みんな、どうせすぐ死んでしまうんだ。ならせめて、記憶に残るぐらい美味しく食べてあげないとな。
 お椀を傾けて子シャリ達を口の中へ招待する。子シャリ達は新天地に興奮しているのか、口の中で楽しく遊んでいる。
「ヤダァー!」「キモー!」「クサーイ!」「ドコー?」
 中には不安そうに泣いている子シャリもいた。子シャリが泣くと俺も悲しい。『泣かないで』と舌で舐め回す。子シャリ達は嬉しそうに笑う。
725/09/06(土)11:25:24No.1350444470+
「イヤダアアー!!」「タスケテェ!!」「ココイヤー!!」「ダシテェ!!!!」
 口の中で跳ねて暴れる子シャリ達を諌めるようにゆっくり口内を絞ってやると、声の振動が直に伝わる。心臓の鼓動もより感じやすくなって一石二鳥だ。絞って、緩めて、絞って、緩めてを繰り返す。するとポン酢の味が消えていた。結局最後はこうなるんだよなぁ、と俺は舌先で子シャリ達を可愛がり、死んだ子シャリから1匹ずつ順番に噛み砕いて飲み込んでいく。
「イヤァ!!!」「タベナイデェ!!」
「ヤメテェ!!!」

──大丈夫、安心して、生きてる間は食べないよ!

 俺は怯える子シャリ達を励ますように可愛がる。全て食べ終える頃には充分空腹は満たされていた。
 そろそろ帰ろうかな。良い店だった。次は週末にでも寄ってみよう。
825/09/06(土)11:26:07No.1350444637+
 行きつけのスシ屋が新しいメニューを始めたというDMが届いたので、食べにいくことにした。
 行きつけのスシ屋、なんて言うと気取っているように思われそうだが、私の言う「スシ屋」はシャリタツ料理店のこと。シャリタツという生き物は元はポケモンとして捉えられ、技や能力を必死に調整してバトルに使う奇特なトレーナーも存在していたが、それも今は昔の話。そんなことしなくても他にバトルに採用しやすいポケモンはいて、何よりシャリタツはその身の旨さから、最近では食材としての人気の方がはるかに高い。
 奴らが「スシ」と呼ばれる所以は、「擬態」と呼ばれる独特のポーズをとる時に奴らが決まって口にする「オレスシー」という鳴き声(?)にある。
925/09/06(土)11:26:13No.1350444658そうだねx4
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ただコピペするだけで面白くないのがね
1025/09/06(土)11:26:24No.1350444700+
そのポーズを、なぜシャリタツども自ら「スシ」と名乗るようになったのかはわからない。確かに、膨らませた喉袋を銀シャリ、上に乗るシャリタツ本体をネタと捉えれば巨大な握り寿司に見えなくもないのだが、シャリタツたちが寿司──スシというものが実際何であるのかを知っているかどうかも不明だ。何にせよ、シャリタツたち自身が自分を「スシ」だというからシャリタツ料理店は「スシ屋」と呼ばれるというわけだ。
 カウンター八席、その奥に個室が四つというこのスシ屋を私が訪れたのは平日のランチタイムのピークを少し過ぎた頃。カウンターに二人客が座っているだけだった。
 いらっしゃいませ!とカウンターの向こうの店主とボールスタッフの声。店主は私の顔を見るなりスタッフに奥へ通すよう指示をしてくれた。
1125/09/06(土)11:26:27No.1350444711そうだねx2
>ただコピペするだけで面白くないのがね
いいよね
1225/09/06(土)11:26:58No.1350444821+
 店の一番奥の個室に入り、改めて新メニューを見せてもらう──これだ、「生まれたてオシュシ踊り食い」。オシュシというのは、シャリタツどもが口にする幼児語みたいなもので、シャリタツの稚魚を指す。新メニューはその名のとおり、孵化したてのシャリタツの稚魚を踊り食いするというものだった。
 オシュシ踊り食いは、「まずはお試し!一匹コース」から「デラックス六匹コース」まである。どのコースも、そった・のびた・たれた──それぞれ、通称エビ・タマゴ・マグロ──から、すがたは選べるらしい。
 そして、オシュシ踊り食いに使うシャリタツは養殖物だという。ということは、天然物の成体と同じ生き物と思えないぐらい孵化したてのオシュシは小さいだろうから六匹でも全然いけそうな気がしたけど、初めてだし一匹コースからいっとこうかな。
 スシ屋とはシャリタツ料理を扱う店全般のことではあるが、このスシ屋は実際に寿司も売りにしている。握りよりはちらし寿司が食べたい気分だったので、ハーフサイズのちらし寿司とマグロの唐揚げ、オシュシ踊り食い一匹、そして、平日の昼だけどビールを注文しちゃう。
1325/09/06(土)11:27:13No.1350444880+
 程なくしてビールが届き、そしてマグロの唐揚げ、ちらし寿司が届いた。
「ア……アヅイ……イダイ……ダズゲデ……」
「イタイィィ……キュウ……」
「スメーシー、スッパ……ヤダァ……」
「タベナイデ、オレスシチガウ……」
 唐揚げもちらし寿司も、使われているシャリタツの活きのよさが今日も際立っている。シャリタツという生き物は食材でありながら、元はポケモンとして認識されていただけあってとても丈夫だ。ポケモンとしては間違いなく雑魚の部類だったようだが、火を通したり全身を複雑骨折させた程度では息絶えることはない。現に、マグロの唐揚げはこんがり揚げられているのに衣の下でまだ命乞いをしているし、ちらし寿司の上に綺麗に並べられ、刻み海苔が散らされた全身骨折済みのエビ、タマゴ、マグロはヒレひとつ動かせないようだが、目をウルウルさせながらまだ泣き言を漏らしている。ていうかタマゴのやつ、私のちらし寿司のごはん部分をなに勝手に食べてんだ。こいつから食ってやる。
1425/09/06(土)11:27:26No.1350444923+
 ぐいっ、とひとくちビールを飲んで、遅めのランチスタートだ。まずは箸をタマゴの脳天にぶっ刺して持ち上げる。
「キ゜ュ」
「ヒッ……!」
「エッ……ナンデェ……!」
 突如振り下ろされた箸という鉄槌に、タマゴは変な声を出した後白目を剥いてプルプル震え、両隣のエビとマグロは目だけ卵の方に向けて息を呑んだ。
「人のランチ勝手に食べないでくれる?」
 そう言ってタマゴのヒレの下から半分ぐらいを齧り取る。
「キ゜ュキ゜ュキ゜ュキ゜ュキ゜ュ」
 完全に壊れてしまったタマゴを一旦エビとマグロの間に戻し、ちらし寿司のごはん部分をいただく。炊いた椎茸などの具材が混ぜ込まれた美味しいちらし寿司だ。スメーシー、スッパ、ヤダァとは何だ、失礼な奴。馬鹿舌。脳天に二つの穴を空け、白目を剥いたまま異様な声を上げ痙攣し続けるタマゴの上半身に、エビとマグロは怯え切っている。自分もいずれこうなるのかと思っているのだろう。よくわかっている。
 ちらし寿司はしばらくそのままにしておいて、まだブツブツと助けを乞うマグロの唐揚げに箸をつける。ビールには断然こっちが合うよね。
1525/09/06(土)11:27:42No.1350444970+
 このマグロも養殖物なので、箸で摘み上げるにはやや大きいけど、まあ無理ではないというところ。
 しっぽ側からガブッ!と大きく齧り取る。
「アッ、アァ……タベチャヤァ……」
 濃いめの味付けでビールによく合う!こんなにこんがり揚げられておいて、まだ息絶えてはないその活きのよさもさすがだ。ジューシーな肉汁が垂れて、一滴がちらし寿司のマグロの頭にかかった。
「スシッ、キチャナ……アヂッ!アヂィッ!」
 ちらし寿司のマグロがギャーギャー騒いでる。きちゃなくないわ、失礼な。次に食べるの、こいつだな。これ以上肉汁を落としちゃ勿体ない、と慌てて唐揚げにスッと吸い付く。アチアチで、質のいい脂。こりゃ気をつけなきゃ火傷しちゃうな。
 味付けのおかげでビールが進んで、あっという間にマグロの唐揚げは私のお腹の中に。ビールのおかわりを頼もうとスタッフを呼ぶ。
「生追加ですね、かしこまりました。そろそろ踊り食いもお持ちしますね」
「お願いします」
1625/09/06(土)11:27:56No.1350445027+
 つい従来のメニューを目一杯楽しんでしまってたけど、今日のメインは新メニュー「生まれたてオシュシ踊り食い」だった。そういえば、どうやって孵化したてのオシュシが提供されるんだろう。行きつけの店の新メニューだからってだけで勢いで注文したけど、よく見たら席に備え付けのメニュー表にその辺の説明も載っていた。ちらし寿司のタマゴの上半身を口の中に放り込んみ、メニュー表を手に取る。
「ピキ゜ュ」
 タマゴの最期の声を聞きながら読んだメニュー表によると、卵はもうすぐ生まれそうな状態まで孵化作業を進める調整がされている。客への提供時にはマグカルゴというポケモンの殻を利用した特別な皿に載せられているのだが、このマグカルゴはポケモンの卵の近くにいるとその卵の孵化が早くなるという特性を持つのだという。そのため、客に提供された後もテーブル上で孵化作業が進んでいく。そして、長くても提供から十分以内には客の目の前で卵が割れてオシュシが誕生する、というわけだ。
「へえ、すごい」
 手間がかかってるなぁと感心しながら、今度はちらし寿司のマグロを箸で摘み上げた。
1725/09/06(土)11:28:16No.1350445114+
「エッ!ナンデオレェ!?ヤメテ、オレオイシクナイ!オイシイノ、アイツ!」
「ハァー!?オマエ、シス!」
 本当は全力で暴れ回りたいところだろうけど、それができないように全身を骨折させられているマグロは見開いた目から滂沱の涙を流しつつ私を見上げ、残されているエビを売ろうとする。エビが美味しいのはもちろん知ってるけど、お前も美味しいんだよ。オイシクナイ!なんて、スシ屋と養殖場の人に失礼だと思わんのか。エビもエビだ。お前たちは生まれた時から食われて死ぬ運命が決まっているというのに。
 マグロの訴えを無視して、容赦なく頭から齧り付き、首に歯を食い込ませる。
「アアアアア!!イダッ、イダイィィ!!チギレル、オレチギレルゥ……チギレター!!」
 私の口の中でくぐもった叫び声を上げ、ますます涙を流すマグロ。シャリタツの涙ってなんでこんなに美味しいんだろう。塩気だけではなく強い旨味まで含まれている。
 やかましいマグロから齧り取った下半身をちらし寿司に載せて、ごはん部分も追加で口に入れる。
「ツブツブナニィ!?スメーシー!?ズビュ」
 咀嚼を繰り返すうちにマグロが喋れなくなり、再び静寂が訪れる。と、スタッフが個室に現れた。
1825/09/06(土)11:28:49No.1350445261そうだねx2
>>ただコピペするだけで面白くないのがね
>いいよね
つまらないのは認めるんだ
1925/09/06(土)11:28:52No.1350445272そうだねx2
どこからのコピペ?
2025/09/06(土)11:29:08No.1350445346+
「お待たせいたしました。生まれたてオシュシ踊り食い、エビでございます」
 とうとうメインイベント、「生まれたてオシュシ踊り食い」の始まりだ。
 スタッフが立ち去ると、マグロの残りとごはんを追加で口に入れ、運ばれてきた卵を観察してみる。見た目では全然わからないけど、これがもうすぐ生まれそうな状態まで調整されているのだそうだ。
「スシ……?タマ……?」
 唯一残っているちらし寿司のエビも興味深そうに卵を見ている。と、唐突にとんでもないことを言い出した。
「オレノタマ……⁉︎」
「は?」
 何言ってるんだろう、こいつ。そんな偶然あるのか、卵の状態で見てわかるものなのか、だいたいこいつ卵産んだことあるのか。疑問は色々あるけど、ちょっと面白いのでエビの話を聞いてみることにした。
「卵産んだことあるの?」
「アル……ヤサシイオス。イナクナッタケド……。オレ、タマデキタ……」
 養殖場で一緒だったオスに絆されて職員の目を盗んで──かどうかはわからないが、交尾した。多分そのオスは直後に出荷され、残されたこのエビは授かっていた卵をその後産んだ、と。
2125/09/06(土)11:29:25No.1350445404+
「オレ……タマ、ノコシテシュッカ……。オレノタマ……モウアエナイカト……。ズジッ、ヒック……オシュシ……オレノオシュシィ……」
 そう言ってスシスシと旨味成分、もとい涙を流すエビ。経緯はよくわからないが、養殖場に卵を残したまま自分は出荷されてきたのでタマとの思いがけない再開に感激している、みたいなことが言いたいらしい──多分だが、この卵はこいつのタマではない。孵化時期を調整するためには、そもそも産卵時期を正確に把握することが必要だろう。ならば、生まれたてオシュシ踊り食いにはいつ生まれたのか判然としない卵は使わない気がする。こいつのタマは十中八九、養殖場で回収され孵化させられ、今頃出荷の日に備えて肥育されていることだろう。
 エビの話はまあまあ面白かったが、ここで出会った卵を自分のタマと思える理由はさっぱりだ。本当に賢いのかな、この生き物。オシュシが生まれる前に片付けておこう。
「そうなんだ……。でもね、もう知ってると思うけど、ここはシャリタツを食べる場所なんだよね」
「ス、スシィ……!」
 ギュッと目を瞑り、ポロポロ涙を溢すエビ。私はエビに少し顔を近付け、小声で話しかけた。
2225/09/06(土)11:29:37No.1350445454+
「だから、あなたかタマ、私はどちらかを食べないといけないの──あなたを食べていいなら、タマは助けてあげる」
「エッ……!」
 エビが潤んだ目で私を見上げる。
「タマは私が責任持って孵して、オシュシは大事に育てると約束するわ」
 もちろん、真っ赤な嘘だ。どちらも美味しくいただくに決まっている。しかし私は、エビが私の誘いに乗ると予想した。
「ス、スシィ……!オレ、オレ……!」
 エビは固く目を瞑り、プルプルと震えている。自分はオシュシには会えないけど、辛い養殖場暮らしの中で一瞬だけでも幸せだった時期の忘れ形見であるオシュシのために自らを差し出し、恐怖に打ち震えながら食われる決断をするエビ──考えるだけで唾液が溢れてくる。さあ、どうする!?


「タマ、アゲル」
2325/09/06(土)11:29:39No.1350445463+
病人の発作スレ
2425/09/06(土)11:29:55No.1350445527+
寿司食べたいまで読んだ
2525/09/06(土)11:30:01No.1350445551+
「…………え?」
 私は耳を疑った。全く無関係かもしれない卵を自分のタマだと思うぐらい、タマに執着してたんじゃないの──?
「タマ、アゲル!タマ、オイシー!オレ、オイシクナイ!タスケテ!イタイイタイ、ナオシテー!ヌシ、オネガイ!ヌシ、ダイスキ!ソンケー!キュキューン♡」
 出るわ出るわ、我が身可愛さの哀願と胡麻すり。シャリタツは悪賢い生き物だという。しかしよく見かけるシャリタツはタベナイデェ、キューキュー!みたいな、そりゃそうだよなと思えることしか大体言わないからイマイチ実感なかったけど、今この瞬間確信した。こいつら、とりあえずこのエビに限っては、とんでもなく自己中心的だ。
「……気が変わった。両方食べるわ」
「ナンデェ!?タマタベテ!オレカワイイ!オレカシコイィ!」
 元々エビもオシュシも食べるつもりだったから結果は変わらないんだけど。しっぽを箸で摘んで持ち上げ、逆さ吊り状態にする。こんなはずではと焦りまくりながらまだ自分を売り込もうとするエビの目からは、また涙が溢れている。ぷらんと力なく垂れ下がったヒレを片方ぷちっと齧り取ってやると大絶叫だ。
「ヤアァァァァ!!オレノッ、オレノォォォ!!イダイッ、ヤメテッ、オイジグナイィィィ……!」
「大丈夫、美味しいよ!」
2625/09/06(土)11:30:22No.1350445629+
 散々泣き喚いてくれたおかげで、本当に美味しい。残りは丸ごとポイっと口に放り込む。
「ヤァッ……ア、ア、ア゛、ア゛、ア゛……」
 噛むごとに旨味が染み出す身を咀嚼するのに合わせて聞こえていた声はすぐに聞こえなくなった。
 何だかんだしているうちに、オシュシもそろそろ生まれるんじゃないだろうか。先にちらし寿司を食べ切ってよかった。生まれたばかりの自分を売ろうとする、ぴくりとも動かなくてめちゃくちゃうるさい、大べそ成体スシがいたらオシュシが怖がってしまうだろう。

 エビをごくっと飲み込んだ時、待っていましたとばかりに卵がカタカタと揺れ始め、上部からヒビが入り、そして──。
2725/09/06(土)11:30:36No.1350445685+
「キュキュー!」
 パリンと割れた卵から、小さな小さなエビ──そったすがたの稚魚が、元気よく飛び出した。
「オシュシちゃん!待ってたよ、可愛い〜!」
「キュー?」
 体長は人差し指一本分ぐらい。成体のスシより頭身が低く、全体的に丸っこい印象だ。首を傾げ、私を見上げてくるくりくりとしたつぶらな瞳はこの世に潜む悪意なんてものを一切知らない清らかさで、まるで黒い宝石のよう。瑞々しくぷくぷくした体つきはマスコットのような愛らしさで、私はすっかり心を奪われてしまった。
「オシュシちゃん、ママだよー」
 そう言って私がそっと手を差し出すと、オシュシちゃんは小さな小さなヒレの先で私の指をつんつんと突き、匂いを確かめるようにまん丸な顔を近づける。何を判断基準としたのか謎だが、危険はないと判断したらしい。私の手にそっと乗ってきた。
「オシュシちゃん、可愛いねえ」
 オシュシちゃんを怖がらせないようゆっくりとその小さな体を持ち上げ、反対の手の指先でそっと頭を撫でてみる。片目を瞑りくすぐったそうな顔をするオシュシちゃん。ああ、本当に可愛い。

 食べちゃいたい。
2825/09/06(土)11:30:58No.1350445770+
「……シャシャ♡」
「オ、オシュシちゃん……!」
 ああ、卵が孵化した直後に見たものを親だと思う「刷り込み」ってやつ、本当に最高。シャシャ、というのもシャリタツの幼児語で、母とかママって意味のようだ。私とオシュシちゃん二人きりの個室で孵ったから、特に疑いなく私をシャシャだと思ってくれたようだ。ちらし寿司のエビを始末しておいてよかったと心底思う。
 オシュシちゃんの頭、背中、しっぽを順番に指先で優しくなでなでしていく。しっぽの先のハート型のキュートなこと。切り取ってネイルの飾りにしたいぐらいだ。
 ここは嫌がるかな?と思いながら、喉元についた豆粒のようなシャリをぷにぷにしてみると、意外にもオシュシちゃんは気持ちよさそうに目を細めた。
「キュー……♡」
「オシュシちゃん、気持ちいいねえ」
「キュウ……キモチ……♡」
 私の言葉をどんどん吸収するオシュシちゃんが愛おしくてたまらない。もしかして、私のオシュシちゃんは世界一賢いオシュシなのでは?
「オシュシちゃん、ここをプクーってできる?」
2925/09/06(土)11:31:13No.1350445824+
 シャリをぷにぷにしながらオシュシちゃんに尋ねると、オシュシちゃんはキョトンとした顔で首を傾げてから言った。
「……プクー!」
「ヒィッ、可愛すぎ」
 オシュシちゃんには「シャリを膨らませてみてほしい」という意図が伝わらなかったようだ。口でプクー!と言っただけで、シャリは少しも膨らんでいない。私にはシャリはないからどうやって教えようと思案し、スマホロトムでシャリタツの擬態シーンを収めた動画を検索し、オシュシちゃんに見せてあげた。
「ほら、ここ。こんな風に、プクーって膨らむんだよ」
「キュ……?」
 動画に見入っていたオシュシちゃんにも、動画に登場した成体スシが、バインバインに膨らませてオレスシー!という定番のセリフを口にしながら体を預けているその袋と、自分の喉元についている小さな小さな白いシャリが同じものらしいとわかったようだ。丸い両ヒレの先でシャリをぷにぷにと揉んでから、なんとか膨らませてみようと試行錯誤を始めた。
3025/09/06(土)11:31:27No.1350445879+
「プクー!プクーッ!……キュウ?プキュー!」
 顔を赤くしてプクープクーと言い続けるオシュシちゃん。なんて健気なんだろう。成体スシの動画再生はとっくにやめ、私はスマホロトムでオシュシちゃんの様子を撮影していた。
「プキュ……キュウゥ……!クシュン……」
 上手にできなくて、とうとう泣き出してしまったオシュシちゃん。潤んだ瞳からぽろっと落ちた小さな雫を、私は唇を寄せて吸い取った。
「大丈夫だよオシュシちゃん、あなたはあんなことできなくていい」
「キュウゥ……シャシャ……」
 それでもシャシャの期待を裏切りたくないのだろう、オシュシちゃんは諦めない。と、その時は突然訪れた。
「プクー!プキューッ!シュ……オレ、シュシーッ」
 動画の中の成体スシが口にしていたその言葉が耳に残っていたのだろう、試しに口にしてみた瞬間、今までぴくりともしなかったオシュシちゃんのシャリがプウッとわずかに膨らんだ。
「オシュシちゃん!今ちょっと膨らんだよ!すごいね!」
「キュ……⁉︎シュゴイ!オシュシ、シュゴイ!オレ、シュシッ!」
 少しコツがわかったのか、再び挑戦するオシュシちゃん。さっきよりも明確にシャリが膨らみ、私とオシュシちゃんは大喜びした。
3125/09/06(土)11:31:48No.1350445953+
「オシュシちゃん、すごい!シャリ開通おめでとう!」
「キュー♡オシュシ、シュゴイ!カイチュー!オメット!」
 大喜びで両ヒレをばたばたさせているオシュシちゃん。ああ、本当に可愛いし賢い……♡
「オシュシちゃん、次はプクーしたシャリを、ギューしてみよっか」
「シャリ、プクー……ギュー?」
 この可愛いオシュシちゃんが膨らませたシャリを抱きしめる姿、通称「シャリ抱き」を見ずに終わるわけにはいかない。シャリをほんの少し膨らませることまでは習得したが、ギューの意味がまだわかっていないオシュシちゃんの両脇に垂らしたままのヒレを指先で持ち上げてシャリに沿わせ、反対側のヒレも同じようにする。シャリは大豆がそら豆になった程度にしか膨らんでいないが、それでもオシュシちゃんの短いヒレはシャリに回りきらず、シャリに抱きつくというよりは持ち上げているような格好だが、これがまた可愛い。
「はい、これがシャリギューだよ。悲しくなったらこうすると、気持ちが落ち着くみたいだよ」
「キュー……シャリギュー……」
 オシュシちゃんはしばらく自分のシャリに抱きつきぷにぷにさせていたが、すぐにやめてしまった。
「シャシャ、ギュー!」
「わあ……!」
3225/09/06(土)11:32:01No.1350446002+
 そして抱きついたのは私の親指。自分のシャリよりも、私に抱きついた方が安心するという愛情表現だ。たまらず私はオシュシちゃんのまん丸なほっぺにキスをした。
「オシュシちゃん、可愛い……♡大好きだよ……」
「キュ、キュ〜♡」
 キスという愛情表現も、シャリタツに通じるらしい。オシュシちゃんは嬉しそうに頬を染め、ニコニコしながら両ヒレを頬に当てて体を左右に揺らし、ハート型のしっぽで私の掌をぺちぺち叩く。全身で忙しなく喜びを表現するオシュシちゃん、なんて愛おしい……。
「オシュシ、シャシャ、ダイシュシ♡」
 お返しとばかりにオシュシちゃんは私の親指に再びギュッと抱きつき、柔らかい頬をすり寄せてからどこにあるのかわからないぐらい小さなお口でキスをしてくれた。
「キュキュッ……♡」
 照れくさそうにニコニコしているオシュシちゃんは、今まで目にしてきたもののなかで間違いなく一、二を争う可愛さだった。

 ああ、もう我慢できない。
3325/09/06(土)11:32:19No.1350446074+
 お返しのお返しだ。また唇をオシュシちゃんに近づける。オシュシちゃんは、またキスされるー!とばかりにニコニコ、期待に満ち溢れているのがわかる。その証拠に、可愛い可愛ハート型のしっぽがぴこぴこ揺れて、ドキドキを隠しきれていない。私はほっぺたに近づけていた唇を不意に方向転換してしっぽに寄せ、ますますぴこぴこぴこっ!と動きを早めたしっぽのハート型部分を口に含み、

 噛みちぎった。

 口の中で何度か跳ねた、オシュシちゃんのしっぽ。対照的に、オシュシちゃんは何が起きたのかわかっていないようで一旦フリーズ。大きな目を見開き小首を傾げ──泣き叫び始めた。
「キュウゥゥゥゥッ!キュウゥゥゥゥーー!!」
 先端がなくなった短いしっぽを持ち上げ、信じられないという目でそこを見つめるオシュシちゃん。私は動かなくなったオシュシちゃんのしっぽを一旦口から出し、オシュシちゃんが乗る手の親指の爪に置いてみた。
「うーん、さすがに大きいかぁ」
 あまりに可愛いハート型だったので本気でネイルパーツにできないか考えたけど、小さな小さなオシュシちゃんのしっぽとはいえ親指の爪の幅をはみ出してしまうぐらいの大きさはあった。
3425/09/06(土)11:32:33No.1350446143+
そもそも、食品をネイルパーツにはできないので初めから断念せざるを得ないのだが。
 もったいないので、しっぽは爪から舐めとるように再度口の中に入れて咀嚼する。こんなに小さなしっぽなのにしっかりと肉感があり、噛むごとに旨みが滲み出す。さすが私のオシュシちゃんだ。
「キュウッ、キュー……!」
 その間にもオシュシちゃんは泣き続け、大きな瞳は悲しげに目尻が下がりぽろぽろと涙をこぼし続ける。よく見ると、そら豆みたいな大きさに膨らませたシャリに短いヒレを這わせ、シャリ抱きをしているではないか。ついさっき、悲しくなったらこうすると落ち着く、と教えたのを覚えていたのだ。やっぱり賢いなあと思うとともに、悲しくなった時に抱きつくのが私の指ではなかったことに少し寂しくなった。まあ、私がしっぽを噛みちぎったことが原因なので当然と言えばそうだが。
 何にせよ、もうあまり時間はかけられないな。
「オシュシちゃん、しっぽなくなったねえ……痛い、痛いだね……」
 加害者は私なのに、慰めるようにオシュシちゃんのしっぽの先の傷を指で突く。痛みに体をびくつかせ、ギュッと目を瞑るオシュシちゃん。涙が飛び散るように溢れた。
3525/09/06(土)11:32:46No.1350446191+
「キュキュ……!イチャ……イチャイィ……シャシャ、イチャイ……!」
 オシュシちゃんは新たに「痛い」という言葉を習得しつつ、どうしてこんなことするの?とばかりにうるうるお目々で私を見上げる。
 ありがとう……可愛い可愛いオシュシちゃん、そろそろ、さようなら。
「もうすぐ痛くなくなるよ……。そのためにはこれ、いらないから取っちゃうね」
 そう言って、私はオシュシちゃんのヒレの中からシャリを奪い取った。大して力も必要なくプチッと小さな音を立ててオシュシちゃんの喉元を旅立ったそれは、プシュウとつまらない音を立てて大豆の薄皮ぐらいにしぼみゴミになったので、ピンと指を弾いて飛ばし、ちらし寿司の皿に捨てた。
「キュ……⁉︎」
 シャリを膨らませて、ギューしてみて、と言ったのはシャシャなのに、そのシャシャがなぜシャリをポイしちゃうの──?そう言いたげなオシュシちゃんは、とうとう怯えた目で私を見上げてきた。かわいそうに、悲しくなったらギューするはずのシャリはもうなく、ダイシュシ♡だったシャシャはもう怖い存在だから、その指に抱きつくわけにもいかない。
3625/09/06(土)11:32:53No.1350446212+
ソース元貼ればいいだけをダラダラコピペやってるのはどうして
3725/09/06(土)11:33:05No.1350446250+
「キュ、キューーーー!!」
 痛みと不安と悲しみが爆発したオシュシちゃんは、顔を真っ青にして涙をどばどば流しながら両ヒレをめちゃくちゃにバタつかせ、泣き喚き始めた。もうどうすればいいかわからないのだろう。短くなったしっぽでは体を安定させることもできず、私の手の上でコロンと転けてしまい、仰向けから起き上がれなくなった。それでも駄々をこねるかのようにヒレとしっぽの残された部分をバタバタさせ、転げ回るオシュシちゃん。もうかわいそうで見ていられない。オシュシちゃんのぐしゃぐしゃの泣き顔を目に焼き付け、私は一思いにオシュシちゃん全体を口の中に含んだ。
 閉じた口の中から、キューキューとくぐもった泣き声が聞こえてくる。ヒレとしっぽのバタバタは、手の上にいた時よりも強く感じる。今頃オシュシちゃんは、私にしっぽを噛みちぎられた時に走った新鮮な痛みを思い出しているだろう。全身を口の中に入れられたことによって、あの痛みをこれから全身に感じるのだと考えたいるだろう。
 心配しないで、痛みなんてろくに感じないうちに終わらせてあげるからね。
3825/09/06(土)11:33:28No.1350446346+
 そう心の中で話しかけ、私はオシュシちゃんの胴の真ん中あたりに一気に歯を突き立てた。生まれたてオシュシ渾身のわずかな歯応えを残して両断される小さな体。もう声すら上がらない。よかった、一思いに逝けたんだ。安心した私は咀嚼を繰り返す。ひと噛みごとに濃厚な旨みが溢れ出る。生まれたてだなんてとても思えない。オシュシちゃんの短い生涯の間に私が注いだ愛情と突き落とした地獄の落差を実感し、なんだかこっちまで涙が出てきた。オシュシちゃん、とってもとっても美味しいよ。
 ごくっ、とオシュシちゃんの最後のひとかけらを飲み込み、私はパンッと音を立てて手を合わせた。ご馳走様でした。「生まれたてオシュシ踊り食い」、なんて素晴らしいメニューだろう。
 ちょっと残っていたビールで本当にオシュシちゃんの名残にも別れを告げ、私は席を立って会計を済ませ店を出た。太陽が眩しい。あらゆる生命を育むその暖かな光を全身に浴びながら歩み出した私は、次に来る時は奮発して「デラックス六匹」のコースにしようと心に決めたのだった。

おわり
3925/09/06(土)11:33:34No.1350446368そうだねx1
はい隔離ネギトロパンパース
4025/09/06(土)11:39:33No.1350447736そうだねx2
>スレッドを立てた人によって削除されました
>ただコピペするだけで面白くないのがね
これだけ削除ってことは結構刺さった?


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