コージン=ミレーンは前から聞きたかったことを連れのブラックライトに質問した。 「お前のブラックライトって名前、自分で考えたのか?」 「えっ?! 偽名だってバレてたんですか?」 「いかにも厨…いや、偽名っぽいから、そうだろうなぁとは思ってたんだがやっぱりか…。その名に何か由来はあるのか?」 「特に深い理由はないんですが、どこから話をすればいいのかな…」 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 「昔、近所に憧れてたお姉さんがいまして…」 「なるほど、それがお前の初恋と…」 「違いますよ!好きな子は他にいましたし…。憧れと言ってもヒーロー的な意味での憧れで、みんなに迷惑をかける悪ガキやいじめっ子を颯爽と現れてボコボコにして追い払うんです」 「で、ある時その人がオリジナルの冒険者ネームを考えて、今度から自分のことはそう呼べと言われたんですけど。それが妙に琴線に触れたのか、影響されて自分でも考えたのがこの名前です…」 (さすがに「♰闇を照らすブラックライト♰」って名乗ったらめちゃめちゃ笑われたことは言えない…) ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 憧れのお姉さん、ハナコ姉ちゃんが「♰天逆の魔戦士アズライール♰」を名乗った数日後、冒険者として旅立ったことを知った。 しばらくはとても寂しかったが、祠の中での不思議な出来事で出会ったがーすけという友達ができたので紛らわすことができた。 他の人には見えない僕だけの友達、傍から見れば虚空に向かって話しかける危ない奴にしか見えなかっただろう…。 「おい、ライトぉ。お前いつも一人で何くっちゃべってんだよ」 (ハナコ姉ちゃんにいつもボコられてた悪ガキ連中、姉ちゃんがいなくなってから調子に乗ってやがる。こんな奴相手にしても無駄だからあっちに行こう…) 「お前無視すんじゃねぇよ!」 服を引っ張られ地面に転がされる。取り巻き連中が背中を蹴ってくる。 「お前独り言が多くてキモいんだよ。ひょっとして魔族なんじゃねぇのか? だったらこの勇者様が成敗してやるよ!」 胸倉を掴んで引きずり起こし、殴りかかろうとする。 (ふざけんな、弱い者いじめしかできない奴のどこが勇者だ…。どっか行きやがれ!) 相手を突き離そうとした右手に塊のような力がこもる。気が付いた時には悪ガキは5mいや10mは彼方に飛ばされ気絶していた。 取り巻き連中は皆逃げ出し、自分も怖くなって家に急いで帰った。 自分がやったことの恐ろしさに気づかず、むしろお風呂に入って寝る頃には悪い奴がぶっ飛ばされて良かったじゃんと思うようになった。 ひょっとしてこれはその天罰だったのだろうか…。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 朝、起床して顔を洗う。額に何か違和感を感じる。鏡を見る。 「何だこれは…」 額に宝石のような輝石が張り付いてる。何をやっても取れない、しかし学校の始業時間は迫る。しかたなく額にバンダナを巻いて登校する。 始業時間にはギリギリ間に合ったようだ。だが教室の雰囲気はいつもと違う。 誰も僕に近づいてこない、話しかけようともしない、遠巻きになにやらヒソヒソ話をしている、気味の悪い異物を見るような目で見ている…。 「おい!何も無視しなくていいじゃんかよ」 いつも一緒に遊ぶ級友に話しかける。彼は怯えたように距離を取りこう言った。 「お前バケモノなんだってな! 上級生を変な力でぶん投げたらしいじゃん!」 「何言ってんだよ!俺どう見ても人間だろ!お前だってアイツの事気に食わねぇって言ってたじゃん!」 「じゃあそのバンダナ取ってみろよ…」 彼はそう言うと僕の額のバンダナに手をかけた。取られまいともみ合った際に彼を突き飛ばしてしまい、彼が掴んでいたバンダナが外れた。 「バケモンだ…」 僕の額の石を見た彼はこうつぶやいた。彼の言葉に呼応して、教室中がざわめきだす。異物を見る目からはますます恐れと嫌悪感を感じる。サキちゃん、君もそんな目で僕を見るのか…。 僕は教室を飛び出し家へ逃げ帰った。 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ おそらく学校から事のあらましを聞かされてたはずの両親はとても親身に接してくれた。 不登校も許してくれたし、医者にも何軒も回った。果ては勇者学園の偉い魔法の先生のとこへ相談にも行った。そこで彼はこう言った。 「原因は分かりませんが、強い闇の魔力を感じます。おそらくカッとなってしまった時の強い感情が魔力を誘発してしまったのかもしれません。でも心配することはないです。後2年ですか、小学校を卒業したら勇者学園に入りなさい。そこで魔力をコントロールする術を覚えましょう」 父さんも母さんも喜んでいたが、僕には耐えられなかった。後2年もこの奇異な目で見られ陰口を叩かれる生活を続けるということを…。 そんな時に思い浮かんだのがあのハナコ姉ちゃんの顔だった。 「この町を出て冒険者になろう! この力を使って僕も勇者のようになるんだ!」 がーすけも久々に見る僕の希望に満ちた顔を見て大いに喜んでいた。 決意を固めてしまえば行動は自然と早くなるもの。何日か分の着替えと小遣いを貯めた全財産を鞄に入れ、深夜両親が寝静まった時を見計らい家を抜け出す。 夜の街を抜け、王都の境界線を抜け、いつしか郊外の大草原へと着く。 明け方東の空から日が昇ると草原は黄金色に染まる。 これはまるで僕たちの門出を祝福してくれるようじゃないか…なぁがーすけ! ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ 「そこから先は前にも話した通りで山あり谷ありどころかずーっとどん底でしたってオチです。ハイ!これでこの話は終了!」 「そうか…お前も色々苦労したんだな。そういえば結局そのお姉さんと再会することはできたのか?」 「いえ全然。でもあの人は多分まだ旅をしていると思いますよ。一か所に留まれるようなタイプじゃないですし、旅を続けていればどこかで出会える気はします…」 「でもミレーンさん、もしあの人に出会えたらこう呼ばないと怒られちゃうから気を付けてくださいね」 『♰天逆の魔戦士アズライール♰』 ◇   ◇   ◇   ◇   ◇ ハナコ「がああああああああああああああ!!!!!!!!!!」 ハニー「いったいどうしたの?ハナコちゃん?!」 どこかで自分の過去の過ちをえぐられる様な感覚をキャッチし、恥ずかしさのあまり壁にヘドバンする衝動を抑えきれないハナコであった…。