今日二人で出かけたのは、ガチャガチャを回すためではなくライブ衣装の調達のため。
だから今、私のトートバッグと愛音ちゃんのリュックの中には、合わせて5人分の古着が入っている。
トップスだけならまだしも、上下ともとなると嵩張るし重さもある。
どうせなら買い物に行く前、身軽だった時に寄ってほしかった。
「そよりんもリュックで来ればよかったのに」
「…もうその話はいいから、回すなら早く回して」
この古着がなければ愛音ちゃんを置いて帰るのに。
そのまま着るのではなくリメイクするため、買った古着を愛音ちゃんの家まで持っていかないといけない。
もちろん、いざとなればトートバッグを渡して帰ってもいい。
「あのさ、そよりん」
だというのに、お財布から百円玉を取り出したまま、愛音ちゃんは神妙な顔でこちらを見た。
「…貸さないから」
「いや違うって！」
じゃあ何なの？と私は視線だけで問いかける。
早く回して欲しいのに、なにをためらっているのか分からない。

「そよりん聞いて。こういうのはさ、出るまで回そうとするのはヤバいんだよ」
急に語りだした。
私はただ無言を返した。
「だからさ、ダブったらやめるから！　その時はそよりんが止めてね」
「好きにしたら？」
はいともいいえとも言わず、私は心底どうでもいいと包み隠さず返事した。
私がとやかく言うことじゃない。言う気もない。
愛音ちゃんは一人満足げに頷いて、ガチャガチャの筐体にお金を入れた。
「それじゃあ回すよ！」
「はいはい」
ガチャリ。
ハンドルを回して、出てきたカプセルを嬉しそうに取り出す。
「あ〜…犬か」
いそいそとカプセルを開けた愛音ちゃんは、けれど残念そうに呟いた。
どうやら目当てのものではなかったらしい。

「猫が欲しいんだよね〜。ここ、ここ見て！」
愛音ちゃんはそう言って、筐体の商品写真の一つを指差す。
犬の隣に並ぶ、黒猫のフィギュア。
「めっちゃ目つき悪くない？　なんかりっきーみたいでさ〜」
「ふうん…？」
その黒猫はこちらを睨むような力強い目つきをしていた。
言われてみれば、立希ちゃんを思い起こさなくもない。
対して愛音ちゃんが引いた犬はツンと澄ました顔で、こちらも同様に愛嬌がない。
ラインナップのほかの動物もみんな同じ様子で、よく見ると変なフィギュアだった。
「それ、立希ちゃんに言ったら怒ると思うよ」
「え〜？　いいじゃん可愛いし」
立希ちゃんが聞けばさらに怒りそうなことをさらっと言って、愛音ちゃんはまたお金を筐体に入れる。

躊躇すること無くガチャリとハンドルを回し、そうして出てきたのは、
「また犬〜！？」
さっそくダブった。
同じ色をした、ツンと澄ました顔の犬のフィギュアが愛音ちゃんの手の中で並ぶ。
愛音ちゃんは恨めしげに手の中と筐体を交互に見て、諦めたように肩を落とした。
「う〜…でも最初に決めたことだしなあ…」
「はい残念、これで終わりだね」
「そよりん冷たくない？」
「誰かさんのせいで足止めされてるからかな〜？」
「ちょっと寄っただけじゃん」
愛音ちゃんは唇を尖らせて、けれどすぐに本人の中で吹っ切れたのかお財布を仕舞う。
やれやれと横目でその様子を眺めていた私に、愛音ちゃんが手に持っていたものを差し出した。
「はい、これ」
シリコンリングをつまみ、その下で小さく揺れるフィギュア。
ダブらせた内の一つ、ツンと澄ました顔の犬を手渡された。

「そよりんにあげる」
そう言って笑う愛音ちゃんは、私がいらないと突き返すとは思ってなさそうで。
その顔を見ていたら、つい受け取ってしまった。
全然好みじゃない、可愛げもない犬のフィギュアが手の中でコテンと倒れた。
「…愛音ちゃんってホント、センス無いよね」
「えっ、これも可愛くない？」
お座りのポーズで顔を少し持ち上げて、目を閉じてそっぽを向いている犬。
けれどその尻尾は、左右に揺れている…そんな一瞬を切り取ったように見えた。
小さな割によく作られているけど、やっぱり全然、趣味じゃない。
「…はぁ。いらないなら貰ってあげる」
「もうちょっと嬉しそうにしてよ〜」
返事はせずに、フィギュアをポケットに入れた。
トートバッグに入れてしまおうか悩んだけど、服と混ざってしまうだろうし。

「そよりんは何に付ける？」
ガチャガチャコーナーから離れて、二人で駅のホームへ向かう。
「やっぱリップかな〜…でも傘もいいよね〜」
「そんなにいくつも付ける必要ある？」
「そよりん分かってないな〜。こういうのは色んなモノに付けるのが楽しいんじゃん」
あれこれ候補を挙げていく愛音ちゃんは、もうダブったことなんて忘れたようで。
なにがそんなに楽しいのか、分かりたいとは思はないけど。
その横顔を見ていると、私までどこに付けようかなんて考えてしまいそうになる。
こんな可愛くない犬、私の趣味じゃないのに。
「じゃあさっきの、もっと回せばよかったじゃない」
「せっかく我慢したのにそういうこと言わないでよぉ…」

☕
「あっ！　そよちゃんもそれ使ってるんだ」
吹奏楽部の友達が嬉しそうにリップを見せてきた。
鏡越しに本当だ、と私も笑みを浮かべて、その子の方へ顔を向ける。
「持ちが良くて使いやすいよね」
にゃむちが紹介して人気になったこともあり一時的に品薄になったこともあったとはいえ、月ノ森で被るのは少し意外だった。
ほどほどの色乗りでつやが出て、持ち歩き用にも使いやすい。そんなに高くもない。
「そよちゃん綺麗だし、おそろいなんて嬉しいな」
キラキラした目で見られるから、私はなんだか面映ゆい気持ちでありがとうと応える。
まさかそんな風に見られてるとは思ってなかった。
全然大したことないよと返そうかと思ったけど、嫌味っぽく聴こえそうだし。
「Ave Mujicaのにゃむちが紹介してて買ったんだけど、そよちゃんも使ってるなら間違いないかも」
「ふふ、私も同じにゃむちの動画を見て買ったんだよ」
「あっ、やっぱり？　参考になるよね」

もともと買うつもりは無かった。
どうしても欲しい、そよりんにも似合うから、と付き合わされて買ったものだった。
幸いにして、お互い肌馴染みの良い色があったから良かったものの…。
そんなことなんて知らない友達は、無邪気に私に笑いかけてくれる。
視線は私のリップへ向いていた。
「そのチャームも可愛いね！」
「…ありがとう」
リップを持つ私の手の中で、ツンと澄ました顔の犬が小さく揺れた。

お揃いじゃん
カップルかよ

いいあのそよだった…

愛音ちゃんハウスにナチュラルにふたりっきりになりにいくじゃん…！

りっきーに似てる猫欲しがるところにモヤモヤしてそう

そよりんらしいいい怪文書

>りっきーに似てる猫欲しがるところにモヤモヤしてそう
りっきーラブ🩷

あのたきｷﾃﾙ…

みんなの前でさりげなくリップ出してアピールしそう

りっきーが好きだからりっきーに似たのが欲しかったんだ…

ついこの前来たMVもだけどあのたきの波がきてる

いいよねあのたき
付き合ったら絶対バカップルになりそうで

あからさまに一人でやってる荒らしなんだから消しなよ

別にスレ「」他のキャラの名前出しちゃダメなんて言ってないでしょ

すみません…露骨なやつ以外はまあいいかなって…

ぶっちゃけ弾圧するくらいでもいいと思うぞ自分のスレなんだし

あのそよのスレなんだって分かるのに他のカプの名前出していいよね…するのは荒らしと変わんないから消していいよ

繊細すぎる…そんなガチガチに管理したって息苦しいだけでしょ

後日愛音ちゃん似のフィギュアを付けているりっきーが！

>後日愛音ちゃん似のフィギュアを付けているりっきーが！
バカップルすぎる…

>No.1350359215
ほら自白してるじゃん