人目を避ける旅を続けていても食料や装備は買わねば手に入らぬし、それを買うための路銀も稼がねばならぬ。俺達も時折人の住む町や里に入ることになるのだが、その時はこんな風にやり過ごしてる…。 「こんな姿した僕が言うのもなんですが、やっぱりその格好変じゃありません?」 フードを目深に被った長い外套を着ている少年ライトが言う。 その隣にいる長身の覆面男がこう答える。 「確かにプロレスラーでもなければ覆面を被った大男なんていたら不審者以外の何物でもないだろう。だがこの覆面は聖騎士に支給される由緒のあるものだ。つまりこれを身に着けることで、ただの不審者が巡礼の聖騎士とその従者に早変わりというわけだよ」 (そうかな…そうかも…) ライトは反論するのを諦めた。 長身の覆面男コージン=ミレーンが着用している覆面は聖騎士団に入団する際に支給される正規品である。 新人は着用を義務化され、一定の年数を重ねるか何らかの功績を上げることで脱ぐことを許される。 元は敵や信者の前で怯えた顔を見せてはならぬとして始まった規則ではあるが、早く覆面を脱ぐために手柄を得ようと新人達がこぞって任務に志願するという好循環をもたらしている。 「俺も新人の頃は早くこの覆面を脱ぎたくて、躍起になって任務に志願したもんだよ…」 「そういえばミレーンさんは元聖騎士なんですよね。魔族の聖騎士とかもいたんですか?」 旅は道連れとも言うが長い道中の退屈しのぎとして、現時点ではお互いの情報をかなりの割合で共有することとなった。 ミレーンがライトに伝えてないことは本名とレンハート王家所縁の者であること、そしてやらかした過去のことぐらいである。 「あぁ数は多くはないが魔族の聖騎士もいたよ。元々同じ神を信仰し団に忠誠を誓える者であれば人種・国籍・性別一切問わないのが方針だからな」 「人間にも色々いるように魔族も一枚岩じゃないからな。現魔王の体制に不満を抱いて亡命する者もいたし、人間と戦いたくないから逃れてきた者もいた」 「戦いたくないのに騎士団に入るというのも変な話ですね」 「戦闘ができなくても事務職なり裏方なりいくらでも人手は要るからな。本当に剣も持てないような腰抜けには教会の下働きをやってもらってたよ」 「本当色んな奴がいたよ…いい奴も多かった…」 ミレーンの顔が怒りとも後悔とも諦めともつかない表情となる。 聖騎士の話になると最後はこんな感じになるので、話題のすり替えそれも明るく間抜けな話になるように持っていく。 「あっ、そういえばですね…」 ライトが話題を変えようと話しかけた時、背後から二人に声をかける人物がいた。 「ちょっとお時間よろしいですかぁ…サカエトル警察ですが。失礼ですがご職業は何を?」 ―――――――本日三回目の職務質問であった。