コージン=ミーレンは夜を恐れている。何も怪物や幽霊と言ったオカルトめいたものを恐れているわけではない。夜、眠りにつく度忌器に縛られた聖女たちの魂が彼に語り掛けてくるからだ。分かっているそれはきっと恨み節であろう。なぜ助けてくれなかった…なぜお前だけ生きているのだ…と。 〇月△日 眠りに落ちかけたまどろみの中で今日も知らない女の声がする。 誰かの名前をつぶやいているようだ。これはきっと俺を恨んでいる奴の名なのだろう…。 「マスクドJ…」 すまない。俺のワガママに付き合わせたせいで知らない土地で横死する羽目になるとは…。さらに死んでからも他の団員の魂たちとワンセットにさせられて、いたたまれなくなっているとも聞いている…。 「サウザント、ヒルムナー、シャクカ…」 役に立たなかった部下で申し訳ありません。俺がそちらに行った時はまた鍛え直してください…。 「オーサン、ウッサー…」 いつも親身になってお世話になりました。先輩たちにいつか恩返しがしたかったのに…。 「パラチン、チョンマゲイラ…」 えっ?こんな人いたっけ? いや、でも見たことあるなぁ、話したことはないけど。俺だけ生き残っちゃったから恨まれてるのかな…。 「サーヴァイン、クリスト…」 お前ら生きてるよな!何で恨むんだよ。文句があるなら直接言いに来いよ! 「ボーリャック…」 クリストに正座させられてる…。一体何があったんだ…。 「レオン…」 誰?!この人? 全然見たことない。しかも知らんうちに馴染んでるっぽい。怖っ! そういえば男の名前しか出てこないな。女性団員はイケメン無罪で許してくれたのだろうか…。 「メロ…」 今度はこう来たか…。俺の代わりに面倒なことを押し付けてすまない。皆が成長するまで兄弟をよろしく頼む。 「ラーバル…」 お前は父上の後を継いで次代の王になる男だ。勇者かどうかなんて関係ない。お前はやれるだけの器を持っているから、もし今生で会う事ができたら厳しく行こうと思う…。 「スパーデ…」 幼い頃に一緒にチャンバラごっこしてた頃と全然変わってないな…。修行に励んでレンハート王家の武の守りを頼む…。 「クルーズ…」 俺が旅立った時に赤子だった子が大きくなったな…。お前が一番父上に似てるかもしれない…。 「メラニー…」 家族以外にも特に好きな人の前ではもっと素直になった方がいいと思うぞ。今時そういう芸風流行らないからな…。 「ソリュー…」 誰この子?! 俺が出て行ってから生まれた子かぁ。父上も母上もいいかげんにしないとピックさんキレますよ! 「エアーラ…」 お前は本当一体何があったんだよ…。 ミレーンさんは夜いつもうなされている。 理由はわかっている。きっとカンラークでの過去の惨劇を、そして自分だけが生き残ったことへの罪悪感がよぎるのだろう。 嫌なことは忘れてしまえと人はよく言うが、楽しい思い出もそこに含まれるとしたら切り捨てるのはより困難になるから難しい。 僕にできることは黙って見守ってあげることぐらい…。 そうだ今度山に入った時によく眠れるという薬草を見つけてこよう。 「オニショタイイヨネ…」「コーライキテル…」「トウトイワ…」 コージン総受けカップリング談義に花を咲かせていた脳内聖女会議であったが、突然の燃料投下にがぜん議論がエキサイトしてしまい、コージンはその夜朝まで眠れなかった。